介護における入浴介助は、清潔を保つだけでなく、心と身体を癒やす大切な時間でもあります。しかし、高齢の方は体力やバランス感覚が低下しており、入浴中の転倒やヒートショックなどの事故リスクもあります。この記事では、自宅で安全性を高めて入浴介助を行うための基本手順や注意点、利用できる介護サービスまでを詳しく解説します。介護を行うご家族の負担を減らし、不安なく入浴できる環境づくりをサポートします。
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・資格:社会福祉士、研修認定精神保健福祉士、介護福祉士、福祉住環境コーディネーター2級
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。
要介護者のお風呂を補助する入浴介助の基本

入浴介助は、清潔の維持だけでなく、生活の質(QOL)を保つうえで重要なケアです。リスクを減らして快適に入浴を行うためには、事前の準備と体調確認が欠かせません。
自宅で入浴介助を行う際に必要な準備を教えてください
入浴介助を行う浴室は、転倒防止のため、事前にすべり止めマットや手すりを設置しておきましょう。入浴介助の前には、浴室や脱衣所の温度を調整してヒートショックのリスクを減らすことも大切です。シャワーチェアやバスボードなどの介護用品を使うことで、移動や姿勢保持の負担を軽減できます。また、着替えやタオル、保湿クリーム、水分補給の準備も忘れずに。介護者は動作をサポートしやすい服装になり、緊急時にすぐ対応できる環境を整えておくことが大切です。
入浴前に確認すべき体調や環境のチェックポイントはありますか?
入浴前には、体温や血圧、脈拍などを確認し、体調に異変がないかをチェックしましょう。特に、発熱や息切れ、めまいがある場合は入浴を控えます。環境面では、浴室や脱衣所の温度差によるヒートショックを防ぐため、室温を20〜25度、寒さを感じない程度に保つことが理想です。照明や床の状態にも注意し、滑りやすい場所がないか確認しましょう。体調と環境の両面を整えることで、安全性の高い入浴が可能になります。
入浴介助を始める適切な時間帯や温度の目安を教えてください
入浴は、体調が安定しやすい日中〜夕方の時間帯が理想的です。食後すぐの入浴は血圧変動を招くおそれがあるため、食後1時間以上あけて行いましょう。湯温は38〜40度程度が目安で、高齢の方にはぬるめのお湯が適切です。熱すぎるお湯は皮膚の乾燥や血圧上昇の原因になります。長湯は避け、全身浴は10分以内、部分浴を組み合わせるなど、本人の体力に合わせた入浴を心がけてください。
お風呂での事故リスクを抑える入浴介助のポイント
入浴は心身をリラックスさせる反面、転倒やヒートショックなどの事故が起こりやすい場面でもあります。不安を減らす環境づくりと介助方法を理解し、リスクを少なく抑えましょう。
入浴中の転倒を防ぐにはどうすればよいですか?
要介護者の転倒防止には、浴室や脱衣所の床をすべりにくくすることが基本です。すべり止めマットを敷き、手すりを適切な高さに設置しましょう。シャワーチェアを使えば、立ち上がりや身体を洗う動作の負担を軽減できます。介護者は入浴中、声かけをしながらゆっくりと動作をサポートし、急な立ち上がりを避けることが大切です。また、照明を十分に確保して視界を明るく保つことも、事故防止につながります。
浴室や脱衣所の温度差(ヒートショック)対策を教えてください
ヒートショックは、急激な温度変化によって血圧が大きく変動し、失神や心疾患を引き起こす危険があります。脱衣所や浴室をあらかじめ暖め、室温を20度前後に保つことが理想です。浴槽の湯温は38〜40度程度に設定し、長湯を避けましょう。入浴前にコップ1杯の水分を取ると、血流を安定させる効果があります。さらに、入浴後はすぐに服を着せて身体を冷やさないよう配慮しましょう。
浴槽への出入りの介助で転倒・滑落のリスクを抑えるコツはありますか?
浴槽への出入りは、入浴介助中の事故が最も起こりやすい動作です。浴槽の縁をまたぐ際は、手すりやバスボードを活用して、安定した姿勢を保ちましょう。介護者は、利用者の後ろや横から体を支え、片足ずつゆっくり動かすよう声かけを行います。床面にすべり止めマットを敷くことで、足元の安定性も向上します。動作を焦らず行うことが、リスクを減らして入浴を続けるための大切なポイントです。
入浴介助を補助する介護用品と選び方

入浴介助を快適に行うためには、要介護者の状態や浴室の環境に合わせた介護用品を使うことが大切です。適切な用具を取り入れることで、入浴時の負担や転倒のリスクを大きく減らせます。
入浴介助に便利な介護用品にはどのようなものがありますか?
入浴介助には、シャワーチェア、バスボード、浴槽用手すり、すべり止めマットなどの介護用品が役立ちます。シャワーチェアを使えば、座ったまま身体を洗えるため転倒の心配が少なくなります。バスボードは浴槽の出入りをサポートし、手すりは立ち座りや姿勢保持を助けます。また、温度調整付きシャワーや吸水性の高いタオルも入浴時の快適さを高めるアイテムです。選定に迷ったら、福祉用具専門店やケアマネジャーに相談するとよいでしょう。
シャワーチェアや浴槽用手すりはどのように選べばよいですか?
シャワーチェアは、利用者の体格に合う高さと幅を確認して選びましょう。高さを調整できるタイプなら、立ち上がりがスムーズになります。背もたれやひじ掛けがあるものは姿勢を保ちやすく、介助もしやすくなります。浴槽用手すりは、浴槽の縁にしっかり固定でき、握りやすい形状のものを選ぶことがポイントです。設置後は、利用前にぐらつきがないか必ず確認しましょう。
浴室マットやバスボードの設置で注意すべき点を教えてください
浴室マットはすべり止め加工のあるものを選び、敷く前に床面を乾かしておくことが重要です。湿気が多い場所ではカビや汚れが発生しやすいため、定期的に洗って清潔に保ちましょう。バスボードは浴槽の幅に合うサイズを選び、固定がしっかりしているかを確認します。要介護者が安定して座れる位置に調整すれば、入浴中の動作をよりスムーズに行えます。
介護保険で利用できる入浴関連サービス
入浴の介助が難しい場合は、介護保険を使って入浴支援サービスを利用できます。訪問入浴介護やデイサービスなど、状況に合った支援を取り入れることで、介護者と要介護者双方の心身の負担を減らすことが可能です。
お風呂の介助サービス(訪問入浴介護・通所介護)は、介護保険の対象ですか?
はい。訪問入浴介護と通所介護(デイサービス)は、いずれも介護保険の対象です。訪問入浴介護は、看護師や介護職員が自宅を訪問し、専用の浴槽を使って入浴をサポートします。通所介護は、施設へ通って入浴や食事、機能訓練などのサービスを受けられる仕組みです。どちらも要介護、要支援認定を受けていれば利用でき、自己負担は1〜3割程度です。ケアマネジャーに相談すると、適切な利用方法を提案してもらえます。
訪問入浴介護とデイサービスの違いを教えてください
訪問入浴介護は、自宅で入浴が難しい方を対象に、スタッフが浴槽を持ち込み入浴を支援するサービスです。寝たきりの方や医療的ケアが必要な方でも利用できます。一方、デイサービス(通所介護)は、利用者が日中に施設へ通い、入浴や食事、リハビリなどを受ける形態です。外出の機会が増え、ほかの利用者との交流も期待できます。どちらを選ぶかは、要介護者の身体の状態や生活環境に合わせて検討しましょう。
介護保険で入浴補助用具を購入・レンタルできますか?
介護保険では、入浴動作を支える入浴補助用具の購入費が支給されます。これには、シャワーチェア、浴槽用手すり、バスボード、すべり止めマットなどが該当し、レンタルはできません。購入費の支給は、年間上限10万円(自己負担1〜3割)の範囲内です。利用条件や購入の流れについては、担当のケアマネジャーや福祉用具専門相談員に事前に確認しましょう。
編集部まとめ
入浴介助は、清潔の維持だけでなく、心身の健康を保つためにも欠かせないケアです。事前の準備や介護用品の活用により、転倒やヒートショックのリスクを大幅に減らすことができます。また、介護保険を活用すれば、訪問入浴介護やデイサービスといった入浴支援を取り入れることも可能です。利用者と介護者の双方にとって負担を減らし、心地よい入浴時間を過ごすためには、無理のない方法を選び、日々の状態に合わせて工夫することが大切です。