「虫垂炎の初期症状」はご存知ですか?受診を検討すべき初期症状も解説!【医師監修】

虫垂炎は、大腸の一部である虫垂に炎症が起こる病気で、日本では一般に盲腸と呼ばれます。症状が進むと虫垂に穴があいて腹膜炎や敗血症を起こし、命に関わる状態になることもあるため、早期発見と早期治療がとても大切です。
また、一見軽い腹痛から始まることも多く、受診のタイミングを迷いやすい病気でもあります。どのようなサインが危険なのかを知っておくことで、早めに医療機関につながる可能性が高まります。虫垂炎の前兆や初期症状、受診の目安、検査や治療について解説します。

監修医師:
高宮 新之介(医師)
目次 -INDEX-
虫垂炎の前兆と初期症状

虫垂炎とはどのような病気ですか?
生涯発症率はおよそ6〜7%とされ、急性の腹痛で手術が必要になる病気のなかでも頻度が高い疾患の一つです。虫垂炎は多くの場合進行性の病気で、治療せずに放置すると穿孔や腹膜炎などを起こす危険があります。自然に軽くなる例がまったくないわけではありませんが、悪化や再発のリスクを予測することは難しく、自己判断で様子をみるのは危険です。
参照:『Appendicitis』(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases)
虫垂炎の前兆があれば教えてください
なんとなく食欲がない、身体がだるいといった全身の不調だけが先に目立つ場合もあります。この上腹部から臍周囲の痛みが虫垂炎の始まりであることが多いのですが、胃腸炎や一時的な腹痛と勘違いされやすい点に注意が必要です。
虫垂炎の初期症状にはどのようなものがありますか?
多くの方では、まず腹痛が先に起こり、その後に吐き気や嘔吐が加わる流れになります。お腹を動かすと痛みが増す、歩くと響く、寝返りが打ちにくいと感じる方もいます。右下腹部を押したときの痛みや、押した手を離したときに強く痛む反跳痛がみられると、虫垂炎や腹膜炎の可能性が高くなります。
初期症状は非特異的で、特に小児や高齢者、妊娠中の方では典型的でない経過になることもあり、自己判断で見分けるのは難しい病気です。
虫垂炎の初期症状と似ている症状がみられる病気はありますか?
女性では、卵巣腫瘍の茎捻転や子宮外妊娠、骨盤内感染症などの婦人科疾患も右下腹部痛の原因になります。このほか大腸憩室炎や胆のう炎、膵炎など腹痛の原因となる病気はいくつもあるため、症状だけで虫垂炎かどうかを判断することは困難です。
虫垂炎が疑われるときの受診の目安

どのような症状がみられたら病院に行くべきですか?
症状が出てから時間がたつほど穿孔や腹膜炎のリスクが高まるとされているため、そのうちよくなるかもしれないと様子を見過ぎるのは危険です。小児では進行が速く重症化しやすいため、少しでも様子がおかしいと感じたら早めの受診が重要です。
夜間や休日であっても受診すべき徴候や初期症状を教えてください
また、38度以上の発熱が続く、何度も嘔吐して水分が取れない、ぐったりしているといったときも緊急性が高いサインです。いったん強い痛みがあったあと急に痛みが弱くなった場合も、虫垂が破れて一時的に内圧が下がった可能性があり、その後短時間で腹膜炎が進行するおそれがあります。痛みが引いたから大丈夫だと考えず、自己判断で様子をみずに受診することが大切です。
初期の虫垂炎|検査と診断、治療法

初期の虫垂炎が疑われる場合はどのような検査を行いますか?
超音波検査では虫垂の太さや周囲の液体貯留などを確認し、小児や妊婦さんのように放射線を避けたい方では特に重視されます。描出が難しい場合や重症が疑われる場合にはCTで虫垂の腫大や周囲の炎症、膿瘍や穿孔の有無を詳しく評価します。画像検査を組み合わせることで、虫垂炎かどうかの判断とほかの病気との鑑別が精度高く行えるようになります。
初期の虫垂炎の診断基準を教えてください
一方で、小児や高齢者ではこうした所見がそろわないこともあり、その場合は診断スコアや経過観察を用いながら、医師が総合的にリスクを評価します。必要に応じて入院のうえで再診察や再検査を行い、誤診や見逃しを防ぐように工夫されています。
初期の虫垂炎はどのように治療しますか?
仕事や学校への影響、持病の有無、妊娠の可能性なども含めて、どの治療法がご自身に合うかを医師と相談しながら決めていきます。虫垂に穴があいていたり膿瘍や腹膜炎を伴っている場合は、腹腔鏡手術などで虫垂を切除する治療が基本になります。現在は小さな傷で行う内視鏡手術が主流であり、多くの方が術後早期から歩行や食事を再開できます。適切なタイミングで治療を受ければ、多くの場合は数日から1週間前後の入院で回復し、後遺症を残さずに生活へ戻ることが期待できます。
参照:『A Randomized Trial Comparing Antibiotics with Appendectomy for Appendicitis(CODA trial)』(New England Journal of Medicine)
編集部まとめ

虫垂炎は身近でありながら、進行すると腹膜炎や敗血症を起こす危険な病気です。初期にはみぞおちやおへその周りの痛みなど、胃腸炎と紛らわしい症状から始まることが多く、その後痛みが右下腹部に移動し、吐き気や発熱を伴うようになります。腹痛が続く、右下腹部に痛みが集中してきた、強い痛みや高熱、繰り返す嘔吐などの症状があれば、時間帯を問わず受診を検討してください。早い段階で診断と治療を受けることで、重症化を防ぎ、手術になった場合でもおおむね短期間で安全に回復することが期待できます。
参考文献
- 『急性虫垂炎』(慶應義塾大学病院)
- 『虫垂炎』(帝京大学医学部附属病院 下部消化管外科)
- 『Appendicitis』(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases)
- 『Diagnosis and treatment of acute appendicitis: 2020 update of the WSES Jerusalem guidelines』(World Journal of Emergency Surgery)
- 『Five-Year Follow-up of Antibiotic Therapy for Uncomplicated Acute Appendicitis (APPAC trial)』(JAMA)
- 『A Randomized Trial Comparing Antibiotics with Appendectomy for Appendicitis(CODA trial)』(New England Journal of Medicine)



