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この薬は大丈夫?歯周病治療と内服薬の関係

 更新日:2023/03/27

こんにちは。日本歯周病学会認定医としてメープルデンタルクリニック大久保で勤務している剣持正浩と申します。
みなさんは、自分の飲んでいる薬の名前をしっかり覚えていますでしょうか?例えば『血圧を下げる薬とはわかっていても、名前を思い出せない』なんてことは、よくあることではないでしょうか?
また、歯科医院を受診するうえでも、『この薬は歯医者の治療に関係するのかな。伝えておいた方がいいかな?』、『歯医者で出された薬と、いつも飲んでいる薬の飲みあわせは大丈夫かな?』、『歯医者だし、飲んでいる薬は関係ないだろう』などなど、人によってさまざまだと思います。しかし、服用している薬が歯科治療に影響を及ぼす場合があります。
自分の服用している薬と歯科治療の関係について、心配になられる方もいらっしゃるかと思います。
そこで今回は、歯周病治療と関わりの深い薬についてお話しをさせていただきます。

 薬によって歯周病が起こる?

てんかんの発作を防止する抗てんかん薬(フェニトイン)やCa拮抗薬(ニフェジピン)と呼ばれる血圧を下げる降圧薬、体のなかで過剰に起こっている免疫反応を抑制する免疫抑制薬(シクロスポリンA)は長期間の服用により、副作用として歯ぐきが腫れる歯肉増殖症が起きることがあり、これを薬物性歯肉増殖症といいます。ひどくなると歯を覆ってしまうぐらい歯ぐきが腫れることがあります。発生頻度は20〜50%といわれていますが、なぜ歯ぐきが腫れるのかについて、決定的な原因はわかっていません。
 

 薬物性歯肉増殖症

症状

  • 歯ぐきの腫れは前歯部に起こりやすいといわれています。
  • 口のなか全体に及ぶものと、部分的に腫れるものがあります。
  • 必ずしも、薬の影響で歯ぐきが腫れるとは限らないですし、純粋にプラークコントロールが悪いために、歯ぐきが腫れている場合もあります。
  • 歯ぐきが腫れると、ブラッシングが難しくなり、さらに歯ぐきが腫れることで、虫歯ができやすくなったり、歯周病が進行しやすくなります。
  • もとから、プラークコントロール(プラークコントロールとは、プラークを除去し、再付着を防止することにより、口腔内を清潔に保つことをいいます。)が悪いと、より歯ぐきが腫れやすくなります。

 

治療

  • 原因が薬によるものか、プラークによるものかを判断します。
  • 歯ぐきの腫れが薬によるものであれば、医科の主治医と連携し、可能であれば、薬を減らしてもらったり、変更してもらったり、中止してもらう場合もあります。
  • 一番やってはいけないことは独自に薬を辞めることです。必ず、主治医の判断を仰ぎましょう。
  • 基本的には、普通の歯周病治療と同じように、プラークコントロールを徹底します。
  • それでも改善しない場合は、歯ぐきを切除する歯周外科処置などに移行することもあります。
  • 歯ぐきの腫れがおさまったとしても、継続したプラークコントロールと歯科医院でのメンテナンスが必要です。

 

 血をサラサラにする薬を飲んでいるのだけど・・・

血液をサラサラにする薬といわれる抗血栓薬ですが、主にアスピリンを代表とする動脈血栓症(アテローム血栓性脳梗塞・心筋梗塞・狭心症・閉塞性動脈硬化症)を対象疾患とした抗血小板薬と、ワーファリンを代表とする静脈血栓症(心房細動・静脈血栓塞栓症・心原性脳塞栓・リウマチ性弁膜症)を対象疾患とした抗凝固薬の2種類があります。 血液をサラサラにするわけですから、もちろん血が止まりづらくなります。 このことは、歯科治療を行う上で、大きな注意事項となります。『歯科治療って出血することってある?』と思われる方もいるかもしれませんが、通常の虫歯治療において、出血することはほとんどありません。しかし、歯周病治療は、歯周ポケット検査・歯石除去・抜歯・歯周外科手術など、出血する処置が多いため、血液をサラサラにする薬を服用されている場合には注意が必要です。

 抗血栓薬を飲んだまま抜歯できるの?

では、『抗血栓薬を飲んでいたら抜歯できないの?』、『抜歯をするなら抗血栓薬をやめなくてはいけないの?』と思われるかもしれませんが、この2つの疑問に答えるなら、どちらの答えも『No』になります。
脳血管障害や心筋梗塞発症直後などの特殊な状態や他の全身疾患は別として、薬だけの問題であるとするならば、抜歯はできます。条件はありますが、『科学的根拠に基づく抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン2015年改訂版』によると、抗血栓薬を服用したまま、抜歯を行うことが推奨されています。
例えば、抗凝固薬のワーファリンは血液のサラサラ具合をPT-INR(数が多いほどサラサラ)という検査値で表すのですが、PT-INRが3.0以下であれば、重篤な抜歯後出血は生じないともいわれています。
しかし、抗血小板薬を飲んでいる方の抜歯を行う上で、適切な検査はないと報告されていますが、出血時間を参考にすることが多いと報告されています。
 
科学的根拠に基づく抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン(2015年改訂版)によると、ワーファリンを抜歯時に中断した場合、約1%の患者に重篤な血栓・塞栓症が発症する可能性があると報告されていますし、同様に抗血小板薬を中断しても、脳梗塞・急性心筋梗塞の発症する可能性は上昇すると報告されています。
 

一番大事なこと

『出血するかもしれないという恐怖心から、独自の判断で抗血栓薬を中止してしまうこと』です。必要あれば、医科の主治医ともコンタクトをとりますし、特殊な状況でなければ、歯科医院でも十分、止血可能ですから安心してください。
 

 まとめ

現在、日本は医療や公衆衛生の発展により、男女とも平均寿命が世界3位以内ですが、年を重ねるにつれ、薬を常用する機会が増えていっていると思われます。数種類の薬を飲んでいると、薬の名前を覚えるのも大変ですが、歯科治療に影響を及ぼす可能性がある薬があるのも事実です。
薬の名前を覚えるのが苦手な方は、ぜひお薬手帳を持ちましょう。また、歯科医院で治療を受ける時も、必ず提示して相談してみましょう。

この記事の監修歯科医師