「二日酔いは排便すると治る」のか?二日酔いのメカニズムや対処法も医師が解説!


監修医師:
吉川 博昭(医師)
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医学博士。日本ペインクリニック学会専門医、日本麻酔科学会専門医・指導医。研究分野は、整形外科疾患の痛みに関する予防器具の開発・監修、産業医学とメンタルヘルス、痛みに関する診療全般。
目次 -INDEX-
二日酔いによくある症状
二日酔いになった朝はとても苦しいものです。その症状は多岐にわたり、要因もさまざまです。二日酔いには以下の症状があります。
- 頭痛
- 吐き気や下痢などの胃腸症状
- 睡眠障害
- 感知や認知の障害
- うつ気分
- 自律神経症状
そのため二日酔いからの回復には一つの手段ではなく、それぞれの症状に対応した回復方法が求められます。
二日酔いになるメカニズム
二日酔いの原因は飲み過ぎにあります。一方で、なぜ飲み過ぎると二日酔いになるのかは解明されていません。有力な説はいくつかありますが、それも症状の一つを説明するだけにとどまっています。そのため、いまだ解明されていない原因も含め、多くの要因が絡み合って二日酔いが起きているからだと考えられています。
二日酔いが起こるメカニズムとして考えられている代表的なものは以下のとおりです。
- 軽度のアルコール依存症
- ホルモン異常・脱水・低血糖など
- 酸塩基平衡のアンバランスや電解質の異常
- アセトアルデヒドの蓄積
しかし脳波検査によると、離脱症状の際に脳波が早い波状になるのに対し、二日酔いの場合は逆に緩やかな波になります。そのためアルコール依存症とは無関係なのではないかというのも意見の一つです。
酩酊状態から二日酔いに状態が変わるなかでホルモンの分泌が変化するものがあります。尿量を下げる抗利尿ホルモンや、尿の排泄や血圧の調整に影響するアルドステロン・レニンなどです。
抗利尿ホルモンは酩酊状態ではその分泌が下がり、そのため尿量が増え身体が脱水傾向になります。逆に二日酔い時には分泌が増え尿を抑えようと働きます。また、糖代謝に影響するインスリンやグルカゴンの分泌も変化も体調の変化の一因です。これらの変化による脱水症状や低血糖状態が、二日酔いの症状の一部となっているといわれています。
このほかにも身体の酸塩基平衡(酸性/アルカリ性バランス)が酸性に傾き、この程度が二日酔いの重症度に関係があると指摘されています。
また二日酔いの際にはある種の炎症反応が起こることも体調不良の要因です。これは消炎鎮痛薬が二日酔いにある程度効果がある根拠にもなっています。
一方で、二日酔いの代表的な原因とされているアセトアルデヒドが二日酔いに関係しているデータはほとんどありません。アセトアルデヒドは毒性が強く、体内に残ると頭痛や吐き気の原因になるといわれています。
しかし二日酔いになっているときにはアセトアルデヒドはほとんどが分解されており、血中からアセトアルデヒドが検出されるケースは稀です。これはアセトアルデヒドそのものではなく、アセトアルデヒドを大量に蓄積した後遺症が二日酔いに影響しているのではないかと考えられています。
二日酔いは排便すると治る?
二日酔いの際に排便をすると少し楽になった気分になる場合があります。それでは排便は体内の有害な物質を排出する効果があるのでしょうか。また二日酔いのときの排便は下痢の症状を伴っているケースが多いです。ここでは排便が二日酔いに効果があるのかという点と、下痢の際の注意点を解説します。
排便でアセトアルデヒドは排出されない
体内に入ったアルコールは約20%が胃粘膜から、約80%が小腸から吸収されます。吸収されたアルコールは肝臓でアセトアルデヒドを経て酢酸に分解され、最終的に水と二酸化炭素となって体外に排出されます。そのため吸収しきれなかったアルコールが排便に含まれることはあっても、アセトアルデヒドが混じることはありません。以上のことから、排便と有害物質の排出に因果関係はないと考えられます。この効果は気分的な要素が大きいといえるでしょう。
アルコール分解に必要なのは水分
アルコールはアルコール脱水素酵素(ADH)とミクロゾームエタノール酸化系(MEOS)によってアセトアルデヒドになり、アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢酸に分解します。アルコールは酸化によって分解されるため、水分摂取がアルコール分解に直接影響するわけではありません。一方で酩酊時には抗利尿ホルモンの分泌が下がり尿量が増えるため、軽度の脱水状態になりやすくなります。このような健康の二次被害を防ぐ意味では水分の摂取は有効です。
また肝臓が一定時間にアルコールを分解できる量には限りがあるため、胃の中のアルコール濃度を抑えてゆっくりと吸収させるための水分の摂取も有効な手段です。ただし水分を摂取したからといって、血中のアルコール濃度が薄まるような効果はありません。
アルコール由来の下痢の注意点
アルコールを摂取するといくつかの理由で下痢になる可能性があります。大量の水分を摂取したためであったり、高脂肪のつまみを食べ過ぎたことによる消化不良であったりです。一方でこれらの短期的な理由ではなく、長期的な飲酒が原因で下痢を起こしている場合もあります。酵素の分泌が抑制され、消化不良を起こしているケースです。
長期的な飲酒は小腸での消化酵素の活性を低下させます。また、アルコール性膵炎による膵液の減少が原因で、小腸での水分や栄養素の吸収が妨げられ、未消化の食物が大腸に流れ込むことがあります。いわゆる消化不良の状態です。アルコールが十分に吸収されないまま体外に排出されるため、下痢になる場合があります。アルコールを継続して摂取し、頻繁に下痢になっているようであれば注意が必要です。
二日酔いになったときの対処法
本来なら二日酔いにならないのがよいですが、飲まざるを得ない状況もあるかもしれません。また、このくらいなら大丈夫と思って飲み始めて、気付いたら大量に飲酒してしまっていたケースもあるでしょう。ここでは二日酔いになったときに身体にどのような負担があり、どのように対処すればよいのかを解説します。
水分を摂取する
前述したようにアルコールの分解には、水分の摂取は直接の影響がありません。しかし二日酔いになったときの症状として脱水症状や体内のミネラルバランスのくずれなどがあり、それらの解消として水分の摂取は有効です。また、ただの水ではなくスポーツドリンクや果汁ジュースなどがよいでしょう。飲み物のなかに含まれているミネラルは回復や低血糖に効果があります。このほかにも頭痛の場合は中枢神経を刺激するカフェインの入ったコーヒーなども有効です。お茶に含まれるタンニンにも二日酔いを抑える効果があります。
不調の原因となっている原因を一つひとつ取り除くことで、二日酔いからの早期回復につながります。
胃腸を休める
二日酔いの際には胃や腸に大きな負担がかかります。飲み過ぎによって以下のような状況が考えられるので、胃腸を休める必要があります。特に潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性の疾患を持つ方は、腸管粘膜が刺激されたことで症状を悪化させる可能性もあり、注意が必要です。- 胃腸内の粘膜を荒らす
- 小腸の運動が抑制され、消化吸収が悪くなる
- 酵素の分泌が抑制され消化不良や下痢を起こす
- 腸内細菌の組成が乱れ、肝臓に悪影響を起こす
下痢の症状がある場合は薬を飲む
下痢の症状がある場合は胃腸に何らかの悪影響が出ている可能性が高いので、薬を飲むのも有効な手段です。胃酸を抑える薬・整腸剤・乳酸菌製剤・吐き気止めなどさまざまな種類があるので、下痢と併せて起こっている症状に合った薬を飲む必要があります。薬の効能を確認して適切なものを選びましょう。二日酔いにならないための飲食方法のコツ
二日酔いにならないためには自身の飲酒状況に気を配る必要があります。他人のペースに巻き込まれず、無理のない飲酒を心がけるのが大事です。
- あらかじめ量を決めて飲酒する
- 飲酒前、または飲酒中に食事を摂る
- 飲酒の合間に水を飲む
また、食事をしながら飲酒することで血中のアルコール濃度をあがりにくくする効果があります。特に食物繊維を多く含む食物は、腸の蠕動運動を活性化させるのに有効です。このほかにも乳製品や大豆製品は胃や腸の粘膜を守る働きがあるため、食事に取り入れるとよいでしょう。飲酒の合間に水を飲むことはアルコールをゆっくりと分解するのに有効です。
また水を飲むことで摂取するアルコールの総量を減らすことにもつながります。強いお酒を水で割って飲む場合にも同様の効果があります。
まとめ
二日酔いにはさまざまな要因が絡み合っており排便をしたから治るものではありませんが、不快なものを排出してすっきりする意味では要因の一つともいえます。
ですが排便は根本的な治療にはなりませんし、脱水症状・ミネラルバランスのくずれ・胃腸症状などの問題を一つひとつ解決していくことが、二日酔いの解消には必要です。
二日酔いにならないように心がけるのが重要ですが、仮になってしまった場合には胃腸症状などが慢性化しないように適切な対処を行うことを心がけましょう。
長く健康な生活を送るためには、自分の身体を労わりながらお酒と付き合うことが重要です。