iPS細胞でがんの分子標的薬探しの効率化へ
東京大学医科学研究所の研究グループは、iPS細胞(人工多能性幹細胞)に変化しにくいがん細胞の性質を用いて、個別のがんに効く分子標的薬探しへ応用する手法を開発したと発表しました。このニュースについて明星先生にお話を伺います。
監修医師:
明星 智洋(医師)
現在は江戸川病院腫瘍血液内科部長・東京がん免疫治療センター長・プレシジョンメディスンセンター長を兼任。血液疾患全般、がんの化学療法全般の最前線で先進的治療を行っている。朝日放送「たけしの健康エンターテインメント!みんなの家庭の医学」などテレビ出演や医学監修多数。日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医・指導医、日本血液学会血液専門医・指導医、日本化学療法学会抗菌化学療法認定医・指導医、日本内科学会認定内科医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医。
目次 -INDEX-
研究グループが発表した内容とは?
東京大学医科学研究所の研究グループが発表した内容について教えてください。
明星先生
今回取り上げられている研究内容は、東京大学医科学研究所の山田泰広教授らの研究グループによるもので、4月27日にアメリカの科学誌のセル・リポーツに掲載されました。研究グループは、「ほとんどのがん細胞が、初期化因子と呼ばれる遺伝子を導入しても、iPS細胞になりにくい」という特徴に着目しました。そして実際に明細胞肉腫のマウスを使って研究を進めました。
その結果、がんの原因遺伝子が作り出す分子が、初期化因子の働きを妨げていることが明らかになりました。また、原因遺伝子の働きを薬剤などで抑止すると、iPS細胞を作り出せることも分かりました。研究グループは、この発見を分子標的薬探しに応用し、候補となる薬剤をがん細胞に投与して、iPS細胞化がどの程度効率よく進むかを指標にする手法を考案しました。分子標的薬で原因遺伝子の働きを止めれば、iPS細胞を作れることも証明されたようです。
分子標的薬とは?
分子標的薬について教えてください。
明星先生
分子標的薬とは、特定の分子を狙い撃ちすることで、より安全かつ有効に病気を治療する目的で開発された薬です。抗がん薬の多くは、がん細胞だけでなく正常な細胞も攻撃してしまうので、重い副作用を発現させることも少なくありません。
がんに関する研究が進んだことで、がん細胞が増殖するのは遺伝子変異が原因であることがわかりました。そして、この遺伝子変異やそれによって作られるタンパク質を抑えるために作られたのが分子標的薬です。分子標的薬はゲノム・分子レベルでがん細胞を狙い撃ちにするので、正常な細胞のダメージが少なくなり、従来の抗がん剤治療に比べると患者さんへの副作用の負担がより少なくなります。
発表内容への受け止めは?
東京大学医科学研究所の研究グループが発表した内容への受け止めについて教えてください。
明星先生
今回の手法で特定した分子標的薬を明細胞肉腫のマウスに投与した結果、有効性が示されたようです。近年、がん治療は臓器別ではなく、その原因遺伝子を特定して患者ごとの治療法を選択する個別化医療の流れになっています。今回の研究成果は、がんゲノム医療に新たな選択肢を与える大きな一歩と思われます。
まとめ
東京大学医科学研究所の研究グループが、iPS細胞に変化しにくいがん細胞の性質を用い、個別のがんに効く分子標的薬探しに応用する手法を開発したと発表したことが今回のニュースで明らかになりました。がん細胞をピンポイントで攻撃する分子標的薬はがんの種類ごとに効く薬が異なり、さまざまな薬剤から探し出すのは手間と時間がかかっていただけに、新たな分子標的薬探しの方法に期待が集まります。