
丹生先生
手術をした後の心境について聞かせてください。
中川さん
実際に手術を受ける際は芸能活動を引退する覚悟が必要だと思っていたので、手術後に顔が動いた時は、うれしさのあまり涙が出たことを覚えています。
丹生先生
手術前に顔面神経麻痺のリスクについて説明はありましたか?
中川さん
深いところに出来ていたため、顔面神経麻痺が起きる確率は4〜5割ほどと説明を受けました。検査の段階では腫瘍の大きさは2cmほどと言われていましたが、実際は4cmで顔面神経にも絡まっていて、約8割が顔面神経麻痺を伴うような難しい手術だったようです。
丹生先生
そうですね。耳下腺は顔面神経を基準にして表面側を浅葉、奥側を深葉と呼びます。浅葉の腫瘍は比較的早期に見つかりやすく、手術操作による顔面神経への影響も少ないため、顔面神経麻痺のリスクはそれほど高くありません。ただし、中川さんのように腫瘍が3cm以上で深葉にある場合は顔面神経麻痺のリスクが高くなると言われています。
中川さん
手術後に手術部位の写真を見せていただいたのですが、かなり奥で驚きました。腫瘍が小さく痛みはなくても、摘出したほうがいいのでしょうか?
丹生先生
手術する立場から申し上げると、放置することで悪性化する可能性があり、腫瘍が小さいうちであれば顔面神経にダメージを与えず安全に切除しやすいため、早めの手術をお勧めします。耳下腺腫瘍は良性・悪性に関わらず抗がん剤や放射線治療が効きにくく、治療は基本的に手術しかありません。
中川さん
自然経過や薬で小さくなることがないということですか?
丹生先生
ありません。悪性の場合は再発した際に抗がん剤などの薬物療法や放射線で治療することもありますが、原則は手術になると思います。
中川さん
私は奇跡的に顔面神経麻痺が起こりませんでしたが、麻痺した場合はどれくらい症状が続くのでしょうか?
丹生先生
そうですね。神戸大学で100人の患者さんを振り返って調べたところ、約75%は後遺症もなく経過良好でした。20%は一時的に麻痺が出ましたが3ヵ月以内に回復しています。残りの5%は回復に時間がかかることや僅かに麻痺が残ることもありました。
中川さん
麻痺が残った場合はリハビリで改善できるのでしょうか?
丹生先生
リハビリで回復することもありますし、形成外科の治療で口元や目の下がりを改善する方法もあります。がんの場合は顔面神経を切らざるを得ないこともありますが、その場合は足や首の神経を使ってつなぎ直すことで、半分ほどの機能が回復することも多いですね。
中川さん
今日の話を聞いて、今も仕事を続けられていることが本当にラッキーなことだと実感しました。
丹生先生
耳下腺腫瘍の後遺症では顔面神経麻痺以外に、しびれや腫れを感じる場合があるのですが、中川さんはいかがでしたか?
中川さん
耳を触っても感覚のない期間が半年くらいありましたが、今は感覚が戻りました。
丹生先生
そのほかには食事で最初に噛んだ際、耳のあたりに強い痛みを感じるファーストバイト症候群や食事中に耳の前や頬に汗をかくフライ症候群などがあるのですが、いかがでしたか?
中川さん
私はありませんでした。
丹生先生
手術を受けてから、どれくらい経ちましたか?
中川さん
2年ほど経つと思います。
丹生先生
耳下腺腫瘍の発症や手術の経験を公表しようと思われたのはどうしてでしょうか?
中川さん
私自身、手術を受けて本当によかったと感じていますし、同じように悩んでいる人には、ぜひ医師に相談してしっかりと検査や治療に踏み込んでほしいと思ったからです。
丹生先生
公表して、いかがでしたか?
中川さん
「悩んでいたので病院に行ってみます」といったコメントや「手術したほうがいいのか悩んでいます」といった相談の声が寄せられました。判断は医師に相談してほしいと思いますが、想像以上に同じ病気で悩んでいる人が多く、公表して本当によかったと感じています。
丹生先生
最後に何か伝えたいことはありますか?
中川さん
耳下腺腫瘍は成長し悪性化すると大変なことになるため、早期に治療することが大切だと感じました。軽視せずに必ず病院で適切な診察を受け、必要に応じてセカンドピニオンを検討し、納得するまでちゃんと検査してほしいと思います。普段実施できるセルフチェック方法などはありますか?
丹生先生
腫瘍が深葉にできた場合はMRIやCT検査が必要ですが、多くは触って確認できることが多いため、顔を洗う時や化粧、ヒゲ剃りの際に耳の下をご自身で触ってみてください。しこりや違和感がある場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診することをお勧めします。