日本の「統合失調症」有病率0.59%と推定
順天堂大学らの研究グループは、2019年に実施された大規模オンライン調査に参加した日本人約3万人のデータを解析したところ、「日本の統合失調症の生涯有病率は0.59%と推定された」との結果を報告しました。このニュースについて伊井先生にお話を伺います。
監修医師:
伊井 俊貴 医師
目次 -INDEX-
研究グループが報告した内容とは?
順天堂大学らの研究グループが報告した内容について教えてください。
伊井先生
今回の研究は、日本における最新の統合失調症の有病率を推定して、疾病負担について明らかにすることを目的におこなわれました。18歳以上の成人を対象に日本を含む12カ国で実施されている大規模オンライン調査のデータを解析しました。研究では、統合失調症の有病率を推定するとともに、統合失調症と診断された成人患者における「健康関連の生活の質(HRQoL)」「労働生産性及び活動障害(WPAI)」「間接費用」などを評価しました。検討の結果、日本における参加者3万6人のうち178人が統合失調症と診断され、生涯有病率は0.59%と推定されました。
統合失調症患者を抑うつ症状の評価尺度であるPHQ-9のスコアに従い、10点未満または10点以上、14点未満または14点以上の2つで分類したところ、10点未満の患者と比べて10点以上の患者ではHRQoLの評価尺度であるSF-12v2の3要素である「身体的側面・精神的側面・役割/社会的側面」のうち、精神的側面と役割/社会的側面のスコアが有意に低くなりました。また、10点未満の患者と比べて10点以上の患者では、過去7日間のうち健康問題が理由で欠勤した時間が占める割合と健康問題が理由で仕事に支障があった時間が占める割合の程度が有意に高くなりました。労働生産性の低下による1年間の間接費用は、10点未満の患者の89万2800円に対して10点以上の患者では196万5100円とほぼ2倍でした。今回の研究データと日本政府が発表した雇用および所得に関するデータを用いて事後解析すると、日本の統合失調症に関連する疾病負担は1兆740億円と推定されました。
統合失調症とは?
今回の研究対象になった統合失調症について教えてください。
伊井先生
統合失調症は、脳の様々な働きをまとめることが難しくなり、幻覚や妄想などの症状が起こる病気です。ほかの慢性疾患と同じように長い経過を辿りやすいですが、新しい薬や治療法の開発が進んだことによって、多くの患者が長期的な回復を期待できるようになっています。日本での統合失調症の患者数は、約80万人と言われています。
報告内容の受け止めは?
研究グループが報告した内容についての受け止めを教えてください。
伊井先生
統合失調症の患者は、寛解状態となり幻覚・妄想などの症状が落ち着いている人が大多数です。しかしながら、寛解に至っている患者であっても、今回の研究が示すように社会適応が困難であることは少なくありません。
今後、社会全体におけるスティグマ(精神疾患に対する偏見)の改善や多様性の促進を通じて、統合失調症の患者が安心して生活できる環境が整えられることが、投薬などの治療に加えて統合失調症に関する疾病負担を軽減していくために重要だと考えられます。
まとめ
順天堂大学らの研究グループは、2019年に実施された大規模オンライン調査に参加した日本人3万人超のデータを解析したところ、日本の統合失調症の生涯有病率は0.59%、統合失調症に関連する疾病負担は1兆740億円と推定されたことが今回のニュースでわかりました。日本での統合失調症の患者は約80万人いるので、今回の解析結果にも注目が集まりそうです。