気付かないうちに「前歯の真ん中にへこみ」が…?原因と治療法を解説!

歯列において目立つのは、うえの前歯の真ん中です。厳密には上顎の中切歯と呼ばれる歯で、ここにへこみができると、口元の審美性が大きく低下することがあります。ここでは、そのような前歯の真ん中にへこみができる原因と治療方法、治療後に注意すべきことを解説します。
前歯の真ん中のへこみの原因を知りたい、何とかして改善したいと考えている方はこのコラムを参考にしてみてください。

監修歯科医師:
中嶋 麻優子(歯科医師)
目次 -INDEX-
前歯の真ん中にへこみができる原因
はじめに、歯の真ん中へこみができる原因を解説します。先天的な原因もあれば、後天的な原因として、皆さんが意外に思うものもあるかと思います。
歯周病により歯茎が下がるため
前歯の真ん中にへこみがある場合は、まず歯周病にかかっているかどうかを確認しましょう。歯周病とは、細菌感染症の一種で、歯茎が赤く腫れたり、歯磨き時に出血したりする症状が認められます。この段階はまだ歯肉炎(しにくえん)の状態で、前歯の真ん中にへこみが生じることはありません。
歯肉炎が歯周炎へと移行すると、歯茎や顎の骨の破壊が始まり、歯の根元である歯根面が露出するようになります。私たちの歯は、頭の部分である歯冠がとても太く、歯根に向かって細くなっていくため、歯根面が露出するとへこんだような見た目になるのです。患者さんの歯の状態によっては、隙間が生じてすきっ歯となる場合もあります。
噛み合わせによる要因
歯並びや噛み合わせに異常があると、前歯の真ん中にへこみが生じる場合があります。代表的な症例は、翼状捻転です。上顎の中切歯が中央に向かって左右対称的に捻じれている状態で、文字どおり鳥の翼のような見た目をしています。翼状捻転の主な原因は、乳歯から永久歯への生え変わりの異常です。例えば、中切歯(1番)が生えてくる前に側切歯(2番)が生えてしまうと、スペースが不足して翼状捻転となることがあります。その結果、噛み合わせが悪くなります。
外傷や衝撃による歯の損傷
交通事故やスポーツ中の外傷によって、前歯が強い衝撃を受けると中央に陥没することがあります。ケースによっては歯の一部が破損したり、歯根が折れたりする場合もあります。こうした外傷による前歯の真ん中のへこみは、原因が明らかで患者さんも自覚しやすいです。また、前歯の真ん中のへこみ以外にも深刻な症状が隠れている可能性もあるため、必ず病院を受診して、精密検査を受けなければなりません。
生まれつきによるもの
前歯の真ん中のへこみは、骨格的な特徴が原因になっている場合もあります。これは親からの遺伝による部分が大きく、生まれつきによるものといっても間違いではないでしょう。
前歯の真ん中のへこみに関連する症状
前歯の真ん中にへこみがあると、次に挙げるような症状が見られることがあります。
- 【症状1】審美障害
前歯の真ん中のへこみで実感しやすい症状は、審美障害です。中切歯が翼状に捻転していたり、前歯の真ん中に不自然なすき間があったりすると、口元の審美性が大きく低下します。 - 【症状2】発音障害
うえの前歯の歯並びが極端に悪いと、発音や滑舌に悪影響が見られることがあります。 - 【症状3】咀嚼障害
翼状捻転は、前歯で食べ物を噛み切るのが困難となる場合があります。少なくとも上下の前歯が正常に噛み合うことがないため、多くのケースで咀嚼障害が見られます。 - 【症状4】歯周病やむし歯
前歯の真ん中にへこみがある人は、歯磨きで苦労していることかと思います。普通に歯磨きしたのでは、前歯がへこんだ部分に磨き残しが生じるため、歯垢や歯石がつきやすくなっていることでしょう。その結果、前歯の真ん中にへこみで細菌が繁殖して、歯周病やむし歯のリスクを高めます。 - 【症状5】歯の黄ばみ
清掃性が悪く、食べ物や汚れが停滞しやすいということは、歯の着色も促されます。前歯の真ん中のへこみの部分が黄ばみやすい場合は、歯磨きをきちんと行えていないことを意味するため、十分な注意が必要です。
前歯の真ん中のへこみに対する治療方法
次に、前歯の真ん中のへこみを治療する方法について解説します。前歯の真ん中のへこみは、その原因によって適した治療方法が変わります。
詰め物や被せ物で補修する
前歯の真ん中のへこみは、詰め物や被せ物で修復できる場合があります。具体的には、以下に挙げる3つの方法が選択肢として用意されています。
- ◎ダイレクトボンディング
ダイレクトボンディングとは、歯の表面にコンポジットレジンを盛り付けて成形し、光で固める方法です。前歯の真ん中のちょっとしたへこみや欠けを簡易的に修正できます。歯を削る量もわずかで、その他の治療法と比較すると費用もやや安くなっています。ただし、歯科医師の関する技術や知識、経験によって、ダイレクトボンディングによる仕上がりが大きく変わる点に注意しなければなりません。技術や経験の浅い歯科医師が治療を担当したら、満足のいく仕上がりが得られないこともあります。- ・保険診療のコンポジット修復について
ダイレクトボンディングは、レジンとセラミックの混合材料で歯を修復します。適応症も幅広く、審美性を追求することが可能です。一方、保険診療のコンポジットレジン修復は、審美目的で行うことはできません。使用する素材も完全なプラスチックであり、経年的な劣化が起こりやすいです。この点も理解したうえで、自分に合った治療法を選ぶことが大切です。
- ・保険診療のコンポジット修復について
- ◎ラミネートベニア
ラミネートベニアとは、歯の表面にセラミック製のチップを貼り付ける治療法です。軽度であれば、翼状捻転やすきっ歯、歯周病による歯根面の露出も改善できます。また、ラミネートベニアはエナメル質を一層削るだけで装着できる装置なので、ダイレクトボンディングと同じく侵襲が低い治療法といえます。 - ◎セラミック治療
セラミック製の詰め物(インレー)や被せ物(クラウン)を使って、前歯の真ん中のへこみを改善します。歯を削る量は多くなり、費用もやや高くなりますが、重症度が高いケースにも適応できます。
歯列矯正などで噛み合わせを調整する
翼状捻転をはじめとした不正咬合によって、前歯の真ん中にへこみが生じる場合は、歯列矯正が適しています。マウスピース型矯正装置やマルチブラケット装置などで歯を動かす治療法で、悪い歯並び・噛み合わせを根本から改善できます。歯列矯正なら歯を削る必要もありません。その一方で、数十万から百万円程度の費用がかかる、治療期間が長い、治療に痛みを伴うなどのデメリットも伴います。
前歯の真ん中のへこみを治すのにかかる治療期間
このように、前歯の真ん中のへこみは、いろいろな方法で治療することができますが、それぞれどのくらいの期間で治療が終わるのかも気になるところです。
クラウンやラミネートベニアの場合
- ◎ラミネートベニアの治療期間
ラミネートベニアは、歯の表側のエナメル質を0.5mmくらい削り、歯型を取ってセラミック製のチップを装着します。一般的な症例では、2~3回の通院、つまり2~3週間で治療が完了します。 - ◎クラウンの治療期間
クラウンを装着する場合は、歯を広範囲に切削する必要があります。元々の歯質が少ないケースでは、歯の神経を抜いた後に根本治療を行わなければなりません。そんなクラウンによる治療の期間は、短ければ2~3週間程度、根本治療を伴う場合では、1〜2ヵ月程度かかります。
歯列矯正の場合
前歯の真ん中のへこみを歯列矯正で治す場合は、歯を動かす動的治療に1〜3年程度、歯の後戻りを防止する保定処置に1〜3年程度かかります。部分矯正で治療する場合は、歯の移動に要する期間が3〜12ヵ月程度に短縮されます。
その他、軽度なへこみの場合
- ◎ダイレクトボンディングの治療期間
前歯の軽度なへこみは、ダイレクトボンディングで対応できることがほとんどです。ダイレクトボンディングは、歯を削ってコンポジットレジンを盛り付け、光で固める処置を数十分で完了できます。その後に不具合などが生じなければ、ダイレクトボンディングによる治療は1日で終わります。
前歯の真ん中のへこみ治療後に注意したいこと
ここでは、前歯の真ん中のへこみを治療した後に注意すべきことをいくつか紹介します。
硬い食べ物や粘着性のある食べ物を避ける
前歯の真ん中のへこみをダイレクトボンディングやラミネートベニア、クラウンなどで治療した場合は、食事内容に注意する必要があります。まず、極端に硬い食べ物を噛むことは、修復物の破損・脱離を招くことがあるため、できる限り避けるようにしてください。
ネバネバとした粘着性の高い食べ物も、修復物の脱離につながることはありますが、硬い食べ物ほど注意が必要なわけではありません。なぜなら歯科用接着剤はとても強力なので、ガムやおもちを一度や二度噛んだだけで外れることはないからです。ただし、こうした食べ物を習慣的に食べていると、接着剤の耐久性が低下して、いつかは脱離するかもしれません。
その点も踏まえたうえで、食生活には十分配慮するようにしてください。
治療箇所に負担をかけないように噛むバランスを意識する
ラミネートベニアやクラウンを装着した治療個所は、天然歯よりも間違いなく脆くなっています。その部分で強く噛む習慣があると、大きな負担がかかって修復物が割れたり、外れたりすることがあるため、咀嚼は左右均等に行うようにしましょう。
定期的な歯科検診を受ける
修復物を装着した箇所は、汚れや溜まりやすかったり、経年的な劣化が起こりやすかったりします。こうしたトラブルは、大きな症状が現れるまで気付けないことが少なくないので、前歯の真ん中のへこみを治療した後も定期的に歯科医院を受診してください。3~4ヵ月に1回くらいの頻度で歯科検診を受けていれば、詰め物・被せ物の深刻なトラブルを未然に防ぎやすくなります。
まとめ
今回は、前歯の真ん中にへこみができる原因や治療方法、治療後の注意点について解説しました。前歯の真ん中にへこみができる原因としては、歯周病による歯茎・歯槽骨の吸収、歯並び・噛み合わせの異常、外傷による前歯の損傷、先天的な要因が挙げられます。
この問題を放置していると、審美障害や発音障害、咀嚼障害を引き起こすことがあるため、可能であれば歯科治療で改善するのが望ましいです。前歯の真ん中のへこみは、詰め物・被せ物による修復、歯列矯正などで改善できますので、関心のある人はまず歯科医院に相談してみましょう。