
金中先生
安田さんが手術を決意した理由について教えてください。
安田さん
医師から摘出したほうがいいと言われて、深く考えずに手術を決意しました。
金中先生
発覚から手術まではどれくらいの期間がありましたか?
安田さん
腫瘍が大きかったため、発見から10日くらいだったと思います。
金中先生
術後の経過はいかがですか?
安田さん
腫瘍を完全に摘出してくださったので8年間も再発なく経過しています。
金中先生
手術を受けていかがでしたか?
安田さん
脳には痛みを感じる部分がないので、痛みはありませんでしたが、100針以上縫った頭皮は痛かったですね。手術してから左の皮膚の感覚がまだ戻っていなくて、額に触れると電気が走るように痛むこともあります。
金中先生
精神的にはいかがでしたか?
安田さん
術後5年くらいは心の傷を癒すためにたくさん笑ったり泣いたりする日々が続いていたと思います。私の心を整えてくれていた大好きなダイビングができなくなったことで絶望も感じました。現在の価値観に至るまでの期間は苦しみの中でもがいていたので、ほとんど記憶もありません。
金中先生
正常な心の反応だと思います。
安田さん
私は髄膜腫に対して開頭手術を受けましたが、ほかにも治療方法はあるのでしょうか?
金中先生
CTやMRIなどの画像診断で脳腫瘍が見つかっても、実際に組織を調べてみないと良性か悪性かは確定できません。良性で小さい腫瘍の場合はそのまま経過を見ていくこともあります。
安田さん
そうなのですね。
金中先生
腫瘍がある程度大きくなると取りにくくなるため、多くの場合は開頭手術が必要です。
安田さん
ほかの治療方法も選択できる腫瘍の大きさはどのくらいでしょうか?
金中先生
放射線治療の適応は一般的に3cm未満と言われています。それ以外にも例えば脳の深い位置に腫瘍があり、手術しにくい場所であれば放射線治療が選択されるケースもあります。
安田さん
私も手術で腫瘍を摘出した後、再発した場合は放射線治療をおこなうという説明を受けました。開頭手術を経験して感じたのですが、手術痕が気になり、周囲の目を意識することで生きづらさを感じることもありますよね。
金中先生
私たちも患者さんが元気になったときに手術を受けたことが分からないよう、手術痕が目立たない丁寧な縫合を心がけています。ただし、腫瘍を取り残してしまっては意味がないので腫瘍をしっかりと取り除くことが最優先ですね。安田さんの手術痕はいかがですか?
安田さん
左右の傷跡を比較すると、腫瘍があった左側よりも右側の手術痕の方が大きいと思います。実際に手術はどのようにおこなうのでしょうか?

安田さん手術跡
金中先生
頭蓋骨を開けて、脳を傷つけないよう腫瘍と脳の境目を慎重に切り取り、血管や神経を避けながら腫瘍を除去します。
安田さん
私も血管の集まる場所に腫瘍があって慎重に手術する必要があり、そのために12時間かかったと聞きました。治療の難しさは腫瘍のサイズによっても変わるのでしょうか?
金中先生
そうですね。腫瘍が大きく栄養を送る血管も多いと手術中の出血は増えるため、事前にカテーテルで血管を詰め、出血を抑えることがあります。
安田さん
前日に検査はしたのですが、カテーテルの検査はしていないかもしれません。良性腫瘍と悪性腫瘍で手術の違いはありますか?
金中先生
悪性腫瘍の手術は正常な脳(腫瘍以外の部分)を傷つけないように麻酔を部分的に覚まし、手足の動きや言葉の出にくさがないか神経症状を確認しながら慎重に手術範囲を決めて進めていく場合もあります。術後に何か後遺症などはありましたか?
安田さん
私は手術してから1年2ヵ月後にてんかん発作が起きました。てんかんが起きやすい時期はどれくらいなのでしょうか?
金中先生
手術直後、あとは半年〜1年くらいが多いようです。当時の状況について詳しく教えていただけますか?
安田さん
ちょうどメンバーの脱退と時期が重なり、考えることも多くストレスがかかっていた時期でした。実際にはお風呂の最中にてんかんが起きて、気がついたらお風呂から引き上げられて、床に寝ている状態でした。
金中先生
入浴中の痙攣発作は最も危ない状態だと思います。
安田さん
本当に笑い話ではありませんよね。私も術後にてんかんが起きる可能性については理解していますが、どのタイミングで起きるか分かりませんよね。
金中先生
本当に分かりません。術後だけでなく髄膜腫そのものがてんかんを引き起こし、痙攣で病院に運ばれ検査したら髄膜腫だったというケースも多いですね。
安田さん
てんかんの原因は何ですか?
金中先生
てんかんによる痙攣は腫瘍や手術の影響で脳がダメージを受け、電気信号(脳波)が乱れることで引き起こされると考えられています。
安田さん
私も術後に脳波を検査した際は、手術した部位の脳波が乱れていると説明を受けました。髄膜腫の手術や髄膜腫の影響で、どのような後遺症が起こりますか?
金中先生
腫瘍の大きさや場所によって症状は変わり、言葉や体の動き、視覚に影響が出ることもあります。共通する後遺症としては痙攣が多い印象です。安田さんの場合は、腫瘍が目の神経を圧迫して光に過敏な症状が出ているのかもしれません。
安田さん
私の場合は腫瘍のできた場所と大きさによって光過敏が生じたということですね。脳を手術していなくても光過敏の人は多いと思うのですが、いかがですか?
金中先生
片頭痛のある人は光に過敏なことが多く、統計的には人口の約8.4%に片頭痛の患者さんがいますが、多くに光過敏がみられます。
安田さん
今の時代はスマートフォンやタブレット、テレビを見る機会が多いため、光に過敏でなくても、サングラスは目を守る役割があると感じています。本来は禁止されていないのに、日本では周囲の目を気にしてかけにくい風潮もあり、それを変えてサングラスをもっと当たり前にかけられる社会にしていきたいですね。
金中先生
海外では結構当たり前ですからね。髄膜腫に関して公表を決意した理由について教えてください。
安田さん
事務所は自分を守ろうとしてくれましたが、私はこの経験を隠す必要がないと考え、同情や理解を求めるわけではなく、起きたことをそのまま伝えるべきだと思ったのが主な理由です。
金中先生
どのくらいのタイミングでそう思われたのですか?
安田さん
手術の1年2ヵ月後のてんかんが起きたタイミングだと思います。てんかん発作で腰と背骨を骨折し、夏のライブも踊れず歌うのがやっとでした。それを機に事務所と相談し、経緯を含めてんかんの原因や手術についてファンクラブ向けの動画で公表することにしました。
金中先生
公表して楽になりましたか?
安田さん
私は楽になりました。人によっては手術痕を見せたくなかったり、病気の体験を話したくなかったりすると思います。だからこそ、自分の体験を隠さず伝えることで、そうした人たちの心を和らげられたらと思っています。
金中先生
今回の安田さんのお話を通して、検査など早い段階で対処ができるようになればいいですよね。
安田さん
病気を経験したことで考え方や生き方が変わり、自分の言葉で発信する責任を感じるようになりました。術後の苦しい時期を経て、今はこれまでで一番元気に過ごしています。誰もが同じようにはなれないかもしれませんが、前向きに生きる可能性は誰にでもあることを伝えたいです。
金中先生
一人でも多くの人にそのパワーが届くといいですね。
安田さん
いつ何が起こるか分からない現実を受け入れることが、充実した人生につながると実感しました。病気を乗り越える中で、辛さを超える良いこともあると信じています。くじけそうになったら心の底から笑っている私のことを見に来てください。ありがとうございました。