介護医療院の7つのメリット、入所を検討する際に知っておきたいポイントとは
公開日:2025/10/28


監修医師:
小田村 悠希(医師)
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・資格:社会福祉士、研修認定精神保健福祉士、介護福祉士、福祉住環境コーディネーター2級
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。
目次 -INDEX-
介護医療院の概要
介護医療院は、医療の必要な要介護状態にある高齢の方が長期に生活するための新しい介護保険施設です。2018年4月に創設され、それまでの介護療養型医療施設に代わる施設として位置付けられました。介護と医療が一体的に提供され、日常的な医学管理や看取り(ターミナルケア)にも対応できることが大きな特徴です。以下では、介護医療院の特徴と入所条件、費用を解説します。
介護医療院とは
介護医療院とは、長期的な医療と介護が必要な要介護状態にある高齢の方を対象に、医療と介護を一体的に提供する公的施設です。特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)と並ぶ介護保険施設の一つであり、住まいと生活を医療が支える新たなモデルと位置付けられています。要介護状態にある高齢の方が長期間療養しながら生活できる場として、日常生活上の世話や機能訓練などの介護サービスと、経管栄養や喀痰吸引、看取りなどの医療サービスを同一施設内で提供することを目的としています。 また、介護医療院には2つの類型があり、Ⅰ型は旧来の介護療養病床に相当する医療機能の高いタイプ、Ⅱ型は介護老人保健施設に近い容体が安定した方向けです。このように、介護医療院は重度の医療ニーズを抱える要介護状態にある高齢の方にとって、医療と介護の両面から長期にわたり生活を支える施設といえます。介護医療院の入所条件
介護医療院への入所対象となるのは、要介護1~5の認定を受けた方です。原則として65歳以上の要介護状態にある高齢の方が対象ですが、40~64歳の方でも加齢に伴う特定疾病により要介護認定を受けている場合は利用できます。入所手続きの際には、主治医が作成する診療情報提供書や介護保険被保険者証など、施設が指定する必要書類を提出することが求められます。なお、自分や家族が入所条件に当てはまるか判断が難しいときは、担当ケアマネジャーや地域包括支援センターへ相談するとよいでしょう。介護医療院にかかる費用
介護医療院の利用費用は、介護保険による施設サービス費と居住費、食費、および理美容代などの日常生活費に大別されます。このうち施設サービス費は介護保険給付の対象であるため、利用者の自己負担は原則1割(一定以上所得者は2~3割)です。施設サービス費の額は要介護度や施設の類型(Ⅰ型やⅡ型)、居室の種類(個室か多床室か)などによって異なります。 居住費と食費については基本的な基準額が定められており、所得に応じた減免制度(特定入所者介護サービス費)も設けられています。低所得の利用者の場合、あらかじめ市町村に申請することで居住費や食費に月額の負担限度額が適用され、限度額を超えた分は給付されます。介護医療院は入居一時金も不要で、月々の利用料のみで利用できます。介護医療院が創設された経緯と位置付け
介護医療院は2018年にできた施設形態ですが、なぜ創設されたのでしょうか。本章では、介護医療院が創設された経緯とその位置付けを解説します。
介護医療院が創設された経緯
介護医療院は、2025年問題を見据えて、医療と介護の提供体制を再編するなかで生まれました。従来、長期療養が必要な要介護状態にある高齢の方には介護療養型医療施設(介護療養病床)が対応してきましたが、2017年の制度改正で介護療養型医療施設の廃止が決定され、その受け皿となる新しい施設類型が検討されました。 検討会では、高齢化の進行に伴い介護が必要かつ医療的ケアも必要な高齢の方の増加が見込まれる一方で、当時の介護保険施設にはそうしたニーズに完全に対応できるサービスが存在しないという問題が指摘されました。容体急変のリスクを抱える要介護状態にある高齢の方でも安心して長期療養できる選択肢が必要とされ、経管栄養や喀痰吸引など日常的な医療処置や充実した看取りケアを提供できること、プライバシーの確保や家族・地域との交流が可能な生活の場であることを兼ね備えた新施設の創設が提言されたのです。 こうした議論を経て2017年6月に関連法が改正され、2018年4月より新たな介護保険施設として介護医療院がスタートしました。 参照:『介護医療院とは?』(厚生労働省)介護医療院の位置付け
介護医療院は介護保険施設の一つであり、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)や介護老人保健施設と並列の位置付けです。当面は介護療養病床からの転換が中心と見込まれていますが、単なる転換先ではなく住まいと生活を医療が支えるという理念のもと設けられた新しい施設形態です。 ほかの介護施設との違いとして、介護老人福祉施設(特養)は生活の場として日常生活の介護を提供し、介護老人保健施設(老健)は在宅復帰を目指すリハビリ施設です。一方で、介護医療院は長期療養が必要な要介護状態にある高齢の方のための医療提供施設かつ生活施設という点が特徴です。すなわち、介護医療院では利用者の尊厳の保持と自立支援を理念に掲げつつ、医師や看護師による医学的管理の下に介護や機能訓練を提供し、必要に応じて看取りまで対応します。 地域包括ケアシステムのなかでは、医療と介護の中間的な役割を果たす施設として期待されており、地域に開かれた交流施設としてボランティアの受け入れなどにも積極的に取り組むことが求められています。介護医療院|7つのメリット
介護医療院には、医療需要の高い高齢の方が安心して長期療養できるよう、ほかの施設にはないさまざまな利点があります。ここでは介護医療院を利用する7つのメリットを紹介します。
24時間介護が受けられる
介護医療院では医師と看護師をはじめ、さまざまな職種のスタッフが常駐しており、夜間も含め24時間体制で介護、そして看護サービスを提供しています。施設によっては医師が夜間も常駐する場合があり、緊急時にも迅速な対応が可能です。このため医療的にも安心感が高く、在宅では不安の大きい夜間帯も含め切れ目ないケアを受けられます。状態に応じた食事が提供される
介護医療院では管理栄養士による栄養管理のもと、利用者さん一人ひとりの健康状態に合わせた食事が提供されます。例えば、糖尿病食や腎臓病食などの療養食や、噛む力や飲み込む力が低下した方向けのやわらかい食事形態にも対応しており、必要な場合は医師の指示に基づいた療養食が提供され加算の対象です。胃ろうや経鼻経管栄養など経管栄養が必要な場合でも適切に対応できる点は大きなメリットでしょう。長期療養が可能
介護医療院は、長期にわたる療養生活を送るための施設であり、介護度の重い方でも退所期限を気にせず暮らし続けることができます。介護老人保健施設(老健)は在宅復帰を目標とした施設で退所が想定されていますが、介護医療院には期限の指定はありません。また、看取りやターミナルケアにも対応しており、終末期まで継続してケアを受けられる安心感につながります。医療ケア体制が充実している
介護医療院では、医療機関に近い手厚い人員配置が定められており、医師や看護師、介護職員、リハビリ専門職など多職種がチームでケアにあたります。例えば、Ⅰ型介護医療院では入所者48人に対し医師1名(施設に3名以上)、看護職員は6人に1人、介護職員は5人に1人以上配置することが義務付けられ、必要な医療処置(喀痰吸引や経管栄養、点滴など)も施設内で対応可能です。このように、医療的ケアと介護の両面から支える体制が整っている点は、ほかの介護施設にはない強みです。 参照:『介護医療院』(厚生労働省)医療保険と介護保険を併用できる
介護医療院は介護保険施設ですが、医療的な処置については適宜医療保険を利用した診療や治療が行われます。施設には嘱託医(または併設病院の医師)が配置されており、必要な診察や投薬、検査などは医療保険の範囲で受けることができます。介護サービス費は包括的な定額で提供されるため、利用者はどれだけ手厚い介護や看護を受けても自己負担額が急増する心配がありません。このように、介護保険サービスと医療保険サービスを組み合わせて利用できることから、高度な医療管理が長期間必要な方にとって経済的にも安心感があります。入居一時金がかからない
介護医療院を含む公的な介護保険施設では、民間の有料老人ホームのような入居一時金(入居保証金)は不要です。入所の際に一時金を準備する必要がないため、経済的ハードルが低く利用を開始しやすくなっています。ただし、介護サービスの自己負担や居住費、食費など月々の利用料は発生しますので、年金や貯蓄でまかなえる範囲か事前に確認するとよいでしょう。利用料金の負担限度額が設けられている
前述のとおり、低所得の利用者には居住費と食費の負担を軽減する制度があり、所得区分に応じた月額上限額が設定されています。例えば、住民税非課税世帯の方などは負担限度額認定証を取得すれば、居住費や食費の自己負担が減免されます。また、介護サービスの自己負担分についても高額介護サービス費制度により1ヶ月の上限額が定められており、長期利用で費用がかさんでも一定額以上は公的に補助されます。こうした仕組みにより、介護医療院は長期療養に伴う利用者の経済的負担にも配慮されています。介護医療院について知っておきたいポイント
介護医療院は、医療と介護を一体的に受けられる数少ない介護保険施設ですが、利用するためには一定の条件や手続きが必要です。また、費用面では特養や老健と比べて高めになる一方で、公的な支援制度により負担が軽減される仕組みも整っています。さらに、全国的に施設数がまだ限られているため、地域によっては入所待ちや遠方の施設を検討せざるをえないこともあります。本章では、そんな入所条件や費用、施設数といった利用前に知っておきたいポイントを解説します。
入所条件
介護医療院への入所には要介護認定が必須であり、自立している方や要支援の方は利用できません。特別養護老人ホーム(特養)が原則要介護3以上でないと入れないのに対し、介護医療院は要介護1以上であれば入所可能です。 また、65歳未満(第2号被保険者)でも特定疾病による要介護認定を受けていれば利用対象に該当します。ただし、入所にあたっては主治医の意見書や施設側の受け入れ判断が必要で、病状が不安定で入院治療が必要な場合には入所できないこともあります。まずは担当ケアマネジャーや地域包括支援センター、施設の相談窓口にご相談ください。費用負担
介護医療院の費用は、公的介護保険施設のなかでは高額かもしれません。要介護度にもよりますが、年金収入のみで利用する場合、食費や居住費を含めた月額自己負担は特養より高額になるケースもあり、一般的な年金額では不足することもあります。 一方で、前述したように入居一時金が不要です。また、介護サービス費が定額制であるため利用量が増えても費用が大きく変動しない、所得に応じた減免措置があるなど、利用者負担の上限がある程度見通せる仕組みになっています。費用面で不安がある場合は、社会福祉協議会の生活福祉資金貸付や高額介護サービス費の適用など、公的支援制度の活用も検討しましょう。施設の数
都道府県によっては数施設しかない地域もあり、自宅近くに介護医療院がないケースもあるでしょう。このため希望しても空き待ちが発生することもあり、場合によっては他地域の施設も検討せざるをえない状況もあります。また、介護療養病床からの転換が進む過程にあり、今後増加が見込まれるものの、特養や老健と比べると選択肢が限られます。施設数や所在地は厚生労働省の情報提供サイトなどで公表されていますので、入所を検討する際は早めに情報収集し、ケアマネジャーなどと連携して候補施設へ問い合わせてみましょう。まとめ
介護医療院は、医療と介護の両面から高齢の方の長期療養生活を支えることを目的に新設された介護保険施設です。要介護状態にある高齢の方に対し、日常的な介護サービスに加えて医師の医学的管理のもとで必要な医療処置や看取りまで提供できる点で、特養や老健にはない重要な役割を担います。現在まだ施設数は限られますが、今後の高齢化に伴って介護医療院のニーズは高まる可能性があり、医療と介護が一体となった長期ケアの施設として、さらなる整備と充実が図られていくことでしょう。
参考文献



