冬になると気分が落ち込んだり、普段より眠気が強くなったりして悩んでいる方はいませんか?寒い季節になると、やる気が出ない、眠り過ぎる、過食がみられる、などの症状が続く場合、冬季うつの可能性があります。冬季うつは、冬に症状が現れ、春から夏にかけて改善する特徴があります。本記事では、冬季うつがどのような病気であるか、チェックのポイント、受診の目安、治療法などを解説します。
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島根大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科に入局後、東京警察病院、国立精神神経医療研究センター、都内クリニックにて薬物依存症、トラウマ、児童精神科の専門外来を経験。現在は和クリニック院長。愛着障害やトラウマケアを専門に講座や情報発信に努める。診療科目は精神神経科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経内科。 精神保健指定医、認定産業医の資格を有する。
冬季うつの基礎知識

冬季うつとはどのような病気ですか?
冬季うつは正式な医学用語ではなく、一般的にはうつ病(大うつ病性障害)などの症状が冬に出やすくなるタイプを指します。冬季うつと呼ばれるのは、主にうつ病の季節型のことが多いですが、双極性障害でも同様に季節型のパターンがみられます。冬季うつは、毎年秋から冬にかけて症状が現れ、春になると自然に軽快する特徴があります。
冬季うつの症状を教えてください
冬季うつの主な症状は、次のようなものが挙げられます。
このように、睡眠時間が長くなる、食欲が増すなど、典型的なうつ病とは異なる症状が多いとされています。なかには炭水化物を多く摂取する、引きこもりがちになるなどの症状がみられる方もいます。また、精神面では、意欲低下や倦怠感などの症状が主で、抑うつ症状は目立ちにくいとされています。抑うつとは、絶望感・虚しさ・悲しみなどを伴う強い憂鬱な気分を指します。
なぜ冬季うつになるのですか?
冬季うつの主な原因は、日照時間の減少によって体内時計(概日リズム)が乱れることと考えられています。人間の身体は1日のリズムに合わせてさまざまなホルモンを分泌していますが、冬になって日光を浴びる時間が短くなると、このリズムが狂ってしまいます。特に、気分の安定に関わるセロトニンや、睡眠を調節するメラトニンと呼ばれるホルモンの分泌バランスが崩れることで、過眠や抑うつなどの症状が現れると考えられています。このほかにも、光への感受性変化に関与する遺伝的要因が示唆されています。
冬季うつのチェックリストとなりやすい人の特徴

冬季うつになりやすい人の特徴を教えてください
冬季うつになりやすい方には、いくつかの特徴があります。冬季うつは女性に多く、20~30代の若い世代に多い傾向があります。また、居住地域も大きく関係しており、日照時間が短く、気温の低い高緯度地域に住む方で発症しやすく、日中にほとんど外に出ない生活をしている方もリスクが高まります。さらに、冬季うつの家族歴がある方で多く発症し、家族にうつ病や双極性障害の方がいる場合にもリスクが高まります。
冬季うつを自分でチェックする方法はありますか?
冬季うつに関して、医学的に
標準化されたセルフチェック方法は存在しません。冬季うつは、うつ病や双極性障害のなかで季節に関連するものとされており、診断は医師の判断によります。ただし、冬季うつが疑われる症状を知っておくことは、早期のセルフケアや医療機関への受診検討に役立ちます。秋から冬にかけて以下のような症状が続いている場合は、冬季うつの可能性があります。
- 最近、いつもより長く寝てしまう、日中の眠気がある
- 食欲が増した
- 体重が増加した
- 炭水化物を摂りたくなる
- 好きなことにも興味が持てず、人付き合いも面倒に感じる
- 活動への意欲がわかず、引きこもりがちになる
- 気分がひどく落ち込む
これらの症状が複数あり、日常生活や仕事に支障が出ている場合は、冬季うつのサインかもしれません。ただし、これらのチェックはあくまで医学的に推奨されているものではないため、自己判断はしないようにしてください。
冬季うつの受診サインと病院での治療

どのような症状があるときに受診を検討すべきですか?
日常生活に支障が出るほど症状が重い場合や、2週間以上抑うつ状態が続く場合は、心療内科や精神科の受診を検討してください。具体的な症状は、冬になると、気分の落ち込みや過眠、過食がみられる、朝起きられない、仕事や学業、家事などに集中できない、外出がつらい、などです。さらに、消えてしまいたい、自分は価値がない、などの考えが浮かぶ場合は緊急性があります。このほかにも自殺に関係する言動がみられる場合は、すぐに心療内科や精神科に相談してください。
病院で行われる冬季うつの診察や検査の内容を教えてください
冬季うつが疑われる場合、病院ではまず医師の診察と問診が行われます。問診では、症状がいつから始まったか、どのような症状があるか、毎年同じ時期に繰り返しているか、日常生活への影響はどの程度か、家族歴はあるか、といった内容について医師が詳しく聞き取りを行います。また、ほかの病気の可能性を除外するために血液検査などが実施されることもあります。医療機関によっては、心理検査やうつ病の質問票が用いられることもあります。そのほかに脳の病気などが疑われる場合にはMRI検査などの画像検査が実施されるケースもあります。
病院では冬季うつに対してどのような治療を行いますか?
冬季うつの治療法の第一選択は、
高照度光療法とされています。これは毎日1~2時間程度、2,500から10,000ルクスの強い光を照射する治療法です。早期に効果が出るとされ、1週間程度で症状の改善を認める方も多いといわれています。中止すると再発する可能性があります。
高照度光療法だけでは十分な効果が得られない場合や、症状が重い場合には、薬物療法が併用されます。主に使用されるのは、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる抗うつ薬です。SSRIは、脳内のセロトニンと呼ばれる神経伝達物質の働きを調整することで、気分や不安をコントロールする作用があります。冬季うつの場合、抗うつ薬は春になったら減量・中止するのが一般的です。これは春になると症状が自然に改善しやすいためです。もう一つの理由として、双極性障害の季節型である場合、抗うつ薬によって躁状態が誘発されるリスクがあることが挙げられます。
このほかに、認知行動療法などの心理療法が有効な場合もあります。いずれの治療法を選択するかは、症状の程度や患者さんの状況に応じて医師が判断します。
冬季うつと診断された場合の注意点を教えてください
冬季うつと診断されたら、症状が軽快しても自己判断で治療を中断しないことが大切です。医師の指示なく高照度光療法や抗うつ薬をやめると、再発などリスクがあるため、治療方針は必ず医師と相談して決定します。また、意識的な生活管理が必要です。炭水化物に偏らずバランスの取れた食事を心がけ、毎日決まった時刻に起床します。冬季うつは毎年繰り返す可能性があるため、症状が治った後も、翌年の再発を防ぐために、予防的な生活習慣の継続と早期の医師への相談が大切です。
編集部まとめ

冬季うつは適切な治療とセルフケアによって症状を軽減できる可能性があります。冬季うつの症状が当てはまるかどうかを確認し、心配な症状がある場合は医療機関への相談を検討します。冬季うつと診断されたら、生活習慣の改善や高照度光療法などの治療に取り組みます。冬になると気分が落ち込む、過眠や過食がみられるなどの症状の変化を見逃さず、早めに対処することが重要です。冬季うつは毎年繰り返す可能性があります。症状が改善した後も、予防的に規則正しい生活習慣を続け、体調の変化に気付いたときは無理をせずに早めに専門家の判断を仰ぎましょう。