家族や友人と笑う高齢者は要介護リスクが減少
東北大学らの研究グループは、友人などと一緒に笑う高齢者はテレビなどを見ながら1人で笑う高齢者に比べて、介護が必要になるリスクが低くなると発表しました。このニュースについて甲斐沼先生にお話を伺います。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
研究グループが発表した内容とは?
東北大学らの研究グループが発表した研究内容について教えてください。
甲斐沼先生
今回取り上げる研究は、東北大学の竹内研時准教授などのグループによっておこなわれました。研究グループは介護を受けていない高齢者1万2571人を約6年間追跡し、笑いが起きる状況とその後の介護の必要性との関連について分析し、約6年間の追跡期間中に、調査対象の11.3%に当たる1420人が新規要介護認定を受けました。追跡の結果、友人や夫婦で話しているときや子どもや孫と接しているときなど、誰かと交流しているときに笑う人は、テレビや漫画を見たり落語や芝居などを見に行ったりしたときなど、1人でいるときのみ笑う人に比べて、要介護認定されるリスクが23%低くなるという傾向が出たということです。
とくに、友人と一緒に笑う場合により強い傾向が出ていて、1人でいるときのみ笑う人に比べると、介護が必要になるリスクが約30%低くなったという結果が出ています。研究グループは「笑いが起こる状況と要介護認定との関連を示した初めての研究です。高齢者の要介護発生を予防する上で、1人ではなく誰かと一緒に笑うことが有用である可能性を示すことができました」とコメントしています。
笑いの健康効果とは?
笑うことによる健康効果はよく耳にしますが、先生のご専門の中から教えてください。
甲斐沼先生
笑いと健康効果の関連性における研究は、アメリカ合衆国で過去に難病を笑うことで完治させた作家の談話がきっかけとなっています。そのなかでは、硬直性脊椎炎と診断されたアメリカ人が色々な治療を受ける段階で笑い療法を開発して実践し始めることによって、しばらくすると社会復帰を果たせる程度に状態改善を認めたとのことでした。
笑うことと健康改善の関係性を医学的に捉えると、呼吸器系および免疫機構に関する観点から考慮することが重要です。前者に関しては、誰しも笑う際には、腹部に力を入れて息を短く吐く腹式の呼吸動作を繰り返しています。基本的に、1回あたりに換気される空気量は、胸式呼吸では500ml、腹式呼吸では最大2000mlにも及ぶと考えられています。したがって、大声で笑うことによって体内に貯留している二酸化炭素が体外に排出されると同時に、多くの酸素成分が体内に入りやすいと想定されます。そのような状態になれば、肺胞表面から「プロスタグランジン」という物質が分泌されることで血管拡張作用が働いて血圧低下につながりますし、興奮して交感神経が活発になった場合に分泌される「ノルアドレナリン」というホルモンの分泌量も抑制されて健康的になれると考慮されます。そして、免疫機構からの理論で考えると、以前のある研究結果で「笑った後の方がそうでない場合に比べてがん細胞と闘う能力を有するNK(ナチュラルキラー)細胞が比較的短時間で1.5倍近くまで高く活性化する」ことがわかっています。これらの観点から、笑う動作は健康寿命を延ばして身体の不調を改善させる効果が期待できると思われます。
発表された研究内容の受け止めは?
東北大学らの研究グループが発表した研究内容について期待できる点など、受け止めを教えてください。
甲斐沼先生
今回の東北大学チームの研究から、高齢者において友人関係や人間同士のつながりを持つことが重要であり、日常生活において自然とほかの仲間たちと笑い合えるような環境整備が望ましいと考えられます。高齢者が要介護状態に陥る背景や原因は、脳梗塞後遺症など様々な健康因子が複雑に関与しており、今後はそういった交絡因子との関連性もあわせて研究課題として掲げられることを期待します。近年では、コロナ禍で人との分断を余儀なくされる状況もあるので、高齢者は親しい友人や家族と連絡を取り合ってできるだけ笑う機会を作っていただければと考えます。
まとめ
東北大学らの研究グループが、友人などと一緒に笑う高齢者は、テレビなどを見ながら1人で笑う高齢者に比べて介護が必要になるリスクが低くなると発表したことが今回のニュースでわかりました。笑う門には福来たるという言葉もあるように、今後も笑いと健康については注目が集まりそうです。