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HIV感染の女性、臍帯血の造血幹細胞移植後に寛解

 更新日:2023/03/27

HIVに感染したアメリカ人女性に対して臍帯血(さいたいけつ)由来の幹細胞を移植したところ、ウイルスが検出されない寛解状態を維持しているとの症例研究が発表されました。このニュースについて上医師に伺いました。

上昌広 医師

監修医師
上 昌広(医師)

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東京大学医学部卒業。東京大学大学院修了。その後、虎の門病院や国立がん研究センターにて臨床・研究に従事。2010年より東京大学医科学研究所特任教授、2016年より特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所理事長を務める。著書は「復興は現場から動き出す(東洋経済新報社)」「日本の医療格差は9倍 医療不足の真実(光文社新書)」「病院は東京から破綻する(朝日新聞出版)」「ヤバい医学部(日本評論社)」「日本のコロナ対策はなぜ迷走するのか(毎日新聞出版)」。

今回発表された症例研究の内容とは?

今回、学会で発表された症例研究の内容について教えてください。

上昌広 医師上先生

今回のニュースは2月15日にカリフォルニア大学ロサンゼルス校医科大学院のイボンヌ・ブライソン博士らが学会で発表した論文の内容によるものです。論文によると、患者は中年の女性でHIV感染の診断を受けてから4年後に急性骨髄性白血病と診断され化学療法を受けていました。女性は化学療法で血液細胞が破壊されたため、成人している家族からの幹細胞移植を受けた後、2017年に血縁関係のない産婦のHIV耐性の変異を持つさい帯血の移植を受けたということです。移植から3年経った2020年に抗HIV薬の投与を中止しましたが、それから1年2カ月が経過した時点でHIVも検出されていないという結果が出ているということです。

今回、報告された女性と同様に幹細胞移植を受けて治癒したとみられる患者は、これまでに2人報告されていますが、ドナー由来のリンパ球が患者の組織を攻撃する「移植片対宿主病(GVHD)」が起きていました。しかし、今回の女性患者はGVHDを起こさなかったそうです。

HIV治療の現状は?

HIVの治療についての現状を教えてください。

上昌広 医師上先生

日本のHIV感染者は累計報告数で3.2万人を超えています。HIV感染症に対する治療については、多剤併用の抗HIV療法がおこなわれています。核酸系逆転写酵素阻害剤2剤と非核酸系逆転写酵素阻害剤あるいは、プロテアーゼ阻害剤、インテグラーゼ阻害剤のいずれか1剤を組み合わせて内服します。最近では、キードラッグとしてインテグラーゼ阻害剤が主に用いられています。現在の治療では、合剤なども使用可能になっていて、1日1回~2回の内服回数で、内服する薬の数も1日1~3錠と少なくなっています。食事と関係なく内服できる薬も多くなっており、副作用も軽くなっているので、以前よりは患者の負担も軽くなっています。薬の内服を忘れると、薬剤耐性ウイルスができる恐れがあるので、確実に薬の内服を続けることが重要です。

今回の発表内容への受け止めは?

今回発表された内容についての受け止めを教えてください。

上昌広 医師上先生

北欧人に多いHIV耐性の変異をもつドナーからの造血幹細胞移植で、HIV感染が抑制されることは過去にも報告されています。過去の事例はGVHDを伴っていましたが、今回はありませんでした。GVHDがHIV抑制に必須でないことが明らかになったことは大きな一歩です。

ただ、HIV感染者で、今回のような造血幹細胞移植の適応となるのはごく稀です。それはHIVの悪化より、移植の合併症で命を落とすリスクが遙かに高いからです。したがって、まだ実用化には程遠い状態です。

まとめ

HIVに感染したアメリカ人女性に対して臍帯血由来の幹細胞を移植したところ、ウイルスが検出されない寛解状態を維持しているとの症例研究が今回のニュースで明らかになりました。ただし、今回の内容はまだ査読のある刊行物には掲載されておらず、今後の科学的な評価にも注目が集まります。

この記事の監修医師