「氷食症」を放置すると体にどんな症状が現れる?【医師監修】

氷を食べるとお口の中がひんやりして、気分が落ち着くと感じる方もいると思います。暑い時期や運動の後に氷を口にすること自体は自然なことです。けれども、それが習慣となり、毎日のように氷を食べずにはいられなくなると、氷食症という病気の可能性があります。氷食症は一見すると無害に思えますが、実際には思いがけない健康問題が隠れている場合があり、軽く考えるのは危険です。
本記事では、氷食症の基礎知識や放置した場合のリスク、治療法を解説します。

監修医師:
林 良典(医師)
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)
目次 -INDEX-
氷食症の基礎知識

氷食症とはどのような病気ですか?
医学的には異食症(pica)の一種に分類されます。異食症とは、本来は食べ物ではないものを繰り返し口にしてしまう病気の総称です。例えば、土や紙、髪の毛、石などを無性に食べてしまう場合もあります。そのなかで氷を対象とするものを氷食症(pagophagia)と呼びます。
氷食症の原因を教えてください
鉄不足に至る理由はさまざまです。女性では過多月経や妊娠・出産によって鉄が失われやすく、男性や高齢の方では胃や腸の病気による出血、潰瘍、大腸ポリープ、がんなどが隠れている場合もあります。食生活の偏りや極端なダイエットで鉄の摂取が不足することもあります。
一方で、鉄欠乏がなくても氷食症がみられるケースもあります。氷をかむことで一時的に気持ちが落ち着くため、強いストレスや不安を背景に習慣化することがあるほか、摂食障害など精神的な問題の一部として表れる場合もあります。
氷食症を放っておくことのリスク

氷食症を治療しないと身体はどうなりますか?
貧血が進行すると、めまいや立ちくらみ、倦怠感といった全身症状が目立つようになります。さらに、爪が反り返る匙状爪(スプーンネイル)、口角炎や抜け毛といった変化が現れることがあります。まれに舌や咽頭粘膜が萎縮して固いものが飲み込みにくくなるPlummer-Vinson症候群をきたす場合もあります。
氷を食べ続けることで生じる健康被害を教えてください
さらに冷たい刺激が胃や腸に繰り返しかかると、腹痛や下痢、胃の不快感を引き起こします。冷えに敏感な方では、食欲が落ちて栄養状態に影響することもあります。
氷食症を放置すると太りやすくなるというのは本当ですか?
ただし、鉄欠乏性貧血が進むと、疲れやすさやだるさが強くなり、活動量が減ってしまうことがあります。その結果、消費するエネルギーが少なくなるため、以前と同じ食事量でも体重が増えやすいです。さらに、疲労感があると気分転換やエネルギー補給のために間食をしやすくなり、肥満につながる場合もあります。
氷を食べること自体が直接太る原因にはなりませんが、鉄不足による体調不良が生活習慣に影響し、その結果として体重管理が難しくなることがあります。
氷食症の治療法

氷食症は放っておいても治りますか?
氷食症を根本から改善するには、原因となる疾患を治療することが欠かせません。まずは内科を受診し、必要に応じて消化器内科や婦人科で精査を受けましょう。
氷食症で受診した際の診断や検査方法を教えてください
検査では、背景にある鉄欠乏の有無とその原因を調べることが中心です。血液検査でヘモグロビンやフェリチンなどを測定し、鉄不足の程度を確認します。鉄欠乏が見つかった場合は、さらに原因を特定するための検査を行います。代表的なものとして、胃や腸からの出血を確認する内視鏡検査や、女性では過多月経や子宮の病気を調べる婦人科診察があります。
病院では氷食症をどのように治療しますか?
氷食症を自分で治すことはできますか?
そのうえで、自分で治す方法としては食事があります。鉄には肉や魚に含まれるヘム鉄と、野菜や豆類に含まれる非ヘム鉄があり、ヘム鉄の方が吸収されやすいのが特徴です。レバーや赤身肉、魚介類、貝類を積極的にとり、ほうれん草や小松菜、豆類などはビタミンCと一緒にとると吸収が高まります。
食事だけでは十分に補えない場合もあるため、その際はサプリメントを利用したり、病院で鉄剤による治療を受けたりしましょう。
氷食症の治療期間と再発防止策を教えてください
編集部まとめ

氷を食べ続けてしまう氷食症は、ただの癖ではなく身体からのサインです。背景に鉄欠乏性貧血が隠れていることが多く、放置すると日常生活に支障が出るだけでなく、全身のさまざまな不調につながることがあります。
治療の基本は鉄剤による鉄の補充と、原因となる病気の治療です。あわせて鉄を意識した食生活や定期的な血液検査を続けることで、再発を防ぐことができます。氷をやめられないと感じたときは、できるだけ早めに医療機関を受診し、原因を明らかにしましょう。
参考文献
