老老介護とは?定義や課題、共倒れを防ぐ方法を解説します

高齢の夫婦や親子同士で介護をする老老介護が増え、日本社会の大きな問題となっています。介護する側も高齢であるため心身への負担が大きく、無理を重ねると介護者まで倒れてしまうリスクもあります。本記事では老老介護の定義と現状、直面する課題や共倒れのサイン、負担を軽減する方法や相談窓口、さらに老老介護を予防するためにできることを解説します。

監修社会福祉士:
小田村 悠希(社会福祉士)
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。
目次 -INDEX-
老老介護とは

老老介護という言葉を初めて聞く方もいるかもしれません。本章では、老老介護がどのような状態を指すのか、その定義と背景、そして日本における老老介護の現状を解説します。
老老介護の定義
老老介護とは、介護をする側(介護者)も介護される側(被介護者)もどちらも65歳以上の高齢の方である状況のことです。高齢の夫婦間で一方が他方を介護するケースや、65歳以上の子どもが高齢の親を介護するケースなどが該当します。高齢化が進む日本では4人に1人が65歳以上という状況にあり、それに伴って老老介護も増加してきています。
統計でみる老老介護の現状
日本では要介護者を自宅で介護している世帯の過半数が老老介護の状態にあります。厚生労働省2022年国民生活基礎調査によれば、要介護者と主な介護者がともに65歳以上である世帯の割合は63.5%にも達しており、75歳以上同士では35.7%に上ります。また、同調査では主な介護者の8割以上が60歳以上であり、その内訳は60代が29%、70代が28%、80歳以上も18%にのぼっています。特に同居で介護を担うケースでは、配偶者が22.9%と最も多く、次いで子どもが16.2%というデータもあります。これらの数字から、高齢の方が高齢の方を介護する状況がいかに一般化しているかが読み取れるでしょう。
参照:『2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況 Ⅳ 介護の状況』(厚生労働省)
老老介護が起こる原因
老老介護が増加した背景には、日本社会のさまざまな変化があります。主な原因として以下のような社会的要因が指摘されています。
- 核家族化と少子化による介護者の減少
- 地域での近所付き合いの希薄化
- 高齢の方の人口の増加と寿命の伸び
- 晩婚化と未婚化による家族構成の変化
- 長期間にわたる介護費の負担
「自分たちには関係ない」と思われがちですが、少子高齢化が進む現代では誰にでも起こりうる身近な問題といえるでしょう。
老老介護の課題

老老介護が抱える問題点として、経済面から介護者自身の健康面までさまざまな課題があります。介護する側・される側の双方が高齢であることから、介護負担が過度に蓄積しやすく、放置すると深刻な事態を招きかねません。ここでは老老介護の課題を解説します。
経済的困窮
高齢夫婦のみや年金暮らしの世帯では、介護に伴う経済的負担が大きな課題です。限られた収入のなかで、介護サービスの自己負担や介護用品、通院費などが家計を圧迫し、要介護度が上がるほど負担は増えていきます。さらに、介護のために仕事を減らしたり辞めたりすると収入が下がり、生活が苦しくなることもあります。その結果、費用を理由に必要な介護サービスを控え、状況が悪化するという悪循環に陥るケースも少なくありません。
介護者の身体的・精神的な疲弊
介護する側が高齢である老老介護では、介護者自身の健康悪化が深刻な問題です。高齢の介護者は持病や体力低下を抱えながら慣れない介護を続けるため、腰痛や関節痛、慢性的な疲労など強い身体的負担を受けます。例えば、入浴介助や体位交換といった日常動作一つ取っても、高齢の身体には大きな負荷となり、介護者が転倒して骨折してしまう事例も少なくありません。
加えて、精神的な疲労も見逃せません。思うように介護が進まないストレスや将来への不安、閉塞感などから、介護者はうつ状態に陥ることもあります。常に介護に追われ自分の時間が取れない状況が続くと心の余裕がなくなり、イライラしやすくなったり情緒不安定になることもあります。
介護放棄(ネグレクト)
介護者の疲弊が限界に近づくと、適切な介護を提供できなくなったり、意図せず介護放棄(ネグレクト)の状態に陥る可能性もあります。老老介護では介護者も高齢で要介護者の世話に手が回らなくなることがあり、結果として放置に近い状態になってしまう危険性があります。また、介護者に余裕がなくなると虐待に発展する場合もあり、暴言を浴びせたり適切な医療や介助を受けさせないといった問題行動も起こりえます。介護放棄や虐待は介護者を責めるだけでは解決せず、その背景にある介護者の孤立や疲弊への支援が不可欠です。周囲が早めに気付き、介護サービスの利用や相談窓口につなげることが重要です。
共倒れ
老老介護における最も深刻なリスクが、介護者と被介護者双方がともに倒れてしまう共倒れです。介護する側が心身の限界を超えてしまい、要介護者の世話ができなくなるだけでなく、自らも健康を崩してしまう状態を指します。共倒れは当事者が追い詰められ孤立した末の最悪の結果です。そこに至る前に適切な支援を受けることが何より重要ですが、「人に迷惑をかけたくない」「自分が頑張らねば」と思い込んで助けを求められない方がいます。共倒れを防ぐには、介護者自身や周囲の方が危険信号に早く気付き、遠慮なく支援を活用する姿勢が欠かせません。
老老介護の共倒れが近いサイン

介護者が限界に達しつつあるとき、心や体に何らかのSOSサインが現れることがあります。こうしたサインを見逃さず対処することが、共倒れなど最悪の事態を防ぐために大切です。以下に、老老介護で行き詰まりそうなときによく見られる心身の兆候を挙げます。当てはまるものが続いている場合、介護者が相当な負担を抱えている可能性が高いので注意が必要です。
- 朝起きるのがつらい、眠れない
- 食欲がわかない
- 以前は楽しめていたことに喜びを感じなくなる
- 何に対してもやる気が出ない
- 「自分がやらなければ」と過剰に背負い込む
- 被介護者への苛立ち
これらの兆候が見られたら、「自分は大丈夫」と無理を続けず早めに周囲に助けを求めることが大切です。また、介護者ご本人だけでなく、家族や近隣の方もこうしたサインに気付いた際は声をかけてみてください。
老老介護による負担を軽減する方法

老老介護は一人で抱え込むにはあまりに負担が大きく、適切に外部の力を借りることが重要です。ここでは公的介護保険で利用できるサービスや、家族や親族の協力によって老老介護の負担を軽減する方法を解説します。
訪問型介護保険サービスの利用
公的な介護保険サービスを利用すれば、自宅にいながら専門的な支援を受けられ、介護者の負担を大きく軽減できます。なかでも訪問介護と訪問看護は、老老介護の心強い支えです。訪問介護では、身体介護や生活援助、買い物代行や通院付き添いまで対応可能です。
訪問看護では、健康管理や医療処置、服薬管理などを行い、持病がある場合でも安心して在宅療養を続けられます。いずれも介護保険が適用され、自己負担は原則1割(所得により2~3割)です。定期的にプロの力を借りることで、介護者が休息や通院の時間を確保でき、共倒れの予防につながります。
デイサービスやショートステイの利用
デイサービスやショートステイは、要介護者を一時的に施設で預かってもらえるため、老老介護世帯にとって重要な支援です。デイサービスでは日中に通所し、食事や入浴、レクリエーション、健康チェックを受けられ、介護者は休養や用事の時間を確保できます。一方、ショートステイは数日から最長30日程度の宿泊が可能で、24時間体制の介護が受けられます。介護者の体調不良や介護疲れのリフレッシュにも役立ち、必要に応じて医療型の利用も可能です。いずれも早めにケアマネジャーへ相談し、計画的に活用することが大切です。
施設への入所
在宅介護が難しくなった場合は、介護施設への入所も重要な選択肢です。要介護度が重い場合や介護者の体調が限界に近い場合、専門施設を利用することでご本人と介護者双方の安全と安心を確保できます。施設入所は決して介護を放棄することではありません。無理を重ねる前に、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談し、早めに情報収集を進めることが大切です。
ほかの家族によるサポート
老老介護を乗り切るには、配偶者だけに負担を集中させず、家族や親族の協力を得ることが重要です。離れて暮らす子どもが定期的に連絡や訪問をするだけでも、介護者の大きな精神的支えになります。また、介護サービスや制度の情報収集を家族が担うことで、選択肢を広げることもできます。
経済面や手続き面のサポートも有効です。介護用品の費用援助や介護保険・施設入所の手続きを分担するほか、遠方に住んでいる場合でも見守りサービスの手配など間接的な支援が可能です。大切なのは、介護を一人で抱え込まないことです。きょうだいや親族と状況を共有し、無理なく支え合う体制を整えることが、老老介護を続けるうえでの大きな助けとなります。
老老介護に関する相談窓口

老老介護の不安や負担を抱え込んでしまう前に、ぜひ専門の相談窓口を活用してください。自治体や地域には、高齢者介護について無料で相談に乗ってくれる機関や担当者が用意されています。
市区町村の窓口
各市町村の役所には、高齢者福祉や介護保険を担当する窓口があります。具体的には地域包括支援センターや介護保険課、高齢福祉課など名称は自治体によりますが、まずはお住まいの自治体に問い合わせれば適切な部署につないでもらえます。市区町村の窓口では、介護に関する一般的な相談を受け付けており、要介護認定の申請手続き方法や利用できるサービスの紹介、介護保険施設の情報提供など幅広く対応しています。
地域包括支援センター
地域包括支援センターは、各市町村に設置された高齢の方の総合相談窓口です。介護や医療、健康、生活に関するあらゆる悩みにワンストップで応えてくれます。地域包括支援センターには主任ケアマネジャーや社会福祉士、保健師などが配置されており、介護予防から権利擁護まで幅広い支援を行っています。
社会福祉協議会
社会福祉協議会(社協)は各市町村に設置された民間の非営利組織で、地域福祉を推進するための幅広い活動を行っています。社協は高齢の方の介護に限らず、経済的な困窮や障害、子育て、孤独など生活上のさまざまな困りごとの相談窓口として機能しており、誰でも無料で相談できます。専門知識を持つ職員が相談者の話を親身に聞き、必要に応じて適切な制度や支援機関につないでくれます。
民生委員
民生委員は、地域に密着して住民の福祉向上に努めるボランティアの相談役です。厚生労働大臣から委嘱を受けた非常勤の地方公務員という位置付けです。各町内会や自治会区域など身近な地域ごとに配置されており、高齢の方の自宅への定期訪問や見守り、困りごとの聞き取りなどを行っています。
老老介護を予防するためにできること

できれば老老介護そのものを未然に防ぎ、介護が必要な状態にならないことが理想です。完全に避けることは難しくとも、日頃の心がけや準備によって老老介護のリスクを減らすことは可能です。ここでは老老介護を予防するために今日からできることを解説します。
要介護状態にならないための生活習慣と健康管理を身につける
まず大前提として、ご本人ができるだけ健康で自立した生活を長く送ることが老老介護の予防につながります。日頃から頭や身体を積極的に使う生活習慣を心がけましょう。また、趣味や社会活動に参加することも重要です。これらの活動は脳を刺激し、心身の機能維持に効果的であるだけでなく、生活にハリを与えてくれます。
できれば運動や趣味は家族や友人と一緒に行うようにします。誰かとコミュニケーションを取りながら楽しい時間を過ごすことでメンタル面も安定し、周囲も体調の変化に気付きやすくなるでしょう。こうした積み重ねで健康寿命を延ばすことが、老老介護にならない最大の対策です。
早めに介護予防サービスを活用する
体力の衰えや物忘れなど要介護の前兆がみえてきたら、遠慮なく介護予防サービスを利用してみましょう。各自治体では介護認定を受けていなくても参加できる介護予防教室やサロンを開催している場合があります。運動器具を使ったトレーニングや栄養指導、口腔ケア指導、認知症予防プログラムなど、その地域の実情に合わせたメニューが提供されています。積極的に参加して体力維持や仲間作りに努めるとよいでしょう。
家族、親族のサポート体制を整える
将来、介護が必要になる可能性に備えて家族や親族で事前に話し合っておくことも老老介護予防の一環です。高齢の親世代は「できるだけ自宅で過ごしたい」「介護が必要になったら子どもと同居したい」などの希望があるかもしれません。一方、子世代には「同居介護したい」「遠距離なので施設入所を考えてほしい」など、それぞれ考えがあるでしょう。元気なうちからお互いの意思を確認し、万一介護が発生した場合の大まかな方針を共有しておくことが大切です。
まとめ

老老介護は誰にでも起こりうることですが、支援を活用すれば負担を軽減し安全に乗り越えることができます。大切なのは介護を一人で抱え込まず、行政や専門家、家族に早めに頼ることです。訪問介護やデイサービス、ショートステイなどを上手に利用し、介護者の休息を確保しましょう。また、日頃から健康管理や介護予防に努め、将来の介護について家族と話し合っておくことも重要です。地域や行政の支援を取り入れながら、共倒れを防ぐ介護環境を整えていきましょう。




