食事の後に、立ちくらみやふらつき、急な眠気を感じたことはありませんか。その症状は、食後低血圧が関係している可能性があります。食後低血圧とは、食事をきっかけに血圧が下がる状態を指し、特に高齢の方や自律神経の働きが弱くなっている方でみられやすいとされています。血圧の変動は目にみえないため、年齢のせい、体調の問題と受け止められ、見過ごされることも少なくありません。しかし、食後低血圧は転倒や失神につながることがあり、日常生活の安全や自立した暮らしに影響を及ぼす場合があります。
この記事では、食後低血圧とはどのような状態なのかを整理したうえで、血圧が下がる仕組み、起こりやすい方の特徴、身体への影響、さらに、病院で行われる対応やご自宅で取り組める生活上の工夫を解説します。
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【出身大学】
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医、禁煙サポーター
【診療科目】
総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科
食後低血圧の症状とメカニズム

食後低血圧とは何ですか?
食後低血圧とは、食事をきっかけに血圧が下がる状態を指します。食後には血圧が変動しますが、その下がり方が大きい場合に、この状態として扱われます。診断の目安として、
食事開始後おおむね2時間以内に収縮期血圧が20mmHg以上下がった場合、または
食前の収縮期血圧が100mmHg以上あり、食後2時間以内に90mmHg未満まで下がった場合を用いることが多いです。
参照:『高齢者の食後低血圧』(日本老年療法学会誌)
食後に血圧が下がる原因と仕組みを教えてください
食事をすると、消化や吸収を進めるために血液が胃や腸などの消化管へ多く集まります。通常は、その影響に合わせて心拍数が増えたり、血管が適度に収縮したりすることで、全身の血圧は一定に保たれます。この調整を支えているのが自律神経の働きです。しかし、自律神経の働きが弱くなっている場合、消化管へ血液が集まった影響を十分に補うことができません。その結果、全身の血圧が下がり、食後低血圧が起こります。
食後低血圧は病気ですか?
食後低血圧は、特定の一つの病名というより、身体の調整機能の変化によって起こる状態として位置づけられています。加齢に伴う変化や糖尿病、パーキンソン病などでみられる自律神経の働きの低下と関連することがあります。そのため、背景にある病気や身体の状態を踏まえて評価されることが一般的です。
食後に血圧が下がることでどのような症状が現れますか?
食後低血圧は、立ちくらみやふらつき、めまい、頭がぼんやりする感じなどがみられることがあります。強い眠気や脱力感を覚える方もいます。これらの症状は、食後すぐに現れる場合もあれば、少し時間がたってから出てくる場合もあります。血圧の低下が大きいと、立ち上がった際に姿勢を保てず、転びそうになることもあります。症状の現れ方や強さには個人差があり、毎回同じとは限りません。
食後低血圧が起きやすい人や状況とリスク

食後低血圧を起こしやすい人の特徴を教えてください
食後低血圧は、血圧を調整する働きが弱くなっている方で起こりやすい状態です。加齢に伴い自律神経の反応が鈍くなると、食事による血流の変化に十分対応できなくなります。また、糖尿病によって自律神経の働きが低下している方や、パーキンソン病などの神経系の病気を抱えている方でもみられます。降圧薬を使用している方は、食後の血圧低下が重なり、症状として感じやすくなる場合があります。
食事の内容によって血圧の下がりやすさは変わりますか?
食事の内容や摂り方によって、食後の血圧変化の現れ方は異なります。炭水化物を中心とした食事は、消化管に集まる血液量が増えやすく、血圧が下がりやすい傾向がみられます。また、一度にまとまった量を食べると、消化に必要な血流が急に増え、血圧調整が追いつきにくくなります。食事の速さや食後すぐの行動も影響し、食後に立ち上がったり動いたりする場面で症状を自覚する方もいます。
食後低血圧による身体への影響とリスクを教えてください
食後低血圧による主な影響は、ふらつきやめまいによる転倒です。特に食後に立ち上がる動作が重なると、姿勢を保てず転んでしまうことがあります。転倒は骨折や頭部のけがにつながり、生活の質を下げる要因です。また、血圧の低下により一時的に脳への血流が減ることで、集中しづらさや強い眠気が生じる場合もあります。こうした状態が繰り返されると、食事や外出を控えるようになり、日常生活の活動量が下がることがあります。
食後低血圧の治療法と日常生活での対策

食後低血圧で治療が必要なケースを教えてください
食後低血圧は、症状の程度や生活への影響を踏まえて対応を検討します。食後に軽いふらつきを感じる程度で、転倒や失神がなく日常生活に大きな支障がない場合は、生活上の工夫を中心に経過をみることが一般的です。一方、食後に立っていられないほどのめまいや意識が遠のく感覚が繰り返される場合、転倒歴がある場合には、病院での評価がすすめられます。
病院ではどのように治療しますか?
病院では、まず食前と食後の血圧変化を確認し、食後低血圧の程度やパターンを把握します。そのうえで、使用している薬の内容を直します。特に降圧薬を服用している方は、服用時間や種類の調整を検討します。また、必要に応じて血圧の低下を和らげる目的で薬が使われることもありますが、薬物療法は症状や全身状態を踏まえて慎重に判断します。
食後低血圧の自分でできる予防法を教えてください
日常生活では、まず食事の摂り方を見直します。一度に多く食べるのではなく、量を控えめにして回数を分けることで、食後の血圧低下を和らげやすくなります。食事は急がず、よくかんでゆっくり進めることも大切です。また、食後すぐに立ち上がらず、しばらく椅子に座って過ごすと、ふらつきが起こりにくくなります。水分をこまめに摂る習慣も、血圧を安定させるうえで大切です。
食後低血圧が起きたらどうすればよいですか?
食後にめまいやふらつきを感じたときは、無理に動かず、椅子に腰かけたり横になったりして安全な姿勢を保ち、転倒を防ぐようにしましょう。症状が治まるまで安静に過ごし、慌てて立ち上がらないことがポイントです。このような症状が繰り返し起こる場合は、食事の内容や食後の過ごし方を振り返ったうえで、病院へ相談することがすすめられます。
編集部まとめ

食後低血圧は、食事をきっかけに血圧が下がり、ふらつきやめまい、強い眠気などが現れる状態です。診断の目安は、食事開始後おおむね2時間以内に収縮期血圧が20mmHg以上下がる場合や、食前の収縮期血圧が100mmHg以上あり、食後に90mmHg未満まで低下する場合です。加齢や自律神経の働きの低下、糖尿病などの背景がある方で起こりやすく、日常の体調変化として見過ごされやすい点が特徴です。
食後低血圧そのものは命に直結する状態ではありませんが、食後の立ちくらみやふらつきが転倒につながり、生活の質を下げる要因になることがあります。食事の量や摂り方、食後の過ごし方を工夫し、血圧の急な低下を抑えるようにしましょう。症状が繰り返される場合や、生活に支障が出ている場合は、病院で血圧の変化や服用中の薬を含めて評価を受けることが大切です。