高齢化が進む日本において、介護が必要になったときの住まい選びは、多くのご家族が直面する課題です。
介護施設と老人ホームという言葉はよく耳にしますが、実際にはどのような違いがあるのでしょうか。
この記事では、介護施設と老人ホームの基本的な違いから特徴、費用の違いまで、施設選びに必要な情報をわかりやすく解説します。
入居を検討されているご本人やご家族の方が、適切な施設を選ぶための参考にしていただければ幸いです。
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・資格:社会福祉士、研修認定精神保健福祉士、介護福祉士、福祉住環境コーディネーター2級
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。
介護施設と老人ホームの基本的な違い
介護施設と老人ホームにはどのような違いがありますか?
介護施設と老人ホームは、日常会話では同じような意味で使われることが多いですが、厳密には分類方法に違いがあります。介護施設は、介護保険法に基づいて運営される施設の総称で、主に介護を必要とする高齢の方を対象とした公的な施設です。老人ホームは、老人福祉法に基づく施設と、民間企業が運営する有料老人ホームの両方を指します。介護の必要度や生活スタイルに応じて選択できるのが特徴です。
入居対象者の条件に違いはありますか?
入居対象者の条件は、施設の種類によって大きく異なります。介護施設の代表である特別養護老人ホームは、原則として要介護3以上の認定を受けた方が対象となります。介護老人保健施設は要介護1以上で、リハビリテーションを目的とした入居が可能です。これらの施設は介護保険制度に基づいているため、要介護認定が入居の前提条件です。老人ホームの場合、種類によって条件が異なります。介護付き有料老人ホームは要支援から要介護の方を対象としていますが、住宅型有料老人ホームや健康型有料老人ホームは、自立または要支援の方も入居可能です。
提供されるサービス内容の違いを教えてください。
介護施設は、介護保険サービスとして食事介助や入浴介助などの身体介護が中心です。特別養護老人ホームは長期入居を前提とし、日常生活全般の介護を提供します。介護老人保健施設では、医師や理学療法士によるリハビリテーションが充実しており、在宅復帰を目指したサービスが特徴です。老人ホームのサービス内容は、施設の種類によって異なります。介護付き有料老人ホームでは、24時間体制の介護サービスに加えて、レクリエーションや趣味活動などのアクティビティも充実しています。住宅型有料老人ホームは、生活支援サービスが基本で、介護が必要になった場合は外部の訪問介護サービスを利用する形態です。
介護施設と老人ホームの特徴
介護施設にはどのような種類があるか教えてください。
介護施設には、主に以下のような種類があります。特別養護老人ホームは、要介護3以上の方を対象とした公的施設で、終身利用が可能です。介護老人保健施設は、病院と自宅の中間的な施設で、リハビリテーションを通じて在宅復帰を目指すことを目的としています。介護医療院は、長期的な医療ケアと介護サービスの両方を必要とする方が対象です。そのほかにも、認知症の方を対象としたグループホームや、短期間の利用が可能なショートステイなども介護施設に含まれます。
老人ホームにはどのような種類があるか教えてください。
老人ホームには、大きく分けて公的施設と民間施設があり、それぞれ複数の種類があります。介護付き有料老人ホームは、介護が必要な方を対象とした民間施設で、24時間体制で介護スタッフが常駐しています。食事や入浴などの介護サービスに加えて、レクリエーションや健康管理などのサービスも充実しているのが特徴です。住宅型有料老人ホームは、基本的には自立または軽度の介護が必要な方が対象です。生活支援サービスは施設が提供しますが、介護が必要になった場合は外部の訪問介護サービスを個別に契約して利用します。健康型有料老人ホームは、自立して生活できる方を対象とした施設で、食事提供や生活支援サービスが中心です。公的施設としては、経済的理由などで自宅での生活が困難な方を対象とした養護老人ホームや、自立した生活ができる方向けの軽費老人ホームもあります。
医療ケアが必要な場合は介護施設と老人ホームのどちらを選べばいいでしょうか?
医療ケアの必要度によって、適切な施設は異なります。重度の医療ケアが継続的に必要な場合は、介護医療院が適しているでしょう。介護医療院では医師が常駐し、人工呼吸器の管理など高度な医療処置に対応できます。また、介護老人保健施設も医師が常駐しているため、一定の医療ケアに対応可能です。中程度の医療ケアが必要な場合は、看護師が24時間常駐している介護付き有料老人ホームや、医療体制が充実している特別養護老人ホームも選択肢のひとつでしょう。定期的な通院や服薬管理程度の医療ケアであれば、多くの老人ホームで対応可能です。
施設を選ぶ際は、現在必要な医療ケアだけでなく、将来的に必要になる可能性のある医療ケアにも対応できるかを確認しましょう。
外出やプライバシーなど、生活の自由度に違いはありますか?
生活の自由度は、施設の種類や運営方針によって大きく異なります。介護施設の場合、安全管理や健康管理の観点から、外出には一定の制限がある傾向です。特別養護老人ホームでは、外出する際は家族の同行や事前の届け出が必要な施設が一般的です。一方老人ホームでは、自由な生活が送れる傾向にあります。プライバシーについても違いがあります。介護施設では相部屋が中心で、個室の場合もコンパクトな設計が一般的です。一方、民間の老人ホームでは個室が標準的で、広いリビングやキッチン付きの部屋を用意している施設もあります。食事時間についても介護施設では決まった時間に食堂で食事をとる形式が一般的ですが、一部の老人ホームでは複数の時間帯から選べるなど、柔軟に対応するケースもあります。
介護施設と老人ホームの費用の違い
入居一時金や初期費用に違いはありますか?
入居一時金や初期費用は、施設の種類によって大きく異なります。介護施設の場合、公的施設である特別養護老人ホームや介護老人保健施設では、入居一時金は不要です。初期費用としては、日常生活用品や衣類などの準備費用のみで、数万円程度で入居できます。介護医療院も同様に、入居一時金は発生しません。一方、民間の老人ホームでは入居一時金が設定されていることが多く、その金額は施設によって大きく異なります。介護付き有料老人ホームの場合、入居一時金は数百万円から数千万円と幅広く、都市部の高級施設では1億円を超えるケースもあります。サービス付き高齢者向け住宅では、敷金として家賃の2〜3ヶ月分程度を支払うのが一般的です。入居一時金は、一定期間内に退去した場合の返還制度がある施設も多いため、契約前に償却期間や返還条件をしっかり確認することが大切です。
月額費用はどのくらいの違いがありますか?
月額費用は、施設の種類や地域、サービス内容によって大きく異なります。介護施設の月額費用は安価な傾向です。特別養護老人ホームの場合、多床室で月額6〜15万円程度、個室で月額10〜18万円程度が目安です。これらの費用には、居住費や食費、介護サービス費が含まれています。民間の老人ホームは、施設の設備やサービス内容によって月額費用に大きな幅があります。介護付き有料老人ホームの場合、月額15〜30万円程度が一般的です。住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅では、月額10〜25万円程度が目安です。ただし、これらの施設では介護サービス費が別途必要となる場合があり、介護度が高くなると追加費用が発生します。月額費用の内訳としては、家賃や食費、管理費などが含まれます。施設によっては、これらに加えてサービス費が別途請求されることもあるため、見積もりの際は総額を確認することが大切です。
公的補助や介護保険の適用の違いを教えてください。
公的補助や介護保険の適用は、施設の種類によって異なります。介護施設の場合はすべて介護保険施設として位置づけられており介護保険が適用されます。利用者は所得に応じて介護サービス費の1〜3割を自己負担し、残りは介護保険からの給付です。さらに、低所得者向けの負担軽減制度として、特定入所者介護サービス費があります。この制度により所得や資産が一定基準以下の方は、居住費と食費の自己負担額が軽減されるようになりました。民間の老人ホームでも、介護保険は適用されます。介護付き有料老人ホームの場合、介護サービス費は定額で介護保険が適用され、自己負担は1〜3割です。住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅では、外部の訪問介護サービスを利用した分だけ介護保険が適用されます。ただし民間施設の場合、家賃や食費などの居住費用には介護保険は適用されず、全額自己負担で補足給付の対象にもなりません。そのほかの公的補助として、自治体によっては独自の助成制度を設けている場合があります。費用負担を軽減するためには、お住まいの市区町村の介護保険課や地域包括支援センターに相談し、利用できる制度を確認しましょう。
編集部まとめ
介護施設と老人ホームは、運営主体や入居対象者、提供されるサービスや費用などさまざまな違いがあります。
介護施設は主に公的な施設で、介護度の高い方を対象とし費用を抑えて介護サービスが受けられるのが特徴です。
一方老人ホームは、民間施設を中心に自立から要介護まで幅広い方を受け入れ、多様なサービスと生活スタイルを選択できます。
施設を選ぶ際は、介護や医療ケアの内容や経済的な負担、生活スタイルの希望など複数の要素を総合的に考慮することが大切です。また、将来的な状態の変化も見据えて、長期的な視点で検討することをおすすめします。
施設見学や体験入居を活用し、実際の雰囲気やスタッフの対応を確認することも大切です。ご家族でよく話し合い、地域包括支援センターやケアマネジャーなどの専門家にも相談しながら、適切な施設を選びましょう。