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「慢性炎症を引き起こすたんぱく質」の正体とは? ぜんそく研究で注目されるHLFを医師が解説

 公開日:2025/12/19

2025年12月11日、千葉大学大学院の研究員らは、慢性炎症を引き起こす細胞が体内にとどまり続ける背景には、HLFと呼ばれる因子が関与している可能性を示しました。今回は、この研究内容について山形医師に伺いました。

山形 昂

監修医師
山形 昂(医師)

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京都大学医学部医学科卒業。田附興風会医学研究所北野病院 臨床研修。倉敷中央医療機構倉敷中央病院 呼吸器内科、京都大学大学院医学研究科 呼吸器内科などで経験を積む。現在はiPS細胞研究所(CiRA)で難治性呼吸器疾患の病態解明と再生医療に取り組んでいる。専門は呼吸器疾患。研究分野は難治性呼吸器疾患、iPS細胞、ゲノム編集、再生医療。日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医、日本内科学会認定内科医。

研究グループが発表した内容とは?

編集部

千葉大学大学院の研究員らが発表した内容を教えてください。

山形 昂先生山形先生

今回紹介する研究報告は、千葉大学大学院医学研究院および京都大学大学院医学研究科の研究者らによって実施され、2025年12月11日に米国の科学誌「Science」にて発表されました。

この研究では、慢性炎症に関わる免疫細胞の働きを調べる中で、「HLF=肝白血病因子」という司令塔役のたんぱく質(転写因子)によって制御されていることがわかりました。「TRM=組織常在記憶T細胞」は、肺や腸などの組織にとどまり、感染防御に重要な役割を果たす一方で、その機能異常はぜんそくなどの慢性炎症性疾患に関与します。これまでCD8陽性TRM細胞の制御機構は解明が進んでいましたが、CD4陽性TRM細胞については不明な点が多く残されていました。

研究チームは、マウスの慢性気道炎症モデルを用いた解析から、HLFがCD4陽性TRM細胞で高く発現し、組織への定着と炎症性機能を促進していることを明らかにしました。HLFは、細胞を組織内にとどめる遺伝子の発現を高める一方、組織外への移動に関わる遺伝子の働きを抑制していました。HLFを欠損させたマウスでは、肺のCD4陽性TRM細胞が減少し、炎症や線維化が軽減されていました。また、ヒトの慢性炎症性疾患でもHLFを発現するCD4陽性TRM細胞が確認されました。

これらの結果から、HLFは慢性炎症を持続させる免疫反応の鍵となる因子であり、新たな治療標的となる可能性が示されています。

研究テーマに関連する疾患とは?

編集部

今回の研究テーマに関連するぜんそくについて教えてください。

山形 昂先生山形先生

ぜんそくとは、気道に慢性的な炎症が起こり、わずかな刺激でも気管支が収縮して狭くなることで、ゼーゼー・ヒューヒューという喘鳴や激しい咳、息苦しさなどの発作が繰り返し起こる病気です。子どもではアレルギーが原因となるアトピー型が多く、大人では感染症や環境変化、ストレスなどをきっかけに発症する非アトピー型が多いとされています。発作がない時も気道の炎症は続いているため、放置すると重症化するおそれがあります。特に深夜から明け方に症状が出やすく、咳が長く続く場合は注意が必要です。

予防には、ほこりやダニなどのアレルゲンを避け、十分な睡眠やバランスのよい食事を心がけ、禁煙やストレス管理を行うことが大切です。症状が疑われる場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

研究内容への受け止めは?

編集部

千葉大学大学院の研究員らが発表した内容への受け止めを教えてください。

山形 昂先生山形先生

HLFが単にCD4陽性TRM細胞を組織に留めるだけでなく、炎症機能の獲得において重要な役割を果たしていることも示されたことは重要です。この研究で得られた成果は、ステロイドが効きにくい重症のぜんそくや、再発を繰り返す好酸球性副鼻腔炎、そして特発性肺線維症といった、治りにくい慢性疾患に対する新しい治療の考え方を示しています。

これまでの治療法ではコントロールが難しかったこれらの病気について、病気の主な原因となっている「HLF陽性CD4+ TRM細胞」をターゲットにすることで、炎症が長引くことや組織が硬くなる「線維化」を根本から断ち切る治療薬の開発が期待されます。

編集部まとめ

今回の研究は、慢性炎症がなぜ治りにくいのかという疑問に、免疫細胞の働きから迫ったものです。炎症を起こす細胞が体内にとどまり続ける仕組みが分かりつつあり、将来は新しい治療につながる可能性もあります。咳や痰が続く背景には体の中の免疫の仕組みが関わっていることを知り、症状を我慢せず医師に相談することが大切です。

この記事の監修医師