井畑先生
酒井さんの受けた治療や受診の頻度について教えてください。
酒井さん
19歳でシェーグレン症候群と橋本病と診断されて、しばらくの間は月に一度受診し血液検査を受けていましたが、特に治療はしませんでした。関節リウマチ発症後は最初に抗リウマチ薬を開始して現在も月に一度の受診を続けています。
井畑先生
治療の経過はいかがでしたか?
酒井さん
抗リウマチ薬を飲み始めて肝臓の数値が悪くなってきたので、免疫抑制剤を使用するようになり、今も飲み続けています。シェーグレン症候群では一般的にどのような治療をしますか?
井畑先生
シェーグレン症候群では、保険適用となる治療は点眼薬と唾液の分泌を促す薬です。目や口の渇きだけでなく関節の症状が強い場合は抗リウマチ薬、肺に影響が出る場合は免疫抑制剤を用いることもあります。
酒井さん
関節リウマチの治療についてはいかがですか?
井畑先生
関節リウマチの標準的な治療では、飲み薬の抗リウマチ薬で効果が不十分な場合に、炎症を抑える注射薬が使用されることもあります。酒井さんはシェーグレン症候群の併発もあり、両方の疾患を同時に管理するために免疫抑制剤を使用したと思うのですが、免疫を抑えることによる感染症リスクには注意が必要です。
酒井さん
コロナウイルス流行時は、恐怖もありました。
井畑先生
酒井さんは使用していませんが、治療でグルココルチコイド(ステロイド)を用いる場合もあります。ステロイドは体重の増加や顔のむくみなど見た目に影響することや長期使用による悪影響もあり、可能な限り量を減らしていく方向へと治療方針も変化しています。
酒井さん
膠原病は一生治らないと聞き、治療の選択肢も限られていると思っていました。しかし実際には仕事に支障が出ないよう副作用を避ける方法や治療経過に応じた変更など、さまざまな選択肢の提案を受けました。治療方法には幅広い選択肢があることを知っていただきたいですね。
井畑先生
そのとおりですね。
酒井さん
絶望の必要はないと広めていきたいですね。
井畑先生
薬も定期的に飲んでいただいていると思いますが、量は増えていませんか?
酒井さん
増えていません。ずっと同じ薬を飲んでいます。薬をやめることは可能なのでしょうか?
井畑先生
病気の勢いが強い初期には、多くの薬が必要になることもありますが、病状が安定すれば薬の量は減らせる場合があります。ただ、減量後に再燃といって病気の勢いが戻る可能性もあるため注意が必要です。膠原病を発症して仕事で大変だと思ったことや、気をつけるようになったことはありますか?
酒井さん
発症当初は仕事を続けるのも厳しいかなと感じることもありました。
井畑先生
具体的にどのような場面でそう感じましたか?
酒井さん
病気を理解してもらえない現場で、重い荷物を持つシーンや、急な動きを求められる場面です。
井畑先生
そうですよね。
酒井さん
早朝の撮影では、朝5時に目覚めてもすぐに動き出せないことで困ったこともありました。
井畑先生
朝のこわばりは目が覚めてから1時間以上続くこともあります。動くのも少ししんどいですよね。
酒井さん
はい。手をひねる動きができず鍵を閉められない場合は、あごを使っていました。エレベーターのボタンも指先が痛むため、肘や鍵を使って押すことしかできず泣きそうになったことを覚えています。
井畑先生
関節リウマチで痛みが強いと、指のつまみ上げやひねる動きは大変ですよね。
酒井さん
そうですね。病気の怖さを知ることは本当に大切なことです。ただそれ以上に大切なのは、恐怖を強調することではなく、今では問題なく動けているという希望を伝えることだと思っています。
井畑先生
膠原病に対する薬の開発や治療の研究は日々進歩しています。病気とうまく付き合うことで、問題なく生活を送れることを伝えることが大切ですよね。
酒井さん
最初の絶望を引きずらず、信じて治療してほしいですね。
井畑先生
これまでの経験で工夫したことや、同じ病気で悩む人へ伝えたいことはありますか?
酒井さん
痛みが周囲に伝わりにくい一方で、人の内面のつらさに気づけるようになりました。病気を経験したことで想像力が養われ、今では病気になってよかったと思える面もあり、日常の中で持病とうまく付き合うことの大切さも実感しています。
井畑先生
なにか具体例はありますか?
酒井さん
病気を隠さず、時にはユーモアを交えて自分の状況を伝えることで、周囲に助けてもらいやすくなりました。周囲には病気に触れにくいと感じている人も多いため、伝えられる範囲で伝えていくことが大切だと思います。
井畑先生
そのとおりですね。病気のことを引け目に思って隠す方もいらっしゃいますが、自分だけでかかえこまずに望むことや望まないことを明確に伝えることは、周囲の協力や人間関係・環境の改善につながると思います。周りもどう対応してよいかわからないで困っているかもしれませんので、そのためにも、まず自分から動き始めることが大切です。
酒井さん
そうです。言わないと始まらない。異変を感じたらまずは何科を受診すればいいですか?
井畑先生
関節リウマチと間違われやすい病気に変形性関節症があるため、関節に痛みがある場合は整形外科を受診してください。膠原病内科の専門医にいきなりかかるのはハードルが高いかもしれませんので、目や口の渇き、微熱が続く場合はまず身近な内科で全身の状態も含めて診察してもらうことが適切だと思います。
酒井さん
異変を感じたらなるべく早く受診したほうがいいですか?
井畑先生
膠原病は、発症から時間がたつほど体への影響も大きくなります。また、関節リウマチは炎症を早期に抑えることで関節の破壊を防ぎ、日常生活が維持できます。治療開始が遅れると、薬の使用量も増える可能性があるため、できるだけ早く受診することが重要です。
酒井さん
人間ドックなどで分かるものなのでしょうか?
井畑先生
一般的な検査項目では分からないことも多いですが、自己抗体や免疫グロブリン、白血球の異常などが見られた場合は、膠原病内科やリウマチ専門医に相談することが望ましいと思います。最後に読者へ向けて伝えたいことはありますか?
酒井さん
私も当初は絶望や不安も感じましたが、現在は体調もよく、今が人生の中で最高に楽しいと感じています。皆さんも治療に前向きに取り組むことで、よりよい日常を取り戻せることを願っています。
