「シェーグレン症候群」はどんな基準で診断されるかご存知ですか?【医師監修】
公開日:2025/11/10

シェーグレン症候群とは、自己免疫の異常によって唾液腺や涙腺が障害され、お口や眼が乾燥する症状が特徴的な疾患です。診断には唾液や涙の分泌量の検査、血清自己抗体検査、唾液腺や涙腺組織の病理検査など、複数の検査項目を組み合わせて判定します。各検査の結果をもとに診断基準を満たすかどうかを確認し、疑われる場合は眼科や膠原病、脳神経内科の医師の指導のもと、治療や障害者認定申請などの手続きを進めていきます。

監修医師:
伊藤 規絵(医師)
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旭川医科大学医学部卒業。その後、札幌医科大学附属病院、市立室蘭総合病院、市立釧路総合病院、市立芦別病院などで研鑽を積む。2007年札幌医科大学大学院医学研究科卒業。現在は札幌西円山病院神経内科総合医療センターに勤務。2023年Medica出版社から「ねころんで読める歩行障害」を上梓。2024年4月から、FMラジオ番組で「ドクター伊藤の健康百彩」のパーソナリティーを務める。またYou tube番組でも脳神経内科や医療・介護に関してわかりやすい発信を行っている。診療科目は神経内科(脳神経内科)、老年内科、皮膚科、一般内科。医学博士。日本神経学会認定専門医・指導医、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本老年医学会専門医・指導医・評議員、国際頭痛学会(Headache master)、A型ボツリヌス毒素製剤ユーザ、北海道難病指定医、身体障害者福祉法指定医。
目次 -INDEX-
シェーグレン症候群の症状と原因
シェーグレン症候群ではどのような症状が現れますか?
主に眼やお口の乾燥が現れます。涙腺や唾液腺が障害されることで、眼がショボショボしたり、白眼が赤くなったり、角膜が傷ついて痛みを感じるドライアイの症状や、お口の中がネバつき、乾いた食品が飲み込みにくい、むし歯や歯周病が増えるドライマウスの症状がみられます。加えて皮膚や鼻粘膜、女性の場合は腟などにも乾燥症状が現れることがあります。また、関節痛や筋肉痛、強い倦怠感、耳下腺の腫れ、微熱、うつ症状、皮膚の発疹など、全身に及ぶ症状も認められます。これらの症状は個人差が大きく、すべてが揃わない場合でもシェーグレン症候群の可能性があります。
シェーグレン症候群の原因を教えてください
原因は、はっきりとは解明されていませんが、主に自己免疫の異常によるものと考えられています。本来は外敵から身体を守るための免疫系が、自分自身の唾液腺や涙腺などの正常な組織を誤って攻撃し、慢性的な炎症を引き起こすことが発症の根本です。発症には遺伝的要因やウイルス感染、薬物、紫外線、ストレスなどの環境因子が複雑に関与していると考えられています。
また、女性に多くみられることから、女性ホルモンも関与している可能性が指摘されています。発症にはこれらの要素が重なり合って関与しますが、単一の原因で発症するものではありません。
シェーグレン症候群の検査と診断
シェーグレン症候群が疑われる際はどのような検査が行われますか?
シェーグレン症候群が疑われた際には、さまざまな検査が組み合わせて行われます。代表的な検査は、唾液や涙の分泌量を測定するガムテスト(ガムを10分間噛み唾液量測定)、サクソンテスト(ガーゼを2分間噛み唾液量測定)やシルマー試験(試験紙で涙量を5分測定)、唾液腺・涙腺の組織を少量採取してリンパ球の浸潤を調べる病理組織検査があります1)2)。
また、唾液腺の状態を調べる造影検査やシンチグラフィー、染色液を用いて眼の表面の乾燥状況を観察する涙液染色検査も行われます。加えて、血液検査ではシェーグレン症候群特有の抗体(抗SS-A/Ro抗体や抗SS-B/La抗体)を調べます。これらの検査結果を総合的に判断し、診断が進められます。
シェーグレン症候群の検査にかかる時間を教えてください
内容によってかかる時間が違いますが、外来で行われる一般的な検査、例えば唾液腺や涙腺の分泌量を調べるガムテストやサクソンテスト、シルマー試験は数分から10分程度で終了します1)。血液検査や画像診断は検査自体は短時間ですが、結果が判明するまでに多少時間がかかることもあります。また、唾液腺や涙腺の生検などの病理組織検査は、局所麻酔や組織採取に20分程度が少なくないです1)。複数の検査を組み合わせて診断するため、すべての検査を同日に完了する場合もあれば、複数回の通院が必要になることもあります。
シェーグレン症候群の診断基準を教えてください
日本の厚生労働省研究班による1999年改訂診断基準は、主に4つの検査項目で構成されています1)2)。具体的には、唾液腺や涙腺の病理組織検査(リンパ球浸潤の有無)、唾液分泌能の検査(ガムテストやサクソンテスト、唾液腺シンチグラフィー)、涙液分泌能の検査(シルマー試験、ローズベンガルテストなど)、血清自己抗体検査(抗SS-A/Ro抗体や抗SS-B/La抗体)です。これら4項目のうち、いずれか2項目以上が陽性であればシェーグレン症候群と診断されます。ただし、基準を満たさない場合でも医師の判断で診断されることもあるので、総合的な判断が重要です1)2)。
シェーグレン症候群の重症度はどのように判断しますか?
重症度、つまり疾患活動性の評価は、主にESSDAI(EULAR Sjögren’s Syndrome Disease Activity Index)という国際的な活動性指標で評価します1)2)。ESSDAIは健康状態・リンパ節腫脹・腺症状・関節症状・皮膚症状・肺病変・腎病変・筋症状・末梢神経障害・中枢神経障害・血液障害・生物学的所見の12項目で点数化し、合計点数で重症度を判定します。重症、つまり中・高疾患活動性と判定されるのは合計5点以上の場合で(中疾患活動性:5〜13、高疾患活動性:14〜)、5点未満は軽症つまり低疾患活動性とされます。各症状の内容や活動性が点数に反映され、総合的に疾患の重さを判定します1)2)。
参照:
1)『シェーグレン症候群』(東京大学医学部アレルギーリウマチ内科)
2)『シェーグレン症候群』(指定難病53)
シェーグレン症候群と診断された後の治療と手続き
シェーグレン症候群の治療法を教えてください
根本的に病気を治す方法は現在はありませんが、症状を緩和し進行を抑えることが中心です。主な対策は眼やお口などの乾燥症状に対する対症療法で、人工涙液やヒアルロン酸点眼薬、唾液分泌促進薬や人工唾液スプレーなどを用います。また、口腔や歯の清潔維持、うがい薬の活用も重要です。皮膚乾燥(ドライスキン、皮脂欠乏性皮膚炎)が起こることがあります。治療には外用剤としてヒルドイドRや白色ワセリンなどが使用されます。全身症状が強い場合や関節痛・内臓病変がある場合は、ステロイドや免疫抑制剤、生物学的製剤も検討されます。患者さん自身の生活習慣の工夫、例えば、乾燥症状に対する保湿のため、特に空気が乾燥しやすい時期は、加湿器などを上手に使うことも治療の一部です。
シェーグレン症候群の診断後に手続きは必要ですか?
診断された後には、生活に支障が出ている場合や症状が重い場合、指定難病や障害年金の申請など公的手続きが必要になることがあります。指定難病医療費助成の申請を行う場合、医師により詳細な診断書を作成してもらい、市区町村や保健所に提出します。加えて、日常生活に著しい支障があれば障害者手帳や障害年金の申請も検討できます。
シェーグレン症候群と診断された場合に受けられる支援を教えてください
一定の重症度基準、つまり重症(5点以上)を満たせば指定難病として医療費助成を受けることができます2)。医療費の自己負担割合は通常の3割から2割に軽減され、世帯所得や症状の重さに応じてさらに自己負担上限額が設定されます。申請には主治医の診断書を自治体窓口へ提出する必要があり、受給者証が交付されます。また、障害年金や障害者手帳の申請が可能な場合もあり(医師の診断書や病歴申立書などを準備し、年金事務所や市区町村窓口へ提出して申請)5)、福祉サービスや就労支援も受けられます。
参照:
2)『シェーグレン症候群』(指定難病53)
5)『障害年金を請求する方の手続き』(日本年金機構)
編集部まとめ
シェーグレン症候群の診断は、唾液腺・涙腺の病理検査、唾液や涙の分泌量測定、自己抗体の血液検査など複数項目を組み合わせて判断します。2項目以上が陽性の場合に診断され、診断後は症状に応じた治療や医療助成・福祉手続きも可能です。乾燥症状には人工涙液や唾液製剤が使われ、重症時はステロイドなどの全身治療も行われます。手続きは自治体への申請が必要ですが、医師との相談が大切です。
参考文献


