寝たきりの状態がどれくらい続くと廃用症候群になる?症状の進み方や予防法を解説

寝たきりの状態が続くと、これまでできていた歩行や立ち上がりなどの動作ができなくなることがあります。こうした変化は寝たきりの状態をもたらした病気によるものではなく、廃用症候群の可能性があります。
本記事では寝たきりの状態がどのくらい続くと廃用症候群がおこるのか、日常生活での変化と自宅でできる予防ケア、利用できる介護保険サービスを解説します。

監修社会福祉士:
小田村 悠希(社会福祉士)
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。
目次 -INDEX-
廃用症候群の基礎知識

廃用症候群とは、病気や怪我などで身体を動かさない状態が続くことによって生じる二次的な障害の総称です。ここでは廃用症候群の症状や原因、診断について解説します。
廃用症候群の主な症状
廃用症候群の症状は、全身のさまざまな部位や臓器に現れます。
| 症状が現れる部位 | 症状 |
|---|---|
| 筋骨格系の症状 | ・筋力低下 ・筋萎縮 ・骨密度の低下 ・関節拘縮 |
| 循環器系の症状 | ・持久力の低下による脱力感や疲労感 ・心肺機能の低下によるめまいや失神 ・起立性低血圧 |
| 呼吸器系の症状 | ・呼吸筋の筋力低下 ・肺活量の低下 |
| 消化器系の症状 | ・体重減少 ・食欲低下 |
| 泌尿器系の症状 | ・尿路結石 ・尿路感染 |
| 精神神経系の症状 | ・うつ ・せん妄 ・見当識障害 ・睡眠覚醒リズム障害 |
早期に現れやすい症状は筋骨格系の症状です。特に高齢の方は顕著な下肢の筋力低下がみられます。安静にしている期間が長期になると影響は骨におよび、骨粗鬆症を併発するリスクが高まります。運動不足は関節の拘縮を引き起こし、関節痛や運動機能の障害をもたらすおそれがあります。
寝たきりにより身体活動量が低下すると、心臓や肺の働きが弱まり、少し動いただけでも息切れや疲労を感じやすくなります。
下肢筋肉の血管ポンプ作用も減少することから、血流が悪くなり、静脈血栓塞栓症のリスクが高まります。静脈血栓症は下肢や肺の血管に血栓という血液のかたまりができ、血管が詰まってしまう病気です。血流に乗って血栓が肺に運ばれると、ときに命をおびやかす場合があります。
このように、廃用症候群は全身のあらゆる臓器や機能に影響と悪循環をもたらします。
参照:『不動・廃用症候群』(The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine)
廃用症候群の原因
廃用症候群は、身体を動かさない状態が続くことで起こります。廃用症候群の症状を直接引き起こす原因と、症状が現れやすくなるリスク要因に分けて解説します。
直接引き起こす原因には、身体や精神の状態によって動けなくなる内的要因と、環境によって動けない状態になる外的要因があります。
内的要因は、麻痺や抑うつ、疼痛といった既存の疾患に伴う身体症状や精神症状により動くことが難しくなる場合を指します。例えば脳梗塞による麻痺や、手術後の痛みなどです。
外的要因は、環境によって身体活動が制限されることで生じます。介助者が不在で自力で動けない場合や、ギプスによる固定により身体を動かすことが難しい状態などです。
これらは身体が動かせない状況を直接つくり、廃用症候群の原因となります。
一方、症状が現れやすくなるリスク要因としては、身体、精神活動の低下や、短期間の安静や不動などがあります。特に高齢の方は、明らかな疾患がなくても、身体的や精神的な活動量の自然な低下に伴って廃用症候群を招くことがあります。
参照:
『不動・廃用症候群』(The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine)
『高齢者における廃用症候群(生活不活発病院)の実態調査と生活気の向上のための運動療法の開発 平成18年度 総括・分担研究報告書』(厚生労働省)
廃用症候群の評価と診断
廃用症候群には明確に定められた診断基準がありません。患者さんの活動低下を背景に、身体機能や精神機能の変化を総合的に評価して診断されます。
厚生労働省は、病院やリハビリテーション施設で活用できる廃用症候群に係る評価表を示しており、医師や理学療法士、作業療法士、言語聴覚士など多職種が連携して評価と診断を進めます。
評価の際には、下記のような心身機能の変化を多角的に確認します。
- 関節可動域の測定
- 筋力テストや握力の測定
- 日常生活動作(ADL)の評価
- 栄養状態の評価
- 認知機能の評価
日常生活動作(ADL)とは、食事や着替え、排泄や移動といった日常生活を送るために最低限必要な動作のことです。
こうした項目を総合的に評価し、心身機能の低下が活動の減少によって生じていると判断された場合、廃用症候群と診断されます。
寝たきりの状態がどのくらい続くと廃用症候群になる?

寝たきりが続くと、身体や心の機能にさまざまな変化が現れます。特に高齢の方では、短期間の安静でも筋力や心肺機能が低下しやすい傾向です。安静期間が長くなるにつれて、身体機能だけでなく、精神面や脳の働きにまで影響をおよぼすおそれがあります。
廃用症候群のなりやすさや進行スピードには個人差があります。年齢や基礎疾患の有無、体重や体力、元々の活動量などが関係しており、以下で解説する内容はあくまで一般的な目安です。
約1週間の寝たきりで現れやすい変化
寝たきりの状態が1週間程度続くだけで筋力の低下が始まります。なかでも下肢の筋力は使わないことで急速に萎縮します。これまでの研究で、1週間程度の寝たきりで筋力は約10〜15%低下し、階段の昇降力が約14%低下すると報告されています。
約1週間の寝たきりによって起こる主な変化は下記のとおりです。
- 立ち上がりが不安定になる
- 階段の昇降が少しつらく感じる
- 座っているだけでも腰や膝に負担を感じる
このように、普段は意識せずにできていた動作を負担に感じるようになります。日常の動作が億劫になると、活動量はさらに減少し、筋力低下が進む悪循環が起こる場合もあります。
参照:
『廃用症候群』(東京都保健医療局)
『Muscle atrophy in critically ill patients : a review of its cause, evaluation, and prevention』(The Journal of Medical Investigation)
『One Week of Bed Rest Leads to Substantial Muscle Atrophy and Induces Whole-Body Insulin Resistance in the Absence of Skeletal Muscle Lipid Accumulation』(Cell Metabolism)
『The Aging Muscle in Experimental Bed Rest: A Systematic Review and Meta-Analysis』(Frontiers in Nutrition)
約2週間の寝たきりで現れやすい変化
寝たきりが約2週間続くと、筋力と筋肉量の減少に加え、心肺機能も低下しはじめます。
14日間の安静で、最大酸素摂取量が約7〜10%減少するという研究報告もあります。酸素は身体を動かすエネルギーづくりに欠かせない要素です。酸素摂取量が減少すると疲労感や息切れ、運動能力の低下などの症状が現れます。
日常生活でみられる主な変化は下記のとおりです。
- 少し歩くだけで息切れや疲労を感じる
- 手すりを持たないと階段の昇降ができない
- 足がむくみやすくなる
寝たきりが2週間続くと、筋肉量の減少と循環器への影響がみられ、少しの移動や姿勢保持に難しさを感じるようになります。
参照:
『Cardiovascular consequences of bed rest: effect on maximal oxygen uptake』(Medicine & Science in Sports & Exercise)
『The Aging Muscle in Experimental Bed Rest: A Systematic Review and Meta-Analysis』 (Frontiers in Nutrition)
『Effects of Posture and Walking on Tibial Vascular Hemodynamics Before and After 14 Days of Head‐Down Bed Rest』(JBMRplus)
約1ヶ月の寝たきりで現れやすい変化
寝たきり生活が1ヶ月程度続くと、関節や内臓、精神面などにも症状が出はじめます。身体を動かさないために関節が硬く固まってしまう関節拘縮を起こすこともあります。また、循環器への影響により起立性低血圧や静脈血栓のリスクが高まります。
約1ヶ月の寝たきりによって、身体は下記のように変化します。
- 起き上がることが億劫になる
- 歩くことにつらさを感じる
- 排尿の回数が減る
- お箸がうまく持てない
- 食欲が減退する
- 体重が減少し、顔や足が細くなる
- 意欲が低下し、会話が減る
動かないことで、さらに動けなくなる悪循環が加速する時期です。日常生活の動作が難しくなり、意欲が低下します。心身ともに活力を失った状態は生活全般に影響をおよぼします。
参照:
『廃用症候群』(東京都保健医療局)
『安静臥床が及ぼす全身への影響と離床や運動負荷の効果について』(The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine)
2ヶ月超の寝たきりで現れやすい変化
寝たきりの状態が2ヶ月を超えると、廃用症候群の症状が進行し、日常生活が困難になる可能性があります。精神面の変化は著しく、見当識障害や認知機能の低下が起こる場合もあります。
- 支えなしで立ち上がれない
- 起き上がるとめまいがする
- 自力で姿勢が変えられない
- 床ずれが生じる
- 排尿障害が起きる
- 表情が乏しく、無気力になる
食事や排泄、入浴にも全面的な介助が必要です。家族や介護者の支えがなければ生活が成り立たなくなります。
参照:
『廃用症候群』(東京都保健医療局)
『安静臥床が及ぼす全身への影響と離床や運動負荷の効果について』(The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine)
『不動・廃用症候群』(The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine)
廃用症候群のチェック方法

廃用症候群は初期であれば回復が期待できます。日々の様子を丁寧に観察し、兆候を見逃さないようにしましょう。以下のような変化がみられたら廃用症候群のサインである可能性があります。
- 以前よりも立ち上がりや歩行が遅くなった
- ベットから起き上がることを嫌がる
- 少し動いただけでも疲れている
- 関節が硬くなってきた
- 食欲が低下している
- 表情が乏しくなり、会話が減った
こうした変化がみられたら、寝たきりの期間に関わらず、医師やケアマネジャーに相談しましょう。リハビリの早期開始で廃用症候群の進行を食い止め、日常生活自立度の維持が可能です。
寝たきりの方の廃用症候群を予防する自宅ケア

廃用症候群は身体を動かさないことで徐々に進行します。一方で、少しでも身体を動かす習慣を取り入れることで予防に効果が期待できます。特別な運動や器具は必要なく、日常生活のなかで身体を意識的に動かすことがポイントです。
予防ケアの際には「お願いしていい?」「一緒にやろう」など声かけを工夫し、ご本人がポジティブに動けるようにサポートしましょう。
座位の時間を増やす
寝たきりであっても、座る時間を意識的に増やします。介護ベッドの背もたれを起こし、ベッド上で座る姿勢をとるだけで身体の活動量が増加します。介護ベッドがない場合は、背中の後ろにクッションを重ねると、姿勢を安定しやすくなります。
可能であれば、椅子や車椅子に移動しましょう。「ちょっと起きてこれを見てもらえる?」「一緒にごはんを食べよう」など日常的に声かけをして寝たままの状態が当たり前にならないように意識することが大切です。
ベッド上で手足の関節を動かす
手足の関節を動かすだけでも、筋力低下や関節の硬直の防止に効果があります。
ベッド上でできる簡単な運動は以下のとおりです。
- 手首、足首を回す
- 肘や膝を曲げ伸ばしする
- 腕を伸ばして垂直に上げ下ろしする
- 手足の指先をマッサージする
介助者が一方的に行わずに、ご本人と一緒に楽しむことが大切です。運動やマッサージをしながら会話をすると、身体面だけでなく脳にも刺激が生まれます。
バランスのとれた食事と十分なたんぱく質・水分を摂取する
寝たきりの方は、食事量や栄養バランスが不十分になりがちです。栄養不足は筋力や体力の低下を招く原因になります。ある研究では、廃用症候群の患者さんの約90%に低栄養が認められたと報告されています。
たんぱく質は筋肉の維持に欠かせない栄養素です。肉や魚、卵、大豆製品などを積極的に摂取しましょう。また、水分をしっかり取ることで、脱水や便秘、血栓などのリスクを抑えることができます。
コミュニケーションを取る
寝たきりの方は、身体活動が制限されることで、孤立感や抑うつ感を生じやすくなります。会話や簡単なスキンシップは脳に刺激を与え、心の健康を保つ効果があります。
日常の動作の合間に話しかけたり、一緒に写真をみたりするといったコミュニケーションの機会を積極的につくるようにしましょう。会話の際は、ご本人の意思を尊重し、傾聴と共感を心がけます。
廃用症候群の予防が期待できる介護保険サービス

自宅での予防ケアだけでなく、介護保険サービスを上手に活用することで、廃用症候群の進行を防ぎ、身体機能の維持をサポートできます。理学療法士や作業療法士などによる専門的なリハビリを受けられる点が特徴です。
スタッフやほかの利用者さんとの交流はご本人の刺激にもなります。家族の介護負担を減らせる点もメリットです。
訪問リハビリテーション
訪問リハビリテーションは、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が自宅に訪問し、個別の状態に合わせてリハビリを提供するサービスです。
筋力や関節の柔軟性の向上、日常生活動作の改善、転倒予防などを目的に、ベット上での訓練から歩行訓練まで幅広く対応します。
自宅でリハビリを受けられるため、日常生活に即したリハビリが可能です。
通所リハビリテーション(デイケア)
通所リハビリテーションは、病院や施設でリハビリや機能訓練を受けられるサービスです。
訓練用の機器を使用した効果的な訓練が可能です。個別訓練に加えて、集団活動も行われるため、ほかの利用者さんとの交流を通じて、孤立感の軽減や精神的な刺激を得られる利点もあります。
施設には医師や看護師が常駐しているため、体調の変化にも迅速に対応できます。
まとめ

廃用症候群は、長期間の寝たきりだけでなく、1週間程度の短期の寝たきりでも症状が現れるおそれがあります。症状が進行すると身体や精神に大きな影響をおよぼし、日常生活が困難になります。
一方で、兆候の早期発見と、自宅でできる簡単な予防ケアによって、症状の進行を妨げることが可能です。無理のない範囲で、日常のなかに、動いたり触れ合ったりする時間を取り入れていきましょう。
参考文献
- 『廃用症候群に係る評価表』(厚生労働省)
- 『高齢者における廃用症候群(生活不活発病院)の実態調査と生活気の向上のための運動療法の開発 平成18年度 総括・分担研究報告書』(厚生労働省)
- 『廃用症候群』(東京都保健医療局)
- 『廃用症候群』(健康長寿ネット)
- 『寝たきりを予防するために大切なこと』(日本介護予防協会)
- 『高齢者の廃用症候群の機能予後とリハビリテーション栄養管理』(静脈経腸栄養)
- 『不動・廃用症候群』(The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine)
- 『安静臥床が及ぼす全身への影響と離床や運動負荷の効果について』(The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine)
- 『Association of Nutrition Status and Rehabilitation Outcome in the Disuse Syndrome:a Retrospective Cohort Study』(General Medicine)
- 『Muscle atrophy in critically ill patients : a review of its cause, evaluation, and prevention』(The Journal of Medical Investigation)
- 『One Week of Bed Rest Leads to Substantial Muscle Atrophy and Induces Whole-Body Insulin Resistance in the Absence of Skeletal Muscle Lipid Accumulation』(Cell Metabolism)
- 『The Aging Muscle in Experimental Bed Rest: A Systematic Review and Meta-Analysis』(Frontiers in Nutrition)
- 『Cardiovascular consequences of bed rest: effect on maximal oxygen uptake』(Medicine & Science in Sports & Exercise)
- 『The Aging Muscle in Experimental Bed Rest: A Systematic Review and Meta-Analysis』 (Frontiers in Nutrition)
- 『Effects of Posture and Walking on Tibial Vascular Hemodynamics Before and After 14 Days of Head‐Down Bed Rest』(JBMRplus)
