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床ずれを防止するには?原因と予防方法、ポイントをわかりやすく解説

 公開日:2025/10/28
床ずれを防止するには?原因と予防方法、ポイントをわかりやすく解説
床ずれは、介護や療養の場でよくみられる皮膚のトラブルのひとつです。いったんできてしまうと治療に長い時間がかかり、場合によっては命に関わる合併症を引き起こします。しかし、日常の工夫や正しいケアによって予防できる可能性があります。この記事では、床ずれの症状、起こりやすい部位、予防方法や注意すべきポイントなどを解説します。
江口 瑠衣子

監修医師
江口 瑠衣子(医師)

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2009年長崎大学医学部卒業。大学病院での初期臨床研修終了後、10年以上にわたり地域の基幹病院で腎臓内科の診療に従事。患者さん一人ひとりに寄り添った医療を心がけており、現在は内科・精神科の診療を行っている。腎臓専門医。総合内科専門医。

床ずれとは

床ずれとは 床ずれは、医学的には褥瘡(じょくそう)と呼ばれる状態を指します。身体に外から圧力がかかると、骨と皮膚の間にある筋肉や脂肪などの組織の血流が悪くなったり、止まったりしてしまいます。この状態が続くと、その部分の組織に十分な酸素や栄養が届かなくなり、組織が傷ついたり壊死してしまったりして床ずれができます。

床ずれの症状

床ずれの症状は多岐にわたります。床ずれはどの程度進行しているかで大きく4つのステージに分けられます。ステージ1~4で表され、数字が大きくなるほど病状が進行していることを表します。

軽症の段階であるステージ1は、皮膚の表面に持続する赤みがみられ、指で押しても赤みが消えないことが特徴です。ステージ2では皮膚の表面が破れ、びらん(ただれ)や水疱(水ぶくれ)が生じたり、浅い潰瘍(かいよう)になったりします。

さらに進行してステージ3になると、皮膚が深く欠損し、底に皮下脂肪が見えることがあります。皮膚の下にポケットやトンネルと呼ばれる空洞が広がっている場合もあります。ステージ4は、傷が最も深いところまで達し、筋肉や腱、骨、関節まで及んでいる状態です。

また、4つのステージのほかに分類不能のタイプもあります。床ずれの底が黄色の付着物や痂皮で覆われ、深さを判断できない状態です。また、深部組織損傷(Deep Tissue Pressure Injury:DTPI)というタイプもあります。これは暗い赤色や紫色に変色したり、暗色の血の混じった水疱ができたりします。見た目ではわかりにくいですが、皮膚の奥深くでダメージが進んでいる状態です。骨と筋の境界で強い圧やずれがかかることで生じ、短時間でステージ3や4に進むことがあります。

床ずれが起こりやすい部位

床ずれが起こりやすい部位は、身体の骨が突出している部分です。これらの部位では、体重などの圧力が局所に集中するため、血流が阻害されやすくなります。体位によって圧力がかかる部位は異なるため、姿勢の種類に応じて特に注意が必要な部位を把握しておく必要があります。

仰向けでは、お尻(特に仙骨部や尾骨部)、かかと、後頭部、肩甲骨、肘などにできやすいといわれています。横向きの場合は、耳、肩、肘、腸骨(いわゆる腰骨)、大転子部(太ももの付け根の骨)、膝、くるぶしなどが圧迫されやすくなります。座っている姿勢では、お尻(特に坐骨結節部、仙骨部、尾骨部)や背中に圧力が集中します。

床ずれを放置するリスク

床ずれを治療せずに放置すると、床ずれは治らない可能性が高くなり、そこから細菌が入って感染症を合併することがあります。感染が重症化すると、敗血症と呼ばれる血液中に細菌が侵入する病態となり、命に関わる重篤な状態となるリスクがあります。床ずれは表面からは進行がわかりにくいタイプがあり、一見軽くみえても深部の筋肉や骨にまで組織の損傷が及んでいる場合があります。このように、床ずれを放置すると局所だけでなく全身の健康を脅かす可能性があります。

床ずれが起こる原因

床ずれが起こる原因 床ずれが起こる原因は、主に圧迫、摩擦、ずれ、湿潤の4つが挙げられます。ここではこれらの原因を解説します。

体圧の集中による血流障害

床ずれの主な原因は圧迫です。体圧が集中し、同じ部位に長時間圧力がかかることでその部分の血流が障害されます。組織が酸素不足や栄養不足となることで、床ずれが引き起こされます。特に、骨が突出している部分は、体重による圧力が集中しやすい場所です。

皮膚の摩擦やずれ

皮膚の摩擦やずれも床ずれの重要な原因です。皮膚が寝具や衣服とこすれ摩擦が起こることで、皮膚の外側の層である表皮がダメージを受けます。これにより皮膚のバリア機能が低下し、傷ができやすくなります。 また、皮膚表面とその下の組織の間にずれる力が働くと、血管がねじれたり、引き伸ばされたりして組織への血流を妨げます。例えば、ベッドの背もたれを上げるときに起こり、強い圧迫がなくても深刻なダメージを引き起こします。

湿気や不衛生な環境

湿潤も床ずれの原因の一つです。尿や便失禁、汗などによって湿気や不衛生な環境が続くと皮膚はふやけて弱くなり、ダメージを受けやすくなります。

床ずれの予防方法

床ずれの予防方法 床ずれは、一度できてしまうと治るまでに時間と労力がかかるため、予防がとても大切です。床ずれの予防方法は、除圧、摩擦とずれの予防、スキンケア、栄養の4つの柱から成り立ちます。

定期的に体位変換を行う

まず、除圧のために定期的に体位変換を行う必要があります。体位変換に加えて体圧分散(圧力を一点に集中させないこと)もポイントです。体位変換のやり方の一つに、30度側臥位があります。これは、身体を横向きに30度ほど傾けて、クッションなどを身体の下に敷き込み、お尻の広い筋肉で体重を受け止められる方法です。ただしこの姿勢が可能かは個人差もあるため、それぞれの場合に応じて調整する必要があります。また、体位変換は2時間以内で行うことが基本となっています。体圧分散マットレスを使用している場合は、4時間まで間隔を空けられることがあります

摩擦やずれが生じないようにポジショニングする

床ずれの予防方法として、摩擦やずれが生じないようにポジショニングすることも有用です。体位変換の際は、引きずると摩擦やずれが生じるため、スライディングシートなどを利用して、優しく動かしましょう。寝具やパジャマのしわも、圧迫やずれの原因となるため、こまめに伸ばします。

清潔を保ち保湿を欠かさない

次にスキンケアについてです。皮膚の観察は毎日行い、皮膚を清潔に保ち、保護のため保湿クリームなどを塗布します。骨の突出した部分は予防のためのテープやドレッシング材(覆って保護するフィルム剤のこと)の使用も効果的とされています。

栄養バランスを整える

栄養バランスを整えることも、床ずれの予防のための大切な役割を果たします。床ずれの発生や治りやすさには、栄養状態が深く関係していることがわかっています。特に重要な栄養素はタンパク質、ビタミンC、亜鉛です。それぞれの栄養素は、以下の食品に多く含まれています。

  • タンパク質:肉・魚・卵・豆類
  • ビタミンC:柑橘類・野菜
  • 亜鉛:魚介類・肉類

日頃から、十分な栄養を摂るよう心がけましょう。また、水分も床ずれの予防に大切な役割を果たします。脱水になると皮膚が乾燥し、血液の循環も悪化します。ただし、個人の体重や持病、全身状態によって、必要な量、摂取可能な量は異なります。必ず医師や管理栄養士と相談して、摂取する目安量を決めましょう。

床ずれ防止に役立つ介護グッズを活用する

床ずれ防止に役立つ介護グッズの活用が有効な場合があります。床ずれ防止に役立つグッズには、体圧を分散する用具や、摩擦・ずれを軽減する補助具があります。

体圧分散マットレスは代表的な床ずれ防止グッズです。空気やウレタン素材などでできており、次のような効果があります。

  • 包み込みや沈み込みによって身体の接触面を増やし、突出部の圧力を低くする
  • 接触する部位を時間とともに変化させて、圧力が集中するのを防ぐ

さまざまな種類があり、それぞれの状況に応じて選択します。特に長時間同じ姿勢で過ごす方では、通常の敷布団やマットでは圧力が集中しやすく、床ずれのリスクが高まります。マットレスの種類によっては、体位変換の頻度を減らす効果も期待できますが、底づき(骨がマットに当たる状態が起きていないか定期的に確認します。

体位変換器は、空気パッドなどを身体の下に挿入し、空気圧、てこなどの動力を用いて、体位変換を補助します。体位変換時の摩擦抵抗を減らすことができます。

体位保持用クッションも、床ずれ防止に役立ちます。骨の突出部への負担を避けながら、安定した姿勢を保つのに役立ちます。30度側臥位を保ちやすくするためのクッションや、かかとや肘を浮かせるものなどを組み合わせます。座位を保つ時間が長い方には、車いす用のクッションや姿勢保持具も効果的です。坐骨部や仙骨部への圧を減らす設計のものを選びます。座っているときに身体が前にずり落ちたり、横に傾いたりするのを防ぐことで、安定した座位を保ちやすくなります。

さらに、スライディングシートや移乗補助具も有用です。これらは体を滑らせて移動する際に摩擦やずれの力を軽減し、皮膚や深部組織へのダメージを防ぎます。介助者にとっても負担が少なく、無理のない動作が可を可能にします。これらの介護グッズを、個別の身体状況に応じて選定して活用しましょう。

訪問介護や訪問看護を活用する

床ずれの予防や管理を行ううえで、訪問介護や訪問看護を活用することは大きな助けとなります。ご家族の負担を減らしながら、質の高いケアを継続することが可能です。訪問介護では、日常生活の支援を通じて、清潔の保持やおむつ交換、姿勢調整の補助などが行われ、床ずれの予防につながります。訪問看護では、看護師が定期的に訪問して、皮膚状態の観察、体位変換の指導、栄養状態の確認、スキンケアの補助などを行います。必要に応じて創部の処置も可能です。

こうしたサービスを活用することで、床ずれのリスクを早期に察知できるほか、専門的な視点から福祉用具や生活環境の見直しを行うことも可能です。専門職と連携してケアをすることで床ずれの予防がしやすくなり、万が一床ずれが発生しても早期に発見できる可能性が高まります。

床ずれ防止で注意すべきポイント

床ずれ防止で注意すべきポイント 体位変換や介護グッズの工夫に加えて、床ずれ防止には注意すべきポイントがいくつかあります。ここではそのポイントを解説します。

本人の快適さと尊厳に配慮する

床ずれ防止に取り組む際は、本人の快適さと尊厳に配慮しましょう。体位変換や創部のケアはときに痛みを伴うこともあり、不安を感じる方も少なくありません。また、床ずれの部位によっては、処置の際に恥ずかしさを感じる方もいらっしゃるでしょう。介助を行う際は、「これから体の向きを変えますね」といった声かけを必ず行い、動作の目的や手順を丁寧に説明します。また、お肌の露出は抑え、プライバシーを尊重する姿勢も必要です。

体位変換による関節や筋肉への負担に配慮する

体位変換は床ずれ防止の基本ですが、体位変換による関節や筋肉への負担に配慮しなければなりません。無理な動きは、かえって関節や筋肉に負担をかけてしまうこともあります。特に、高齢の方や寝たきりの方では、関節の動く範囲が狭く、少しのねじれや圧力でも痛みや損傷が生じる可能性があります。そのため、体を一気に動かすのではなく、複数の小さな動作を組み合わせるよう心がけます。また、2人以上での介助や、スライディングシートの使用も有効です。

症状の早期発見を心がける

床ずれの予防、また、もしできてしまっても軽症の段階で発見するために、症状の早期発見を普段から心がけます。毎日、皮膚の観察を欠かさないようにします。入浴や着替えの際など、骨が突出している部分を中心に、皮膚の色(赤みがあるかどうか)水ぶくれの有無、皮膚が熱を持っているかなどを毎日チェックしましょう。

医師や看護師による定期的なチェックを受ける

床ずれ防止のためには、ご家庭での日々の観察に加え、医師や看護師による定期的なチェックも大変有効です。床ずれは、表面からは変化がわかりにくいタイプも存在します。こういったケースでは毎日観察をしていても、気付かないうちに深部の損傷が進んでいることがあります。また、全身状態や使用している介護グッズの適合性など、専門的な視点で定期的に評価することで、適切な対策につながる可能があります。

まとめ

まとめ 床ずれは、病状が進行すると治療が困難になり、命に関わるリスクがあります。このため、床ずれを防止することは大変重要です。定期的な体位変換を行い、毎日のスキンケアを心がけ、ずれや摩擦が起こらないように注意して介助します。さらに、バランスの取れた栄養摂取を続けましょう。また、医師や看護師などの助けを借りることで表面からはわかりにくい深部の床ずれを発見できる可能性もあります。医療スタッフと連携しながら、床ずれの防止、早期発見に努めましょう。

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