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寝たきり高齢者の手術後に注意すべきことは?リスクと介護のポイントを解説

 公開日:2026/03/12
寝たきり高齢者の手術後に注意すべきことは?リスクと介護のポイントを解説

手術を終えた寝たきりの高齢の方は、回復の過程でさまざまなリスクを抱えやすく、介護のあり方がその後の健康を大きく左右します。術後の合併症や感染症、褥瘡(じょくそう)などを防ぐためには、日々のケアや姿勢の管理、栄養状態の確認が欠かせません。また、体調の変化を見逃さず、医療機関と連携を取りながらのサポートも大切です。本記事は、寝たきり高齢の方の手術後に注意したいポイントと、介護現場で実践できるケアの工夫を、専門医の視点から解説します。

伊藤 規絵

監修医師
伊藤 規絵(医師)

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旭川医科大学医学部卒業。その後、札幌医科大学附属病院、市立室蘭総合病院、市立釧路総合病院、市立芦別病院などで研鑽を積む。2007年札幌医科大学大学院医学研究科卒業。現在は札幌西円山病院神経内科総合医療センターに勤務。2023年Medica出版社から「ねころんで読める歩行障害」を上梓。2024年4月から、FMラジオ番組で「ドクター伊藤の健康百彩」のパーソナリティーを務める。またYou tube番組でも脳神経内科や医療・介護に関してわかりやすい発信を行っている。診療科目は神経内科(脳神経内科)、老年内科、皮膚科、一般内科。医学博士。日本神経学会認定専門医・指導医、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本老年医学会専門医・指導医・評議員、国際頭痛学会(Headache master)、A型ボツリヌス毒素製剤ユーザ、北海道難病指定医、身体障害者福祉法指定医。

寝たきり高齢者が手術後に直面しやすいリスク

寝たきり高齢者が手術後に直面しやすいリスク

手術後に合併症や感染症、筋力低下などのリスクが高まります。体力や免疫力の低下により回復が遅れることもあるため、慎重な観察とケアが必要です。

術後合併症や体調悪化のリスク

手術後に合併症や体調悪化を起こしやすい傾向があります。体力や免疫力の低下により、創部感染肺炎尿路感染症などのリスクが高まりやすく、治りにくい場合も少なくありません。また、長時間同じ姿勢で過ごすことによって血流が滞り、褥瘡(じょくそう)の発生もあります。さらに、食欲の低下栄養不足脱水などが重なると、筋力の低下や全身の衰えが進行し、回復が遅れる原因です。また、重症術後合併症のなかで少なくないのは、せん妄(発生率10%)、ついで呼吸不全(発生率8%)でした。

参照:『手術リスク 』(健康長寿ネット)

ADL(生活機能)が低下する可能性

術後の経過によってはADL(生活機能)がさらに低下する可能性があります。手術や麻酔の影響、安静期間の長期化により筋力や持久力が落ちると、起き上がりや寝返り、食事や排泄など、これまで何とかできていた動作が難しくなることがあります。また、痛みや恐怖感から身体を動かすことを避けてしまい、活動量が減ることで、関節の拘縮廃用症候群が進行しやすいです。

さらに、せん妄やうつ状態などの精神的変化が加わると、リハビリへの意欲が低下し、生活機能の回復が遅れることも少なくありません。こうしたADL低下を防ぐためには、主治医やリハビリスタッフと相談しながら、可能な範囲で早期からの離床や関節可動域訓練、座位保持練習などを取り入れていくことが大切です。また、家族や介護者が声かけや見守りを行い、安心感を持って身体を動かせる環境を整えることも重要です。

参照:『ADL低下(日常生活動作) 』(健康長寿ネット)

QOL(生活の質)の低下による影響

術後の経過によってQOL(生活の質)がさらに低下してしまう可能性があります。痛みや身体のだるさが続くと、これまで楽しみにしていたテレビや会話などへの関心が薄れ、生活に楽しさや張り合いを感じにくくなることがあります。

また、ADLの低下により身の回りの多くを他者に頼らざるをえなくなると、「迷惑をかけているのではないか」などの負い目や無力感が強まり、抑うつ的な気分意欲低下につながりやすいです。さらに、せん妄や認知機能の変化が加わると、環境への適応が難しくなり、不安や混乱から睡眠障害食欲低下を招き、心身両面のつらさが増すこともあります。

寝たきり高齢者の手術後の一般的な経過

寝たきり高齢者の手術後の一般的な経過

全身状態や基礎疾患の影響を受けながら、痛みやだるさが徐々に軽減し、合併症に注意しつつリハビリを進めていくのが一般的な経過です。

手術直後に起こりやすい変化

麻酔や手術の影響により、痛みやだるさ、倦怠感が強く出やすいです。そのため、血圧や脈拍、呼吸状態、尿量など全身状態を慎重にモニタリングしながら、必要な鎮痛や輸液管理が行われます。また、高齢の方は環境の変化や身体ストレスをきっかけに、術後せん妄が出現しやすく、時間や場所がわからなくなる、落ち着きがなくなる、夜間に興奮するなどの症状がみられることがあります。さらに、長時間の臥床による血流低下から、肺炎術後肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症褥瘡などの合併症リスクも高まるため、早期からの体位変換や呼吸訓練などに配慮しながら、慎重に状態をみていくことが大切です。

参照:
『術後せん妄 』(健康長寿ネット)
『「術後肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症」症状・病気をしらべる』(日本整形外科学会)

回復期に注意したいポイント

術後の痛みやだるさが少しずつ落ち着き、全身状態が安定してくる一方で、体力や筋力の低下が目立ちやすいです。この時期に注意したいのは、廃用症候群や誤嚥性肺炎、褥瘡などの合併症を防ぎながら、少しずつ活動量と生活の自立度を高めていくことです。具体的には、主治医やリハビリスタッフと相談しながら、ベッド上での体位変換や関節可動域訓練、座位・立位練習などを進め、可能な範囲で早期離床を図ることが大切です。

また、食事量の低下嚥下機能の低下から低栄養脱水に陥りやすいため、誤嚥に配慮しつつ、水分とエネルギー・たんぱく質の十分な確保も重要です。さらに、環境の変化や不安から、うつ傾向やせん妄が長引く場合もあるため、表情や会話の様子をよく観察し、声かけや安心感を高める生活リズムづくりを通じて、心のケアにも配慮していくことが求められます。

参照:『高齢者の術後早期回復のための管理栄養士の関わり*』(厚生労働省)

寝たきり高齢者が手術前に確認しておきたいポイント

寝たきり高齢者が手術前に確認しておきたいポイント

手術を受ける前には、いくつかのポイントをあらかじめ確認しておくことが大切です。まず、手術の目的や期待される効果だけでなく、どの程度のリスクがあるのか、手術をしない場合はどうなるのかの選択肢も含めて、主治医から十分な説明を受け、ご本人・家族で納得しておく必要があります。

また、持病(心臓病、糖尿病、認知症など)や服用中の薬が手術や麻酔に与える影響、術後に一時的または長期的なADL低下やリハビリが必要になる可能性も確認しておくと安心感が高まります。さらに、どこまでの治療を希望するか延命措置をどう考えるかなど、価値観QOLに関わる点を事前に話し合い、医療者と共有しておくことも重要です。退院後の介護体制や在宅サービスの利用見込みを、家族やケアマネジャー(介護支援専門員)と前もって相談し、術後の生活を具体的にイメージして準備しておくと、よりスムーズに回復過程を支えることができます。

参照:『介護支援専門員/ケアマネジャー - 職業詳細 | 職業情報提供サイト(job tag)』(厚生労働省)

寝たきり高齢者の手術後における介護のポイント

寝たきり高齢者の手術後における介護のポイント

体位変換や清潔保持、栄養・水分管理に加え、痛みや体調の変化をこまめに観察し、早期に医療者へ共有しながら、無理のないリハビリを支えることが大切です。

医療機関や地域連携室、ケアマネジャーへの相談

手術後の介護は、医療機関や地域支援窓口の早めの活用が大切です。まず、入院先の病棟看護師や医療ソーシャルワーカー地域連携室に、退院後の生活や介護に関する不安、利用できる在宅サービスや施設、福祉用具などを相談しておきます。地域連携室や入退院支援センターは、在宅医や訪問看護、訪問リハビリ、ショートステイなど多職種・多機関との調整役を担い、自宅や施設で継続できる支援体制づくりを手伝ってくれます。

また、要介護認定の取得や更新、ケアプランの作成は、地域包括支援センターケアマネジャーに相談し、一緒に本人の希望や家族の介護力に合わせたサービス内容の検討が重要です。こうした医療・介護双方との連携により、退院後の急な体調悪化や介護負担の増大を予防し、安心感がある在宅療養を続けやすいです。

参照:
『退院が近づいたら…』(全国連携事務者ネットワーク)
『介護サービスの利⽤のしかた 地域包括⽀援センターとは 介護の相談窓⼝等について』(厚生労働省)

術後の状態に合わせた介護サービスの調整

寝たきり高齢の方が手術を受けた後は、身体機能や生活状況の変化に合わせて、介護サービスを柔軟に見直していくことが大切です。術直後は医療ニーズが高くなるため、訪問診療訪問看護を中心に、創部管理や内服管理、症状観察など医療的ケアを手厚く受けられる体制を整える必要があります。

いっぽうで、状態が安定してきたら、訪問リハビリや通所リハビリなどを組み合わせ、少しずつ筋力維持ADL向上をめざす支援へと切り替えていきます。サービスの選択や頻度の調整は、ケアマネジャーが中心となり、主治医や訪問看護師、リハビリ専門職と情報共有しながら、ケアプランとして具体化されます。

また、家族の介護負担や夜間の不安が大きい場合には、ショートステイの利用やヘルパーの増回など、介護保険サービスの追加・変更も検討されます。術後の状態は時間とともに変化するため、一度決めたプランのままではなく、定期的なモニタリングとサービス調整を行うことが、無理のない在宅療養を続けるうえで重要です。

参照:『在宅医療におけるケアマネジャーの役割とは』(厚生労働省)

無理のない範囲でのリハビリやケアの継続

寝たきり高齢の方の手術後は、頑張りすぎないリハビリ続けやすいケアを両立させることが大切です。無理をすると痛みや疲労が強まり、かえってリハビリへの意欲低下や体調悪化を招くことがあるため、その日の体調や表情、訴えをよく観察しながら、負担の少ない内容・回数から始めていきます。

具体的には、ベッド上での関節可動域訓練や軽い体位変換、好きな音楽を聴きながらの座位保持練習など、「少し動けた」「今日はここまでできた」と感じられる程度を目安にします。また、本人が苦痛に感じる姿勢や運動は無理強いせず、医師やリハビリスタッフと相談しながら方法や頻度を調整していくことが重要です。家族や介護者は、できたことに目を向けて声かけを行い、小さな達成感を積み重ねられるよう支えることで、リハビリやケアを前向きに続けやすいです。

参照:『廃用症候群予防のリハビリ 80代女性のケースを紹介します』(医療法人賛健会 城内病院)

定期受診と体調変化の早期発見

定期的な受診や訪問診療を活用しながら、体調変化を早期に察知して対応していくことが大切です。定期受診は、創部の治り具合や感染の有無だけでなく、呼吸状態や循環動態、食欲や体重、むくみ、排泄状況などを総合的に確認し、いつもの状態との違いを医師に評価してもらいます。

また、認知症のある方や訴えが乏しい高齢の方は、微熱や咳、表情の変化、尿の回数や色の変化、ぼんやりしている時間が増えた、などのささいな変化が肺炎や尿路感染症、薬の副作用などのサインのことも少なくないため、家族や介護者が日頃からよく観察し、気になる点はメモにして受診時に必ず伝えるようにします。

さらに、在宅医療や訪問看護を利用している場合は、定期の訪問でバイタルサイン身体診察褥瘡や関節拘縮の有無などを継続的にチェックしてもらうことで、重症化する前の対応がしやすいです。 「この程度なら様子を見るべきか」と迷うときほど、かかりつけ医や訪問看護師に早めに相談し、必要であれば臨時受診や検査につなげることが、安心感のある在宅療養を続けるうえで重要です。

手術をきっかけに寝たきり状態が進行した場合の対応

手術をきっかけに寝たきり状態が進行した場合の対応

主治医やリハビリ専門職、ケアマネジャーと連携し、治療目標と介護方針を見直しながら、合併症予防とQOLの維持を重視したケア体制を整えていくことが大切です。

医療機関への相談

手術をきっかけにさらに動けなくなった場合は、まず主治医や医療機関で現状の詳しい相談が重要です。年齢だから仕方ないと自己判断せず、疼痛や筋力低下、せん妄、うつ症状、褥瘡など悪化の要因が潜んでいないか、診察や検査で確認してもらいます。通院が難しい場合には、かかりつけ医病院の地域連携室に相談し、訪問診療や訪問看護の導入、在宅医療への切り替えが可能か検討してもらうとよいです。

参照:『地域連携室とは』(医療法人松風会  江藤病院)

介護サービスや施設利用の検討

手術をきっかけに介護量が増えた場合は、在宅だけで抱え込まず、介護サービスや施設の利用を早めの検討が大切です。まずは担当ケアマネジャー地域包括支援センターに相談し、現在の要介護度や心身の状態、家族の介護力を踏まえて、訪問介護・訪問入浴・デイサービス・ショートステイなど在宅サービスの増回や組み合わせを見直します。

それでも夜間対応や24時間見守りが必要になり、在宅介護に限界を感じる場合には、介護老人保健施設(老健)特別養護老人ホーム有料老人ホームなど、寝たきりでも入所可能な施設を選択肢に入れます。施設選びは、医療的ケアへの対応状況、リハビリ体制、看取りへの姿勢、家族の通いやすさや面会のしやすさなどを確認し、複数の候補を見学しながら、ご本人の希望や家族の負担とのバランスを考えて検討していくことが重要です。

参照:
『介護サービスの利⽤のしかた 地域包括⽀援センターとは 介護の相談窓⼝等について』(厚生労働省)
『介護老人保健施設(老健)とは』(健康長寿ネット)
『特別養護老人ホーム(特養)とは』(健康長寿ネット)

まとめ

まとめ

寝たきり高齢の方の手術後は、肺炎や褥瘡、ADL・QOL低下など多くのリスクが高まるため、早期からの体位変換やリハビリ、栄養管理、定期受診が重要です。また、家族だけで抱え込まず、ケアマネジャーや地域連携室と相談しながら在宅サービスや施設利用も含めた介護体制を検討していくことが望ましいです。

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