一酸化炭素中毒は、家庭や職場、アウトドアの場面などで知らず知らずのうちに起こることがある危険な中毒です。症状が軽くても油断は禁物で、正しい対処や治療が必要です。本記事では、一酸化炭素中毒の基礎知識から、重症度に応じた症状と回復期間、応急処置や治療法を解説します。
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島根大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科に入局後、東京警察病院、国立精神神経医療研究センター、都内クリニックにて薬物依存症、トラウマ、児童精神科の専門外来を経験。現在は和クリニック院長。愛着障害やトラウマケアを専門に講座や情報発信に努める。診療科目は精神神経科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経内科。 精神保健指定医、認定産業医の資格を有する。
一酸化炭素中毒の基礎知識

一酸化炭素中毒とはどのような病気ですか?
一酸化炭素中毒とは、一酸化炭素(CO)という有毒な気体を吸い込むことで体内の酸素が不足し、さまざまな症状を起こす中毒状態のことです。一酸化炭素は無色・無臭で人間の感覚では気付きにくく、吸ってしまっても自覚しないまま中毒に陥る可能性があります。COを吸入すると、血液中で酸素を運ぶヘモグロビンと大変強く結合し、酸素と置き換わってしまいます。その結果、血液が全身に運ぶ酸素の量が大幅に減り、身体が内部から酸欠状態(内部窒息)になります。特に脳や心臓の細胞は酸素を多く必要とするため、酸素不足により障害が起こりやすく、重症では命に関わる危険があります。
一酸化炭素中毒の原因を教えてください
一酸化炭素中毒の主な原因は、燃料の不完全燃焼によって発生した一酸化炭素を密閉・密室状態で吸い込むことです。具体的には、締め切った部屋で石油ストーブやガスコンロなどの暖房器具・調理器具を使い続けたり、換気不良の場所で発電機や車両のエンジンをかけっぱなしにしたりすると、一酸化炭素が蓄積して中毒を引き起こします。例えば、冬場に換気せず石油ストーブを使用したり、テント内で炭火をたいたりすると一酸化炭素中毒事故が起こりやすいです。また、車のマフラーが雪やシャッターで塞がれた車庫内でエンジンを動かし続けると、排気ガス中の一酸化炭素が車内に充満し中毒になることがあります。このほか、火事の煙にも大量の一酸化炭素が含まれるため火災現場で中毒が生じることもあります。
一酸化炭素中毒の程度と症状

軽度一酸化炭素中毒になるとどのような症状が現れますか?
軽度の一酸化炭素中毒では、頭痛やめまい、吐き気、眠気などの症状が現れます。これらは風邪や疲労と似た症状のため見過ごされがちですが、集中力の低下や不快感、嘔吐などが起こることもあります。初期症状が軽いからといって油断せず、特にストーブ使用中や車内などで少しでも頭痛や吐き気など身体の違和感を覚えたら、一酸化炭素中毒を疑ってすぐに換気し新鮮な空気を取り込むことが大切です。軽度の段階で適切に対処すれば、ほとんどの場合は新鮮な空気を吸うことで症状が改善し回復します。逆に、ちょっと体調が悪いだけと放置すると症状が悪化して中等度・重度へ進行する恐れがあるため注意しましょう。
中等度一酸化炭素中毒の症状を教えてください
一酸化炭素中毒が中等度に達すると、症状はより深刻になります。具体的には、判断力の低下や混乱(意識がもうろうとする)、息切れや胸の痛みなどが現れます。さらに、意識がはっきりしなくなり、場合によってはけいれん発作を起こすこともあります。中等度になると自力で動くことが難しくなるケースが多く、周囲の方による救助が必要になります。この段階では本人は具合が悪くても適切に判断・行動できない状態になりがちですので、周囲の方が症状に気付いて速やかに対応することが重要です。
重度の一酸化炭素中毒になるとどうなりますか?
重度の一酸化炭素中毒に陥ると、命に関わる危険な状態です。一酸化炭素濃度が高い環境では、わずかな時間で昏睡状態に陥ったり激しいけいれんを起こしたりして、短時間で死に至る場合があります。重度になると呼吸不全や血圧低下、心停止なども引き起こすことがあります。一酸化炭素中毒による急性死亡事故が起こるのは、この重度の中毒状態です。たとえ一命をとりとめても、重度の中毒では脳に深刻なダメージが残り、後になってから障害が現れることがあります。
重症度別|一酸化炭素中毒の回復期間

軽度の一酸化炭素中毒はどの程度の期間で回復しますか?
軽度の一酸化炭素中毒であれば、適切に対処すれば早期に回復することが期待できます。ほとんどの場合、軽症であれば新鮮な空気を深呼吸するなど、速やかに一酸化炭素のない環境へ移ることで症状は改善します。とはいえ、軽度でも油断せず、念のため医療機関で酸素吸入などの処置を受けたり一日程度安静に過ごしたりすることが望ましいです。症状が軽く感じられても再度悪化する可能性もあるため、安全のために経過を観察してください。
中等度一酸化炭素中毒の回復期間を教えてください
中等度の一酸化炭素中毒になると、回復までに数日程度の時間を要することがあります。中等度では病院での治療(高濃度酸素吸入など)が必要になりますが、多くの場合は治療を開始すると、急性期の症状(意識障害や呼吸困難など)は改善してきます。ただし、症状が落ち着いた後も念のため数日間は入院して経過観察が行われることがあります。個人の健康状態や中毒になっていた時間にもよりますが、治療によって日常生活に復帰できることが多いです。酸素療法によって血中から一酸化炭素は早期に排出されますが、中等度の中毒では一時的な脳や心臓へのダメージがある可能性もあるため、完治と判断されるまで医師の指示にしたがって安静にすることが大切です。
重度の一酸化炭素中毒は回復しますか?
重度の一酸化炭素中毒から回復できるかどうかは、そのときの状況や治療の速さによります。重度の場合、その場で死亡してしまうことも多く、一刻を争う緊急事態です。しかし、迅速に救助され適切な治療を受ければ命が助かる可能性はあります。重度の中毒患者さんには集中治療が必要で、高濃度酸素投与に加えて高圧酸素療法(高気圧酸素治療)など特別な処置が施されます。一命を取り留めた後も、意識が回復するまで治療・リハビリが必要となり、後遺症が残る場合には長期的なケアやリハビリが求められます。脳へのダメージが大きかった場合、記憶障害や認知機能の低下などが残存し、社会復帰までに数ヶ月以上かかるケースもあります。
一酸化炭素中毒の応急措置と治療法

一酸化炭素中毒が疑われる際の応急措置を教えてください
一酸化炭素中毒が疑われる状況では、迅速かつ安全に以下の応急措置を行いましょう。
新鮮な空気を確保する
落ち着いて窓や扉を開け放ち、室内の換気を行います。
発生源を止める
ストーブやコンロ、エンジンなど一酸化炭素を発生させている機器があればただちに消すか止めます。
楽な姿勢・保温
中毒者の衣服を緩めて楽な姿勢にし、毛布などで身体を温かく保ちます。一酸化炭素中毒では体温低下を起こすこともあるため、身体を冷やさないようにします。
救急連絡と医療機関受診
意識がはっきりしない場合や重症の場合は迷わず119番通報し救急車を呼んでください。意識がある場合でも油断せず、中毒者を速やかに医療機関へ連れて行き医師の診察を受けさせましょう。
現場の安全確保
救助者自身も中毒にならないよう注意が必要です。換気が不十分な場所に飛び込むのは危険なので、可能な範囲で換気してから救助し、自分も含め速やかにその場から離れてください。
応急処置のポイントは、新鮮な空気と速やかな救助です。一刻も早く一酸化炭素が多い環境から離し、医療機関を受診することで、被害を最小限に食い止めることができます。
一酸化炭素中毒はどのように治療しますか?
一酸化炭素中毒に対する治療の基本は、体内から一酸化炭素を排出させ、酸素不足の状態を解消することです。具体的には
高濃度の酸素投与が最も重要な治療となります。救急隊や医療機関では、中毒者にマスクを用いて100%の酸素を吸入させる酸素療法を開始します。高濃度の酸素を吸うことで血液中のCOとヘモグロビンの結合が早く切れ、一酸化炭素が体外へ洗い出され症状が和らぎます。症状が重い場合や意識障害がある場合、また妊婦の中毒では、
高圧酸素療法といって高気圧の特殊なチャンバー内で純酸素を吸入する治療が行われることがあります。
高圧酸素療法を発症から24時間以内に行うことで、脳障害など後遺症の発生を減らすことが期待できます。一酸化炭素中毒に特効薬のような解毒剤はなく、酸素投与と対症療法(必要に応じて点滴や昇圧薬の投与、低酸素で損傷を受けた臓器の治療など)で回復を図ります。治療はできるだけ早く始めるほど効果的です。搬送後は血中のCO濃度や酸素飽和度を監視しながら酸素吸入が続けられ、症状が改善すれば徐々に通常の空気に戻します。重症例では数日間の集中治療が必要になることもありますが、適切な治療によって多くの患者さんは意識を回復し、後遺症なく退院できる場合もあります。
編集部まとめ

一酸化炭素中毒は日常の身近な場所で起こりうる怖い事故ですが、正しい知識と対策があれば防ぐことができます。今回解説したように、軽い頭痛や吐き気といった初期症状が出た段階で「もしかして一酸化炭素中毒かも」と疑い、すぐに換気・避難することが何より大切です。一酸化炭素は無色・無臭のため人間には感知できませんが、一酸化炭素警報機を設置すれば濃度が上がったときにいち早く警報で知らせてくれます。ストーブや給湯器などの燃焼器具を使う際は必ず換気を行い、定期的な点検整備を怠らないようにしましょう。特に冬場は締め切った室内で過ごす時間が増えますが、寒くても1時間に1回は窓を開けるなど換気する習慣をつけることが重要です。万一中毒事故が起きても慌てずに、今回紹介した応急措置を落ち着いて実行し、速やかに医療機関の助けを求めてください。正しい知識と冷静な対応が、一酸化炭素中毒から自分や大切な方の命を守ることにつながります。