妊婦への新型コロナワクチン接種で出生児の感染リスクが低下
ノルウェー公衆衛生研究所の研究グループは、「妊娠中に新型コロナウイルスワクチンを接種した女性から生まれた小どもは、生後4カ月の間、新型コロナウイルスの感染リスクが低かった」という研究結果を学術誌に報告しました。このニュースについて武井先生にお話を伺います。
監修医師:
武井 智昭(医師)
日本小児科学会専門医・指導医、日本小児感染症学会認定 インフェクションコントロールドクター(ICD)、臨床研修指導医(日本小児科学会)、抗菌化学療法認定医
医師+(いしぷらす)所属
研究グループが報告した内容とは?
今回、ノルウェー公衆衛生研究所の研究グループが報告した内容について教えてください。
武井先生
今回の研究は、妊娠中の新型コロナウイルスワクチンの接種と生後4カ月間の新型コロナウイルス感染の関連について検討するために実施されました。対象となったのは、2021年9月1日~2022年2月28日にノルウェーで生まれた子ども2万1643人です。生後4カ月間の新型コロナウイルス感染リスクを、妊娠中に新型コロナウイルスのmRNAワクチンを接種した母親から生まれた子どもと、ワクチンを接種していない母親から生まれた子どもで比較しました。なお、全体の45.0%にあたる9739人の母親が2回または3回接種をしていました。生後4カ月間にPCR検査で陽性となった子どもは、全体の4.1%である906人でした。生後4カ月間の新型コロナウイルス感染率は、デルタ株流行期でワクチン未接種グループでは1万日あたり3.0に対して、ワクチン接種グループでは1万日あたり1.2と低く、オミクロン株流行期でも未接種グループの10.9に比べて接種グループは7.0と低くなりました。妊娠中に3回接種した母親から生まれた子どもは824人でしたが、デルタ株流行期の感染例は0でした。3回接種した母親から生まれた子どもは、2回接種した母親から生まれた子どもと比べて、オミクロン流行期における感染リスクの低下度が大きかったということです。
妊娠中の新型コロナウイルスワクチン接種の現状は?
妊娠中の新型コロナウイルスワクチン接種の現状について教えてください。
武井先生
新型コロナウイルスワクチン接種が開始された当初は、妊娠中の接種に関する科学的知見が限られていたため、努力義務の適用除外とされていました。しかし現在は、高い有効性を示唆するエビデンスがあり、安全性に関する特段の懸念を示唆するエビデンスもないことから、2022年の2月21日から努力義務の適用除外を解除しています。国内の研究では、妊婦が新型コロナウイルスに感染した場合、ほとんどは軽症ですが、中等症Ⅰが16%、中等症Ⅱが15%、重症が1.9%という結果も得られています。また、中等症Ⅱ~重症例では、早産の割合が増加したとも報告されています。
報告内容への受け止めは?
ノルウェー公衆衛生研究所の研究グループが報告した内容についての受け止めを教えてください。
武井先生
母体が新型コロナウイルスワクチンを接種することにより、新生児を抗体移行によって感染から防御するという1つの方法論が提示されました。また、新型コロナウイルスの新生児例は重症例が少ないですが、この方法を致死的な疾患と成り得る「B群連鎖球菌」感染などにも応用されることを期待しています。
まとめ
ノルウェー公衆衛生研究所の研究グループが、「妊娠中に新型コロナウイルスワクチンを接種した女性から生まれた子どもでは、生後4カ月間の新型コロナウイルスの感染リスクが低かった」という研究結果を学術誌に報告したことが今回のニュースでわかりました。妊娠中の新型コロナウイルスワクチン接種に不安を感じる人もいる中で、こうした研究結果は有意義なものになりそうです。