松田先生
堀さんが最初に違和感を感じたのは、いつ頃からですか?
堀さん
2018年の5月頃です。鏡を見ながら舌を上げるボイストレーニングをしていた時に、舌の裏の左側にたまたま白い点を見つけました。その時は痛くもかゆくもなかったので、そのうち消えるかなと思ってすぐ忘れましたね。
松田先生
その時点では、痛みなどはなかったのですね。
堀さん
はい。その年の夏から痛みが始まり、秋口にかけて小さい白い点だった部分の形がクレーターのように変わっていきました。
松田先生
その時何か治療はしましたか?
堀さん
はい。持病で服用している薬の副作用に口内炎があったので、ビタミン剤や塗り薬、貼り薬で対処していました。
松田先生
その時は口内炎という診断だったのですね。
堀さん
そうですね。それから徐々に食べ物もしみるようになり、生活に支障が出てきたので、かかりつけの歯科医を受診して何度かレーザー治療をしていただきました。
松田先生
レーザー治療で良くなりましたか?
堀さん
それでも治りませんでした。年末年始には我慢ができないほど痛くなりました。その時は海外に旅行中だったので病院にも行けず、帰国後「口内炎」「治らない」という2つのワードで検索したら、舌がんかもしれないという結果が出てきました。
松田先生
なるほど。どのような情報が出てきたのでしょうか?
堀さん
私と同じ状態の画像がたくさん出てきました。しこりがあった場合は、進行している可能性があることについても書かれていました。私の舌も横が割れてきて、触ると分厚く固い部分もあったので、震えが止まらなくなりました。
松田先生
不安でしたよね。
堀さん
「舌にがんができるの?」と思って頭が真っ白になりました。その日は眠れなかったことを今でも覚えています。
松田先生
最初に白い点を発見してから、どれくらい経っていましたか?
堀さん
8ヵ月ぐらいですね。
松田先生
なるほど。すごく長いですね。
堀さん
口の中にがんができるという知識がなく、副作用に口内炎がある持病の薬を飲んでいたので、口内炎だと思い込んでいました。それが盲点でした。
松田先生
8ヵ月前から異変に気づいていたのであれば、悔しいですよね。
堀さん
私も家族も悔しかったです。ただ過去を振り返るより、治す方向へ気持ちを切り替えないとがんには勝てないと思ったので、その時は一旦忘れようと思いました。
松田先生
忘れることはできましたか?
堀さん
術後に残る後遺症でこんなに大変な生活が待っているとは思いもしなかったので、その時は忘れることができました。その後リハビリの大変さを実感して、実際の生活の質が落ちた時に、改めて気づいてもらえなかった悔しさが湧いてきましたね。
松田先生
告知は一人で受けたのですか?
堀さん
主人は仕事が外せなかったので、一人で伺いました。
松田先生
舌がんが進行すると首のリンパ節や肺に転移する可能性が高いのですが、堀さんはいかがでしたか?
堀さん
首のリンパ節へ転移が見つかりました。
松田先生
その時の気持ちはいかがでしたか?
堀さん
病院に行くまでに、ある程度の情報はネットで調べてあり、覚悟もできていたので、告知を受けた時はそんなにショックではなかったかもしれないです。
松田先生
なるほど。家族の反応はどうでしたか?
堀さん
娘がとにかく泣いていました。当時まだ16歳だったのですが、「例え喋ることができなくても、そばにいてくれるだけでいい」と言われたことを覚えています。
松田先生
娘さんもつらかったでしょうね。基本的に舌がんの治療には、手術で取り切る方法と抗がん剤を使用する方法、放射線治療があります。堀さんはどのように治療方法を選択されましたか?
堀さん
口の中がすごく痛くて精神的にも参っていたので「手術をしてこれ以上痛い思いをしたくない」というのが正直な気持ちでした。がんを切除したとしても命の保証が100%ある訳でもないので、このまま何もせずに痛みだけとってもらう緩和治療でもいいと思っていました。
松田先生
そんな心境のなかで最終的に手術を選択した理由はありますか?
堀さん
主人と子どもから「とにかく命を優先して欲しい」という想いを聞いたので、5年生存率が最も高い手術を選びました。
松田先生
なるほど。
堀さん
舌がんでは、一般的にどのような症状が出るのでしょうか?
松田先生
症状は様々で痛みで気づく方もいれば、口の中の違和感を感じる方もいますね。
堀さん
原因や年齢についてはいかがですか?
松田先生
原因は不明ですが、多くはタバコやお酒との関連が考えられています。年齢と性別については60代の男性が多いと言われています。若いと20代から、高齢の方では80代で舌がんになる方もいるので、症状が出現した時は医療機関を受診できるように、舌がんに対する認知度を上げていくことが何より大事だと思います。
堀さん
症状にも波がありますし、見える部分にできるとは限らないので、舌がんの存在を知っておくことは大事ですよね。早期に発見すると、術後の生活に違いはありますか?
松田先生
がんの発見や治療開始のタイミングが早ければ早いほど、手術後の喋ったり食べたりする機能の低下を防ぐことができると思います。
堀さん
ステージが進行して手術をしたとしても、頑張れば仕事復帰もできることを知っていただきたくてリハビリを頑張っているので、同じような苦しみを感じている人も諦めないで欲しいと思います。