
高齢化が進む日本では、介護と医療を一体的に提供する介護医療の重要性が高まっています。しかし、介護と医療の違いやサービス内容、施設の選び方についてよくわからないという方もいるでしょう。
適切な介護医療サービスを選ぶためには、それぞれの役割や制度の仕組み、施設の特徴を理解することが大切です。
本記事では、介護医療の基本的な知識やサービス内容、施設の種類、選び方のポイントなどを詳しく解説します。
介護医療とは
介護と医療は密接に関連していますが、それぞれに明確な役割があります。ここでは、介護医療の基本的な概念と仕組みについて説明します。
介護と医療の役割の違い

介護と医療は、高齢の方の生活を支えるうえで異なる役割を担っています。
医療は疾患の診断や治療、投薬、手術などの医学的な処置を行うことを主な目的としています。医師や看護師といった医療専門職が中心となり、病気やケガの回復を目指す活動を行います。
一方、介護は日常生活における支援を提供することを目的としており、食事や入浴、排泄、移動などの身体介助や、掃除、洗濯、買い物といった生活援助を通じて高齢の方が安心して生活できる環境を整えます。介護福祉士やホームヘルパーなどの介護専門職が中心となり、利用者の自立支援と生活の質の維持向上を図ります。
これらの役割は互いに補完し合う関係にあり、高齢の方の健康状態や生活状況に応じて適切に組み合わせることが求められます。特に、慢性疾患を抱える高齢の方や医療的ケアが必要な方にとっては、医療と介護の連携が不可欠となります。
介護医療の目的と重要性
介護医療の目的は、医療的なケアが必要な高齢の方に、治療と日常生活支援を一体的に提供することです。高齢の方のなかには、糖尿病や高血圧といった慢性疾患を抱えている方や、医療機器を使用しながら生活している方も多く、医療と介護の両面からのサポートが必要です。
介護医療が重要視される理由には、次のような点があります。
まず、医療的ケアが必要な方でも、できる限り住み慣れた地域や自宅で生活を続けられるように支援できることです。
次に、医師や看護師、介護職員などの専門職が連携することで病状の変化に迅速に対応し、重症化を防ぐことにつながります。
さらに、入院による環境の変化や家族と離ればなれになってしまう状況をできるだけ避け、高齢の方の心身の負担を軽減できる点も重要です。
このように、介護医療は高齢の方の尊厳を守りながら、健康管理と生活支援の両立を図るうえで重要な役割を果たしています。
介護医療の仕組み
介護医療は、介護保険制度と医療保険制度という2つの制度を土台に成り立っており、2つの制度が連携することで、医療的なケアが必要な高齢の方でも安心して生活を続けられるようになっています。
介護保険制度とは、40歳以上の国民が保険料を納め、要介護状態となった際に介護サービスを受けられる社会保険制度です。2000年の施行以来、高齢の方の介護を家族だけでなく社会全体で支える仕組みとして機能しています。
介護保険が適用されるサービスには、次のような種類があります。
- 在宅サービス:訪問看護や訪問リハビリ、通所リハビリなど
- 施設サービス:介護医療院や介護老人保健施設など
利用者の自己負担は所得に応じて1〜3割で、医療保険と組み合わせて治療と生活支援の両方を一体的に受けることができます。
医療保険制度は、病気やけがの治療にかかる医療費を補うための制度です。会社員や公務員は健康保険、自営業や無職の方は国民健康保険に加入し、医療機関での診療費の一部を自己負担します。
介護が必要な方の場合は、次のように制度を使い分けます。
| 分類 | 主な内容 | 対応する保険制度 |
|---|---|---|
| 医療行為 | 治療や投薬、検査、入院など | 医療保険 |
| 介護支援 | 食事や入浴、リハビリ、生活援助など | 介護保険 |
このように、医療保険は治す支援、介護保険は暮らしを支える支援として、それぞれの役割を担っています。
要介護認定からサービス利用までの流れ

介護医療サービスを利用するには、要介護認定の申請からスタートします。 申請から利用開始までの一連の流れは、次のとおりです。
1.相談・申請
2.認定調査・主治医意見書の作成
3.介護認定審査会による判定
4.結果への対応
5.ケアプラン作成・サービス開始
まず、本人または家族が市区町村の窓口や地域包括支援センターに相談し、要介護認定の申請を行います。申請には、介護保険被保険者証や主治医の情報が必要です。
申請後、認定調査員が自宅や施設を訪問し、心身の状態や日常生活の様子について聞き取り調査を行います。調査は全国共通の基準に基づき、身体機能や認知機能、生活動作など約80項目について確認されます。同時に主治医が意見書の作成と医学的な観点に基づく評価を行い、これらの情報をもとに介護認定審査会が要介護度を判定します。
介護度は7段階に分かれており、数字が大きいほど介護の必要度が高い状態です。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 要支援1、2 | 生活の一部に支援が必要な状態 |
| 要介護1〜5 | 日常生活の多くに介助が必要な状態 |
申請から認定結果の通知までは原則30日以内で、認定結果に納得できない場合は、都道府県に設置されている介護保険審査会に不服申し立てを行うことができます。
認定後はケアマネジャーが本人や家族と面談し、生活状況や希望を聞き取りながら利用するサービスの種類や頻度、目標などを記載するケアプランを作成します。プランに基づいてサービス事業者と契約を結び、実際のサービス利用が開始されます。
介護医療が注目される背景

介護医療への関心が高まっている背景には、社会構造の変化や医療政策の転換など、複数の要因が関係しています。ここでは、その主な要因を詳しく解説します。
高齢化による介護需要の増加
日本は、世界でも類を見ない速度で高齢化が進行しています。
総務省の統計によると、65歳以上の人口は総人口の約29%を占めており、2040年には約35%に達すると推計されています。特に75歳以上の後期高齢者の増加が顕著で、医療や介護を必要とする方の数は年々増え続けています。
参照:『我が国の人口について』(厚生労働省)
また、高齢化に伴って要介護認定を受ける方の数も増加傾向にあり、要介護認定者数は2024年時点で約690万人に上っています。特に認知症を伴う要介護者や、複数の慢性疾患を抱える方が増えており、医療と介護の両方を必要とするケースが増えています。
参照:『介護保険制度について』(厚生労働省)
このような状況のなかで、介護を担う家族の負担は増大しています。核家族化の進行や女性の社会進出により、家族だけで介護を支えることが困難となっており、社会全体で介護を支える仕組みの充実が求められています。
介護医療サービスの整備と拡充は、高齢の方本人だけでなく、その家族を支えるうえでも重要な役割を果たしています。
医療費の増加と在宅医療の推進
医療費は年々増加傾向にあり、厚生労働省の統計では令和4年度の国民医療費は年間約46兆円に達しました。そのうち約16兆円は後期高齢者医療給付分に充てられており、前年度よりも4.6%増加しています。
参照:『令和4(2022)年度 国民医療費の概況』(厚生労働省)
このような状況を受けて、国は医療費抑制と効率的な医療提供の両立を目指しています。その一環として、入院期間の短縮化や在宅医療の推進が進められており、住み慣れた地域で医療と介護を受けられる体制として、地域包括ケアシステムの構築が全国的に進められています。
在宅医療とは、医師や看護師などが自宅を訪問し、治療や看護を行う仕組みです。身体の状態や生活環境に合わせて、次のようなサービスが組み合わせて提供されます。
| サービス名 | 主な内容 |
|---|---|
| 訪問診療 | 医師が定期的に自宅を訪問して診察や処方を行う |
| 訪問看護 | 看護師による点滴や褥瘡ケアなどで自宅療養をサポート |
| 訪問リハビリテーション | 理学療法士などが自宅で運動機能の維持と回復を支援 |
このほかにも、医療と介護を一体的に提供できる介護医療院の整備も進んでおり、長期療養が必要な方へのサポート体制が広がっています。
在宅医療には、住み慣れた環境で治療を受けられる、家族との時間を大切にできる、入院と比較して医療費を抑えられる可能性があるといったメリットが挙げられますが、次のような課題もあります。
- 24時間対応や緊急時の支援体制の整備
- 医療・介護スタッフの連携強化
- 家族への精神的・身体的負担への支援
医療機関や自治体、地域包括支援センターが連携し、これらの課題を解決するための体制整備が進められています。
看取りや慢性疾患ケアのニーズ拡大
住み慣れた自宅や施設で最期を迎えたいという希望があっても、医療的なケアや家族の不安から、病院での看取りを選択せざるを得ないことも少なくありません。しかし、近年は人生の最終段階における医療や看取りに対するニーズが拡大しており、本人の希望を尊重した看取りの実現に向けて、在宅での緩和ケアや看取りを支える体制の整備が進められています。
介護医療の現場では、終末期の苦痛緩和や精神的サポート、家族へのケアなど、包括的な支援が提供されています。
近年は糖尿病や高血圧、心疾患などの慢性疾患を抱えている方も多く、医療と介護の連携による継続的な服薬管理や、生活習慣の改善のためのケアが効果的であると考えられています。例えば、定期的な訪問診療と日常的な介護サービスを組み合わせることで、病状の悪化を防ぎ、入院を回避できる可能性が高まります。
慢性疾患のケアには、疾患管理だけでなく栄養管理や運動療法、服薬管理など、多面的なアプローチが求められます。医師と看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士など、多職種が連携してケアを提供する体制が重要です。
介護医療連携の必要性
従来は、医療は医療、介護は介護と、それぞれが独立してサービスを提供する傾向がありました。しかし、複数の疾患を抱える方や医療的ケアが必要な要介護者が増えるなかで、両者の緊密な連携が求められています。
例えば、医療機関と介護施設、在宅サービス事業者、行政、地域住民などが連携し、高齢の方を包括的に支える地域包括ケアシステムでは、各専門職が情報を共有し、それぞれの専門性を活かしながら、一人ひとりに適したケアを提供することを目指しています。地域包括支援センターは連携を支える要として、医療・介護・福祉をつなぐ役割も担っています。
また、退院時カンファレンスの開催や、病院から在宅・施設へのスムーズな移行支援など、現場レベルでの連携も広がっています。
介護医療連携により、緊急時の対応がスムーズになる、病状変化の早期発見が可能になる、利用者と家族の安心感が高まるといった効果が期待されます。
一方で、職種間の役割分担や責任の所在、情報共有の方法など課題も残されており、国は医療介護連携推進法や地域医療構想に基づき、ICTを活用した情報共有体制や人材育成を支援する取り組みを進めています。
介護医療に関わる主な施設の種類

介護医療サービスを提供する施設にはさまざまな種類があり、それぞれが異なる目的や機能を持っています。 ここでは、代表的な施設の特徴や対象者、費用の目安などをわかりやすく解説します。
介護医療院
介護医療院は2018年に創設された新しい施設で、長期的な医療ケアと介護サービスを一体的に提供します。介護療養型医療施設の後継として位置づけられ、生活の場としての機能が重視されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 要介護度が高く、喀痰(かくたん)吸引や経管栄養など医療的ケアが必要な方 |
| 医療体制 | 医師が常駐または定期的に診療を行い、看護師が24時間体制で医療ケアを提供 |
| 類型 |
I型:医療ニーズが高い方 II型:介護中心で医療依存度が低めの方 |
| サービス | 医療ケア、日常生活支援、リハビリ、レクリエーション |
| 費用 |
介護保険適用 (所得に応じた負担軽減制度を利用可能) |
介護医療院には、I型とII型の2つの類型があり、I型は医療ニーズの高い方を対象とし、手厚い医療体制を提供しています。II型はI型に比べて医療ニーズがやや低い方を対象とし、介護サービスに重点を置いた支援を提供します。
介護医療院には個室や多床室などさまざまな居室タイプがあり、プライバシーに配慮しながら生活できる環境が整備されています。費用は介護保険が適用され、介護度や居室タイプ、所得に応じて自己負担額が決まります。
介護老人保健施設
介護老人保健施設(老健)は、病院と自宅の中間的な位置づけの施設です。医療ケアとリハビリテーションを中心に身体機能の維持と回復を図り、病院での治療を終えた方が在宅復帰を目指す役割を担っています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 治療を終え、すぐに自宅復帰が難しい要介護者 |
| 医療体制 | 医師常駐、看護師24時間体制でリハビリ専門職を配置 |
| サービス | 医療ケア、リハビリ、日常生活訓練 |
| 入所期間目安 | 約3〜6ヶ月 |
| 費用 |
介護保険適用 (所得に応じた負担軽減制度を利用可能) |
老健の大きな特徴は、充実したリハビリテーション体制です。理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などのリハビリ専門職が配置され、個別のリハビリプログラムで日常生活動作の訓練や歩行訓練、言語訓練など、在宅生活に必要な機能の回復を目指します。
医療体制も整っており、医師が常駐し、看護師が24時間体制で健康管理を行います。投薬管理や褥瘡(床ずれ)の処置、経管栄養など、一定の医療的ケアにも対応しています。ただし、急性期の治療や高度な医療処置が必要な場合は、医療機関への入院が必要となることもあります。
老健は原則として在宅復帰を目指す施設ですが、在宅復帰後も、通所リハビリテーションや訪問リハビリテーションなどのサービスを利用できる場合があります。
介護老人福祉施設
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム、特養)は、常時介護が必要で在宅生活が難しい方の長期入所施設です。終のすみかとして、生活支援を中心にサービスを提供しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 原則:要介護3以上(特例で要介護1・2も可) |
| 医療体制 | 常駐ではない医師配置あり、看護師は日中配置が基本 |
| サービス | 食事や入浴、排泄などの介護、レクリエーション活動 |
| 費用 |
介護保険適用 (所得に応じた負担軽減制度を利用可能) |
特養の特徴は、生活の場としての機能を重視している点です。個室または多床室で生活しながら、食事、入浴、排泄などの日常生活全般にわたる介護サービスを受けることができます。レクリエーションや季節行事なども行われ、生活の質の維持向上が図られています。
医療体制については、医師の配置は義務付けられていますが常駐ではないことが多く、看護師は日中のみの配置となっている施設も少なくありません。そのため、医療依存度の高い方や夜間の医療ケアが必要な方の受け入れは難しい場合があります。
入所希望者が多くて待機期間が長く、入所まで数年かかることもあるため、早めに申し込みを検討することが推奨されます。
有料老人ホーム・サービス付き高齢の方向け住宅
有料老人ホームとサービス付き高齢の方向け住宅(サ高住)は、民間事業者が運営する高齢の方向けの住宅です。介護保険施設よりも住まいとしての性格が強いのが特徴です。
| 分類 | 対象者 | 主な特徴 | 費用 |
|---|---|---|---|
| 介護付き有料老人ホーム | 要介護者 | 24時間介護スタッフ常駐で、介護保険サービスを施設内で提供 |
特定施設の場合は介護保険適用 (所得に応じた負担軽減制度は施設により利用可能) |
| 住宅型有料老人ホーム | 自立〜軽度要介護 | 外部の介護サービスを利用、自由度が高い | 外部サービス利用時のみ介護保険適用 |
| サービス付き高齢者向け住宅(サ高住) | 自立〜軽度要介護 | バリアフリー住宅で、安否確認や生活相談、外部サービスを利用できる | 外部サービス利用時のみ介護保険適用 |
| 健康型有料老人ホーム | 自立 | 介護が必要になると退去が必要な場合がある | 適用なし |
有料老人ホームには、「介護付き」「住宅型」「健康型」の3つのタイプがあります。
介護付き有料老人ホームは、施設のスタッフが24時間体制で介護サービスを提供します。特定施設入居者生活介護の指定を受けている施設だと、介護保険を利用してサービスを受けることができます。
住宅型有料老人ホームは、介護が必要になった際に外部の介護サービスを利用可能で、健康型は自立した方を対象としています。
サ高住は、バリアフリー構造の住宅に、安否確認と生活相談のサービスが付いた高齢の方向け住宅です。基本的には自立した生活を送れる方を対象としていますが、介護が必要になった場合は外部の介護サービスを利用できます。一部の施設では訪問介護事業所を併設し、介護サービスを提供しているところもあります。
これらの施設の医療体制は、施設によって大きく異なります。医師や看護師が常駐している施設もあれば、必要に応じて外部の医療機関と連携する施設もあります。医療的ケアが必要な方は、施設の医療体制を確認することが大切です。
グループホーム
グループホーム(認知症対応型共同生活介護)は、認知症の方が少人数で共同生活を送りながら介護サービスを受ける施設です。家庭的な環境のなかで、できることを自分で行い、穏やかに生活することを目的としています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 認知症の診断を受けた要支援・要介護者 |
| 医療体制 | 医師と看護師の常駐はなく、提携医療機関と連携して訪問診療を実施 |
| 利用条件 | 地域密着型サービスのため、原則として同一市区町村在住者が対象 |
| サービス | 食事や入浴、掃除などの生活支援、認知症ケア、レクリエーション |
| 費用目安 |
介護保険適用 (所得に応じた負担軽減制度を利用可能) |
グループホームは、原則として5人から9人程度の小規模な単位で運営されます。入居者は個室を持ちながら、リビングやダイニングなどの共有スペースで一緒に食事をしたり、レクリエーションを楽しんだりします。料理や掃除、洗濯などの日常的な活動にも、能力に応じて参加することができます。
認知症ケアの専門性が高く、スタッフは認知症の方の心理や行動特性を理解したうえで、適切な支援を提供します。馴染みの環境と人間関係のなかで生活することで、認知症の進行を緩やかにする効果が期待されています。
医師や看護師の配置義務はないため、医療依存度の高い方の受け入れは難しい場合がありますが、提携医療機関との連携で定期的な訪問診療や緊急時の対応体制を整えている施設もあります。地域密着型サービスなので、入居できるのは施設と同じ市区町村に住民票がある方に限られます。
介護医療における課題と将来性

介護医療は高齢化社会において不可欠なサービスですが、さまざまな課題も抱えています。
介護医療の課題
介護医療が直面している大きな課題の一つが人材不足です。介護職員や看護師の不足は深刻化しており、必要なサービスを提供できない事業所も増えています。
人材不足の背景には、仕事の身体的・精神的負担の大きさ、賃金水準の低さ、夜勤や不規則な勤務体制、利用者とのコミュニケーションの難しさなど、介護の仕事特有の大変さもあります。
医療と介護の連携における課題も残されています。
情報共有の仕組みが不十分であったり、職種間の役割分担が明確でなかったりすることで、スムーズな連携が妨げられて医療情報が十分に引き継がれず、適切なケアを提供できないといったケースが懸念されています。
また、地域による格差も課題となっています。都市部では施設やサービスが充実している一方、地方では必要なサービスを受けられない方もいます。特に中山間地域や離島などでは、訪問サービスの提供が困難な場合もあり、地域間格差の解消が求められています。
さらに、保険料と税金、利用者負担によって支えられている介護保険制度の持続可能性も課題です。高齢化の進展でサービス利用者が増加し、保険料の上昇や利用者負担の見直しなど、制度の見直しが続けられています。
介護医療の今後と将来性
介護医療はさまざまな課題を抱えながらも、次のような技術の進化や制度の改善によって、サービスの質の向上が期待されています。
- ICT(情報通信技術)・ロボット技術の活用
- 遠隔医療・オンライン診療の普及
- 地域包括ケアシステムの進展
- 介護予防と健康寿命の延伸
- 人材育成と多様な人材の活躍
近年ではICTやロボット技術の活用が進み、移乗介助ロボットなどの介護ロボットや入浴支援機器、見守りセンサーの導入で、職員の身体的負担の軽減や業務の効率化が期待されています。また、ICTを活用した記録システムや情報共有システムにより、事務作業の効率化や多職種連携の促進が図られています。
遠隔医療やオンライン診療の普及も、介護医療の可能性を広げています。特に、医療機関が少ない地域では遠隔医療の仕組みが整うことで、地域や在宅の患者さんがより手軽に医師の診察を受けられるだけでなく、通院の負担を軽減できます。
また、地域包括ケアシステムの整備で、高齢の方が住み慣れた地域で安心して暮らせる社会を目指す動きが、地域ぐるみで進んでいます。
介護医療の今後を考えるうえでは、要介護状態を防ぎ、健康寿命を延ばすための取り組みも重要です。体操教室や栄養指導、口腔ケアなどの介護予防の充実は、生活の質を守るだけでなく、社会全体の介護費用を抑えることにもつながるでしょう。
人材不足が課題となるなかで、介護医療の現場では専門性と多様性の両立も重要なポイントです。認知症ケアや看取りケア、医療的ケアなど専門的な知識と技術を持った人材の育成、介護分野で正式に働く資格を持つ外国人介護人材の受け入れ、処遇改善やキャリアアップ支援といった働き方改革で、より多様で質の高いケアの提供が期待されています。
介護医療サービスを選ぶときのポイント

介護医療サービスを選ぶ際には、医療体制や人員、リハビリ、看取りなどの支援体制を総合的に比較検討することが大切です。ここからは、チェックポイントを項目別に紹介します。
医療ケアの体制、介護度に応じた対応範囲
介護医療サービスを選ぶ際には、医療体制がどこまで整っているかを必ず確認しましょう。
- 医師の配置:常勤か非常勤か、週何回診察があるか、緊急時対応は可能か
- 看護師の配置:24時間常駐か、日中のみか、夜間オンコール体制か
- 提携医療機関:近隣病院との連携、専門医の往診体制があるか
- 対応できる医療措置:インスリン注射や経管栄養、喀痰吸引、褥瘡(床ずれ)処置、人工呼吸器管理など必要な措置を受けられるか
- 介護度への対応範囲:要介護度が進行しても継続利用できるか、退去基準があるか
まずは、本人に必要な医療的処置や健康管理の内容を明確にし、施設やサービスがそれに対応できるかを確認する必要があります。
医療依存度が高い方や夜間の医療ケアが必要な方は、24時間看護体制のある施設を選ぶとよいでしょう。医療的処置への対応可能範囲も施設によって異なるため、しっかり確認する必要があります。要介護度が進行した場合や認知症の進行、医療依存度の上昇など、将来を見据えた状態変化への対応方針を確認するのがポイントです。
職員の資格や経験、人員体制
サービスやケアの質は、現場で支えるスタッフのスキルと人数で変わります。
- 職員の資格構成:介護福祉士や実務者研修修了者がどのくらい在籍しているか
- 専門資格者の有無:認知症ケア専門士やケアマネジャーなどの資格を持つスタッフが在籍しているか
- 人員配置比率:要介護者の人数に対する職員の人数の比率はどのくらいか
- 研修・教育体制:定期研修や専門分野(認知症、看取り、感染対策など)の教育を実施しているか
介護職員に有資格者の割合が高いほど、専門的なケアを期待できます。どのような資格を持つ職員がいて、どのような体制なのかを確認してみましょう。
人員配置比率という言葉を聞いたことはあるでしょうか。人員配置比率とは要介護者の人数に対する職員の人数の比率のことで、介護保険の基準では特養や老健の場合、要介護者3人に対して介護・看護職員1人以上の配置が義務付けられています。人員配置基準を上回る職員数を配置している施設は、手厚いケアを期待できます。
さらに、離職率が低い施設はケアが安定している傾向があるので、可能なら職員の定着率や勤続年数も確認してみましょう。施設の見学時に、職員の雰囲気や利用者との関わり方を観察するのもおすすめの方法です。
リハビリ、看取り、栄養管理の充実度
生活の質を高めるためには、身体・心・食の支援がどれだけ充実しているかがカギです。
【リハビリの確認ポイント】
- 専門職の配置:理学療法士や作業療法士、言語聴覚士が在籍しているか
- リハビリの形式:個別・集団・日常生活訓練のどの形式か
- 実施頻度・時間:週何回、1回あたりどれくらい行われるか
【看取りの確認ポイント】
- 対応体制:看取り可能か、医師と看護師の支援体制はどうか
- 家族の付き添い:最期の時間を共に過ごせる環境が整っているか
- 緩和ケア:疼痛コントロールや本人の意思尊重が行われているか
【栄養管理の確認ポイント】
- 管理栄養士の配置:個別の栄養計画を立てているか
- 食事形態への対応:嚥下機能や持病に合わせた食事調整ができるか
- 食事の満足度:選択メニューや盛り付けへの配慮があるか
- 口腔ケア体制:歯科医や歯科衛生士の訪問や定期ケアの実施があるか
特に在宅復帰を希望する場合は、リハビリについて、個別リハビリの実施頻度と成果報告の仕組みを確認しておくとよいでしょう。
看取りケアの体制も重要な確認ポイントです。施設での看取りに対応しているか、どのような体制で看取りケアが提供されるか、家族の付き添いは可能かなどを確認します。また、緩和ケアや疼痛管理の体制、本人や家族の意向を尊重した対応がなされるかについても確認しておくことが大切です。
また、栄養管理の充実度も、健康維持と生活の質に影響します食事のおいしさや見た目への配慮、選択メニューの有無なども、食事の満足度に関わるポイントです。口腔ケアは、誤嚥性肺炎の予防や栄養状態の維持に重要な役割を果たすので、日常的な口腔衛生管理がどのように行われるかも確認しておきましょう。
まとめ

介護医療は、高齢化が進む日本社会において、ますます重要性を増しています。医療と介護を一体的に提供することで、高齢の方が住み慣れた地域や自宅で安心して生活を継続できる環境が整備されつつあります。
介護医療に関わる施設には、介護医療院や介護老人保健施設、特別養護老人ホームなどさまざまな施設やサービスがあり、それぞれに異なる特徴があります。
サービスを選ぶ際には、医療ケアの体制、職員の専門性、リハビリや看取りの充実度など、複数の観点から検討することが大切です。
人材不足や地域格差などの課題もありますが、ICTやロボット技術の活用、地域包括ケアシステムの構築など新たな取り組みも進められているので、本人や家族のニーズに合うサービスを選択し、専門職と連携しながら安心できる生活を目指しましょう。


