オペラ芸人・ミッチェルさん「子宮体がん」で逝去 初期症状や予防法を医師が解説
公開日:2025/08/26

音楽家やお笑いタレントとして活動したミッチェルさんが、子宮体がんのため8月18日に亡くなったことが、所属事務所より発表されました。47歳でした。 そこで、子宮体がんの初期症状・検査方法・治療方法・予防対策について、医師の馬場敦志先生に詳しく解説してもらいました。

監修医師:
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)
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筑波大学医学群医学類卒業 。その後、北海道内の病院に勤務。 2021年、北海道札幌市に「宮の沢スマイルレディースクリニック」を開院。 日本産科婦人科学会専門医。日本内視鏡外科学会、日本産科婦人科内視鏡学会の各会員。
目次 -INDEX-
子宮体がんとは?
子宮体がんとは子宮の内腔(子宮の空洞内)からがんが発生する病気で、欧米化していく日本人の生活習慣に伴って発症リスクが増加していると懸念されています。子宮体がんは、内腔に発生したがん細胞が子宮の壁に侵入して、子宮の外側にまで広がっていく症状が特徴です。女性らしい体つきに影響する女性ホルモンには、卵胞ホルモンと黄体ホルモンの2種類が存在しています。
卵胞ホルモンは子宮内膜とよばれる粘膜を増殖する働きをもち、黄体ホルモンには粘膜の増殖を制御して妊娠の状態を維持する働きがあります。
この卵胞ホルモンと黄体ホルモンのバランスが何らかの原因によって崩れ、卵胞ホルモンの増殖が過剰になることで子宮体がんを発症する可能性が高くなるといえるでしょう。女性ホルモンのバランスが崩れやすくなる条件は以下の通りです。
- 出産経験がないこと
- 不妊症であること
- 不正臓器出血があること
- 生理不順であること
- 卵胞ホルモンの服用歴があること
- 動物性脂肪摂取が多いこと
- 肥満体であること
- 親族に乳がん・大腸がん・胃がん・卵巣がんなどの発症歴があること
- 高血圧や糖尿病の疾患があること
子宮体がんの初期症状
子宮体がんを発症すると、疾患者の90%以上が不正臓器出血を引き起こしています。不正臓器出血には、排卵出血ともよばれている薄ピンク・赤茶色・茶色などのおりものも含まれるため気づきにくい症状もあるでしょう。おりものに異常がみられた場合には、産婦人科を受診するよう心がけてください。また子宮体がんを発症するリスクの増加だけではなく、疾患者の若年化が懸念されています。その理由としては、出産率の低下が影響しているといえるでしょう。
妊娠出産において、子宮内では大量の黄体ホルモンが分泌されるため、妊娠出産経験があると子宮体がんの発症率が減少するからです。
妊娠出産の経験がない、または遅れるとそれだけ卵胞ホルモンの働きが優勢になりやすくなり、発症リスクが高まることは報告されている罹患者の割合からもみてとれるでしょう。
先述した女性ホルモンのバランスが崩れやすい条件に当てはまり、なおかつおりものに異常がみられた場合には、すみやかな産婦人科の受診が大切です。
子宮体がんの検査方法
「子宮体がんの検査方法ってどのようなものがあるの?」と感じる方も多いでしょう。また、産婦人科の検査に抵抗があると感じている方が多いことも事実です。大きく4つに分けられる検査方法や、検査に抵抗があると感じている方におすすめな産婦人科の選び方について紹介していきます。ぜひ参考にしてみてください。
内診・直腸診
まずは検査のベースとなる内診・直腸診から紹介しましょう。多くの方が検査の受診にためらってしまう原因は内診です。やはり、足を開いて器具を陰部に入れることに抵抗を感じてしまうことは、若年層だと特に仕方がないことだといえるでしょう。しかし、子宮体がんをはじめとする産科の病気を検査する上で避けては通れない検査方法になります。内診では、陰部から細胞を採取し、がん細胞がないか検査します。
さらに、子宮や膣管の状態を判断するには医者が直接みる方法を取ることで、正確性・早期発見・早期治療につながる可能性が高まるといえるでしょう。そこで産婦人科選びのおすすめの方法は、女医が在中しているかを調べることです。
近年、女性の検査に対する抵抗感を緩和するため、女医が在中する産婦人科が増えています。さらに、女医が在中していない産婦人科でも、エコー検査をはじめとする画像検査を中心に行う場合もあります。
子宮体がんを防ぐために避けて通れない検査だからこそ、受診しやすい産婦人科を選ぶことが大切です。
子宮鏡検査
子宮鏡(しきゅうきょう)検査は、胃カメラ検査と同様な方法になります。胃カメラ検査を受けたことのある方であれば、イメージしやすいかもしれません。内視鏡とよばれる直径3.5mmほどの細いカメラを子宮に入れて子宮の内腔を検査する方法です。子宮口からカメラや器具を入れて検査するため、高齢の方や未産の方では子宮口が狭かったり閉じていたりして検査ができない場合もあります。そのような場合には子宮口をひろげる処置、または麻酔を使用して検査することもあると認識しておいてください。
子宮鏡検査では、以下に該当する病気を診断・早期発見するために行われます。
- 子宮体がん
- 子宮筋腫
- 子宮内膜ポリープ
- 子宮奇形
- 子宮腔内の癒着の有無
細胞診・組織診などの病理検査
細胞診・組織診などの病理検査は、子宮体がんを調べる上で一般的な検査方法です。子宮内膜の細胞や組織を採取して、がん細胞の有無を調べます。ここで注意すべき点が1つあります。一般的に知られている子宮がん検診は、子宮頸がん検診を指しています。子宮体がんの検査は含まれていないことが多いため、子宮がん検診を受ける際には注意しましょう。子宮体がんの内診を受ける際に、細い器具を使って子宮内膜細胞を採取することが多いです。
問診時に、子宮体がん検査を行うか確認する産婦人科が多いため、心配な方はカウンセリングを受けることがおすすめです。
また子宮内膜細胞を採取すると、検査後に出血が起きる場合もあります。半日ほどで出血は治まりますが、1日以上出血が続く場合は産婦人科に相談しましょう。
エコー・CT・MRIなどの画像検査
画像検査によって、子宮体がんの原因ともいえる内腔壁の厚みを調べる方法もあります。画像検査は子宮鏡検査や細胞診・組織診などの病理検査に比べると、痛みが少ないスクリーニングの方法になります。しかし、閉経前では判断が難しいため、初期のがんが発見されにくいなどのデメリットがあることは否定できません。あくまでも子宮体がんと診断された場合に、がん細胞の進行度を調べる検査であると認識しておいてください。
もう少し画像検査を詳しくお伝えすると、MRIでは子宮の内腔壁にがん細胞がどの程度侵入しているかや、子宮に隣接する卵巣・卵管にまでがん細胞が進行していないかを検査します。
CTやPET-CTの検査方法では子宮だけではなく、全身の臓器やリンパ節にがん細胞が転移していないか検査するため、治療方針を決める上で必要不可欠な情報といえるでしょう。
子宮体がんの治療法
検査方法をお伝えしましたので、次は治療方法についても触れていきましょう。子宮体がんに限ったことではありませんが、治療方法はがん細胞の進行度によって異なります。また、治療を受けられる場合と難しい場合もありますので、治療方針についてはしっかり医者とカウンセリングを行った上で決めていくことが推奨されています。治療方針を決める際の参考として、知識を身につけておきましょう。
手術
手術は子宮体がん治療の主体となります。しかし、手術の場合には子宮・両側の卵巣・卵管の摘出が基本です。そのため、治療後に妊娠出産を望む方には大きなデメリットとなります。がん細胞の進行度や転移度によっては、リンパ節も摘出してがんの種類や進行度を検査することもあります。
これまではお腹を大きく切る開腹手術が基本でしたが、医療技術の進歩により、カメラを使用した腹腔鏡下手術やロボット支援下手術も医療保険が適用されるようになりました。開腹手術に比べると、キズが小さいことから術後の回復が早く、入院期間が短くなります。
しかし、腹腔鏡下手術は早期の子宮体癌でのみ適用が可能となるため、早期発見と早期治療が求められるでしょう。
化学療法
手術により再発やがん細胞の完全摘出が困難な状況が懸念される場合には、化学療法である抗がん剤治療や放射線治療が適応されます。化学療法では、がん細胞に変化しないように体を守る機能を高めたり維持したりすることを目的としています。- タキサン系
- プラチナ系
- アドリアマイシン
副作用のリスクを低減しつつ、AP療法と引けを取らない効果が証明されているのでおすすめの化学療法です。また、再発が懸念される場合にはアドリアマイシン療法が適用されますが、効果は限定的であるとされています。
化学療法を検討される際は、薬剤のメリットとデメリットをしっかり把握するよう心がけましょう。
放射線療法
放射線治療も手術により、再発やがん細胞の完全摘出が困難な状況が懸念される場合に適用される治療方法です。しかし、放射線治療は子宮体がんへの効果を発揮しにくいとされています。そのため、一般的には手術ができない場合などに適用される治療方法であると認識しておいてください。
ホルモン療法
妊娠出産を希望している方には、子宮を温存して妊娠機能を維持するホルモン療法が効果的であるといえるでしょう。しかし、ホルモン療法を適用する場合には初期の子宮体がんであること、またはがん細胞の進行度が一部であることに限られるため注意が必要です。
子宮体がんの発症リスクが若年化しているため、将来的に妊娠出産を望んでいるのであれば、定期的な子宮体がんの検診を受けることをおすすめします。
子宮体がんの予防・対策
子宮体がんの発症率は51人に1人であり、罹患リスクは2.0%にまで増加しています。日本人は子宮体がんの発症リスクが低かったにも関わらず、急激に増加する事態となっているのでしょうか。発症リスクが急増した大きな原因は、日本人の生活習慣が欧米化したことであるとされています。そこで、一体どのようなことに気をつければ、子宮体がんの予防対策になるのかお伝えしていきましょう。
特に妊娠出産を将来的に望んでいる若年層の方は、意識してみてください。
生活習慣を改善する
子宮体がんの発症リスクを急増させた大きな原因は、生活習慣の欧米化です。そもそも生活習慣の欧米化とは、一体どのようなものなのでしょうか。- ファストフードによる高脂肪・高糖質な食事が増えたこと
- 加工品の摂取量が増えたこと
- 運動不足
食の欧米化の特徴は、炭水化物・油脂類の消費と小麦粉・じゃがいもの加工品の増加にあります。これまでお米や野菜が中心だったヘルシーな食事から高脂質・高糖質な食事が増えたことによって子宮体がんだけではなく、生活習慣病という大きな病気グループの発症リスクが急増しました。
その背景には食の欧米化だけではなく、デスクワークやデリバリーなど運動不足につながる社会環境の変化が影響を及ぼしているといえるでしょう。
まずは日本食を基本とした食生活・適度な運動・十分な睡眠時間の確保を意識した生活習慣の改善を心がけてください。
低用量ピルを服用する
生理不順または体重の増減が激しい方は低用量ピルの服用を検討しましょう。低用量ピルとは、避妊のために開発された合成ホルモン剤です。そのため、子宮の内腔壁を薄い状態で保つ働きに作用することから、子宮体がんの発症リスクを低減してくれます。低用量ピルを服用する際は、産婦人科を受診して処方してもらいましょう。処方量を正しく守ることが大切です。
子宮体がん検診を受ける
何度か先述しておりますが、子宮体がんの検診を定期的に受けることが、最も予防対策に効果的といえるでしょう。子宮の検査を行うことは子宮体がんだけではなく、ほかの産科の病気を予防・早期発見・早期治療につながります。さまざまな病気のリスクが高まっている時代だからこそ、定期的な検診はご自身を守る唯一の方法だと認識しておいてください。
編集部まとめ
生活習慣の欧米化によって、発症リスクの増加と若年化が懸念されている子宮体がんについて詳しく解説してきました。技術の進歩により生存率は上がってきていますが、早期発見・早期治療に努める重要性は変わりません。
女性特有の病気だからこそ、産婦人科に気兼ねなく受診できる環境を整えておくことが大切です。
※この記事はメディカルドックにて『「子宮体がんの初期症状」はご存知ですか?予防・対策についても解説!【医師監修】』と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。

