粉瘤とは、皮膚にできる良性腫瘍の一つです。本記事ではこの粉瘤について、主な種類や症状、治療方法などについてまとめています。「最近、小さなしこりができた」「しこりを取ったほうが良いのかわからない」「赤みや腫れを伴うしこりを取りたい」という方はぜひ最後までご覧ください。
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粉瘤について
皮膚の代表的なできものとしてニキビや湿疹、イボなどがあります。これらは非常にポピュラーな疾患のため、なぜできるか、どう対処すれば良いかなどは理解している方は多いかと思います。しかし、粉瘤に関して、特徴や種類、放置した時のリスク、治療方法などを詳しく説明できる方は少なく、「体に悪影響を与えるかも?」と不安になってしまう方もいらっしゃるでしょう。そこでまずは、粉瘤がどういった疾患なのか詳しくご紹介します。
粉瘤とは
粉瘤とは、皮膚の内側に袋状の構造物ができ、その中に本来であれば皮膚から剥げ落ちるはずの角質や皮脂がたまってしまう腫瘍の総称です。アテロームと呼ばれることもあります。袋の中にたまった角質や皮脂が自然と外に排出されることはないため、時間の経過とともに徐々に大きくなっていきます。サイズは数mmから数cmで、しこりの中央には黒点状の開口部があり、強く圧迫するとそこから臭くてドロドロした物質が出てくることがあります。体のどこにでもできる可能性がありますが、顔や首、背中、耳の後ろに特にできやすいと言われています。多くの方が「体が不潔だと粉瘤ができる」と考えてしまっていますが、清潔か不潔かは全く関係なく、体質や遺伝、外傷などが粉瘤の原因です。
粉瘤の種類
粉瘤は主に、表皮嚢腫・類表皮嚢腫、外毛根鞘嚢腫、多発性毛包嚢腫、炎症性粉瘤の4種類に大別されます。よく見かける一般的な粉瘤は、表皮嚢腫・類表皮嚢腫にあたります。表面に小さな黒い点や開口部が見られることが多く、その周辺を強く押すと内容物が出てくることがあります。外毛根鞘嚢腫はほとんどが頭皮に発生します。表皮嚢腫よりも硬いですが、見た目だけでは区別することが困難です。なお、外毛根鞘嚢腫は良性であるケースが多いです。多発性毛包嚢腫は体のどこにでもできる腫瘍で、直径1cmほどのプツプツとした腫瘍が多発します。表皮嚢腫などとは異なり、中央に黒点がないこと、多発すること、サイズが小さいことで見分けがつきます。マヨネーズのようなどろっとした黄色い内容物が出てくることがあります。炎症性粉瘤は、袋の中や周囲に膿がたまった状態で細菌感染を起こし、痛み・赤みを伴っているものを指します。「しこりが急に大きくなった」と患者さんが訴えたことにより発覚するケースが多いようです。炎症性粉瘤は内服抗生剤ではあまり良くならず、切開して膿・被膜・内容物を摘出する治療法が適しています。
粉瘤を放置するリスクについて
粉瘤は良性腫瘍であると前述したように、放置していても命に関わる危険性はありません。しかし、粉瘤を取らずに放置していると、症状が悪化して日常生活に支障を来す場合があります。また、症状が進行してから手術をすると、傷跡が残りやすいといったリスクもあります。ここからは、粉瘤を放置した時に起こる代表的なリスクについてご紹介します。
腫れや痛み
粉瘤を放置すると、いずれ何らかの刺激によって袋が壊れ、角質や皮脂が皮膚の内側に漏れてしまいます。そうすると、この異物に対して炎症が起き、腫れや痛みといった自覚症状が見られるようになります。この炎症が強いと手術で取りのぞくことが難しいため、炎症が治まるまで腫れや痛みと付き合わなければいけない可能性があります。
膿や臭い
炎症が起きると腫れや痛みとともに膿が出ることも少なくありません。この膿が衣類を汚してしまったり、納豆やチーズのような強い悪臭を放ったりすることがあります。
治療が長引く可能性がある
粉瘤は内服薬や外用薬だけでは治すことができません。原因となっている袋を手術で取りのぞくことで症状緩和が目指せます。また、粉瘤が自然と消失することはなく、小さくなったとしても再度大きくなってしまう可能性があります。大きくなった粉瘤を手術で切除するのには時間がかかり、傷跡も残りやすくなるといったリスクがあるということを覚えておきましょう。一方で、粉瘤が小さい時期に手術をすれば、比較的短い時間で手術が完了し、傷跡が残りにくくなります。
粉瘤の治療
ここからは粉瘤の治療方法についてご紹介します。あらかじめ治療の種類や流れを知っておくことで、どの方法が自分に合っているかを判別できたり、不安なことやわからないことについて治療前に医師に相談できたりするため、ぜひ参考にしてください。
粉瘤の治療法の種類
粉瘤の治療には2種類の方法があります。
1つ目は「くり抜き法」です。くり抜き法は、専用の機械で患部に小さく穴を開けてから内容物を絞り出した後に、粉瘤の原因となっている袋を取り出すという方法で、後述するメスによる手術に比べると手術時間が短く、傷跡も小さく済みます。クリニックによっては炎症を起こしている粉瘤に対してもくり抜き法によって手術を実施しているところがあり、腫れや痛みといった症状に悩んでいる方でも治療を受けられる場合があります。
2つ目の方法は「切開法」と言い、メスを用いて患部を切開し粉瘤を摘出する方法です。粉瘤のサイズが大きかったり、患部の皮膚が分厚かったりする場合は切開法が採用されます。くり抜き法よりも傷跡が大きくなること、炎症が起きている時は手術ができないことがデメリットとして挙げられますが、粉瘤が再発しにくく、対応できる医療機関が多いという点がメリットです。
手術について
くり抜き法・切開法について、それぞれの手術の流れや手術にかかる時間、手術の際の注意事項、費用などについてご紹介します。
粉瘤の手術の流れ
まずはくり抜き法の流れを説明していきます。くり抜き法は手術前にペンで患部にマーキングします。その後に局所麻酔を注射し、麻酔が効いたら特殊な機械で粉瘤に1~5mm程度の小さな穴を空けます。穴から内容物を揉み出して粉瘤の袋を空にしたら、ピンセットなどの器具を使って取り残しのないように袋を丁寧に抜き取っていきます。最後に、袋の成分が残っていないか、内部が正常組織のみになっているかを確認したうえで縫合します。患部の状態によっては縫合をしない場合もありますが、傷跡が小さいため問題なく過ごすことができます。続いて切開法についてです。切開法もくり抜き法と同様に、粉瘤にマーキングをします。併せて切開ラインもデザインし、患部に局所麻酔を施します。麻酔が効いたらメスで皮膚を切開し、粉瘤を袋ごと剥がして摘出します。しっかりと止血をして切開部を縫い合わせたら手術は完了となります。
粉瘤の手術にかかる時間
癒着具合や粉瘤の大きさによって差はありますが、手術にかかる時間は5分~30分ほどです。麻酔をするため痛みはほとんどなく、手術が終わった後に強い痛みを感じるといったことも少ないです。
手術の際の注意事項
手術後はシャワーであれば当日から入ることができます。運動や入浴、過度な飲酒は血流が良くなって出血しやすくなるため控えるようにしましょう。また、術後は患部に盛り上がりや硬さを感じるかもしれませんが、傷口を修復する反応のため触ったり揉んだりしないようにしてください。3カ月ほどたつとこれらの症状は少しずつ治まります。患部に赤みが見られることもあります。こちらも傷を治すための自然な現象のため、心配ありません。1~3カ月ほどで元の肌の色に戻っていくでしょう。
手術の費用
手術にかかる費用は、粉瘤の大きさや位置、保険診療における自己負担率(1割~3割)などによって変わります。さらに、診察料や処方料、初診料、検査費用などが加算される場合があるため、だいたいの目安をお伝えします。保険の自己負担率が3割の場合、粉瘤が小さければ5000円前後、大きければ1万円前後が相場となっています。かなり大きい粉瘤だと2万円ほどかかる場合もあるため、費用について治療を受ける前に事前に確認しておくことをおすすめします。
粉瘤ができやすい人
ここまでは粉瘤の特徴や代表的な治療方法についてご紹介しました。では、粉瘤ができやすい人というのはどんな人なのでしょうか。粉瘤ができやすい人の特徴や予防法について見ていきましょう。
粉瘤ができやすい人の特徴
本来であれば、皮脂や角質は皮膚のターンオーバーによって剥がれ落ちますが、それがたまってしまうことで粉瘤が生じます。角質や皮脂がたまってしまう原因としては、ホルモンバランスが乱れている、汗をかきやすいといった点が挙げられます。そのため、スポーツをしている方や仕事などで忙しくされている方、食事・睡眠などが十分に取れていない方などが粉瘤を発症するケースが多いようです。また、性別で見ると、女性よりも男性のほうが粉瘤ができやすい傾向にあります。
粉瘤ができやすい人の予防法
粉瘤は発生原因がはっきりしていないため、これといった予防法はありません。しかし、皮膚のターンオーバーやホルモンバランスの乱れが粉瘤につながるということがわかっていることから、栄養バランスを重視した食生活を送る、睡眠時間を十分に確保する、適度な運動をするといった生活習慣の改善は非常に有効的です。また、肌を清潔に保つ・刺激をできるだけ与えないようにするなど、肌をより良い状態に保っておくことに越したことはありません。
特に、外毛根鞘嚢腫は毛穴の詰まりによって生じるため、日頃からスキンケアに力を入れておくことが大切です。さらに、粉瘤はいじったりこすったりすると炎症を起こしてしまう可能性があります。炎症が起こると痛みが出るだけでなく、治療が長引いたり傷跡が大きくなったりするため、気になるかもしれませんができるだけ触らないようにして、早めに医療機関を受診すれば、重症化を防ぐことができます。
粉瘤と間違えやすい病気とそれぞれの治療方法
最後に、粉瘤と間違えやすい病気と、それに対する治療法についてご紹介します。
脂肪腫
脂肪腫(リポーマ)とは、皮下にできる良性の腫瘍です。脂肪や筋肉、血管、神経といった軟部組織にできる腫瘍の中で、最も発生頻度が高いと言われています。粉瘤と同じように体のどこにでも発生しますが、特に多くできる部位が首や肩・背中です。サイズとしては数mm程度のものから10cm以上のものまでさまざまで、気付かないこともしばしばあります。
痛みは基本的には伴わず、丸いドーム状に盛り上がっていることが特徴です。粉瘤は弾力のある触り心地ですが、脂肪腫の場合はゴムのように柔らかく、炎症を起こすことはありません。ただし、血管の中に腫瘍ができる「血管脂肪腫」の場合は痛みを感じる可能性があります。脂肪腫は内容物を注射器などで吸い出すことはできません。そのため、脂肪腫の真上の皮膚を切開し、組織を破らないように周囲から剥がして摘出するという治療法が一般的です。
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ニキビやおでき(せつ)も粉瘤と間違えやすい病気です。ニキビは、人間の約90%の人が経験すると言われている慢性炎症性疾患です。皮脂が毛穴に詰まり、そこにアクネ菌が増殖することでニキビを発症します。ストレスや不規則な生活スタイル、間違ったスキンケア、暴飲暴食などが原因と言われており、女性に多く見られます。命に直接関わる疾患ではありませんが、悪化すると跡が残る可能性もあるため、早めの治療が大切です。ニキビの治療としては、スキンケアや生活習慣の見直し、抗生物質の使用などが基本です。
おできは首や胸、顔、お尻によくできる疾患です。食中毒の原因としても知られている黄色ブドウ球菌が主な原因で、免疫が低下している時や外傷後にできた傷口から黄色ブドウ球菌が侵入することで発症します。肥満者や高齢者、糖尿病患者に多く見られます。放置していても自然に治ることがありますが、発熱や倦怠感などの症状悪化がある場合は、抗菌薬の内服や点滴治療を行う必要があります。これらの治療で症状緩和が見込めない場合は、切開をしてたまっている膿を外に出す処置が行われます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?粉瘤の特徴や治療方法、リスク、間違えやすい病気などについて理解を深めることができたかと思います。粉瘤は良性のため命に別状はありませんが、痛みや腫れ、悪臭といった症状に悩まされてしまうかもしれません。そうならないためにも、皮膚にできものができた場合は早めに医療機関を受診するようにしましょう。
参考文献