「血便」は「クローン病」や「潰瘍性大腸炎」が原因?医師が監修!
便に血液が混ざっていてびっくりしたという経験はありませんか。「痔になってしまったのだろうか」「何か悪い病気なのだろうか」など不安も出てくるでしょう。
便の中に血液が混ざっている状態を血便といいます。血便はどのような場合に起こる症状で、どのような病気が隠れているのかご存じですか。
この記事では、血便の症状・考えられる病気・治療法などをご紹介いたします。混同しやすい下血との違いもご説明しますので、ぜひ参考にしてください。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
血便の症状
血便とは、便の中に血液が混ざっている状態です。血便の主な症状には、以下のようなものがあります。
- 鮮血便:赤色~暗赤色の便で、小腸の空腸~肛門付近からの出血が多い。
- 黒色便(タール便):大きく黒い便で、食道〜十二指腸付近からの出血が多い。
- 腹痛:原因となる部位によって痛みの部位は異なる。
- 嘔吐・めまい:重度の出血が原因の場合に起こる。
これらの症状が出現した場合は、早急に医師に相談し、適切な治療を受けることが必要です。血便の色は、出血部位が肛門から遠くなるほど黒みが増します。
血便の色の判断は難しく、自分ではその色を医師に正確に伝えることは難しいかもしれません。便の写真を撮り、受診の際に医師に見せると診察に役立ちます。
また、出血が多くなるとめまい・動機・頭痛などの貧血症状がおこり、さらには血圧低下・意識低下などの出血性ショックに陥る場合もあります。このように血便以外の症状も診断・治療において重要な情報となりますので、忘れずに伝えてください。
血便を引き起こす病気
血便を引き起こす原因には、さまざまな病気がかかわっています。主に胃の病気・腸の病気・肛門の病気に分けられ、出血部位・症状などが異なりますので、詳しくみていきましょう。
胃の病気
胃に病気がある場合、血便を引き起こす可能性があります。具体的には、胃潰瘍・胃がん・胃炎・胃ポリープなどの上部消化管の病気です。
例えば胃潰瘍は、ピロリ菌の感染・非ステロイド性抗炎症薬などにより、粘膜がただれて潰瘍ができ出血します。これらの上部消化管の病気は、血便とともに腹痛・胃腸の不快感・吐き気・嘔吐などの症状が出現する場合が多いです。
また、抗凝固薬・非ステロイド性抗炎症薬などでは副作用で消化管出血を起こして、血便が出る場合があります。胃の病気で起こる血便の色は黒色(タール様)で、これは血液が腸内細菌によって分解されて黒くなるためです。
血便が見られた場合は、他の症状の有無にかかわらず、早めに医師に相談し、適切な治療を受ける必要があります。
腸の病気
腸の病気もまた、血便を引き起こす可能性があります。下部消化管(大腸・直腸)の病気である大腸がん・炎症性腸疾患(クローン病・潰瘍性大腸炎)・虚血性大腸炎・大腸憩室出血などがその代表例です。
例えば虚血性大腸炎は、大腸への血流が滞って潰瘍・壊死を起こし、その部分から出血してしまう場合があります。また大腸憩室出血では、腸の壁に袋状の凹み(憩室)ができ、その部位から出血する場合があります。
赤色〜暗赤色の血便が特徴です。症状がみられた場合には、すぐに受診して診断を受け、早めに治療しましょう。
肛門の病気
血便を引き起こす肛門の病気には、肛門周囲膿瘍・痔・裂肛(切れ痔)などがあり、鮮やかな赤色の出血が特徴です。痔には直腸側の粘膜にできる内痔核と肛門部分にできる外痔核があり、出血がみられます。
トイレットペーパーに付くような出血・便の周囲に付く出血が多くみられます。このような出血の場合は、痔として自己判断して様子をみてしまいがちですが、実は肛門付近の病気である大腸がん(直腸がん・肛門がんなど)による血便の場合があります。
このような症状がみられた場合は、自己判断せずに早めに医師の診察を受けることが大切です。
血便と下血の違い
「血便」と「下血」は、同じように使われることが多いかもしれませんが、その意味合いは少し違います。広い意味で使われる「下血」とは、消化管に何らかの病気・原因があって出血を起こし、その血液が肛門から排出されることです。
消化管には食道・胃・十二指腸などの上部消化管と小腸・大腸・肛門などの下部消化管があります。そのすべての部位からの出血を対象に、肛門から血液が出た場合を下血といいます。また、狭い意味での「下血」とは、上部消化管からの出血に伴い、黒色便(タール便)が出ることです。
一方「血便」とは、便の中に血が混ざっている状態です。一般的には鮮やかな赤い色をした鮮血便と黒色便(タール便)に分かれます。しかし狭い意味での「血便」では、下部消化管からの出血に伴い、鮮血便が出ることをいいます。
狭い意味の「血便」も「下血」も便やトイレットペーパーに血がつくなどの似たような症状が現れますが、出血の場所が異なることが双方の違いです。どちらの場合でも、早めに医師の診察を受けることが大切です。
血便は何科を受診する?
血便がみられた場合には、まず消化器内科を受診しましょう。出血原因となる病気のある部位によって、それぞれの専門科もあります。
部位別でみていくと、上部消化管(胃・食道・十二指腸など)に病気がある場合には、消化器内科・胃腸科を受診することが一般的です。また、下部消化管(大腸・直腸)に病変がある場合は、消化器内科・肛門外科・消化器内視鏡科などを受診し、痔の場合は肛門外科となります。
炎症性腸疾患・大腸がんなどの病気を疑う場合には、消化器内科・消化器内視鏡科での診察を受けることが必要です。血便は、さまざまな病気の症状であるため、診察や検査を行い、原因を特定することが重要となります。
特にがんなど、早期発見・早期治療がより重要な病気もあります。自己判断や自己治療を行わず、早めに医療機関を受診して血便の治療を始めましょう。
血便で病院へ行くべき症状
血便の程度によっては、すぐに病院を受診したほうが良いような緊急性が高いものがあります。血便が続く場合はもちろんですが、血便とともに以下の症状がある場合もすぐに受診をしてください。
- 大量の出血がある
- めまい・意識の喪失・頻脈・脈拍の弱さなどの体調の急変
- 便秘・下痢が続いている
- 腹痛・腹部の張りが続いている
- 吐き気・嘔吐がある
- 高熱や寒気がある
- 激しい腹痛がある
これらの症状がある場合は、大きな病気が隠れている可能性があるので、すぐに病院に行くことが重要です。
血便の治療
血便が起こった場合、どのような治療がおこなわれるのでしょうか。こちらでは代表的な病気であるクローン病・虚血性大腸炎・潰瘍性大腸炎・痔について説明いたします。
クローン病が原因の場合
クローン病は、小腸・大腸の深い筋層にまで炎症が起こって潰瘍・びらんが生じる病気で、原因がはっきりわかっていないため難病指定となっています。治療は主に薬物療法で、生物学的製剤・5‐アミノサリチル酸製剤・免疫調節薬・ステロイドを使用します。
現在は特に、生物学的製剤を早めに使用するトップダウンセラピーが主流です。従来は、病態の程度に応じて徐々に薬剤の強さを上げていくステップアップセラピーが行われていました。しかし強力な有効性を持つ薬剤の開発により、病態の程度に関わらず、はじめから最も強力な薬剤を使用するトップダウンセラピーが選択されるようになっています。
また、クローン病は炎症が広範囲に及び、栄養状態が悪化する可能性が高い病気です。その場合は、成分栄養剤・中心静脈栄養などで腸管の栄養状態改善を図ります。また、狭窄・瘻孔・腸閉塞・膿瘍などを起こした場合は手術治療を行います。
虚血性大腸炎が原因の場合
虚血性大腸炎は、大腸の血管が詰まって血流が低下することによって大腸壁に炎症・潰瘍が起こる病気です。虚血で炎症・潰瘍ができた部分から出血することで血便を引き起こし、場合によっては重篤な状態になります。
治療としては基本的に、入院して絶食・点滴での治療が行われます。軽症の場合は、自宅での食事療法を行います。
一般的に虚血性大腸炎は一過性であり、症状が出てから数日で症状が改善することが多いため、治療期間は短期間です。しかし、狭窄型・壊死型など緊急を要する状況である場合には、手術を行うことがあります。
潰瘍性大腸炎が原因の場合
潰瘍性大腸炎では、大腸粘膜が炎症を起こして潰瘍・びらんができてしまい、その部分から出血してくることで血便を引き起こします。治療の第一選択としては、5-アミノサリチル酸製剤が使用され、効果がみられない場合は、ステロイド・免疫調整剤・生物学的製剤・血球除去療法が用いられます。
炎症が強く広範囲に及んでいる場合は、腸管安静の目的で絶食を行い、中心静脈栄養を行う場合もあります。症状が重篤で、上記の治療の効果がない場合・大腸がんが発見された場合は、手術が必要になる場合があります。大腸がんが発見された場合の潰瘍性大腸炎の手術は、大腸全摘出術です。
痔が原因の場合
痔が原因の場合の血便の治療には主に保存的療法・処置療法・手術療法があります。
保存的療法の基本は、便秘による痔の悪化を避けるために、食物繊維を多く含む野菜や果物を摂取することです。痛み・出血などを伴う場合は温浴療法を行ったり、軟膏・坐薬の使用などといった薬物療法で症状を軽快・改善したりします。
処置療法は、痔の突出・出血が続く場合に行われる治療法です。痔の突出を取り除くために結紮法(けっさつほう)などが行われ、出血が続く場合には凝固法や硬化療法などが行われます。手術療法は、痔の重症度・症状の程度が高い場合に行います。主に結紮切除術で痔を摘出する方法などがあります。
すぐに病院に行った方が良い「血便」症状は?
- 激しい腹痛がある場合
- 鮮やかな赤い便、または、黒い便がある、茶色や黒色の嘔吐がある場合
- 意識が悪い、冷や汗がある場合
これらの場合には、早めに病院受診をした方が良いでしょう。
行くならどの診療科が良い?
主な受診科目は、内科、消化器科、肛門科です。
問診、診察、血液検査、肛門鏡検査、画像検査(レントゲン、CTなど)、超音波検査などが実施される可能性があります。大腸カメラ検査、胃カメラ検査がおこなわれこともあります。
病院を受診する際の注意点は?
持病があって内服している薬がある際には、医師へ申告しましょう。
血の出る部分によって血便の色が変わるので、どのような状態の血便がでたのか医師に伝えるようにしましょう。
治療をする場合の費用や注意事項は?
保険医療機関の診療であれば、保険診療の範囲内での負担となります。
まとめ
血便の症状・原因・治療方法について詳しくお伝えしました。
「便に血が混ざっている」「お尻を拭いたトイレットペーパーについている」などの症状が起こると、とても驚くと同時に不安になると思います。
しかし、自己判断・自己診断でついつい様子をみてしまいがちなことも事実です。
血便はなんらかの身体からのサインであり、放置しておくと原因となっている病気が悪化してしまう可能性もあります。
「当てはまる症状がある」「気になる症状がある」などの場合は、すぐに受診をおすすめいたします。
この記事が血便でお悩みの方の参考になれば幸いです。