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認知症の介護で気を付けることは?対応方法や支援の内容を解説します

 公開日:2025/10/28
認知症の介護で気を付けることは?対応方法や支援の内容を解説します
認知症は記憶力や判断力に影響を与え、日常生活に困難をもたらす病気です。高齢の方が増えるなかで、認知症を持つ方を家庭で介護する状況は身近になっています。ご家族や介護を担う方にとって、どう接すればよいのか、どのような支援を利用できるのかを理解することは欠かせません。

介護では、部屋の環境を整える、食事や入浴を手助けするなど、小さな工夫が生活の安定につながります。また、介護者自身が悩みを抱え込みすぎないことも大切です。さらに介護保険制度を活用すれば、在宅支援や施設サービスを利用できます。本記事では、認知症の基礎知識から対応方法、活用できる支援まで幅広く解説します。
林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)

認知症の基礎知識

認知症の基礎知識 認知症は加齢に伴って発症しやすい病気ですが、単なる物忘れとは異なります。脳の神経細胞に変化が起こり、記憶や判断力などの働きに影響を及ぼし、生活全般に支障をきたします。認知症を理解することは、介護を始める第一歩です。ここでは、認知症とは何か、どのような症状が出るのか、そして進行の特徴を解説します。

認知症とは

認知症とは、脳の病気や障害によって記憶・思考・判断などの認知機能が低下し、社会生活や日常生活に支障が生じた状態を指します。代表的なものにはアルツハイマー型認知症脳血管性認知症レビー小体型認知症前頭側頭型認知症などがあり、それぞれ発症の仕組みや症状の現れ方が異なります。アルツハイマー型は記憶障害が目立ち、脳血管性では脳梗塞の影響から症状が階段状に進むことがあります。レビー小体型では幻視や手足の震え、歩行の不安定さを伴う場合があり、前頭側頭型では感情や行動の変化が先に目立つことがあります。

発症は65歳以上の高齢期が中心ですが、若年で発症する場合もあり若年性認知症と呼ばれます。進行は緩やかなことがよくあり、初期は本人や家族も年齢による物忘れと考えてしまうため、医療機関の受診が遅れることも少なくありません。

認知症の症状

認知症の症状は大きく中核症状行動・心理症状(BPSD)に分けられます。 中核症状は脳の神経細胞の障害そのものから生じる症状で、代表的なものは記憶障害です。最近の出来事を忘れてしまう、同じ質問を繰り返すといった変化がみられます。また、時間や場所、方の認識が難しくなる見当識障害、物事を筋道立てて考える力が弱まる判断力の低下なども含まれます。これらは病気の進行とともに徐々に強まっていきます。

一方、BPSDは環境や周囲の対応によって変化しやすい症状です。不安や怒り、うつ状態、幻覚、妄想、徘徊、暴言や暴力などが現れることがあります。例えば、周囲が忙しく対応が十分でないと不安が強まり、怒りとして表れることがあります。

認知症の進み方

認知症は多くの場合、段階的に進行していきます。初期には物忘れや時間感覚のずれがみられますが、本人がメモをとるなど工夫して生活を続けられることも少なくありません。中期になると、日常生活での支障が明らかになり、買い物や金銭管理、服薬管理が難しくなるほか、身の回りの動作にも介助が必要になってきます。人や場所の認識も不確かになり、混乱や徘徊が増える時期でもあります。さらに進行すると、食事・排泄・着替えといった基本的な行動も介助が欠かせなくなり、寝たきりの状態になることもあります。 ただし進行の速さや症状の現れ方には個人差があります。生活習慣病の合併や脳梗塞の既往、性格や環境要因などによって進み方は異なります。

参照:『認知症疾患診療ガイドライン2017』(日本神経学会)

介護が必要な認知症の方への対応方法

介護が必要な認知症の方への対応方法 認知症の方を支えるには、日常生活のさまざまな場面で思いやりと工夫が欠かせません。環境を整えることや、食事・入浴・排泄の介助を工夫することは、暮らしの安定につながります。さらに、予想外の行動やトラブルにどう対応するかも重要です。介護する方にとって負担を減らし、認知症の方が安心して生活を送れるようにするための方法を解説します。

環境作り

認知症の方は変化に敏感で、見慣れない状況に不安を感じやすいです。家具の配置はできるだけ変えず、日用品も決まった場所に置くことで混乱を減らせます。段差やカーペットのめくれといった転倒の危険を取り除くことも欠かせません。特に居間や寝室、トイレまでの動線は毎日利用するため、安全に移動できるよう確認しておきましょう。また、カレンダーや時計を大きく見やすく配置し、季節に合わせた飾りを添えると、時間や季節の感覚をつかみやすくなります。さらに、好きな写真や思い出の品を飾ることで安心感が生まれ、家庭のなかで自分らしく過ごすことができます。

食事サポート

食事は身体の健康を守るだけでなく、楽しみや生活の張り合いにもつながります。しかし認知症が進むと、食べ方を忘れたり、飲み込みにくさが出たりすることがあります。誤嚥を防ぐためには、食事中の姿勢を正しく保つことが基本です。食材をやわらかく調理する、彩りを意識して盛り付けるなど、食欲を引き出す工夫も有効です。また、本人が混乱しないよう、食器の種類を減らし、一度に提供する品数を少なくするとわかりやすくなります。

入浴サポート

入浴は清潔を保つだけでなく、リラックス効果や血行促進の効果もあります。しかし認知症の方にとっては、浴室の冷たさや裸になることへの抵抗感から不安や拒否が強くなることもあります。事前に浴室を温めておく、湯温をぬるめに保つ、身体にタオルをかけて不安を和らげるなど、細やかな配慮が役立ちます。また、入浴のタイミングを毎回同じ曜日や時間に決めると習慣化しやすく、混乱も減ります。シャワー浴や部分浴を組み合わせるなど、本人の負担を軽くする工夫も取り入れるとよいでしょう。

排泄介助

排泄は生活の基本であり、尊厳に直結するため、できる限り自立を保つことが望ましいです。トイレの場所を示すサインをわかりやすく設置する、夜間には足元を照らす照明を置くといった工夫で、トイレへの誘導がスムーズにできることがあります。介助が必要な場合は、羞恥心に配慮して丁寧に声かけを行い、できる範囲で本人の意思を尊重することが大切です。おむつを使う場合も、皮膚を清潔に保ち、違和感が少ない製品を選ぶことで快適さを維持できます。

トラブル対応

認知症の方は時に怒りっぽくなったり、徘徊や幻覚などの行動がみられたりすることがあります。これらの背景には、不安や混乱、身体の不快感などが隠れていることが多いため、まずは原因を探る姿勢が大切です。無理に止めようとせず、気持ちを受け止めたうえで安全を確保し、落ち着ける場所に誘導する、興味のあることに注意を向けるといった工夫が有効です。介護者が冷静に対応することで、状況を長引かせずに済むことも少なくありません。また、同じ行動が繰り返される場合は、医師や介護スタッフと連携して対応方法を相談しましょう。

認知症の方を自宅で介護する際に気を付けること

認知症の方を自宅で介護する際に気を付けること 自宅で認知症の方を支えることには、住み慣れた環境で過ごせる安心感や、家族とのつながりを保てるという大きな利点があります。一方で、介護を担うご家族が心身に大きな負担を抱えることも少なくありません。介護を続けていくためには、認知症の特徴を理解するだけでなく、介護する側が無理をせずに支援を受けながら取り組むことが重要です。

家族や介護者が悩みを抱えこまない

介護は短期間で終わることは少なく、年単位で続く場合がしばしばあるため、気付かないうちに疲労や孤独感が積み重なります。一人で抱え込まず、困ったときには医療機関地域包括支援センターに相談し、専門職の助言を得ることが大切です。また、ショートステイデイサービスを利用して介護者が休養をとる時間を確保すると、気持ちをリセットして介護を続けやすくなります。できれば家族全員で負担を分け合い、役割を調整するようにしましょう。

認知症を理解して寄り添う

認知症の症状は本人の性格や努力の問題ではなく、病気による脳の変化が原因です。この理解があるかどうかで接し方が大きく変わります。例えば同じ質問を繰り返しても叱らずに答える、できないことを責めずにできる部分を支えるなど、本人の尊厳を守る姿勢が大切です。

公的な支援やサービスを活用する

介護保険制度を利用すれば、訪問介護・訪問看護・デイサービス・福祉用具のレンタルなど、幅広いサービスを組み合わせることができます。こうした支援を使うことで、家族だけで介護を背負わずに済み、心身の余裕を保つことができます。サービス利用の相談窓口であるケアマネジャーに早めに相談し、介護の状況に合った支援を導入することが重要です。将来的に施設入所を検討する際にも、在宅での経験や記録が役立ちます。

要介護の認知症の方が活用できる支援やサービス

在宅介護の支援サービス 認知症が進行すると、日常生活において介助が欠かせなくなり、家族だけで支えることは難しいです。そのようなときに活用できるのが介護保険制度を通じた支援サービスです。在宅で暮らし続けるための仕組みから、医療と介護を一体的に提供する施設、そして長期入所型の介護施設まで、状況に合わせて選択することが可能です。ここでは代表的なサービスの特徴を整理します。

在宅介護の支援サービス

在宅で介護を続ける場合、訪問介護訪問看護は心強い存在です。訪問介護では食事や入浴、掃除といった生活援助や身体介護を受けられます。訪問看護は医師の指示に基づき、看護師が健康管理や服薬確認、褥瘡予防などを行います。さらにデイサービスを利用すると、日中に施設で食事や入浴、機能訓練を受けられ、家族は介護から解放される時間を確保できます。福祉用具のレンタルや住宅改修制度を利用すれば、手すりの設置やベッドの導入なども可能で、自宅での生活をより安全に継続しやすくなります。

介護医療院

介護医療院は、医療と生活支援を一体的に提供する施設です。認知症に加えて慢性疾患を抱える方や、在宅介護が難しい場合におすすめの選択肢です。医師や看護師が常勤しているため、体調変化や医療的な管理にも対応できます。生活面では食事や入浴、排泄などの介護を受けながら、療養と日常生活が両立できるのが特徴です。長期的に医療と介護の両方を必要とする認知症の方に適した施設といえます。

老人ホーム

老人ホームには、特別養護老人ホーム(特養)介護老人保健施設(老健)有料老人ホームなどいくつかの種類があります。特養は要介護度が高い方の長期入所が可能で、費用負担も抑えられています。老健は在宅復帰を目的としており、医療・リハビリに重点が置かれています。有料老人ホームは民間施設で、サービス内容や費用は幅広く、居住環境や介護体制を選びやすいのが特徴です。認知症の方の場合、見守りや生活支援が充実した施設を選ぶことが生活の安定につながります。

参照:『公表されている介護サービスについて』(厚生労働省)

まとめ

まとめ 認知症は記憶や判断力の低下だけでなく、生活全体に影響を及ぼす病気です。そのため介護を担うご家族にとっては、どのように支えたらよいのか迷う場面も少なくありません。大切なのは、認知症の症状を正しく理解し、本人が安心できる環境を整えながら、無理のない範囲で介護を続けることです。

食事や入浴、排泄といった日常生活の支援には、ちょっとした工夫が大きな効果をもたらします。また、行動や心理の変化がみられるときも、本人の気持ちを尊重しつつ落ち着いて対応することが安定した介護につながります。同時に、介護者自身が抱え込みすぎないようにすることも忘れてはなりません。

介護保険制度を通じた訪問介護やデイサービス、介護医療院や老人ホームといった施設サービスを活用すれば、介護の負担を軽減することができます。早めに医師やケアマネジャーと相談し、状況に合った支援を取り入れることが、本人と家族の双方にとってよりよい生活につながるでしょう。

この記事の監修医師