床ずれに痛みはある?進行度による違いや対処法、痛みの軽減方法を解説
公開日:2025/11/30


監修医師:
林 良典(医師)
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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)
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目次 -INDEX-
床ずれの基礎知識
床ずれは、見た目には皮膚の傷のようにみえても、実際には皮膚の下で血流が滞り、細胞が酸素を失うことで起こる内部からの損傷です。圧迫や摩擦、湿気などの刺激が積み重なると、皮膚が弱り、やがて深い潰瘍へと進行します。ここでは、床ずれがどのような仕組みで生じ、どのような経過をたどるのかを解説します。
床ずれの原因
主な原因は圧迫による血流の途絶です。同じ姿勢を長時間続けると、身体の一部に体重が集中し、皮膚の下で血流が止まってしまいます。血液の循環が途絶えると、細胞が酸素不足に陥り、組織が壊死していきます。特に、仙骨部(おしりの骨のあたり)やかかと、肘、肩甲骨など骨が突出している部分は、圧が集中しやすく床ずれが起こりやすいです。 圧迫以外にも、ずれや摩擦、湿潤などの要因が重なると発症しやすくなります。例えば、ベッド上で身体を引きずるように動かすと、皮膚と寝具のあいだでずれが生じ、内部組織が傷つきます。また、汗や排泄物が皮膚に触れていると、皮膚がふやけて刺激に弱くなります。乾燥しすぎてもひび割れが起きやすく、防御力が下がります。さらに、低栄養や脱水があると皮膚の修復が遅れ、床ずれが治りにくくなることもあります。床ずれの症状
初期では、皮膚に赤みや軽い腫れがみられ、触れると熱を帯びたり、わずかな痛みを感じたりします。圧迫を解除しても赤みが消えない場合、それは皮膚の下で血流が障害されているサインです。進行すると、皮膚表面に水ぶくれやびらんができ、やがて皮膚が破れて深い傷に変化します。さらに進むと、筋肉や腱、骨まで達する深い潰瘍が形成され、感染を伴うこともあります。この段階では痛みが強く、悪臭や滲出液がみられることもあります。床ずれの痛みと進行度
床ずれによる痛みは、皮膚や筋肉が圧迫されて血流が途絶え、炎症や組織の損傷が起こることで生じます。痛みの強さや感じ方は、傷の深さだけでなく、神経の働き方や炎症の広がり方、全身の血流状態にも左右されます。初期では違和感に近い軽い刺激であっても、進行すると強い灼熱感や拍動痛が現れ、安静時にも痛みが続くようになります。さらに、神経が損傷している場合は痛みを感じにくくなるなど、進行度によって痛みの特徴は大きく異なります。
初期の床ずれで生じる痛み
初期段階の床ずれは、皮膚表面の血流が一時的に滞る状態から始まります。外見上は赤みや軽い腫れがある程度ですが、すでに皮膚の下では酸素不足による細胞の弱りが始まっています。このときの痛みは、ヒリヒリ、チクチクとした刺激や、軽い熱感として感じられることが多いです。圧迫されている部位に触れると、しみるような痛みや、針で刺されたような感覚を訴える方もいます。 また、寝具や衣服とのわずかな摩擦が刺激となり、不快感を強めることがあります。これらの痛みは体位を変えることで一時的に和らぎますが、再び同じ姿勢を取るとすぐ戻るのが特徴です。血流が悪い状態が続くと、痛みの感覚が鈍くなり、一見落ち着いたようにみえても損傷が内部で進行していることがあります。進行した床ずれで起こりやすい痛み
進行すると、皮膚が破れ、真皮より下の組織まで炎症が広がります。神経が直接刺激されるため、ズキズキと拍動するような痛み、焼けつくような痛み、あるいは引き裂かれるような強い痛みを訴えることが増えます。炎症や感染が重なると、患部全体が熱を帯び、触れなくても疼くような持続痛が現れます。夜間に痛みが強まることも多く、眠れない、身体を動かすことを避けるといった行動がみられます。 さらに、膿や滲出液が増えると、傷口が湿って衣服やシーツに触れるたびに刺激が加わり、鋭い痛みが走ります。こうした状態が続くと、痛みの刺激が神経を過敏にし、わずかな触覚にも強い痛みを感じるアロディニア(異痛症)の状態に陥ることもあります。一方で、神経の損傷が進んでいる場合は、傷が深くても痛みを感じないことがあります。糖尿病性神経障害や脊髄損傷などがある方では、この痛みがない進行型の床ずれが起こりやすく、発見が遅れることがあります。周囲の方が気付ける床ずれによる痛みのサイン
床ずれによる痛みは、必ずしも本人が言葉で訴えられるとは限りません。認知症のある方や、言葉でのやり取りが難しい方では、表情や身体の動き、普段との小さな違いが痛みを示す重要な手がかりです。触れられたときに顔をしかめる、目を閉じて顔をそむける、身体をこわばらせるといった反応があれば、刺激に対して痛みを感じている可能性があります。また、落ち着かず手足を動かす、反対に動かなくなる、寝返りを拒むなどの行動も、痛みのある部分を守ろうとしているサインといえます。
痛みがあると、無意識のうちにその部位に負担をかけないように行動が変わります。おむつ交換や清拭のときに嫌がる、介助の手を払う、呼びかけに反応が鈍くなるなども、痛みの存在を示す反応です。なかには、痛みを強く感じると息を止める、浅い呼吸になるといった身体の変化を示す方もいます。こうした微細な変化を見逃さないためには、日頃からいつもと違う仕草や表情の変化を意識して観察しましょう。
言葉にできない痛みは、生活全体のリズムにも影響します。食欲の低下、夜間の不眠、表情の乏しさ、急な不機嫌、声をかけても返事が少ないといった変化があるときは、身体のどこかに不快感や痛みを抱えていることが考えられます。さらに、脈拍の上昇や発汗、顔の紅潮といった自律神経の反応がみられる場合もあります。
床ずれによる痛みへの対処法
床ずれの痛みは、皮膚が壊れることによる炎症や、神経が圧迫される刺激で生じます。そのため、痛みをやわらげるには、まず圧迫そのものを減らすことが欠かせません。同じ姿勢を続けると、傷の部分に体重が集中し、血流が滞って痛みが強まります。体位をこまめに変えたり、エアマットレスやクッションで体圧を分散したりすることで、皮膚の下の循環が保たれ、痛みの軽減につながります。また、寝具や衣服のしわが皮膚を刺激することもあるため、摩擦を減らす工夫も必要です。
痛みが強い場合には、医師による鎮痛薬の処方が行われます。軽度の痛みにはアセトアミノフェンやNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)などが用いられ、強い痛みにはオピオイド系鎮痛薬を選択することもあります。外用薬によって炎症を抑えたり、傷口の湿潤環境を整えたりする方法もあります。痛みの状態は日々変化するため、どの姿勢でつらそうか、どの時間帯に痛みが強いかを観察し、介護者と医療職が情報を共有するようにしましょう。
痛みが出る前に床ずれを早期発見する方法
床ずれは、皮膚の下で血流が滞るところから始まるため、外見でわかる頃にはすでに進行している場合もあります。痛みを感じる前に気付くためには、皮膚の状態をこまめに観察し、初期のサインを見逃さないことが重要です。特に仙骨部(おしりの骨のあたり)、かかと、肩甲骨、肘、後頭部などの骨が出ている部分は圧が集中しやすく、毎日確認することが欠かせません。赤み、紫色の変化、触れると熱い・冷たいなどの温度差、湿った感触などは初期の変化として現れます。
皮膚の色だけでなく、質感の変化にも注目します。硬くなっている、ふくらんでいる、あるいは少しへこんでいるといった違和感があれば、その部分で血流が悪くなっている可能性があります。圧迫を解除しても赤みが消えない場合は、皮膚の下で損傷が進行していると考えられます。
床ずれの予防法
床ずれの発生を防ぐためには、日常的なケアを通じて皮膚の血流と清潔を保ち、全身の状態を整えることが基本です。予防には、除圧、皮膚のケア、栄養管理を組み合わせた包括的な介入が必要です。どれか一つではなく、生活環境全体を整えましょう。
2時間毎に身体の向きを変える
同じ姿勢を続けていると、骨があたる部分に圧力が集中し、皮膚の血流が悪くなります。血流が滞ると、皮膚やその下の組織が酸素不足となり、損傷が始まります。これを防ぐためには、2時間を超えない間隔で身体の向きを変えることが基本です。 体位変換を行うときは、寝具のしわを伸ばし、摩擦やずれが起きないように注意します。身体を動かす際には、引きずらずに、持ち上げるようにゆっくりと移動させるのが理想です。お尻の筋肉(殿筋)の広い面で体重を支える30度側臥位をとると、骨の出ている部分への圧をやわらげることができます。体位変換は、介護する方にとって負担のかかる作業でもありますが、褥瘡を防ぐうえで重要なケアの一つです。 参照:『褥瘡の予防について』(日本褥瘡学会)体圧を分散させる
体圧分散用のマットレスやクッションを使用すると、接触面積が広がり、骨の突出部への圧力を減らせます。自力で身体を動かすことが難しい方には、圧切り替え型のエアマットレスの使用がすすめられています。高齢の方では皮膚のたるみや骨の突出が強いため、二層式や多層式のマットレスを選ぶとよいとされています。体格や活動性、介護環境に合わせて寝具を選びましょう。皮膚を清潔に保つ
汗や排泄物が皮膚に残ると、ふやけて弱くなり、わずかな刺激でも傷ができやすくなります。特に尿や便が付着したままだと炎症を起こしやすいため、排泄後は早めに皮膚をきれいに整えましょう。石けんをよく泡立てて手ややわらかいタオルでなでるように洗い、こすらずに泡をしっかり流します。強く擦ると皮膚を傷つけるおそれがあります。洗浄後は清潔なタオルでやさしく押さえて水分を拭き取り、清潔な状態を保ちましょう。乾燥状態を避ける
皮膚が乾燥すると、わずかな刺激でも損傷しやすくなります。乾燥を防ぐために、皮膚の状態に応じて保湿剤や皮膚保護材を使用します。また、尿や便による湿潤状態が続くと皮膚の炎症を招くため、排泄後の洗浄と乾燥を丁寧に行うことが推奨されています。骨の出ている部分には、摩擦を軽減するためのすべり機能付きドレッシング材を貼付することも効果的です。栄養バランスに気を付ける
床ずれを防ぐには、まず低栄養を避けることが大切です。食事の量が減ったり、偏ったりすると、皮膚や筋肉を保つ力が弱まり、床ずれができやすくなります。特に、エネルギーとたんぱく質をしっかり摂ることが予防の基本です。ご飯やパン、いも類などの主食は身体を動かすエネルギー源です。さらに、肉・魚・卵・大豆製品・乳製品など、たんぱく質を多く含む食品を毎食に取り入れるようにしましょう。嚥下が難しい方には、やわらかい食品やペースト状のメニューや補助食品を利用する方法もあります。まとめ
床ずれは、長時間の圧迫によって皮膚やその下の組織が傷つくことで起こります。いったんできてしまうと治りにくく、痛みや感染を伴うこともあります。しかし、毎日のケアを丁寧に行うことで、ほとんどの床ずれは防ぐことができます。定期的な体位変換で圧を分散し、皮膚を清潔に保ち、栄養を十分に摂ることが基本です。特に、体圧を減らす寝具の活用や、排泄後の適切なスキンケアは、皮膚を守るうえで大切です。
床ずれの予防は、医療や介護の現場だけでなく、家庭でも取り組める大切なケアです。小さな皮膚の変化や行動の違いに早く気付き、必要に応じて医師や看護師に相談することが、重症化を防ぐために重要です。圧迫を減らし、皮膚を清潔に保ち、栄養を整える。この3つを意識した生活を続けることで、発生リスクを着実に下げられます。介護する方にとっても、本人が快適に過ごせる環境づくりが心身の安定につながります。



