
長谷川先生
当時、発症からどのくらいで病院に到着しましたか?
ラモスさん
妻の話によると20分くらいです。
長谷川先生
治療はどのようにおこないましたか?
ラモスさん
血栓を溶かす薬剤を使用した治療と、足の付け根からカテーテル治療もおこないました。
長谷川先生
おこなったのはtPA静注療法とカテーテル治療ですね。一般的にtPA静注療法は発症から4.5時間以内が治療できる適応時間であると考えられています。
ラモスさん
何か理由はあるのでしょうか?
長谷川先生
発症から4.5時間以上経過すると、脳梗塞を起こした部位や血管が破綻していることで、逆に出血を起こし出血性脳梗塞といった状態に陥る可能性があるからです。
ラモスさん
脳梗塞の後遺症には、どのようなものがありますか?
長谷川先生
ラモスさんのように太い血管が詰まることで、手足が動かなくなる麻痺や感覚の鈍さ、しゃべりにくさのような後遺症が起こります。ほかに何か後遺症を感じましたか?
ラモスさん
発症から10ヵ月以上は食事で味を感じにくくなりました。また、タバコや香水など、全てのにおいにも過敏になりましたね。
長谷川先生
リハビリについて聞かせていただけますか?
ラモスさん
最初に入院した病院では、後遺症で「もう歩けないかもしれない」と言われたことが忘れられません。それでも「絶対に治る」と強く思い、夜間には妻と一緒に歩く練習や階段の上り下りをしていました。
長谷川先生
そのほかにはどのようなリハビリをおこないましたか?
ラモスさん
発症から2週間後に転院したリハビリセンターでは、少しずつサッカーボールでパスやリフティングの練習をしたことが印象に残っています。言葉の面では、当時ポルトガル語が全く話せませんでしたが、知人と少しずつ会話することで徐々に言葉も戻ってきました。
長谷川先生
自宅に帰られたのは発症してからどれくらいでしたか?
ラモスさん
リハビリセンターに転院してから約1ヵ月です。
長谷川先生
かなり回復が早かったということですね。
ラモスさん
そうですね。努力しました。
長谷川先生
それだけ辛いリハビリを乗り越えられた理由は何だと思いますか?
ラモスさん
大切なのは目標を持つことです。「歩けるようになりたい」「仕事に復帰したい」「サッカースクールの子ども達に会いたい」など、人それぞれの思いが原動力になります。その目標に向かって誰よりも努力することが回復への近道です。努力は決して裏切らないと思っています。
長谷川先生
当時はどのようなことを目標にしていたのですか?
ラモスさん
当時は永井秀樹選手の引退試合に出場することが目標でした。どうしてもピッチに立ちたくて先生に相談し何とか10分だけ出場の許可をもらい、結局26分間出場できました。
長谷川先生
そのような強い目標がある人は回復も早いのでしょうね。
ラモスさん
仲間に早く元気な姿を見せたいという気持ちも強くありましたね。
長谷川先生
現在、再発予防の薬は何か飲んでいますか?
ラモスさん
血液をさらさらにする薬を飲んでいます。脳梗塞は再発する可能性もあるのでしょうか?
長谷川先生
はい。服薬していても約10%、服薬がない場合は半数くらい再発すると言われているので、予防的に薬を飲むことが大切です。
長谷川先生
再発予防において心がけていることはありますか?
ラモスさん
意識的に水を飲むようになりました。食事では塩分を控えて野菜と魚を多く食べるようになり、運動や睡眠も意識しています。
長谷川先生
生活習慣の改善は大切ですね。
ラモスさん
後遺症と向き合う際に大切なことはありますか?
長谷川先生
リハビリにおいて最も改善が期待できるのは、発症から1ヵ月、3~6ヵ月、1年が節目だと言われていますが、その後でも少しずつ改善する可能性があります。決して諦めず、目標を持っていただきたいですね。最後にラモスさんから伝えたいことはありますか?
ラモスさん
私は当時「神様は乗り越えられない試練は与えない」と信じリハビリを頑張りました。脳梗塞を発症した方には、目標を持ち、その達成に向けて努力すればきっと乗り越えられるということを伝えたいですね。周囲の人には、わがままに感じる言動があっても怒るのではなく、信じて励まし前向きな言葉をかけてほしいと思います。