副鼻腔炎は鼻の奥にある副鼻腔という空洞に炎症が起こることで、鼻づまりや粘り気のある鼻水、お顔の痛みなどさまざまな症状を引き起こす病気です。
風邪をきっかけに発症することが多く、子どもから大人まで幅広い年代でみられます。
近年では、アレルギー体質や生活習慣の変化により、慢性化して難治性となるケース も増えています。
副鼻腔炎は急性と慢性で症状や治療法が異なり、特に好酸球性副鼻腔炎のような特殊なタイプでは、専門的な診断と長期的な治療が必要です。
本記事では、副鼻腔炎の基礎知識から原因や症状、治療法までわかりやすく解説します。副鼻腔炎を心配する方々のお役に立てれば幸いです。
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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。
副鼻腔炎の原因や症状
副鼻腔はどこにありますか?
副鼻腔は、
鼻のまわりにある左右対称の空洞 のことです。具体的には、以下のような名称で構成され、空気の通り道である鼻腔に通じています。
前頭洞(ぜんとうどう)
上顎洞(じょうがくどう)
篩骨洞(しこつどう)
蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)
副鼻腔の内部は空気で満たされ、粘膜で覆われています。役割は声を響かせて発声を助けることや、頭の重さを軽くすることなどと考えられています。また、粘膜が異物や細菌をとらえて身体を守る働きも担っています。では、副鼻腔はどこにあるのでしょうか、イメージがつきづらいかもしれません。上顎洞は左右の頬の裏側にあり、副鼻腔のなかで最も大きい空洞です。前頭洞は左右の眉の上あたりの額の部分に位置します。篩骨洞は目と目の間で鼻の奥にあり、複数の空洞が集まっています。蝶形骨洞は眼の深い奥にある空洞です。風船がお顔の骨のなかに埋め込まれているようなイメージで、健康を支える大切な場所です。
副鼻腔炎とはどのような病気ですか?
副鼻腔炎は鼻の奥にある副鼻腔という空洞の内側を覆う粘膜に炎症が起きる病気です。何らかのきっかけで副鼻腔の粘膜が腫れたり粘液が増えて通り道が塞がれたりすると、空洞のなかに膿みや鼻水がたまり、うまく排出ができなくなります。副鼻腔炎は子どもから大人まで幅広い年齢でみられる一般的な病気です。副鼻腔の空洞がうまく換気できない状態が続くと、炎症が長引き慢性化することがあります。まれに副鼻腔炎が進行すると眼や脳にまで炎症が広がることがあるため注意が必要です。副鼻腔炎は医療機関で適切に診断や治療を受けることが大切 です。
副鼻腔炎の原因を教えてください。
副鼻腔炎の主な原因は、鼻や副鼻腔の内側を覆っている粘膜が傷ついたり、腫れたりすることです。多くの場合、最初は風邪ウイルスが入り込むことで粘膜がダメージを受けます。すると身体はウイルスや細菌などを追い出そうと防御反応を起こし、粘膜が赤く腫れたり、普段より多くの鼻水を作ったりします。これが炎症と呼ばれる状態です。炎症が続くと鼻の奥へとつながる通路が狭まり、なかに鼻水や膿みがたまって排出されにくくなるため、悪化や慢性化の原因となります。またアレルギー体質の方や喘息のある方では、身体の防御反応が過剰に働いてしまい、好酸球性副鼻腔炎という治りにくいタイプになることがあります。これは花粉やハウ
スダストなどに身体が反応するためです。特にタバコの煙や大気汚染、カビの感染などの生活環境も原因になることがわかっており、鼻茸(はなたけ)と呼ばれるポリープの形成に大きく関わります。副鼻腔炎は風邪やアレルギー体質、生活環境など、複数の要素が重なって起こる 病気です。
副鼻腔炎はどのような症状が出ますか?
副鼻腔炎では、鼻づまりや粘り気のある黄色や緑色の鼻水がよくみられます。鼻水が喉に流れ込んだ後鼻漏が起こると、喉の違和感や咳、痰が出ることもあります。お顔や頭が重く感じたり、鈍い痛みが出たりすることも特徴です。痛む場所は副鼻腔の炎症をおこす場所によって異なり、以下のような場所が痛む可能性もあります。
また、鼻のなかに鼻茸というポリープ ができると匂いを感じにくくなる嗅覚障害が現れることがあります。慢性化すると症状が長期間続き、集中力の低下や日常生活への影響が生じ、大きなストレスにもなるでしょう。症状は両側に出ることが多いですが、片側だけの場合もあります。
急性と慢性副鼻腔炎の違いや好酸球性副鼻腔炎について
急性副鼻腔炎と慢性副鼻腔炎の違いを教えてください。
急性副鼻腔炎と慢性副鼻腔炎の違いは、
症状の続く期間と炎症の性質 にあります。急性副鼻腔炎は、風邪のウイルス感染に続いて細菌感染が副鼻腔に生じることで発症します。急性副鼻腔炎の症状は以下のとおりです。
これらの症状が4週間以内に治まる場合を急性副鼻腔炎と呼びます。一方、慢性副鼻腔炎の症状は以下のとおりです。
黄色の鼻水
嗅覚低下
頭重感
発熱
鼻茸(ポリープ)
これらの症状が3ヶ月(12週間)以上続く状態を慢性副鼻腔炎といいます。慢性副鼻腔炎はさまざまな原因が関与することもあるため、治療も長期にわたることが特徴です。
難治性の好酸球性副鼻腔炎について教えてください。
難治性の好酸球性副鼻腔炎は、鼻や副鼻腔の粘膜にアレルギー反応に関与する
好酸球という白血球が大量に集まり 、強い炎症が長期間続く慢性副鼻腔炎です。特徴として、以下のようなものが挙げられます。
好酸球性副鼻腔炎の診断にはJESRECスコアと病理組織検査が用いられます。以下のようなことが要点です。
両側の病変
鼻茸の有無
篩骨洞優位の病変
血液中の好酸球値
病理組織検査における好酸球の数
日本ではこれらを満たし重症の場合には医療費助成の対象にもなっています。
好酸球性副鼻腔炎になりやすいのはどのような方ですか?
好酸球性副鼻腔炎になりやすい方の特徴は、以下のようなものが挙げられます。
気管支喘息を持っている方
アスピリン喘息のある方
20歳以降の成人
女性にやや多い
アレルギー体質の方
これらの要因と関連があることが報告されていますが、明らかな原因は不明です。世界でも全人口の3〜4%が罹患しています。平均的な発症年齢は50歳前後とされ、小児ではまれです。特に成人発症の喘息や、コントロールが難しい喘息 を持つ方は発症リスクが高いといわれています。
副鼻腔炎の治療法
副鼻腔炎はどのように診断されますか?
副鼻腔炎の診断は、まず医師が患者さんの症状や経過について詳しく聞き取る
問診から始まります 。問診では以下のようなことが特に重要です。
どのような鼻水がでるか
鼻づまりはあるか
お顔や頭が痛むか
いつから続いているか
鼻のなかを専用のライトや内視鏡カメラで観察し、粘膜の腫れや膿、鼻茸の有無を観察することも重要です。必要があればレントゲンや歯科用CT、MRI検査などの画像診断も実施して、炎症の程度や病変を調べる検査が実施されるケースも少なくありません。また、体質を詳しく調べるためにアレルギー検査や鼻水のなかにいる細菌がどのようなものか調べる検査も行われます。こうした複数の問診や検査を組み合わせて総合的な診断が実施されています。
副鼻腔炎の薬物療法について教えてください。
副鼻腔炎の治療では、まず薬を使って症状の改善と炎症のコントロールを目指します。急性副鼻腔炎の場合、症状が軽ければ自然に治ることもありますが、細菌感染が疑われる場合や症状が強い場合には抗生物質(抗菌薬)が使われます。最初はペニシリン系(アモキシリン)がよく使われ、必要に応じてほかの種類に切り替えて治療し、治療期間は5〜10日間ほどが一般的です。慢性副鼻腔炎の場合は、マクロライド系抗菌薬という種類の薬を少量で1〜3ヶ月間ほど長期間にわたって内服する治療 が行われます。これに加えて、鼻の粘膜の腫れを抑えるためのステロイド点鼻薬や、アレルギーが関係している場合には抗アレルギー薬も使われます。薬の種類や使い方は、症状や体質によって医師が調整するのが一般的です。
副鼻腔炎の手術について教えてください。
薬を使っても症状がなかなかよくならない場合や、鼻茸が大きく日常生活に支障をきたす場合には手術が検討されます。主に行われるのは内視鏡下副鼻腔手術という方法です。これは鼻の穴から細いカメラや器具を入れて、炎症で狭くなった副鼻腔の通り道を広げたり、たまった膿や鼻茸を取り除いたりする手術です。摘出された検体からは、病理組織標本が作成され、好酸球の算定を含む詳細な病理診断 が行われます。手術の方法は、お顔を切る必要は少なく、身体への負担は少ないことが特徴です。手術は通常全身麻酔で行われ、1〜2時間程度を要します。入院期間は数日から1週間ほどですが、症状によっては日帰りや短期入院で済むこともあります。手術後も再発予防のために薬物療法や定期的な診察が必要です。特に難治性の好酸球性副鼻腔炎は再発率が高いため術後も長期間の管理が必要になります。
編集部まとめ
副鼻腔炎は、風邪やアレルギー、生活習慣などさまざまな要因が重なって発症する病気です。
症状は鼻づまりやお顔の痛み、嗅覚障害など日常生活に大きな影響を及ぼすこともあります。
急性の場合は適切な治療で改善しますが、慢性化や好酸球性副鼻腔炎などの難治性の場合は、長期的な管理や手術が必要になることもあります。
早期の診断と治療が重症化や合併症の予防につながるため、気になる症状が続く場合は早めに耳鼻咽喉科を受診しましょう。
正しい知識と適切な医療で、細菌やウイルス による副鼻腔炎と上手に付き合うことが大切です。
高宮 新之介 医師
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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。