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在宅介護でのポジショニングの重要性と方法、ポイントを解説

 公開日:2025/10/28
在宅介護でのポジショニングの重要性と方法、ポイントを解説

高齢の方や病気の方を在宅で介護する場合、寝たきりや身体を自由に動かせない状況が続くことがあります。同じ姿勢を長時間保つことは、ご本人の身体にさまざまな負担を与えかねません。その負担を軽減し、快適で安全な姿勢を保つために重要なのがポジショニングと呼ばれる介護技術です。本記事では、在宅介護におけるポジショニングの基本知識と実践方法を解説します。
小田村 悠希

監修医師
小田村 悠希(医師)

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・資格:社会福祉士、研修認定精神保健福祉士、介護福祉士、福祉住環境コーディネーター2級
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。

介護におけるポジショニングとは

介護におけるポジショニングとは 介護におけるポジショニングとは、自力で身体を動かすことが難しい方に対し、クッションや体位変換器具を用いて安全で快適な姿勢を整える介護技術のことです。例えば、脳卒中の後遺症などで自分では寝返りが打てない方の場合、ずっと同じ姿勢が続くと筋肉がこわばり身体が硬直してきます。

その結果、筋肉や関節が縮んで関節が固まり(関節拘縮)、手足の曲げ伸ばしが困難になったり、身体が変形したりしてしまうことがあります。また、自分で姿勢を変えられないことで身体の一部に体重がかかり続けると、痛みが生じたり、皮膚や組織が圧迫されて床ずれ(褥瘡)ができてしまったりすることもあります。ポジショニングは、このような問題を防ぐために、適切な姿勢を保てるよう支援するケア方法です。

ポジショニングが重要な理由

ポジショニングが重要な理由 ポジショニングを適切に行うことは、要介護者の健康と快適さを維持するうえで欠かせません。ここでは、ポジショニングがなぜ重要なのかを解説します。

褥瘡の予防

褥瘡(床ずれ)は、骨の出っ張った部分などに体重がかかり続けることで皮膚やその下の組織が圧迫され、血流が悪くなることで生じる傷です。適切なポジショニングによって定期的に体位を変え、身体にかかる圧力(体圧)を分散することで皮膚への血行障害を防ぎ褥瘡の発生を防ぐことができます。

また、寝具や衣類のしわが皮膚を圧迫しないよう整えること、身体をずらす際の摩擦やずれを減らすことも大切です。

呼吸機能の改善

長時間仰向けのままでいると、胸や横隔膜の動きが制限されて呼吸が浅くなります。特に痰(たん)が背中側の肺にたまりやすくなり、放置すると誤嚥性肺炎など呼吸器感染症のリスクも高まります。ポジショニングによって上半身の角度を調整することで、この問題が起こりにくくなります。このように、ポジショニングは呼吸をサポートし、痰の排出(排痰)を促す効果も期待できます。

関節拘縮の予防

自分で身体を動かせずにいると、筋肉が緊張して徐々に縮み、関節が固まってしまう関節拘縮が進行しやすくなります。関節拘縮が進むと可動域が狭まり、腕や脚を伸ばしたり曲げたりすることが困難になります。一度拘縮してしまった関節をもとに戻すことはとても大変です。ポジショニングは拘縮の進行を抑え、場合によっては緩和するのにも役立ちます。また、ポジショニングによって身体を適度に動かすこと自体が刺激となり、筋肉や関節が完全に硬直してしまうのを防ぐことも期待できます。

むくみの予防

長時間身体を動かせない状態でいると、血液やリンパの流れが滞りやすくなり、手足にむくみ(浮腫)が生じることがあります。特に、足を下にしたまま動かさないでいると、重力の影響で血液が心臓に戻りにくくなり、足首やふくらはぎに液体がたまって腫れてしまうことがあります。むくみは血栓という血のかたまりや褥瘡の発生要因のひとつです。

ポジショニングによって足の位置を変えたり高く上げたりすることで血液循環を促し、このようなむくみを軽減することが期待できます。

ポジショニングの種類

ポジショニングの種類 在宅介護で知っておきたい基本的な体位には、大きく分けて臥位(がい:寝た姿勢)と座位(ざい:座った姿勢)があります。臥位にはさらに仰向けや横向きなどいくつかの種類があり、それぞれ長所や短所や注意点があります。ここでは主な体位の種類と特徴を解説します。

体位 具体的な姿勢 特徴
仰臥位 (ぎょうがい) 仰向けに寝る姿勢 ・安定しやすい ・リラックスしやすい ・舌根沈下で呼吸が浅くなりやすい ・咳がしにくい
側臥位 (そくがい) 横向きの姿勢 ・身体を動かしやすい ・肺が広がり咳がしやすい ・支持面が狭く不安定 ・肩や腰に圧が集中
半側臥位 (はんそくがい/30度側臥位) 仰向けと横向きの中間(30~45度傾斜) ・仙骨部や大転子部への圧を分散 ・褥瘡予防に理想的 ・姿勢保持にクッションが必須
腹臥位 (ふくがい) うつ伏せの姿勢 ・背中や臀部の褥瘡予防に有効 ・呼吸管理で換気改善に使われる場合あり ・介助が難しく不安感が出やすい
半座位 (はんざい/ファーラー位) 上半身を30~45度起こした姿勢 ・呼吸がしやすい ・食事や水分摂取に適する ・呼吸困難の緩和につながる ・お尻に圧が集中
椅座位 (いざい) 椅子や車椅子に座る姿勢 ・拘縮予防 ・呼吸促進 ・仙骨や坐骨部に圧が集中

以上が主な体位の種類です。ご利用者の体調や目的に応じて、これらの体位を組み合わせながら過ごしてもらうことで、身体への負担を減らし快適性を高めることができます。

在宅介護のポジショニングに必要なアイテム

在宅介護のポジショニングに必要なアイテム 在宅でポジショニングを行う際には、体位を保持したり介助を助けたりするさまざまな道具を活用できます。代表的なアイテムとその特徴を以下に挙げます。

名称 特徴
ポジショニングクッション(体位変換クッション) ・体位変換や保持のための専用クッション ・形状:抱き枕型、ウェッジ型、円筒型、U字型、バナナ型など ・素材:ウレタンフォーム、発泡ビーズ、特殊繊維など ・スネーク型は寝返り補助や姿勢保持に便利 ・バナナ型は身体に沿って支え、持ち手付きで介助しやすい
スライディングシート ・摩擦の少ない特殊シートで身体を横滑りさせやすい ・介助者の力を軽減し、位置ずらしや向き変えが容易 ・ベッド柵固定型は一時的な横向き保持が可能(おむつ交換などに有用) ・在宅で一人介助する際に特に役立つ
ポジショニンググローブ(介助用手袋) ・滑りやすい素材でできた介助用手袋 ・臀部など重い部位にも手を差し込みやすい ・摩擦やずれを軽減し、介護者の負担を軽くする ・失禁時も直接触れずに介助でき衛生的
体位変換器(電動式) ・エアマットレスなど電動で自動的に体位変換を行う用具 ・空気圧で傾け寝返りを自動化、夜間も定期的に体位変換可能 ・介護者の負担軽減に役立つ ・利用者が不快感を示す場合もあり導入時は配慮が必要
介護用ベッドと付属品 ・背上げ・脚上げ機能で半座位や足上げが簡単にできる ・手すりやリフトで移乗や体位変換を補助 ・体圧分散マットレスにより床ずれ予防

これらの用具は単に介護者の負担を減らすだけでなく、利用者の快適性や褥瘡予防にもつながります。実際の導入にあたっては、ケアマネジャーや専門相談員と相談しながら、環境や身体状況に合ったものを選ぶとよいでしょう。

ポジショニングの基本

ポジショニングの基本 在宅でポジショニングを行う際には、正しい方法と適切なタイミングで実施することが重要です。ここでは、ポジショニングの基本的な実施方法と、そのタイミングや頻度を解説します。

ポジショニングの方法

安全で快適な姿勢づくりを行うために、以下の基本手順とポイントを押さえましょう。

ポジショニングの方法 具体的な工夫や注意点
事前準備と声かけ ・必ず声をかけて同意を得てから開始 ・「楽にするために向きを変えますね」など説明をした後に行う ・急に動かすと驚きや恐怖につながるため避ける
動かし方の工夫 一度に全身を動かさず、頭、肩、腰、脚の順に少しずつ、段階的に動かすことで痛みや不安を軽減
支え方のコツ ・指先ではなく手のひらや腕全体で包み込むように支える ・骨ばった部分や麻痺部位は特に優しく ・点ではなく面で支える
クッションの活用 ・横向き時:背中・上肢・両膝の間にクッション ・仰向け時:膝下・踵・肘下などの隙間を埋める ・体圧を分散し、姿勢の安定と関節保護を図る
本人の能力を活かす ・「顎を少し引いてください」「ベッド柵をつかめますか」など声かけ ・可能な範囲で自分で動いてもらう ・筋力低下を防ぎ、介護者の負担も軽減
一人で無理をしない ・無理な介助は介護者の腰痛や事故の原因に ・難しい場合は二人で行う、もしくは用具(スライディングシートやグローブ)を活用 ・安全第一で無理のない方法を選ぶ

体位変換やポジショニングは、利用者の快適性や褥瘡予防のために欠かせないケアですが、同時に介護者自身の安全を守ることも欠かせません。基本の手順を押さえつつ、無理のない方法や補助用具をうまく活用することで、利用者と介護者の双方にとって安全なケアが実現できます。

ポジショニングのタイミングと頻度

定期的な体位変換は褥瘡予防の基本です。一般的には、仰向けや左右の横向きと姿勢を変えながら2時間おき程度に体位変換します。これは同一箇所が長時間圧迫されないようにするための目安です。ただし、在宅介護の現場では介護者が夜間ずっと起きて介助するのは現実的に難しいこともあります。

その場合、使用しているマットレスの種類や本人の皮膚の状態によっては最大4時間以内の間隔でもよいとされています。実際、エアマットレスなど褥瘡予防用具を用いることで、体位変換間隔を延長できることもあります。

毎日のケアでは、仰向けで朝食、食後に右向き、昼に仰向けといったように、一日の流れのなかで定期的にポジショニングを組み込みましょう。必要に応じて体位変換のスケジュール表を作り、家族間やほかの介護者とも情報を共有するとケア漏れを防げます。 もし在宅で頻回の体位変換が難しい場合は、前述の体圧分散マットレスや体位変換器を活用するのも一つの方法です。介護保険サービスでこれらを利用できる場合もありますので、ケアマネジャーに相談してみましょう。

参照:『褥瘡の予防について』(日本褥瘡学会)

ポジショニングのポイント

ポジショニングのポイント 最後に、在宅でポジショニングを行う際に押さえておきたいポイントを解説します。これらのポイントを意識することで、より効果的かつ安全にポジショニングケアを行うことができます。

体圧分散と関節の動きを意識する

ポジショニングでは、身体への圧力を一点に集中させないことがポイントです。クッションや枕で支える際は、なるべく面で支えて体重を分散させるようにします。例えば、膝裏全体を支える大きなクッションや、背中から太ももにかけて沿わせる長めの抱き枕などを使えば、一部分にかかる負荷を和らげることができます。

同時に、関節の自然な動きや姿勢にも気を配ります。人間の関節は本来の位置にあるときが安定していて負担が少ないです。ポジショニング時には、利用者の頭から足先まで一直線に近い姿勢になっているか確認しましょう。もし身体がねじれていたり左右に偏っていたりするようであれば、クッションの入れ方を調整してまっすぐに整えます。その際は完全に固定しすぎず、少し姿勢を直したい時に自分で動けるくらいの余裕を持たせてあげると、不快感の軽減につながります。

関節や筋肉への負担を考慮する

体位を保持するときは、利用者の関節や筋肉に無理な力がかからない姿勢かどうかを常に意識します。まず、身体のゆがみや筋緊張の状態を把握することが重要です。麻痺などがある方は、一部の筋肉が硬くこわばっていたり関節が曲がったりしたまま伸びにくくなっている場合があります。そのような状態を無視して姿勢を作ろうとすると、筋肉や腱に過度な伸張や圧迫が加わり痛みや二次障害の原因になりかねません。

そこで、拘縮などがある関節については現在の角度に合わせて支えるようにします。例えば、膝が曲がって伸びにくい方を仰向けにする場合、膝の下にクッションを入れて曲がったままでもリラックスできるよう支えます。逆に膝がまっすぐ伸びきってしまう拘縮(伸展拘縮)の場合は、かかとだけに圧が集中しないようふくらはぎ全体を支えるクッションを入れてあげます。このようにすでにある拘縮や麻痺の状態に応じたサポートをすることで、関節や筋への負担を和らげます。

理学療法士や介護スタッフにアドバイスをもらう

在宅介護では、専門職からの助言や指導を積極的に活用しましょう。ポジショニング方法は、利用者一人ひとりの身体状態によって異なります。そのため、医師や看護師、理学療法士(PT)・作業療法士(OT)など多職種のチームで利用者の状態を評価し、適切な姿勢や支援方法を検討するとよいでしょう。例えば、訪問リハビリを利用すれば、理学療法士が実際のベッド上でのポジショニング方法を具体的に教えてくれます。どの箇所にどのようなクッションを入れるとよいか、何時間おきに体位変換すべきか、といった実践的なアドバイスをもらえるはずです。

家族が安心して取り組むためのサポート

在宅でのポジショニングは、介護する家族にとって「本当にこれで合っているのだろうか」「自分のやり方で大丈夫か」と不安になることもあるでしょう。そんなときこそ、周囲のサポートや適切な情報提供が役立ちます。

まず、介護者ご自身が正しい知識を身につけることが安心感につながります。病院から在宅に移行する際には、担当の看護師やリハビリスタッフからポジショニングのコツを教わる機会を作りましょう。実際にベッドサイドでクッションの入れ方を指導してもらったり、褥瘡予防マットレスの使い方を確認したりすると、自宅で一人でケアするときも落ち着いて対処できます。また、自治体や地域包括支援センター主催の介護教室で、体位変換の実習が行われることもあります。そのような場に参加して練習し、ほかの家族介護者の工夫を聞いてみるのもよいでしょう。

介護サービスを利用している場合は、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員からも積極的に情報をもらいましょう。「このクッションはどう使えばいい?」「夜間の体位交換が負担なのでよい方法は?」といった疑問を伝えれば、適切な代替策や用具の提案をしてくれます。

まとめ

まとめ 在宅介護におけるポジショニングは、要介護者さんの快適さと健康を守るための重要なケア技術です。適切なポジショニングによって、褥瘡の予防、呼吸機能の改善、関節拘縮の予防、むくみの軽減など多くの効果が期待できます。本記事で紹介したポイントを押さえておけば、より安心してケアに臨めるでしょう。ぜひ本記事の内容を参考に、在宅介護でのポジショニングケアに役立ててください。

この記事の監修医師