「女性が軽度知的障害」を発症するとどんな「特徴」が現れるかご存知ですか？【医師監修】

軽度知的障害とは、知的な発達が平均よりやや遅れており、標準化された知能検査（WAIS：成人知能検査、WISC：児童知能検査）で、IQ（知能指数）がおおむね50～70の範囲にある状態を指します。なお、一般的なIQの平均値は100前後とされています。

具体的には、抽象的な思考や複雑な判断が苦手なことが多く、学習に時間がかかる、日常生活の段取りがうまくできない、人とのやりとりに戸惑いを感じるなどといった困りごとが生じる場合があります。ただし、言葉を用いたコミュニケーションや、身の回りのことを自分自身でこなす力は備わっているため、外見上は障害があるとは気付かれにくいこともあります。

一方で、初めての作業や複雑な手続き、人との距離感をうまく取ることが難しいこともあり、生活や仕事の場面では、周囲の理解と環境の工夫が重要になります。

知的障害は、全体の有病率が1～3％程度とされており、そのなかでも軽度の障害が多くを占めると報告されています。男女比でみると、知的障害は男性にやや多くみられる傾向があります。これは国や診断基準、調査の方法によって異なりますが、一般的な傾向として広く受け入れられているものです。

この差には、生物学的な要因（X染色体に関連する遺伝的な特徴、男性脳の発達の脆弱性など）が関係している可能性があると指摘されています。また、女性の場合は周囲に合わせる力が高く、軽度知的障害の状態が気付かれにくいことから、統計上少なく出る傾向があるとも考えられています。

参考になる方法はいくつかありますが、軽度知的障害かどうかを正確に判断するためには医療機関で知能検査（WAIS-IVやWISC-Vなど）を受けましょう。これらの検査では、IQの数値だけでなく、言語理解や記憶力、処理速度など、認知機能の得意・不得意を細かく評価できます。

インターネット上には自己診断ツールもありますが、医学的な根拠に乏しいものも多く存在するため、参考程度にとどめましょう。

軽度知的障害のある女性は、日常の多くの場面で自立した日常生活を過ごせます。一方で、日々の暮らしのなかで困難を感じる場面も少なくありません。

例えば、抽象的な表現や複雑な指示の理解が難しいため、役所や銀行などでの手続きで戸惑うことがあります。また、時間の管理や予定の調整が苦手で、うっかり約束を忘れてしまう場面も見受けられます。

さらに、計算や金銭管理に不安がある場合には、計画的な買い物が難しかったり、支払い時に戸惑ってしまったりすることがあり、周囲の支援や配慮が必要な場合があります。

仕事においては、指示を一度で理解するのが難しく、何度も確認しながら業務を進める場面が多く見受けられます。また、忘れ物が多くみられる、業務の優先順位がつけられない、複数の作業を同時に進めるのが苦手などといった傾向もあります。特に、急ぎの対応や複数の課題が重なる状況では、混乱しやすくなる傾向です。

一方で、手順が明確に決められた作業や、マニュアルに沿った業務においては高い適応力を発揮することもあります。

性格的には、おとなしく控えめで、人に合わせようとする傾向がみられます。そのため、自分の意見を積極的に伝えるのが苦手で、頼まれごとを断ることに抵抗を感じ、無理をしてでも応えようとする姿勢を示すことも少なくありません。また、感情のコントロールがうまくいかず、学校や職場などでのストレスに敏感に反応しやすい傾向があります。

さらに、学業や仕事で思うように成果が出ない経験を重ねるうちに、自信を失いやすくなり、自らの能力に不安を抱くようになることもあります。

対人関係では、相手の気持ちや意図を読み取ることが難しいと感じる場面も多く、誤解やすれ違いが生じることもあります。また、特定の物事に対するこだわりが強いのも特徴です。

軽度知的障害のある女性は、社会的な手続きや複雑な判断を伴う場面において戸惑いやすい傾向があります。例えば、生活費の管理がうまくできず、収入に見合わない支出が重なってしまうことで、経済的に不安定な状況に陥ることが考えられます。

また、契約書や公的な手続きに関する内容を理解するのが難しく、説明を受けたとしても抽象的な言い回しや専門用語の多さにより混乱を招き、重要な事項を見落とす可能性があります。

人間関係では、相手の気持ちや場の雰囲気を察することが難しく、意図せず誤解を生むことで孤立を深めてしまうことがあります。こうした経験が続くことで自己肯定感が低下し、精神的な不調につながる場合もみられます。

さらに、時間感覚が曖昧なため、約束の時間を守ることや計画的に行動することが苦手となり、人間関係に影響を及ぼすことも懸念されます。困っていても助言を求められず、必要な支援につながりにくい点も課題です。

軽度知的障害のある女性にとって、周囲の理解と具体的な支援は欠かせません。本人の特性に応じた配慮を意識することで、不安や混乱の軽減につながり、自立した生活の後押しができます。

まずコミュニケーションにおいては、情報を一度に多く伝えるのではなく、短く具体的な表現で一つずつ丁寧に伝えることを意識しましょう。口頭での説明に加え、手順を紙に書く、図や表を用いるなど視覚的な方法を併せることで理解しやすくなります。

また、苦手な点や失敗に目を向けるのではなく、うまくできたことに焦点を当てて接することで、自己肯定感が育ちやすくなります。感情が不安定なときには、理由を無理に問い詰めるのではなく、まずは落ち着ける環境を整えることを優先しましょう。

金銭管理や人間関係のトラブルに巻き込まれる可能性がある場合には、生活面の見守りや支援が必要です。その際、支援者や家族が一方的に決めるのではなく、本人の意思を尊重したうえで、必要に応じて適切なサポートを行いましょう。

軽度知的障害のある方は、複雑な動作や判断が難しい場合があり、物事を進めるのに時間がかかることがあります。そのような場面では、急かしたり否定したりするのではなく、「ゆっくりで大丈夫だよ」といった声かけが、自己肯定感を支えになります。行動が思ったようにできなかったり、周囲の期待に応えられなかったりしたときでも、失敗を責めるのではなく、できたことに目を向けて声をかけましょう。

また、「ちゃんとしてほしい」「しっかりしてね」といった曖昧な表現は、具体的な行動につながらず困惑させる場合があります。できるだけ明確で具体的な指示や表現を心がけましょう。