高齢者の日常生活自立度とは?判定基準・ランクの見方や使われる場面を解説
公開日:2025/11/27


監修医師:
小田村 悠希(医師)
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・資格:社会福祉士、研修認定精神保健福祉士、介護福祉士、福祉住環境コーディネーター2級
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。
目次 -INDEX-
高齢者の日常生活自立度の基礎知識
まずは、高齢の方の日常生活自立度の概要や分類を確認しておきましょう。
高齢者の日常生活自立度とは
高齢の方の日常生活自立度とは、高齢の方が身の回りのことをどの程度自力で行えるかを評価した指標です。具体的には、移動や食事、排せつなど日常生活動作をどれだけ自分でこなせるか、また認知症による判断力低下が生活にどれだけ支障を及ぼしているかを示します。この指標は厚生労働省によって定められており、全国共通の基準として用いられています。介護保険制度で適切なサービスを受けるためにも重要な役割を果たす尺度であり、要介護認定の調査項目としても活用されています。 参照:『障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度) 』(厚生労働省)高齢者の日常生活自立度の分類
高齢の方の日常生活自立度は身体面と認知症でそれぞれ分類されています。それぞれについて、生活自立度の程度に応じたランク分けが定められています。| 分類名 | 対象・目的 |
|---|---|
| 障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度) | ・対象:身体的な障害や衰えのある高齢の方 ・日常生活をどの程度自立して送れているかを評価する分類 |
| 認知症高齢者の日常生活自立度 | ・対象:認知症のある高齢の方 ・認知機能の低下や行動・心理症状(BPSD)によってどの程度日常生活に支障をきたしているかを評価する分類 |
高齢者の日常生活自立度のランク
ここでは、高齢の方の日常生活自立度における各ランクについて、身体に障害がある場合と認知症の場合に分けて説明します。
障害がある場合
高齢の方が身体的な障害や衰えによって日常生活に支援が必要な場合、その自立度はランクJ・A・B・Cで表されます。ランクJがもっとも自立度が高く、ランクCがもっとも低い状態です。以下に各ランクの内容をまとめます。| ランク | 状態の概要 | 細区分 |
|---|---|---|
| J (生活自立) | 何らかの障害があっても、日常生活はほぼ自立しており独力で外出できる状態です。 | ・J1:バスや電車など公共交通機関を利用して外出できる ・J2:家の周囲など近所であれば自力で外出できる |
| A (準寝たきり) | 屋内ではおおむね自立しているものの、介助なしでは外出できない状態です。 | ・A1:介助者に付き添われれば外出でき、日中はベッドから離れて生活する ・A2:外出の機会が少なく、日中も寝たり起きたりの生活 |
| B (寝たきり) | 屋内生活にも介助を要し、日中の大半をベッド上で過ごす寝たきり状態です。短時間であれば座位保持が可能です。 | ・B1:自力または見守り下で車いすに移乗し、食事や排せつはベッド外で行う ・B2:介助によって車いすに移乗する |
| C (寝たきり) | 終日ベッド上で過ごし、食事・排せつ・着替えなどすべてに介助を要する重度の寝たきり状態です。 | ・C1:自力で寝返りをうてる ・C2:自力では寝返りもできない |
認知症の場合
次に、認知症がある高齢の方の場合の日常生活自立度のランクについて説明します。こちらはランクI・II・III・IV・Mの順で自立度が低下していきます。ランクIがもっとも自立度が高く、ランクMがもっとも重度の状態です。各ランクの特徴は以下のとおりです。| ランク | 状態の概要 | 細区分 |
|---|---|---|
| I | 認知症はあるものの、日常生活は家庭内および社会的にほぼ自立している状態です。 | ― |
| II | 日常生活に支障を来すような症状や行動、意思疎通の困難さが多少見られるが、注意すれば自立可能な状態です。 | ・IIa:たびたび道に迷うとか、買物や事務、金銭管理などそれまでできたことにミスが目立つなど ・IIb:服薬管理ができない、電話の応対や訪問者との対応など一人で留守番ができないなど |
| III | 日常生活に支障を来す症状や行動、意思疎通困難が時々見られ、介護を必要とする状態です。 | ・IIIa:着替え、食事、排便、排尿が上手にできない、時間がかかる。 やたらに物を口に入れる、物を拾い集める、徘徊、失禁、大声・奇声をあげる、火の不始末、不潔行為、性的異常行為など ・IIIb:同様の症状が主に夜間に見られる。 |
| IV | 日常生活に支障を来す症状・行動や意思疎通困難が頻繁に見られ、常時介護を必要とする状態です。 | ― |
| M | 著しい精神症状や問題行動、または重篤な身体疾患を伴い、専門医療が必要な状態です。 | ― |
高齢者の日常生活自立度の判定基準と判定方法
ここでは、高齢の方の日常生活自立度がどのように判定されるのか、基準や方法について説明します。身体面・認知症それぞれの判定基準のポイントと、実際に誰がどのように判定を行うのか、その流れを確認しておきましょう。
障害高齢者の日常生活自立度
障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)の判定においては、評価の視点として「何ができるか」といった能力そのものではなく、実際の状態に着目します。特に重視されるのは移動能力に関わる状態像であり、日常生活でどの程度自力移動できているかによって4段階・8区分にランク分けする形で評価します。判定基準は前述のランクJ~Cの内容に沿って行います。 それら評価は保健師や社会福祉士、ケアマネジャー(介護支援専門員)などの専門職が、高齢の方本人の状態を観察・聴取して客観的かつ短時間に判定できるようになっています。判定票では該当するランク(J/A/B/C)および細分類(1または2)にチェックを入れる形式であり、まったく障害がない場合は自立として評価対象外となります。認知症高齢者の日常生活自立度
認知症高齢者の日常生活自立度の判定では、認知症による症状や行動が日常生活に及ぼす支障の程度に着目します。具体的には記憶障害や判断力の低下、徘徊や不潔行為などの行動・心理症状(BPSD)の有無と頻度、意思疎通の困難さなどを総合的に評価します。 そして、認知症高齢者の日常生活自立度の判定も、自己申告や家族だけで決めるものではなく、公的な調査・審査のプロセスのなかで専門家により判定されます。この指標は単なるランク分けにとどまらず、判定後の介護サービス計画や施設入居のぜひを検討するうえでも重要な意味を持ちます。判定に関わる職種と流れ
高齢の方の日常生活自立度の判定は、主に介護保険の要介護認定プロセスのなかで実施されます。流れとしては次のとおりです。- 要介護認定を申請する
- 障害高齢者の日常生活自立度と認知症高齢者の日常生活自立度の該当ランクを判定する
- コンピューターによる一次判定
- 主治医意見書を提出する
- 介護認定審査会での二次判定を行う
- 認定結果の通知を受ける
高齢者の日常生活自立度の目安
では、具体的にどのような高齢の方がどのランクに該当するのか、いくつか典型的なケースを挙げて目安を説明します。
寝たきりの場合の日常生活自立度
一般に寝たきりと呼ばれるのは、日常生活自立度ではランクBまたはランクCに分類されます。どちらもベッド上で過ごす時間が長い状態ですが、違いはわずかにでも自力で起き上がれるかどうかです。 ランクBであれば、日中の大半はベッド上で過ごしますが、介助や福祉用具の力を借りて車いすへ移乗し、食事やトイレなど一部の行為はベッドから離れて行える状態です。一方、完全な寝たきりであるランクCでは、一日中ベッドから離れられず、食事や排せつ・更衣など生活のすべてに介助が必要な状態です。 このように、寝たきりといってもランクBとCでは状態に差があります。初期認知症の場合の日常生活自立度
認知症の初期段階にある場合は、日常生活自立度ではランクIまたはIIに該当します。初期の認知症では記憶力の低下や物忘れがみられても、適切な声かけや補助があれば自立した生活を維持できるケースが少なくありません。 例えば、ランクIであれば、物忘れがあってもメモを取る習慣でカバーできる、時間や場所の理解に一部怪しいところがあったとしても家族がサポートすれば問題なく生活できる状態です。一方で、ランクⅡは、日常生活上いくつか気になる症状やミスが出始める段階です。例えば「約束の日時を間違えてしまう」「炊飯器のスイッチを入れ忘れる」など、本人も戸惑うような出来事が増えてきます。 このように、初期の認知症では日常生活自立度がIまたはIIに該当し、基本的にはほぼ自立~部分的な見守りで生活可能なレベルといえます。高齢者の日常生活自立度が活用される主な制度と現場での使われ方
日常生活自立度は、介護保険制度をはじめとして介護の現場や医療機関で広く活用されています。ここでは、介護保険制度における位置づけ、要介護認定との違い、そして在宅介護・施設介護での活用例や医療機関での使われ方を解説します。
介護保険制度における位置づけ
日常生活自立度は介護保険制度のなかで要介護認定の調査項目として組み込まれており、その結果は要介護度の判定材料の一つです。要介護認定は介護サービス利用の前提となる公式な判定ですが、その判定プロセスにおいて障害高齢者の日常生活自立度と認知症高齢者の日常生活自立度は評価・記録されます。また、二次判定でも、調査票の自立度ランクと主治医意見書の内容を見比べながら総合的に要介護度が決定されます。要介護認定との違い
日常生活自立度は、高齢の方がどの程度自力で生活できるかを評価する指標で、身体機能や認知機能の状態をもとにJ~C、I~Mといった段階で表します。一方、要介護認定は介護保険制度において、介護サービスをどの程度必要としているかを市区町村が正式に判定する制度です。自立度はあくまで実態把握やケアプラン作成の参考として用いられ、法的な認定ではありません。要介護認定は、この自立度の評価を含む多面的な調査結果をもとに審査会が決定します。在宅介護・施設介護での活用
日常生活自立度は、在宅介護・施設介護のどちらでもケアの質を高める重要な指標です。在宅介護では、ケアマネジャーが自立度をもとに介護サービスの量や内容を調整します。例えば、身体機能がランクBで寝たきりに近い場合は訪問介護や住宅改修を多めに計画し、認知症自立度がIIならデイサービスで見守りやリハビリを取り入れるなど、生活の自立維持を重視した支援が可能です。施設介護でも、自立度情報は入所判定やケアプラン策定に活用されます。入所者の寝たきり度や認知症自立度を把握し、職員配置やケア計画を適切にすることで、安全に自立を促す環境づくりにつながります。医療機関での活用
日常生活自立度は、医療の現場でも高齢の方のケアの重要な指標として活用されています。医師は介護保険の主治医意見書に、認知症自立度(I~M)や寝たきり度(J~C)を記入し、患者さんの生活機能を評価します。この情報は要介護認定だけでなく、退院後の支援計画や医療・介護の連携にも役立ちます。入院中には看護師やリハビリスタッフが自立度をもとにケア方針を立て、退院時には在宅や施設の環境調整に活かします。また、リハビリ病棟では入退棟時のランク変化を経過指標として追うこともあります。まとめ
介護を検討するご家族や支援者の方は、日常生活自立度の意味とランク内容を正しく理解しておきましょう。それにより、ケアマネジャーや医師との面談時に現在の状態を的確に把握でき、適切なサービス選択や環境整備について建設的に話し合えるようになります。ご本人にとっても、自立度の維持・向上は生活の質(QOL)の向上に直結します。専門職と連携しながら、できる限り高い自立度を保てるよう支援していくことが大切です。



