子宮筋腫の大きくなる速度が速いと「子宮肉腫」の可能性が?【医師監修】
子宮肉腫という病気をご存じでしょうか。子宮筋腫という病気もあり、名前は似ていますが、全く違う病気です。本記事では子宮肉腫の大きくなる速度について以下の点を中心にご紹介します。
- ・子宮肉腫とは
- ・子宮肉腫の種類
- ・子宮肉腫の治療
子宮肉腫の大きくなる速度について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。
監修医師:
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)
目次 -INDEX-
子宮筋腫の大きくなる速度が速いと子宮肉腫の疑いがある
子宮筋腫は、30歳以上の女性の20-30%に見られる非常に一般的な腫瘍であり、がんではありません。しかし、筋腫の大きさや成長の速さによっては、悪性の子宮肉腫との区別が難しくなることがあります。特に、筋腫の大きくなる速度が速い場合、子宮肉腫の疑いが生じることが指摘されています。子宮肉腫は、筋腫とは異なり、がん(悪性の腫瘍)であり、早期の診断と治療が非常に重要です。
したがって、筋腫の大きさや成長の速さに変化が見られた場合、医師の診察を受けることが推奨されます。
子宮肉腫とは?
子宮肉腫とは、子宮の筋肉や間質などの組織から発生する悪性の腫瘍で、主に子宮体部に形成されます。この疾患は、子宮筋腫や子宮体がんとは異なります。子宮筋腫は子宮の筋肉から成る良性の腫瘍で、子宮体がんは子宮の内膜から発生する悪性の腫瘍です。
子宮肉腫は、腫瘍化する細胞の種類に応じていくつかのサブタイプに分類されます。その中で、平滑筋肉腫や子宮内膜間質肉腫が多く見られる一方、腺肉腫などはまれです。また、癌肉腫は、肉腫とがん腫が混在する特殊な悪性腫瘍で、子宮体がんの特性を持ちます。このため、癌肉腫は子宮肉腫とは異なり、子宮体がんとしての治療が考慮されることが多いです。
子宮肉腫は早期発見と適切な治療が重要であり、専門的な知識と経験を持つ医師の診察が推奨されます。
子宮肉腫の種類
前述した子宮肉腫を3種類、解説していきます。
子宮平滑筋肉腫
子宮平滑筋肉腫は、子宮の肉腫の中で特に注目される悪性腫瘍の1つです。子宮肉腫は、子宮体部の悪性腫瘍の約8%を占める稀な腫瘍で、40〜60歳代の女性に好発します。子宮平滑筋肉腫は、この中でも36〜38%を占め、特に50歳前後の女性に多く見られる疾患です。
この腫瘍は、子宮筋腫との鑑別が難しく、多くの場合、子宮筋腫として治療が進められ、手術後の病理組織検査で初めて平滑筋肉腫であることが判明することがあります。特に、閉経後にもかかわらず腫瘍が大きく成長していく場合は、子宮平滑筋肉腫の可能性が高まります。治療の基本は手術療法で、リンパ節への転移は少ないため、単純子宮全摘出と両側付属器摘出が標準的な術式となっています。
子宮内膜間質肉腫
子宮内膜間質肉腫は、子宮の特定のサブタイプの悪性腫瘍として知られています。この腫瘍は、子宮の結合組織から発生し、特に50歳前後の女性に多く見られる疾患です。
子宮内膜間質肉腫は、他の子宮の腫瘍とは異なる特性を持っており、特定の症状を伴うことが多いです。治療のアプローチとしては、手術療法が基本となります。この腫瘍の特性として、リンパ節に転移しやすい傾向があるため、手術の際にはリンパ節の摘出も考慮されることが多いです。
早期の発見がキーとなり、患者の予後を大きく左右します。異常を感じた際や、定期的な健診での早期発見が、治療の成功に繋がるため、医師の診察が推奨されます。
子宮がん肉腫
子宮がん肉腫は、子宮体がんと病態的に類似した特性を持つ悪性腫瘍です。この腫瘍は、治療のアプローチにおいても子宮体がんの高悪性度と同様の方法が推奨されています。治療ガイドラインでは、子宮がん肉腫の治療に関して「子宮体がんの高悪性度と同様に治療するべし」との指針が示されています。しかし、この疾患の全体の50%生存期間(mOS)は28カ月と、予後が不良であることが特徴的です。治療に関しては、化学療法(抗がん剤)の選択や、再発時の治療戦略など、さらなる研究と進展が求められています。早期の発見と適切な治療が、患者の生存期間や生活の質を向上させる鍵となります。
子宮肉腫の症状
子宮肉腫は、特定の症状を持つわけではありません。初期段階では、ほとんど症状が現れないことが多いのですが、進行すると不正出血や下腹部の違和感、膨満感が現れることがあります。特に、子宮肉腫は短期間で急激に大きくなることがあるため、下腹部のしこりが急速に増大する場合は注意が必要です。さらに、大きくなった腫瘍が周囲の臓器を圧迫すると、下腹痛や頻尿などの症状が生じることもあります。
子宮肉腫の診断・検査
ここからは子宮肉腫の診断と検査について解説します。
内診
内診では、医師が腟や肛門を通して子宮の形状や大きさ、周囲の臓器との関係を直接触れて確認します。通常の子宮の大きさや形状と異なる場合や、特定の部位にしこりや硬さを感じる場合、それは子宮肉腫の可能性を示唆することがあります。内診だけでは確定的な診断は難しいため、異常が見られた場合はさらに詳しい画像検査や病理検査へと進むことが一般的です。内診は非侵襲的で簡便な検査方法であり、子宮やその周囲の異常を早期に発見するための重要な手段となります。
画像検査
子宮肉腫の診断において、画像検査は非常に重要な役割を果たします。子宮肉腫は、子宮体部の内膜や子宮頸管の粘膜に肉腫成分が露出しないため、子宮体がんとは異なる診断方法が必要とされます。このため、経膣超音波検査やMRIによる画像所見が診断の鍵となります。
MRIでは、出血、壊死、拡散抑制などの所見が子宮肉腫の疑いを示す重要な指標となります。特に、子宮筋腫との鑑別が難しいため、MRIの所見は非常に価値があります。筋腫と認識して摘出した組織が、病理診断の結果、肉腫であることが判明することもあるため、MRI検査の正確性は診断において極めて重要です。また、MRIで示される不均一な像や、急速な増大を示す筋腫は、肉腫の疑いを強める根拠となります。
細胞診・組織診をする病理検査
子宮肉腫の診断において、病理検査は非常に重要な役割を果たします。この検査には、細胞診と組織診の2つの方法があります。細胞診では、専用のブラシやチューブのような器具を使用して、腟から子宮の入り口や奥にある細胞を採取します。これにより、異常な細胞やがん細胞の存在を確認できます。
一方、組織診では、子宮内の組織の一部を器具で採取し、その組織を顕微鏡で詳しく調べることで、病変の性質や進行度を判断します。これらの病理検査は、子宮肉腫の診断だけでなく、治療方針の決定にも大きく寄与します。ただし、子宮体癌とは違って、子宮肉腫では子宮体部の細胞診・組織診ではわからないケースがあります。実際には、画像検査で子宮肉腫を疑い、最終的には手術によって確定診断される場合が多いです。
血液検査
子宮肉腫では、血液中のLDHという成分の上昇が確認されることがあります。このLDHは腫瘍マーカーとして利用されることがあるのですが、腫瘍の壊死を反映した結果としてLDHが増加することが知られています。ただし、子宮肉腫以外の病気でもLDHが上昇することがあるため、他の診断方法と組み合わせて総合的に評価することが求められます。具体的には、内診、病理検査、画像検査などが行われ、これらの結果を基に子宮肉腫の診断が下されます。血液検査だけではなく、これらの検査方法を組み合わせることで、より正確な診断が可能となります。
子宮肉腫のステージ
では、子宮肉腫のステージについても見ていきましょう。
子宮平滑筋肉腫・子宮内膜間質肉腫の分類
子宮肉腫の進行期分類は、患者の予後を予測し、治療方針を決定するために非常に重要です。子宮平滑筋肉腫と子宮内膜間質肉腫は同じ進行期分類を使用しています。具体的には、TNM分類とFIGO分類があります。
例えば、T1は腫瘍が子宮に限局するものを示し、T2は腫瘍が骨盤腔に及ぶものを示します。さらに、T3は腫瘍が骨盤外に進展するものを示しています。また、N1は骨盤リンパ節や傍大動脈リンパ節転移のあるものを示します。T4は膀胱や直腸粘膜に浸潤のあるもの、M1は遠隔転移のあるものを示しています。
子宮がん肉腫の分類
がん肉腫は、子宮体がんに近い病態を持つため、子宮体がんと同じ進行期分類が適用されます。具体的には、TNM分類とFIGO分類が存在します。
例として、T1は腫瘍が子宮に限局するもの、T2は腫瘍が骨盤腔に及ぶもの、T3は骨盤外に進展するもの、T4は膀胱や直腸粘膜に浸潤のあるものを示します。また、N1は骨盤リンパ節や傍大動脈リンパ節転移のあるもの、M1は遠隔転移のあるものを指します。
これらの分類は、病状の進行度や転移の有無に基づいています。
子宮肉腫のステージごとの治療
子宮肉腫の治療についてステージごとに詳しく解説していきます。
Ⅰ期の子宮肉腫の治療
Ⅰ期の子宮肉腫は、腫瘍が子宮内に限局しており、リンパ節転移や遠隔転移が確認されない段階を指します。このステージの主な治療としては、手術が第一選択とされます。具体的には、子宮全摘出術や子宮体部切除術が行われることが多いです。手術後、再発のリスクが高いと判断される場合には、放射線治療や化学療法が追加で行われることもあります。治療の選択は、患者の年齢や子宮肉腫の種類、健康状態など、多くの要因を考慮して決定されます。
Ⅱ期の子宮肉腫の治療
ステージⅡ期の子宮肉腫では、腫瘍が子宮の筋層を超えて成長していますが、子宮外への拡大は見られない段階を指します。このステージの治療としては、手術が第一選択とされることが多いです。具体的には、全子宮摘出術や骨盤リンパ節郭清を伴う手術が行われることが一般的です。また、手術後や手術が困難な場合には、放射線治療や化学療法が併用されることもあります。
Ⅲ期の子宮肉腫の治療
ステージⅢの子宮肉腫においては、腫瘍の発生部位や大きさによって、切除が困難と判断される場合があります。このような場合、化学療法や放射線治療が主に行われます。これらの治療を受けた後、腫瘍が切除可能と判断されれば、手術が行われることも考えられます。
しかし、切除が困難であると再評価された場合、化学療法、放射線治療、または緩和ケアのいずれかが選択されることとなります。特に、腫瘍の位置や大きさが日常生活に影響を及ぼす場合、患者の生活の質を維持・向上させるための治療が重視されます。
Ⅳ期の子宮肉腫の治療
子宮肉腫のステージ4では、原発巣と転移巣の両方が切除可能な場合、ステージ2〜3と同様の治療が適用されます。一方、原発巣や転移巣が切除不能と判断された場合、化学療法や放射線治療が行われ、その後再度切除の可能性を評価します。切除が可能となった場合、手術が行われることもあります。
しかし、切除が不可能と判断された場合、化学療法、放射線治療、または緩和ケアが選択されることが多いです。特に、手足に発症した肉腫で肺への転移がある場合、原発巣や転移巣のどちらかが切除可能であれば、手術が選択されることがあります。
子宮肉腫についてよくある質問
ここまで子宮肉腫の症状を紹介しました。ここでは「子宮肉腫の症状」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
子宮肉腫の患者数はどれくらいですか?
馬場 敦志医師
1年間に新たに診断される子宮肉腫の患者数は約800人と推測されています。この数は、子宮体部に発生する悪性腫瘍の約8%を占めることからも、その希少性が伺えます。子宮肉腫は、発生する組織の種類によって大きく3つに分類され、その中でもがん肉腫が多く、全子宮肉腫の46%を占めています。
子宮肉腫の予防方法はありますか?
馬場 敦志医師
子宮肉腫は、良性の子宮筋腫と悪性の子宮肉腫の判別が難しい疾患です。そのため、子宮肉腫を早期に発見し、適切な治療を受けるための予防策として、定期的な婦人科検診が非常に重要とされています。検診により、子宮の大きさや状態を以前の状態と比較し、異常があるかを確認できます。特に、子宮筋腫と診断された場合や、子宮が急激に大きくなることや、閉経後に不正出血などの異常が出た場合は、早めに医師の受診が推奨されています。
編集部まとめ
ここまで子宮肉腫の大きくなる速度についてお伝えしてきました。子宮肉腫の大きくなる速度の要点をまとめると以下の通りです。
⚫︎まとめ
- ・子宮肉腫とは、子宮の筋肉や間質などの組織から発生する悪性の腫瘍で、主に子宮体部に形成される。
- ・子宮肉腫は、子宮平滑筋肉腫や子宮内膜間質肉腫、子宮がん肉腫などがある。
- ・子宮肉腫の治療はステージごとに異なり、手術や化学療法、放射線治療などが状態によって選択される。
「子宮肉腫」と関連する病気
「子宮肉腫」と関連する病気は2個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
子宮筋腫は、子宮の筋肉から発生する良性の腫瘍であり、子宮肉腫とは異なる疾患です。一方、子宮体がんは子宮の内膜から発生する悪性腫瘍で、これも子宮肉腫とは異なる疾患として扱われます。これらの疾患は、名称や発生部位、性質が似ているため、正確な診断や治療方針の選択が重要となります。
「子宮肉腫」と関連する症状
「子宮肉腫」と関連している、似ている症状は2個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 腹部膨満感
- 不正出血
子宮肉腫に特有の症状は存在しないため、診断が難しいことがあります。上記の症状は、子宮筋腫や子宮がんとも共通しています。特に、閉経後に子宮筋腫と診断されていた腫瘤が急激に大きくなる場合は、子宮肉腫の可能性が高まります。正確な診断のためには、専門的な検査や評価が必要となります。上記のような症状が少しでも気になれば、早めに病院へ行き相談しましょう。