「痰が出る」原因はご存知ですか?医師が徹底解説!
咳と痰は、風邪をはじめさまざまな病気の症状として一般的なものです。誰しも一度は咳や痰に悩まされたことがあることでしょう。
しかし、ありふれた症状だからと油断はできません。痰は重大な病気のサインであることもあるのです。
ここでは痰が出るときに疑われる疾患や、注意が必要な痰の見分け方、痰を出しやすくする方法などについて解説します。
肺への入り口である気道にみられる痰は、肺の疾患の先触れかもしれません。「風邪かな?」と思う前にぜひご一読ください。
監修医師:
竹内 想(名古屋大学医学部附属病院)
痰が出る症状の原因と対処法
痰にはさまざまな種類があります。どんなタイプの痰が、とくに注意が必要なのでしょうか。種類別に考えられる疾患と対処法を解説します。
サラサラした痰が出る原因と対処法
サラサラした痰は、風邪の症状としてよくみられます。これは、大量に入ってくる風邪のウイルスを排除するために働く体のメカニズムのひとつです。痰には口から入ったほこりやウイルスなどの異物を絡めとって排出する働きがあります。昔から「痰は体の中の悪いものを出しているのだから、止めてはいけない」といわれるのはそのためです。サラサラした痰はこの排出する働きを担う痰なので、通常心配することはありません。風邪が治れば痰も治まるということが多く、特別な対処をすることはあまりないのです。ただし量が多い、風邪が治っても長く続くなどいつもと違う症状があった場合は要注意です。気管支喘息や肺炎の初期症状である場合もありますので、2週間以上続くようであれば病院を受診してください。
ネバネバした痰が出る原因と対処法
ネバネバした痰は、粘液に白血球と雑菌が混じったものと考えられています。ネバネバした痰のことを、専門用語では膿性(のうせい)といいます。この痰が出る場合は注意が必要です。考えられる疾患は、肺炎や気管支拡張症、急性気管支炎などです。サラサラの痰と違ってネバネバした痰は排出がより難しく、体に負担をかけてしまいます。そういった意味でも気を付けたい痰です。感染症の可能性が高いため、対処法としては、なるべく早めに病院を受診することをおすすめします。後述する正しい排痰の方法もご参照ください。
咳は出ないが痰が出る原因と対処法
一般的に、痰を出すときには咳がともないます。咳は、喉に入ってきた異物を外に出すという役割をもっています。痰は異物ではありませんが、同じように咳で体の外へ押し出すようになっているのです。このように咳と痰には強い関係性がありますが、咳をともなわない痰が出るケースもあります。こういう場合は後鼻漏(こうびろう)の可能性もあります。後鼻漏とは、鼻水が喉の奥に落ちてきてしまう症状です。この症状が出ると喉の奥に粘液が流れ落ちて、ちょうど痰と同じような感触が生じます。痰と勘違いしてしまうことが多いのですが、耳鼻科の疾患ですので、このケースであれば呼吸器科を受診してもあまり意味がありません。耳鼻科で相談してみてください。
よく痰が出る病気
痰はいろいろな理由で出ますが、そのすべてが危険なものというわけではありません。たとえば喫煙が習慣になっている方は、日常的に痰が多くなります。しかし、いつもはあまり痰が出ないのに急に出るようになった、色や固さなどがいつもと違う見慣れない痰が出た、という方は少し注意が必要です。普段よりも痰が出るときには、以下のような疾患が考えられます。
気管支喘息
喘息は大人から子どもまで広くみられる疾患です。喘息は気道が炎症を起こすことから始まります。炎症のために過敏になり、刺激に弱い状態になっている気道が、ちょっとした刺激で発作的に狭まって呼吸を妨げてしまうのが喘息の発作です。発作が起きると気管支を広げる薬を吸入して対応することになります。喘息は喉が慢性的に炎症を起こしている状態のため、痰が多くみられるのが特徴です。発作時に透明な痰が多量にみられることもあります。透明な痰が増えるようでしたら、気管支喘息の可能性を一考してみてください。
COPD
COPDとは、「慢性閉塞性肺疾患」の略称です。肺や気管支で慢性的に炎症が起き続け、呼吸がしづらくなる病気です。COPDの9割は煙草が原因といわれていますので、とくに喫煙者の方は咳や痰が続いたらCOPDの可能性を考えるべきでしょう。COPDでは初期症状として咳・痰の増加がみられます。風邪でもないのに咳が出て止まらなかったり、痰が毎日出たりするなどの症状がみられたら、COPDが疑われます。COPDの症状は咳・痰・息切れなど日常で誰でも経験するものです。そのため、「風邪だろう」「年齢のせいだ」と軽く考え、気づいたときには手遅れになるケースが少なくありません。初期症状は軽くても、進行すれば肺の機能が失われる恐ろしい病気です。咳や痰が続く場合、放置せず、早期に病院を受診してください。
誤嚥性肺炎
誤嚥性肺炎は、誤嚥によって肺が傷つき炎症を起こす病気のことをいいます。誤嚥とは、食べたものが本来いくべき食道ではなく気道に入ってしまうことです。誤嚥は飲み込む力が弱くなった高齢者でよく発生します。肺炎になると、異物を排出する働きが弱くなります。排出がスムーズにいかないため、痰が多く出てしまうのです。
正しい排痰の方法
痰が切れない、なかなかスッキリしないとき、ちょっとした工夫で楽になることがあります。ここでは、痰を出やすくするために家庭で簡単にできる方法をご紹介します。痰で困ったときにぜひお試しください。
温かい飲み物を摂る
痰や咳が出るときは、冷たいものよりも温かいものを摂るようにしましょう。温かい飲み物の湯気は、喉にちょうど加湿器のような効果をあたえてくれます。飲み物の種類は、普段飲んでいるものでかまいません。気管支拡張効果のあるコーヒーや紅茶がよいでしょう。カフェインの摂りすぎには注意が必要ですが、リラックス効果があるのでストレス性の喉の不調の解消も期待できます。甘みを加えるときには砂糖よりもはちみつがおすすめです。はちみつには炎症を抑える作用があるので、喉を優しくいたわってくれます。また、いくらホットドリンクがよいといっても熱いものを一気に飲むのはおすすめできません。炎症を起こしている喉には、湿らす程度の少ない量を何度も飲む飲み方がおすすめです。優しく喉に潤いを与えながら、リラックス効果も得られます。
加湿する
乾燥でも、咳や痰が出やすくなります。適切に加湿を行い、乾燥を避けましょう。お部屋の湿度を上げる加湿器の使用のほか、喉の乾燥を防ぐためにマスクを利用しましょう。最近では就寝時専用のマスクも市販されています。眠っているときも乾燥を防ぎ、喉を守るのに役立ちます。また前項で挙げたこまめに少量の飲み物を摂るのも効果的です。
薬を飲む
痰が出にくいときには、去痰薬(痰切り)という薬もあります。去痰薬は、痰を出やすくする薬です。痰がなかなか出ないと咳が多くなりますが、咳は体に負担をかけます。咳で眠れないなど生活に支障が出るような場合は去痰薬の使用をすすめられることもあります。とくに高齢者は咳が大きな負担になり、骨粗鬆症など骨がもろくなっていると咳の衝撃で肋骨が折れることもあるのです。こうした危険な場合は痰をスムーズに排出して無用の咳を減らすために去痰薬を使用します。
注意すべき痰の様子
痰にはさまざまな種類がありますが、その中でもとくに注意が必要な痰はどういうものでしょうか。この項では、重大な疾患かもしれない要注意の痰の見分け方を解説します。ポイントは色と硬さです。色や硬さは、専門知識がなくても見て簡単に判断できる便利なバロメーターです。ぜひお試しください。
色
最初のステップとして、まず色を確認します。痰の色には唾液に近い透明なもののほか、黄色・緑・赤などの色がついたものがあります。順にご説明していきましょう。まず透明や白の痰は、比較的心配ない痰です。このタイプの痰は、痰が異物排出という自然な働きを務めていることを示しています。おもに風邪などが原因でみられる症状なので、皆様も一度は目にしたことがあることでしょう。しかし、必ず安全なものと思い込むのは危険です。初期の肺炎や気管支炎の症状であることも考えられますので、あまり長引くようでしたら医師に相談してください。黄色や緑色の痰は、慢性の炎症がある場合を指しています。このタイプの痰は、慢性の気管支炎や気管支拡張症の方にみられます。こちらも早めの受診がおすすめです。血の混じった赤い痰が出たら、ただちに病院で検査を受けてください。肺炎・肺がん・肺結核など重大な疾患の可能性が高い、危険な痰です。決して見過ごさないでください。
硬さ
痰の硬さも、異常を発見できるバロメーターです。サラサラとした水のような痰は、比較的良質の痰で心配する必要はあまりありません。粘り気のある痰、硬い痰は注意が必要です。前述しましたが、ネバネバした痰は粘液と白血球と雑菌が混じったものです。白血球は体の中で細菌と戦う役割を担っています。つまり白血球が増えるのは、戦う相手であるウイルスや細菌が体内で増えているためなのです。この痰が出るときは感染症が強く疑われます。いずれにしても、普段と違う色や硬さの痰を確認したら、できるだけ早く病院を受診しましょう。
まとめ
痰が出やすいというのは、体の不調としてはありふれたものです。よくあることだからとつい放置してしまうかもしれません。
しかし、喉の不調は決して侮れません。
喉は体の中と外をつなぐ大事な通路であり、常にウイルスや細菌の脅威にさらされている場所です。いわば体を防衛する水際ともいえます。
そんな場所からのSOSは、無視すればたいへんな事態になりかねません。
「あのとき検査をしていれば…」と悔やむことにならないよう、いつもと違う痰が出たときは早急に呼吸器科を受診しましょう。
取り換えのきかない大事な肺を守るために、痰という重要な体のサインを見逃さないでください。