劇症型溶連菌感染症は、短時間で全身の臓器障害を引き起こすことがあるとても危険な感染症です。初期には発熱や筋肉痛など風邪に似た症状から始まりますが、急速に血圧低下や意識障害、壊死性筋膜炎など重篤な状態への進行があります。早期診断と集中治療が命を救う鍵となるため、疑わしい症状があればすぐの受診が重要です。本記事は、劇症型溶連菌感染症の治療内容、入院のときの対応、治療後の注意点をわかりやすく解説します。
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旭川医科大学医学部卒業。その後、札幌医科大学附属病院、市立室蘭総合病院、市立釧路総合病院、市立芦別病院などで研鑽を積む。2007年札幌医科大学大学院医学研究科卒業。現在は札幌西円山病院神経内科総合医療センターに勤務。2023年Medica出版社から「ねころんで読める歩行障害」を上梓。2024年4月から、FMラジオ番組で「ドクター伊藤の健康百彩」のパーソナリティーを務める。またYou tube番組でも脳神経内科や医療・介護に関してわかりやすい発信を行っている。診療科目は神経内科(脳神経内科)、老年内科、皮膚科、一般内科。医学博士。日本神経学会認定専門医・指導医、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本老年医学会専門医・指導医・評議員、国際頭痛学会(Headache master)、A型ボツリヌス毒素製剤ユーザ、北海道難病指定医、身体障害者福祉法指定医。
劇症型溶連菌感染症の治療とは

劇症型溶連菌感染症の治療方法を教えてください
できるだけ早期に適切な対応を行うことがとても重要です。まず、強力な抗菌薬による治療を基本として
ペニシリン系抗生物質に加えて
クリンダマイシンの併用で、菌の増殖と毒素産生を抑える効果を期待します。さらに、ショック状態を防ぐために輸液や昇圧薬による全身管理を行います。重症例では集中治療室(ICU)での厳重なモニタリングが必要です。壊死性筋膜炎などの局所感染を伴う場合は、感染した組織を外科的に切除する手術(
デブリードマン)が行われます。また、近年では免疫グロブリン大量療法(IVIG)が毒素中和や免疫調整の目的で使用されることがありますが、明確な推奨または非推奨の記載はなく、今後のさらなる研究が必要です。
参照:『劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS) 』(感染症対策支援サービス)
抗菌薬治療はどのような効果を期待できますか?
抗菌薬治療は、体内で増えている溶連菌そのものを減らし、全身に広がる感染と毒素の産生を抑えることを目的として行います。特に劇症型溶連菌感染症では、短時間で敗血症や多臓器不全に進行するため、早期に十分量の抗菌薬の投与開始で、重症化のスピードを抑え、救命率の向上が期待できます。ペニシリン系抗菌薬は菌を直接殺す働きがあり、クリンダマイシンは菌の増殖だけでなく毒素産生を低下させる効果があるとされています。これらの治療は、感染源のコントロールと毒素によるショックの軽減を同時に図ります。
参照:『劇症型溶⾎性レンサ球菌感染症(STSS)の診療指針』(国立国際医療研究センター 国際感染症センター)
劇症型溶連菌感染症は早期治療が重要な理由を教えてください
劇症型溶連菌感染症は、短時間で全身に炎症が広がり、敗血症や多臓器不全、ショックへ急速に進行する危険な病気のため、早期治療がとても重要です。発症から数時間〜数十時間の間で重症化することが多く、このタイミングで抗菌薬や輸液、昇圧薬などの全身管理を開始できるかどうかが救命率に大きく影響します。
また、壊死性筋膜炎などの深い組織の感染を伴う場合は、早期に外科的な切除(デブリードマン)を行うことで、毒素の産生源を減らし、ショックや臓器障害の進行を抑えることができます。さらに、早い段階から集中治療室でのモニタリングや、必要に応じた免疫グロブリン療法などの集学的治療につなげることで、重い後遺症を残さずに回復できる可能性が高まります。
劇症型溶連菌感染症の入院治療について

集中治療室(ICU)で管理されるのはなぜですか?
劇症型溶連菌感染症は、短時間で血圧低下や呼吸不全、多臓器不全などが急激に進行するため、高度な全身管理ができる集中治療室(ICU)での治療が必要です。ICUでは、血圧や心電図、尿量、血液検査などを連続的にモニタリングしながら、輸液や昇圧薬、人工呼吸管理などを迅速に調整できる体制が整っています。
また、腎代替療法(透析)や血液浄化療法、免疫グロブリン療法など、重症例に必要となる集学的治療をすぐに導入できることも重要な理由です。これらにより、急変リスクがとても高い状態でも、救命の可能性を高めることが期待できます。
多臓器不全やショックへの対応について教えてください
まず血圧と循環を安定させることが優先です。大量の輸液を行い、それでも血圧が保てない場合は昇圧薬を用いて、重要臓器への血流を確保します。呼吸不全を伴うときには、酸素投与や人工呼吸管理を速やかに導入し、血液中の酸素濃度を保つことが重要です。腎不全が進行した場合には、透析などの腎代替療法を行い、体内の老廃物や余分な水分を除去します。さらに、壊死した組織を外科的に切除して感染源と毒素の産生を減らし、必要に応じて免疫グロブリン製剤の投与などを組み合わせることで、全身状態の改善をめざします。
壊死性筋膜炎の場合には手術が必要ですか?
壊死性筋膜炎が疑われた場合、
多くのケースで手術が必要です。壊死した筋膜や皮下組織の内部には細菌が大量に存在し、抗菌薬だけでは十分に薬が届かず、感染や毒素産生を止めきれないためです。そのため、できるだけ早期にデブリードマンと呼ばれる手術を行い、壊死した組織とその周囲の感染が疑われる部位を広く切除して、感染源そのものを取り除くことが重要です。手術が遅れると壊死がさらに進行し、四肢切断や致死的な多臓器不全に至るリスクが高まることが報告されているため、外科的治療と抗菌薬治療を組み合わせた集中的な対応が求められます。
参照:『緊急手術を行った壊死性筋膜炎の1例』(順天堂医学)
劇症型溶連菌感染症の入院治療で検討される治療方法を教えてください
いくつかの治療を組み合わせて全身状態を立て直すことが重要です。まず、高用量のペニシリン系抗菌薬にクリンダマイシンなどを併用し、菌の増殖と毒素産生を抑える治療を行います。同時に、血圧低下や呼吸不全、多臓器不全に対して、輸液や昇圧薬、人工呼吸管理、必要に応じて透析などを行う集中治療が検討されます。さらに、壊死性筋膜炎など局所に重い感染がある場合には、デブリードマンと呼ばれる壊死組織の外科的切除を行い、感染源と毒素の産生を減らすことが重要です。症例によっては、免疫グロブリン療法や血液浄化療法などを追加し、全身の炎症とショックを和らげる集学的治療が行われます。
劇症型溶連菌感染症の治療後の注意点

劇症型溶連菌感染症は治療後に再発する可能性がありますか?
一度治療が完了すれば同じ発症エピソードがぶり返すことは多くありませんが、原因となる溶連菌自体には再感染しやすい性質があります。抗菌薬治療が不十分で菌が体内に残ってしまった場合には、まれに再燃のような形で症状が再び強くなる可能性もあるため、処方された抗菌薬は指示どおり終わりまで飲み切ることが重要です。また、溶連菌感染症は異なる型の菌に何度もかかることがあり、初回の劇症型の既往がある方では、発熱や急な痛み、倦怠感が出た際には早めに受診し、重症化していないか確認してもらうことが必要です。
退院後の生活で注意すべきことを教えてください
退院後は、無理をせず少しずつ体力を戻していくことが大切です。まず、主治医から指示された内服薬(抗菌薬など)がある場合は、症状がよくなっていても自己判断で中断せず、決められた期間しっかり飲み切るようにしてください。また、発熱、急な傷の痛みや赤みの悪化、息苦しさ、強い倦怠感などが出てきた場合は、再感染や合併症の可能性もあるため、早めの受診が望ましいです。退院後しばらくは外来での経過観察が必要になることが多く、主治医の指示にしたがって定期受診し、血液検査や創部の状態、腎機能などを確認してもらうことが必要です。さらに、手洗いの徹底や傷口を清潔に保つなど、日常的な感染予防の継続が大切です。
参照:『劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)』 (厚生労働省)
編集部まとめ

劇症型溶連菌感染症は、短時間でショックや多臓器不全に進行しうるとても重篤な感染症であり、早期診断と迅速な治療開始が何より重要です。治療の中心は、ペニシリン系抗菌薬とクリンダマイシンなどの併用による菌と毒素のコントロールに加え、輸液や昇圧薬の投与、人工呼吸管理、腎代替療法などを含む集中治療、さらに壊死性筋膜炎を伴う場合の早期かつ広範なデブリードマン手術です。症例によっては免疫グロブリン療法や血液浄化療法なども組み合わせた集学的治療が検討されます。退院後は、処方薬を指示どおり飲み切ること、発熱や強い痛みや倦怠感などの再度の異変に早めの対応で、外来での定期フォローと日常の感染予防の継続が大切です。