幻覚は本人には現実のように感じられますが、実際には存在しない知覚体験です。精神疾患や脳の病気、薬の影響などが原因で発生することが多く、ストレスや睡眠不足でも一時的に発生することもあります。
幻覚は日常生活や精神的な健康にさまざまな悪影響を及ぼすことがあるため、幻覚症状が現れた場合は本人や家族、介護者などの適切な対策が必要です。
この記事では、種類や症状、幻覚の原因となる可能性がある病気や幻覚症状があるときの対策を詳しく紹介します。
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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
幻覚の症状
幻覚とはどのようなものですか?
幻覚とは実際には存在しないものを見る現象のことで、誰もいないのに声が聞こえたり何もない場所に人が見えたりといった体験が含まれます。一方で錯覚は、実際に存在するものを誤って認識する現象で、まっすぐな線が曲がって見えたり遠くのものが小さく感じたりといった錯覚が例に挙げられます。幻覚は精神疾患や薬物の影響などによって生じることが多いのに対し、錯覚は脳の情報処理の特性によって誰でも起こる現象です。
幻覚の種類や症状を教えてください。
幻覚には以下のような種類があり、それぞれ異なる症状を伴います。
- 視覚幻覚:存在しない人や物が見え、影や光など動くものが見えることもある。
- 聴覚幻覚:実際には存在しない音や声が聞こえる。
- 臭覚幻覚:実際には存在しない匂いを感じ、腐敗臭や焦げ臭い匂いを感じることが多い。
- 味覚幻覚:実際にはない味を感じ、苦味や金属のような味を感じることが多い。
また幻覚の原因となるのは統合失調症やてんかん、睡眠不足や精神疾患などさまざまです。
幻覚の原因となる病気や認知症との関係について
幻覚の原因となる病気を教えてください。
幻覚はさまざまな病気によって引き起こされることがあり、それぞれ異なる種類の幻覚を伴うという特徴があります。主に幻覚症状がみられる以下の病気を紹介します。
- 統合失調症
- レビー小体型認知症
- アルツハイマー型認知症
まず統合失調症は、幻覚を引き起こす代表的な精神疾患の一つです。この病気は主に聴覚幻覚が現れ、存在しない声が聞こえることが特徴です。レビー小体型認知症は、認知症の一種であり視覚幻覚が初期から特徴的に現れます。アルツハイマー型認知症でも進行すると、幻覚が見られることがありますがレビー小体型認知症ほど頻繁ではありません。そして脳の異常による幻覚も存在します。このように
幻覚の原因となる病気は多岐に渡るため症状が現れた場合は、適切な診断と治療を受けることが重要です。
認知症でも幻覚症状が出ることがあるというのは本当ですか?
認知症でも幻覚症状が現れることがあります。特にレビー小体型認知症では幻覚が顕著に現れますがアルツハイマー型認知症や血管性認知症、前頭葉側頭型認知症でも進行とともに幻覚を伴うことがあります。
認知症による幻覚とせん妄の違いについて教えてください。
認知症とせん妄はどちらも高齢者に見られる精神症状ですが、性質や経過には大きな違いがあります。特に幻覚という観点から見ると、認知症による幻覚は持続的でゆっくり進行するのに対し、せん妄は一時的で変動が大きいのが特徴です。またせん妄は治療によって改善する可能性があるため、幻覚が突然現れた場合は原因を探ることが重要です。そして認知症による幻覚の場合は、本人の不安を和らげるために環境を整え必要に応じて薬物治療を行うことが考えられます。
幻覚の副作用がある薬はありますか?
一部の薬には副作用として幻覚を引き起こす可能性があります。幻覚を引き起こす可能性がある薬は以下のとおりです。
- 抗精神病薬・抗うつ薬・睡眠薬:一部の抗精神病薬や抗うつ薬は適切に使用すれば幻覚を抑える効果があるが、副作用として逆に幻覚が現れることもある
- ドパミン作動薬:パーキンソン病の治療に使用される薬のなかには、ドパミンを増やす副作用があり脳に過剰に作用すると幻覚が現れることがある
- ドネペジル(アリセプト):認知症の進行を遅らせるために使用される薬の一部には、アセチルコリンという神経伝達物質を増やす作用があるため幻覚を引き起こす可能性が考えられる
- 抗炎症薬:高用量のステロイドを使用すると、精神症状が現れることがある
高齢者や認知症の方は幻覚によるリスクが高いため、注意が必要です。
ストレスと幻覚は関係がありますか?
ストレスは脳に大きな影響を与え、極度のストレス状態では幻覚が現れることがあります。しかしストレス原因の幻覚は一時的なものであり、適切な休息やストレス緩和によって改善することが多いです。
幻覚の治療と対応方法
幻覚症状があるときの受診目安を教えてください。
幻覚はストレスや睡眠不足で一時的に現れることもあれば、精神疾患や脳の病気が原因となることもあります。
- すぐに受診すべきケース:幻覚と現実の区別ができず、行動に影響が出ているなど意識障害や身体の動きの異常を伴う場合。
- できるだけ早めに受診すべきケース:幻覚が繰り返し出現し持続していたり、妄想が伴っていたりする場合やレビー小体型認知症の可能性が疑われる場合。
- 様子をみてもよいケース:極度のストレスや疲労時、一時的に幻覚が見える場合。ただし幻覚が続き、悪化する場合は早めに病院を受診しましょう。
上記に該当する場合は、医療機関への受診が推奨です。
幻覚の診断方法を教えてください。
幻覚の診断では、原因を特定することが重要です。精神疾患や脳の病気、薬の影響などさまざまな要因が考えられるため、医師は以下の方法で診断を行います。
- 幻覚の種類や頻度を問診で確認
- 神経や認知機能の異常がないか診察
- 精神疾患の診断基準をチェック
- 脳の病気を画像検査で調べる
- 薬や身体の病気が原因でないか血液検査で調べる
- 睡眠障害が関係していないか検査することもある
問診と検査を組み合わせて原因を明らかにし、適切な治療につなげていきます。
幻覚の治療方法はありますか?
幻覚の治療法は原因によって適切な対処を行うことが大切です。それぞれに合わせた治療方法を紹介します。まず統合失調症や精神疾患が原因の治療法は、抗精神病薬+心理療法+生活改善となります。抗精神病薬を服用することで、脳のドーパミンによる過剰な働きを抑えることが可能です。また心理療法でストレスを減らす方法を身につけたりリラックスできる環境を整えたりすることが大切です。またレビー小体型認知症が原因の治療法は、認知症治療薬+環境調整となります。認知症治療薬で脳内の伝達を助け、幻覚の頻度を減らします。また患者さんが安心できる環境を作ることも有効な手段です。そしてストレスや睡眠不足が原因の治療法は生活習慣の改善+リラックス法となります。7〜8間程の睡眠をとり、趣味や運動に時間を充てることでストレス解消を促してみましょう。
幻覚症状があるときの対応方法を教えてください。
幻覚が起こると本人だけでなく、家族や周囲の方も不安や混乱を感じることが多いため、適切な対応をすることが大切になります。まず患者さんに幻覚が起こってしまった場合、
落ち着いて深呼吸しましょう。そうすることで、幻覚を客観視することができます。幻覚に集中しすぎると不安が強まるため、ほかのことに注意を向けることが有効です。また家族や周囲の方が対応するときのポイントとしての例を紹介します。
- 認知症:否定せずに安心させる
- 統合失調症:ストレスや環境の変化に弱いことを理解し配慮する
また幻覚の原因となるのは統合失調症やてんかん、睡眠不足や精神疾患などさまざまです。
編集部まとめ
幻覚とは実際には存在しないものを見る現象のことで精神疾患や脳の病気、薬の影響、ストレスなどが原因です。種類や症状はそれぞれ異なる幻覚を伴うという特徴があります。
また認知症で幻覚症状が現れることもあり、レビー小体型認知症やアルツハイマー型認知症、前頭側頭型認知症などが挙げられています。幻覚症状が認知症の進行とともに現れた場合は、家族や介護者が否定せずに寄り添うとよいでしょう。
また幻覚症状があるときの対応方法は、まずは本人が落ち着いて幻覚を客観視することが大切になります。
家族や介護者は話を合わせ過ぎず適度な距離を保ち、ストレスや疲労が原因ならリラックスできる環境を作ることも症状の緩和につながります。