「インフルエンザ脳症」を発症するとどんな「異常行動」が現れることがある?【医師監修】

インフルエンザの流行期になると、高熱や倦怠感などの典型的な症状に加えて、まれにインフルエンザ脳症と呼ばれる重い合併症が起こることがあります。特に子どもに多く見られ、突然意味のわからない言動をしたり、幻覚のような発言をするなど異常行動を示すことがあります。発症から短時間で症状の進行があるため、早期発見と受診が重要です。本記事は、インフルエンザ脳症にみられる異常行動の特徴や、緊急受診が必要なサインを解説します。

監修医師:
伊藤 規絵(医師)
目次 -INDEX-
インフルエンザ脳症にみられる異常行動とは

インフルエンザ脳症で異常行動とはどのような行動ですか?
高熱に伴って脳の働きが急に乱れることで起こる、普段とはまったく違う言動や危険な行動のことを指します。具体的には意味不明なことを繰り返し話す、家族の呼びかけにきちんと反応しない、誰もいないのに何かが見える、いると訴えておびえるなどの異常な発言のほか、急に走り出す、部屋や家の外へ飛び出そうとする、ベランダや窓によじ登ろうとする、ウロウロ歩き回る、急に怒り出したり暴れたりするなどの行動が代表的です。
これらは一見すると寝ぼけている、いつもと少し様子が違う程度に見えることもありますが、短時間で悪化して意識障害やけいれんへの進行があり、インフルエンザ脳症の初期サインとして重要です。
参照:『インフルエンザ脳症ガイドライン 【改訂版】』(厚生労働省)
異常行動ではどのような発言がみられますか?
まず、いつもとまったく違う話し方や内容の発言がみられます。例えば、知っている言葉やフレーズを意味もなく繰り返したり、質問に対してまったくかみ合わない答えを返したりして、会話が成立しにくいです。また、「怖い」「死ぬ」など、強い恐怖や不安を訴える言葉を繰り返し口にしたり、誰もいないのに「おばけがいる」「虫がたくさんいる」などと話しておびえる、などの幻覚をうかがわせる発言も典型的です。ろれつが回らず言葉がはっきりせず、家族の名前や自分がどこにいるのかがわからないような受け答えになることもあります。このような、突然現れる意味不明・不自然な発言は、インフルエンザ脳症の重要なサインの一つです。
参照:
『インフルエンザ罹患時の異常言動に関する 臨床的検討』(小児感染免疫)
『インフルエンザ』(徳島県医師会の小児科相談)
熱せん妄とインフルエンザ脳症の異常行動の違いを教えてください
発症直後は熱せん妄とインフルエンザ脳症の異常行動の見分けがつきにくいことも少なくないため、高熱と様子がおかしく、その状態が続く・悪化する場合は、熱せん妄と決めつけないことが大切です。見た目はどちらも高熱に伴う異常行動ですが、症状の持続時間や意識の戻り方、全身状態の観察が重要です。熱せん妄かどうかは経過観察で改善するかが一つの目安ですが、おおむね一時間以上連続または断続的におかしな様子が続く、視線が合わない・呼びかけに反応しない、けいれんを伴うなどの場合は、インフルエンザ脳症などを疑い、すぐの受診が大切です。
参照:
『インフルエンザ脳症について』(荒尾市立有明医療センター)
『インフルエンザ脳症ガイドライン 【改訂版】』(厚生労働省)
『インフルエンザ』(徳島県医師会の小児科相談)
インフルエンザ脳症で異常行動がみられる理由を教えてください
インフルエンザ脳症で異常行動がみられる理由は、インフルエンザウイルスそのものだけでなく、それに対する身体の免疫反応が脳の働きに影響するためと考えられています。インフルエンザにかかると、体内ではウイルスを排除しようとしてサイトカインと呼ばれる物質が大量に放出され、いわば免疫の暴走のような状態になることがあります。この高サイトカイン血症が脳にも影響すると、脳細胞がダメージを受けて、意識障害やけいれん、意味不明の発言や幻覚、徘徊などの異常行動が現れるとされています。ただし、なぜ一部の方だけが脳症を起こすのか、どの程度の免疫反応が引き金になるのかなど、詳細なメカニズムはまだ完全には解明されていません。
参照:
『神経系疾患分野|重症・難治性急性脳症(平成22年度)』(難病情報センター)
『インフルエンザの臨床経過中に発生する脳炎・脳症の疫学及び病態に関する研究(総括研究報告書)』 (厚生労働科学研究成果データベース)
インフルエンザ脳症の異常行動がみられたときの対処法

インフルエンザに罹患している子どもに異常行動がみられたらすぐ受診すべきですか?
緊急受診をした方がよい異常行動を教えてください
異常行動以外にも注意すべき症状はありますか?
インフルエンザにかかっている子どもでは、異常行動以外にも重症化のサインとして注意すべき症状がいくつかあります。特に重要なのは、呼吸・意識・全身状態の変化です。注意が必要な主な症状は、次のようなものがあります。
- 息が速い・苦しそう、ゼーゼーしている、胸が痛いなどの呼吸困難を疑う症状
- 顔色や唇が悪い(青白い・紫っぽい)、手足が冷たいなど、血のめぐり(血液循環)が悪そうな様子
- 何度も吐いて水分がとれない、下痢が続く、尿が少ないなど、脱水を疑う症状
- ぐったりして元気がない、何度起こしてもすぐ眠り込む、反応が鈍いなどの意識状態の悪化
- 激しい頭痛や首の痛み、強い機嫌不良(いつもと明らかに違う不機嫌さ)
これらの症状は、肺炎・心筋炎・インフルエンザ脳症・重度の脱水などにつながることがあります。高熱だけのインフルエンザと自己判断せず、こうしたサインがみられた場合は、早めに小児科や救急外来への相談・受診が大切です。
参照:『発熱したお子さんを見守るポイント』(日本小児学会)
インフルエンザ脳症を予防するためにできること

インフルエンザ脳症を予防することはできますか?
インフルエンザ脳症を完全に防ぐ方法はまだわかっていませんが、リスクを減らすためにできることはいくつかあります。まず、重要なのは毎年のインフルエンザワクチン接種です。ワクチンはインフルエンザそのものの発症や重症化を抑える効果があり、結果としてインフルエンザ脳症の発症リスクを下げることが期待されています。特に乳幼児や基礎疾患のある子ども、家族にハイリスクの方がいる場合は積極的な接種が推奨されます。
また、インフルエンザにかからないようにする一般的な対策(手洗い・アルコール消毒、マスク着用、人混みを避ける、適切な室温と湿度の維持)も、間接的に脳症予防につながります。いったんインフルエンザにかかった場合は、発熱後2〜3日間は重症化しやすい時期のため、こまめに様子を観察し、異常行動や意識の変化がないかを注意深く見守ることが大切です。
参照:
『Q57:インフルエンザ脳症はどうしたら予防できますか? 』( 一般社団法人 日本小児神経学会)
『インフルエンザ脳症の診療戦略』(日本医療研究開発機構研究費)
インフルエンザを発症した後にインフルエンザ脳症を防ぐ方法はありますか?
インフルエンザを発症した後に、インフルエンザ脳症を完全に防ぐ方法は残念ながらありませんが、重症化リスクを下げるためにできることはいくつかあります。まず大切なのは、発熱後、特に1〜2日間は重い合併症が出やすい時期とされるため、子どもの様子をこまめに観察し、意識の状態や言動の変化に注意して見守ることです。 「いつもと違う」「呼びかけに反応が弱い」「意味不明なことをいう」「急に走り出す・外へ出ようとする」などがあれば、早めに医療機関へ相談・受診し、必要な検査や治療を受けることが重要です。早期に異常に気付き、速やかに受診して治療を受けることも、重症化を防ぐうえで重要な広い意味での予防です。
参照:『令和5年度インフルエンザ Q&A』(厚生労働省)
編集部まとめ

インフルエンザ脳症は、インフルエンザに伴って起こる重い急性脳症で、いつもとまったく違う言動や危険な行動がみられることが特徴です。意味不明な発言を繰り返す、呼びかけにかみ合わない返事をする、誰もいないものを「見える」「いる」と訴えておびえるなどの異常な発言に加え、急に走り出す、外へ飛び出そうとする、窓やベランダによじ登ろうとするなどの行動には特に注意が必要です。また、異常行動が続く、何度も繰り返す、視線が合わない・反応が乏しい、けいれんやぐったり感、呼吸が苦しそう・顔色が悪い場合は緊急受診のサインです。発熱後2日間はリスクが高いため、子どもを一人にせず、安全性の確保と早めの相談・受診を心がけてください。
参考文献
- 『インフルエンザ脳症ガイドライン 【改訂版】』(厚生労働省)
- 『インフルエンザ罹患時の異常言動に関する 臨床的検討』(小児感染免疫)
- 『インフルエンザ脳症について』(荒尾市立有明医療センター)
- 『インフルエンザ』(徳島県医師会の小児科相談)
- 『神経系疾患分野|重症・難治性急性脳症(平成22年度)』(難病情報センター)
- 『インフルエンザの臨床経過中に発生する脳炎・脳症の疫学及び病態に関する研究(総括研究報告書)』 (厚生労働科学研究成果データベース)
- 『発熱したお子さんを見守るポイント』(日本小児学会)
- 『Q57:インフルエンザ脳症はどうしたら予防できますか? 』( 一般社団法人 日本小児神経学会)
- 『インフルエンザ脳症の診療戦略』(日本医療研究開発機構研究費)
- 『令和5年度インフルエンザ Q&A』(厚生労働省)




