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歯周病がひどいと子供に遺伝する?

 更新日:2023/03/27

こんにちは、日本歯周病学会認定歯周病専門医でたまプラーザにある美しの森デンタルクリニック院長の村野嘉則と申します。
さて、歯周病専門医として日々診療にあたっていると患者様から「歯周病がひどいと子供にも遺伝しますか?」という質問を受けることが度々あります。歯周病で悩まれている方々が、子供にはこんな思いをしてほしくないと思われることはよく理解できます。今回は歯周病と遺伝の関係お子様への影響についてご説明しようと思います。

 歯周病とはなんでしょう?まず、歯周病についておさらいしましょう。

歯周病とはお口の中に棲んでいる歯周病原菌が原因となり引き起こされる慢性炎症です。この歯周病には大きく分けて歯肉炎歯周炎があります。
歯肉炎とは歯の周りの歯肉にのみ炎症を起こし腫れている状態で、その多くは歯に付着する細菌の塊であるプラークが原因となり生じる歯肉炎や、特殊なものでは妊娠中の女性がなりやすい、女性ホルモンに関係した妊娠性歯肉炎などがあります。
プラークが原因となる歯肉炎はブラッシングで落とせなかったプラーク(細菌)が原因ですので、ご自身でしっかりとプラークを取り除くようにすれば治ります。炎症も歯肉だけに起きているもので歯を支えている骨などには影響は見られません。簡単な治療で済む場合がほとんどですが重症化させないためには、早期発見が大切ですので、出血などを自覚した場合は、なるべく早くかかりつけの歯医者さん、もしくは歯周病専門医に相談し、的確な診断と治療を受けることが病気を重症化させないポイントとなります。
歯周炎のほとんどは慢性歯周炎と呼ばれるもので、まれに病気が急速に進行する侵襲性歯周炎があります。また、ダウン症候群、好中球減少症など特殊な遺伝性疾患において見られる特殊な歯周炎があります。歯周炎は歯肉炎から進行してしまったものが多く、歯肉の炎症が周りの組織に広がり、歯を支える骨が溶けてしまうなどの組織破壊が起きた状態です。ほとんど症状なく進行し悪化すると出血以外に膿が出る、歯がぐらつく、力を入れて噛めないなどの症状が出て生活に支障をきたすことも多くなります。ここまで進行してしまうと元の状態に治すことは難しくなる場合もあるため、定期的に検診を受けるよう心がける、出血などの初期症状に気付いた時点で、歯周病専門医に相談していただく方が安心です。

 歯周病は遺伝するの?

歯周病は細菌感染症です。お口の中に存在する歯周病原菌によって引き起こされ、成人の8割以上が歯周病、またはその予備軍と言われています。ギネスブックに世界で一番かかっている人が多い病気として登録されているほどです。
この歯周病は遺伝するのでしょうか?結論を先に言うと、通常の歯周病自体が遺伝することはありません。(非常にまれな特殊な歯周病で報告があります。)
歯周病は歯周病原菌に感染し、ブラッシングがうまくいっていないなどの原因により細菌の数が増えてしまい、細菌に対して抵抗する力(免疫力など)のバランスが崩れたときに発症するものです。歯周病の菌自体がお子様に遺伝することはありません。
ただ、歯周病原菌に対する抵抗力などの違いにより歯周病を発症しやすい人がいます。このような人は歯周病の細菌に対する抵抗力や免疫力が、もともと弱いと考えられます。そういった意味から、両親のどちらかが歯周病がひどい場合、その子供も遺伝により歯周病に対する抵抗力が弱くなる可能性があります。こういったことから、歯周病を発症しやすい免疫力や抵抗力の遺伝、歯周病になりやすい歯並びや唾液の性質などは、遺伝するかもしれないのです。歯周病そのものは遺伝しませんが、歯周病になりやすい性質は遺伝する可能性があるということです。また、遺伝性疾患といわれている糖尿病や白血病は歯周病の発症や進行に影響することが明らかになっています。両親にこれらの病気である場合、注意した方が良いでしょう。

 母親や父親が歯周病にかかっていると歯周病菌は子供にうつるか?

夫婦間で歯周病菌がうつることがあるという報告があり、お子様のお口の中に、もともと住んでいない種類の細菌が両親からうつる可能性はありますが、歯周病の原因となるものはいくつもの細菌が集まった状態のプラークというものです。幼児であればしっかりと仕上げ磨きをするなど、ブラッシングをしっかりとしていれば、お子様に歯周病菌がうつることはありません。
ただ、親が進行した歯周病にかかっている場合には、その体質を遺伝している可能性が高いため、遺伝的に歯周病菌に対する抵抗力が弱い子供になることがあります。歯周病原菌に感染した場合には歯周病を発症しやすくなる可能性が高くなるため、徹底したブラッシングをするなど注意することが必要です。

 歯周病にならないようにするにはどうしたらいいでしょう?

歯周病そのものは遺伝しませんが歯周病になりやすい性質は遺伝する可能性があります。通院されている患者様の中には歯磨きがとても上手なのに歯周病になってしまう人もいれば、それほどお上手ではないのに歯周病にならずに済んでいる人もいます。虫歯にまったくなっていないのに歯周病だけ進行しているような方もよくいらっしゃいます。このことからも歯周病になりやすい人となりにくい人がいることは歯周病専門医としても日々感じていることであります。しかし、歯周病は遺伝以外の多くの要因が重なってはじめて発症する病気です。歯周病の予防の基本である、プラークをためないようにしっかりブラッシングをすることはもとより歯周病を進行させるタバコ等を控えるなど、生活習慣を改めること。また、大きな力が歯に加わると歯周病を悪化させるため、歯ぎしりなどがあればしっかりコントロールする。糖尿病など歯周病に影響を与える病気にならないよう気をつけるなど、遺伝以外の事に気をつける事で歯周病を予防する事ができます。

 まとめ

歯周病はお口の生活習慣病といわれ、ブラッシングの不足や食生活の乱れなどの生活習慣を見直す事で予防する事ができます。また、歯周病は成人の80%がなっている病気とも言われ、ほとんど症状なく進行するため、定期的な歯科医院でのチェックが大切です。歯周病の心配のある方は、かかりつけの歯科医院か歯周病専門医にてご相談される事をおすすめします。

この記事の監修歯科医師