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寝たきりの方のお風呂はどうする?清潔保持の方法や在宅介護での工夫とは

 公開日:2025/10/28
寝たきりの方のお風呂はどうする?清潔保持の方法や在宅介護での工夫とは

「お風呂に入れてあげたいけれど、身体を動かすのが大変」「転倒や体調の変化が心配で、自宅ではなかなか入浴させられない」など寝たきりの方の入浴介護を負担に感じている方は少なくありません。 実際、入浴介助は自宅介護のなかで体力を使うケアのひとつです。抱きかかえや移動時の介助は介護者の腰や肩に負担がかかり、浴室は滑りやすいため転倒のリスクも高まります。 しかし、入浴は清潔を保つだけでなく、血行を促進し、リラックス効果や気分転換にもつながる大切なケアです。入浴の時間を快適で安全にすることで、介護される方の生活の質も向上します。 この記事では、自宅で寝たきりの方を安全に入浴させるための工夫や介護用品の活用方法、介護保険を使ったサービスを解説します。
小田村 悠希

監修医師
小田村 悠希(医師)

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・資格:社会福祉士、研修認定精神保健福祉士、介護福祉士、福祉住環境コーディネーター2級
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。

寝たきりの方の自宅介護でお風呂が難しい理由

寝たきりの方の自宅介護でお風呂が難しい理由 寝たきりの方を自宅で入浴介助するのが難しいと感じる理由には、以下のような点が挙げられます。

移動や入浴時の転倒リスク

浴室への移動や浴槽の出入りには、立ち上がり、方向転換、段差をまたぐといった複数の動作が必要です。寝たきりの方は筋力やバランス機能が低下しており、わずかな動作でもふらついてしまうことがあります。また、浴室は床が濡れて滑りやすく、浴槽の縁も高いため、転倒するリスクが高いと考えられます。

参照:『不動・廃用症候群』(Jpn Rehabil Med 2015;52:265-271)

介助者への身体的負担

寝たきりの方の全身を抱える・支えるといった動作が必要な入浴介助は、介助者の腰や肩、腕などに大きな負担がかかる重労働です。さらに、濡れた浴室で中腰の姿勢を長時間続ける必要があり、介助者の筋肉や関節に強いストレスがかかります。 ある調査では、介護施設で働く介護職員の約7割が腰痛を経験していることが報告されました。特に抱きかかえる、中腰で支えるといった動作が腰痛の大きな要因であると指摘されています。

参照:『介護者の腰痛予防につながる介護施設の安全衛生活動と介助方法に関する全国調査』(労働安全衛生総合研究所)

浴室の設備が整っていない場合の課題

多くの家庭の浴室は、介護を前提とした設計になっていません。 そのため、車椅子のまま入れないほど入り口が狭かったり、浴槽の縁が高くてまたぎにくかったりします。また、浴室内はスペースが限られており、介助者が体勢を崩しやすく、転倒のリスクも高まります。 このような設計上の課題を背景に、介護保険では住宅改修として手すりの設置や、滑りにくい床材への変更といったバリアフリー化を給付の対象としています。このことから、浴室空間の重要性が、制度面でも認識されていることがわかります。

参照:『福祉用具・住宅改修』(厚生労働省)

寝たきりでお風呂に入れないときの代替方法

寝たきりでお風呂に入れないときの代替方法 寝たきりでお風呂に入れないときでも、身体を清潔に保ち、気持ちよく過ごせる代替方法があります。状況に合わせて取り入れてみましょう。

蒸しタオルやボディ用シートでの清拭

蒸しタオルでの清拭は、温熱効果により血行が促進されるとともに、リラックス効果が期待できます。手順は次のとおりです。

まず、50度程度のお湯を用意してタオルを浸し、しっかり絞ります。タオルの温度は前腕にあてて確認し、肌に心地よいと感じる40度程度になるように調整しましょう。 次に、身体が冷えないように乾いたバスタオルなどの掛け物を準備します。背中・肩・腰など温めたい部分に温かいタオルを当て、その上からバスタオルで覆って30秒〜数分ほど保温します。

タオルを外したら、やさしく水分を拭き取り、同じ容量で次の部位に進みます。清拭するときは、顔から足に向かって順番にすすみ、最後にデリケートゾーンを拭きます。皮膚を守るため、こすらずにやさしく抑えながら拭きましょう。最後に乾いたタオルで全身の水分を抑え、必要に応じて保湿剤を塗ります。 ボディ用シートは必要なときにすぐ取り出せるため、清拭にかける時間があまりないときや、少し汗を拭きたいときなどに便利です。

また、清拭の前後には、体調の変化を観察しましょう。清拭が難しい場合には、部分浴への切り替えも考慮しましょう。

手浴や足浴など部分浴による清潔保持

手や足をお湯につけて行う部分浴も、清潔を保持できるだけでなく、リラックス効果や睡眠を促す効果が期待できるケアです。 まず、容器に40度くらいのお湯を用意して、手浴の場合は手首から前腕の半ばくらいまでを、足浴の場合はくるぶしが隠れるくらいまでお湯に浸けます。浸ける時間は10分程度が目安ですが、初回の場合は5~7分ほどから試してみましょう。 浸け終わったら、やさしく洗い流して水分を拭き取ります。拭きとり後は、乾いたタオルで10分ほど包んでおくと身体のあたたかさを保てます。

参照: 『手浴の効果に関する文献レビュー』(日本看護技術学会誌 Vol.19) 『 足浴が生体に及ぼす生理学的効果』(日本看護技術学会誌Vol.8)

洗髪用の介護グッズを使ったベッド上での洗髪

ベッドから起き上がるのが難しい方でも、洗髪用の介護グッズを使えば、ベッドに寝たまま洗髪できます。代表的なグッズがケリーパッドと呼ばれる洗髪シートです。ケリーパッドを首の下に敷くと、流したお湯が自然にバケツへ流れ、シーツや衣服を濡らさずに済みます。 洗髪を実施する際には、介護される方をベッド端に仰向けで寝かせ、股関節を約20度、膝を30~40と程度曲げるように膝の下にクッションや丸めたタオルを入れて体位を整え、首の下にタオルを置いて、ケリーパッド先端をバケツに向けて設置します。

肩やベッドをタオルで保護して、少量ずつお湯をかけて髪を濡らしたら、シャンプーを指の腹でやさしく泡立てながら頭皮をマッサージするように洗い、こめかみや耳の後ろなども丁寧にすすぎます。泡が残らないようお湯でしっかり流し、必要であればリンスをして再度すすいだ後、タオルで水分を吸い取り、必要に応じてドライヤーで乾かします。 最後に首や背中、シーツが濡れていないか確認し、衣服や体位を整え、頭皮の赤みやかゆみ、疲労感がないか観察しましょう。

参照:『循環器系の高齢女性患者に対するケリーパッドを用いた安楽な洗髪体位についての事例検討』(日本健康医学会雑誌 31巻(2022)4号)

自宅で利用できる入浴介助サービス

自宅で利用できる入浴介助サービス 自宅で利用できる入浴介助サービスには、訪問介護による入浴介助と訪問入浴サービスがあります。

訪問介護による入浴介助

訪問介護とは、訪問介護員(ホームヘルパー)が介護される方の自宅を訪問し、日常生活のさまざまな場面をサポートする介護サービスです。具体的には入浴・排泄・食事といった身体介護のほか、掃除や洗濯、買い物、調理などの生活援助まで幅広く対処します。 入浴介助では、浴室への移動や衣服の着脱を手伝い、洗髪や洗身や洗髪などのサポートが受けられます。 入浴介助の場合、浴槽などの設備は自宅のものを使うため、介護される方がある程度身体を動かせる方(立ち上がりや車椅子の移乗が可能など)が対象です。完全に寝たきりの場合は、訪問入浴サービスやとの併用が検討されます。

訪問入浴サービス

訪問入浴サービスでは、専用の組み立て式浴槽を自宅の居間や寝室に搬入し、その場で入浴を行います。通常は看護師1名と介護士2名の3名体制で訪問し、入浴前に血圧や体温、脈拍などのバイタルチェックを行い、体調に問題がないか観察します。皮膚の発赤や褥瘡(床ずれ)の有無も観察するため、入浴と同時に健康状態の把握ができるのが大きなメリットです。入浴後は身体を拭いて着替えを済ませ、再度バイタルチェックを行い、体調に変化がないか確認して終了です。ベッドから浴槽までの移動もスタッフがサポートするため、全身浴が難しい方でも安全に入浴できます。

介護保険で利用できるサービス内容と費用目安

訪問介護による入浴サービスと、訪問入浴サービスは、ともに介護保険で利用できる制度です。 それぞれのサービス内容と費用目安は以下のとおりです。

サービス名 サービス内容・対象者 費用目安(1割負担の場合)
訪問介護による入浴介助 ヘルパーが自宅浴室で入浴介助。衣服の着脱、浴槽への出入り、洗身や洗髪、拭き取りまでサポート。 30分未満:約250~300円 30分~1時間:約400~450円
訪問入浴介護 看護師1名と介護職員2名が訪問し、専用浴槽で全身浴や部分浴を行う。入浴の前後にバイタル測定がある。 1回あたり 全身浴:約1,200~1,500円 部分浴:約800円~900円

これらのサービス内容は、介護保険の支給限度額の範囲内であれば1割負担で利用できます。限度額を超えた分は全額自己負担となるため、利用回数や介護サービスとのバランスをケアマネジャー(介護支援専門員)と相談しながら決めましょう。

参照: 『訪問介護』(厚生労働省 老健局) 『訪問入浴介護』(厚生労働省 老健局)

お風呂や清潔ケアで役立つ介護用品

お風呂や清潔ケアで役立つ介護用品 自宅で清潔ケアを行うときには、介護される方と介助者双方の負担を減らし、安全にケアできる介護用品を活用しましょう。これまでにご紹介したもの以外では、お風呂や清潔ケアで役立つ介護用品には以下のようなものがあります。

介護用品 特徴
入浴用いす 座ったまま洗身できる椅子。 肘掛けや背もたれが付いており、キャスターがついているタイプもある。 高さ調整ができるものもあり、介助者の負担を軽減する。
浴槽用手すり 浴槽をまたぐ動作を楽にして、安全に出入りできる。
浴室内・浴槽内すのこ 洗い場や浴槽の段差を解消し、濡れた床での転倒を防ぐ。
入浴台 浴槽の縁に設置することで、腰を入浴台におろしてから浴槽の出入りが行える。

また、これらの介護用品は、介護保険制度を利用して貸与や購入費の補助を受けられる場合があります。

参照:『入浴補助用具』(テクノエイド協会)

自宅で寝たきりの方をお風呂に入れる際のポイントと注意点

自宅で寝たきりの方をお風呂に入れる際のポイントと注意点 自宅で寝たきりの方を安全に入浴させるために、次のようなポイントに注意しましょう。

お風呂の環境を整える

浴室内での転倒を防ぐためには、滑り止めマットや床材の工夫が有効です。介護保険制度でも床面材料の変更が住宅改修の対象として認められており、床を滑りにくい素材へ変更したり、浴槽内に滑り止めマットを敷いたりすることが推奨されています。 そして、浴槽への出入りや洗い場での立ち上がりの動作を支えるため、浴室内の要所に手すりを取り付けましょう。手すりの種類や長さは介護される方の体格や動線に合わせ、しっかり握れる高さ・位置に調整しましょう。

参照:『手すりを上手に使う~その人に合わせるために~』(テクノエイド協会)

体温変化や血圧変動への配慮

入浴の前後では体調が変化しやすいため、体温変化や血圧変動に配慮します。 特に、冬場は浴室と脱衣所の急激な温度差によるヒートショックが起こる可能性があります。ヒートショックとは温かい部屋から寒い脱衣所・浴室へ移動し熱い湯に浸かることで血圧が乱高下し、失神や心疾患・脳卒中を招く現象です。

ヒートショックの予防のために、浴前に脱衣所や浴室を十分暖めておくことが消費者庁から推奨されています。 さらに、入浴するタイミングも配慮しましょう。食後すぐや体調不良のときは避けて、本人の疲れ具合を考慮して行いましょう。

参照:『冬期に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!自宅の浴槽内での不著の溺水事故が増えています』(消費者庁)

皮膚トラブルや床ずれ部位の観察

入浴や着替えの際は骨が出て当たりやすい部位(背中・仙骨・お尻・かかと・くるぶし・肘・耳の後ろなど)を中心に、皮膚の赤みや擦れ、水ぶくれ、痒みの有無などのトラブルがないか丁寧に観察しましょう。皮膚に赤みがある場合は指で軽く圧迫して、白く変化するか確認します。押しても白くならず、赤みが戻らない場合は床ずれの可能性があるため、早めに医師や看護師に相談しましょう。

ケアマネジャーに相談してアドバイスをもらう

在宅介護で入浴や清潔ケアに不安がある場合は、まずケアマネジャーに相談しましょう。ケアマネジャーは、介護保険サービスを利用するための窓口となる存在で、本人や家族の希望を聞き取り、最適なケアプランを作成してくれます。 例えば、「お風呂の介助をしたいけど一人では怖い」「腰を痛めそうで不安」といった悩みがあれば、必要に応じて訪問介護や訪問入浴サービスの導入を提案してもらえます。 さらに、介護用品や福祉用具の選定もケアマネジャーがサポートします。

介護は、家族だけで抱え込むと心身の負担が重くなりがちです。ケアマネジャーに相談することで、介護サービスを組み合わせた支援体制を整えられ、介護される方と介護者が安心して暮らせる環境づくりにつながります。

参照:『介護支援専門員(ケアマネジャー)』(厚生労働省)

まとめ

まとめ 寝たきりの方を自宅で入浴させることは、転倒リスクや介助者の身体的負担、浴室設備の問題など、多くのハードルがあります。入浴が難しいときは、清拭や部分浴で清潔を保ちましょう。 また、介護保険制度では福祉用具のレンタルや購入、住宅改修、訪問入浴サービスなどが利用できます。ケアマネジャーに相談し、必要な支援を組み合わせることで、家族だけで抱え込まずにケアを続けることが可能です。入浴は単なる衛生ケアではなく、心身のリラックスや生活の質向上にもつながる大切な時間です。安全で無理のない方法を選び、快適な入浴時間を確保しましょう。

この記事の監修医師