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脳腫瘍「神経膠腫(グリオーマ)」に新たな治療選択肢、分子標的薬「ボラニゴ」が登場

 公開日:2026/05/01
悪性脳腫瘍「グリオーマ」に新たな分子標的薬が登場

日本セルヴィエは、IDH1またはIDH2遺伝子変異陽性の神経膠腫 (しんけいこうしゅ) に対する国内初の分子標的薬ボラニゴ®錠10mg (一般名:ボラシデニブ)を2026年3月30日に発売したと発表しました。神経膠腫とはどのような病気であり、同剤の登場で神経膠腫の治療はどう変化するのでしょうか。 勝木先生に聞きました。

※2026年4月取材。

勝木 将人

監修医師
勝木 将人(医師)

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2016年東北大学卒業 / 現在は諏訪日赤に脳外科医、頭痛外来で勤務。 / 専門は頭痛、データサイエンス、AI.

発表の内容について

編集部

日本セルヴィエが発表した内容を教えてください。

勝木 将人先生勝木先生

日本セルヴィエは2026年3月30日、「ボラニゴ®錠10mg」を販売開始したことを発表しました。同剤は、IDH1またはIDH2遺伝子変異陽性の神経膠腫に対して国内で新たに承認された分子標的薬として、2026年3月18日に薬価収載されたものです。変異型イソクエン酸脱水素酵素(IDH1)およびIDH2を阻害することで、腫瘍細胞におけるがん代謝物の産生を抑制し、腫瘍細胞の増殖を抑えると考えられています。
同薬の承認は、国際共同第Ⅲ相試験「INDIGO」の結果に基づいています。同試験は、特定の適格条件を満たしたIDH遺伝子変異陽性の神経膠腫(星細胞腫および乏突起膠腫)の患者さんを対象に行われました。その結果、無増悪生存期間(治療開始から病気が進行せず生存維持できた期間)の中央値はプラセボ群の11.1カ月と比較してボラニゴ群で27.7カ月と、統計学的に有意な延長が認められました。

神経膠腫とは? どのような症状が出るのか?

編集部

適応疾患である神経膠腫について教えてください。

勝木 将人先生勝木先生

神経膠腫は悪性脳腫瘍の一つで「グリオーマ」とも呼ばれます。ひとくちに神経膠腫といっても、遺伝子異常や悪性度によって治療方針や予後は大きく異なります。今回話題となっているのは、IDH1またはIDH2遺伝子変異陽性というタイプの神経膠腫です。IDH1/2遺伝子変異は、特に低悪性度~中等度悪性度のびまん性神経膠腫で重要になる分子異常であり、治療戦略を考えるうえで大切な指標となります。
神経膠腫が大きくなると、腫瘍の周囲に血流の変化や炎症が起こって脳浮腫(脳のむくみ)が生じます。これにより脳機能が影響を受け、さまざまな症状が表れます。症状は頭蓋骨内部の圧力が高まることで起こる「頭蓋内圧亢進症状」と、腫瘍ができた場所の脳機能が障害されて起こる「局所症状」の二つに大きく分けられます。
具体的な症状は腫瘍の部位や大きさによって異なり、通常は頭痛、てんかん発作、手足の動かしにくさやしびれ、言葉のもつれ、性格変化、物忘れなどがみられます。こうした症状が持続や進行する場合には、画像評価を含めた詳細な検査が必要です。
また、脳血管障害や脳炎など、ほかの緊急性の高い疾患でも同様の症状が表れることがあります。感じたことのない違和感や症状に気付いたときには、放置せずすみやかに脳神経外科や脳神経内科を受診しましょう。

発表内容への受け止めは?

編集部

今回の発表についてどのように受け止めますか。

勝木 将人先生勝木先生

ボラニゴの登場は、IDH1またはIDH2遺伝子変異陽性の神経膠腫に対して新たな治療選択肢が加わったという点で大きな意義があります。 この疾患では、手術後に経過観察を行うのか、あるいは放射線療法や化学療法に進むのかという判断が重要でした。その間を埋める分子標的治療が登場したことは、臨床現場にとって非常に大きな意味を持つと思います。
またINDIGO試験では無増悪生存期間の有意な延長が示されており、がんの進行を抑えながら、追加治療である放射線療法や化学療法の導入を遅らせる可能性が期待されます。神経膠腫は若年者を含め、長期的な認知機能やQOL(生活の質)を意識した治療選択が必要な疾患ですので、その意味でも本剤の登場は重要です。
一方で、実際に有効性が検証された患者層は、主として術後で、ただちに放射線療法や化学療法を必要としないグレード2の症例でした。したがって、全ての患者さんに一律に当てはまる薬というよりは、病理診断と腫瘍の臨床像を踏まえ適切な対象を見極めて使う薬と捉えるべきです。今後は、どの患者さんに最も恩恵が大きいのか、長期成績や実臨床データの蓄積が重要になると考えています。

編集部まとめ

神経膠腫に対し「ボラニゴ」が発売されました。分子異常に基づく治療選択肢が加わったことは、神経膠腫の診療において大きな前進です。 特に、INDIGO試験の対象となった術後でグレード2のIDH1/2遺伝子変異陽性神経膠腫では、追加治療の導入時期をどう考えるかが重要であり、本剤はその治療戦略に新しい可能性をもたらします。神経膠腫は稀な疾患ですが、頭痛やめまい、手足のしびれといった日常的に感じやすい症状が表れることもあります。「いつもと違う」と感じたら、些細なことでも見過ごさず、早めに脳神経を専門とする医療機関へ相談することが、自分自身や大切な人を守ることにつながります。気になる症状は日々の生活の中でしっかりと観察し、早期受診を心がけましょう。

この記事の監修医師