「ハンセン病」を発症すると現れる症状はご存知ですか?感染経路や治療法も解説!

ハンセン病にどのような印象を持たれるでしょうか。
ハンセン病は、らい菌が体内で増殖することで、多様な症状が現れる感染症です。
かつてハンセン病は、不治の病と考えられていましたが、現在は治療法も確立され治癒できるようになりました。
本記事では、ハンセン病の症状や感染経路、治療法などについて解説します。ハンセン病について正しい知識を身に付けていただければ幸いです。

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
ハンセン病の症状

ハンセン病の主な症状を教えてください
ハンセン病の主な症状は皮膚病変と末梢神経障害です。身体には脳と脊髄からの指令を伝える末梢神経が行き渡っています。末梢神経の種類には運動神経と感覚神経、自律神経があり、神経が障害されるとさまざまな症状があらわれます。
- 皮膚の白斑や紅斑、皮疹
- 皮膚病変部位の知覚異常
- 身体の腫れやしこり、傷
- 手足先の知覚異常
- 筋肉の萎縮
- 発汗障害、脱毛
ハンセン病の症状の特徴のひとつは皮膚の異常所見です。白斑や紅斑、皮疹の出現に加え皮膚病変部位の知覚が麻痺し触覚や温度覚、痛覚などを感じにくくなります。皮膚異常から脱毛も起こりやすくなります。末梢神経の異常も症状のひとつです。個人差はありますが、特にお顔や耳周囲、下腿や前腕の神経部位に好発します。末梢神経が肥厚し、手足などの触覚や痛覚、温度などの感覚が鈍るでしょう。腫れやしこりの出現、身体の部位が肥厚や肥大し変化する場合もあります。
知覚鈍麻や知覚麻痺があると、入浴時のお湯の温度や履物の選択など、日常生活において注意が必要です。知覚異常に加え身体部位の肥厚があると、皮膚が伸展している状態なので多少の動作で傷ができやすいでしょう。歩行すると足底に負荷がかかるので、知らぬ間に傷や足底潰瘍を形成する場合もあります。傷や潰瘍を放置し感染症を繰り返すと、皮膚上皮がんなどの合併症につながりかねません。
また、顔面神経が麻痺すると閉眼しにくいことから、角膜が傷つきやすくなり、角膜炎や角膜潰瘍を合併する可能性があるでしょう。眼神経を司る三叉神経に麻痺や炎症が起こると、視力低下や角膜異常、失明などの視覚障害が出現する可能性があります。運動神経系も影響を受け、筋肉が萎縮する可能性もあるでしょう。筋肉が萎縮すると、顔面や四肢の変形が起こります。神経障害や筋萎縮による運動障害が起きると、知覚鈍麻による物のつかみにくさ、怪我のしやすさなどを自覚するかもしれません。
自律神経系が障害されると、体温調節機能が働かず、発汗が難しくなるため身体は熱を放出できません。身体の高温が持続すると、合併症に注意が必要です。末梢神経障害は日常生活でのさまざまな動作を困難にし、QOLが低下する可能性があるでしょう。
ハンセン病の知覚鈍麻・麻痺はなぜ起こりますか?
ハンセン病の脱毛・発汗低下はなぜ起こりますか?
高体温の状態が持続すると、熱中症を起こしやすくなるでしょう。特に脳の高温が持続すると脳組織に障害が起き、脳浮腫やうっ血、付随する内臓への異常を引き起こします。
ハンセン病によって身体の一部が変形することはありますか?
また、肥大した神経の身体部位の肥厚は顕著です。炎症が運動神経系にまで広がると、筋肉が萎縮し身体部位の変形や拘縮が起こります。顔面神経や三叉神経の麻痺で特徴的にあらわれるのが眼周囲です。兎眼ともよばれ、閉眼しにくくなったり眼瞼が垂れたりと見た目に変化があらわれます。
ハンセン病の進行によって死亡することはありますか?
しかしハンセン病は治療により治癒する感染症なので、治療を受けられる環境があれば死に至るケースはほぼないでしょう。
ハンセン病の感染経路・治療法

ハンセン病の感染経路について教えてください
一方、保菌者の咽頭や鼻腔粘膜からはらい菌が多く検出されるため、皮膚病変が主な感染経路になるとはいい切れません。まだ人から人への感染経路についての証明はされていませんが、飛沫感染の可能性が高いと考えられます。
ハンセン病の感染力は強いですか?
治療中の患者さんから感染することはありますか?
ハンセン病の潜伏期はどのくらいですか?
栄養低下やストレス、病気などの理由で身体の免疫機能が低下します。免疫が低下すると、らい菌が増殖を強め免疫機能がらい菌を認識し、ハンセン病の症状が出現する仕組みが考えられるでしょう。しかし、感染しても潜伏したまま発病しない場合もあり、感染したから発病する病気ではありません。発病しない状態をつくり出しているのは、高い免疫力だと明らかになってきています。
ハンセン病の治療法について教えてください
ハンセン病は、主に知覚検査と血液検査、皮膚スメア検査の総合結果から診断を行います。知覚検査では触覚と痛覚、温冷覚を調べます。血液検査は、らい菌の作り出す抗原(身体に異物が入ったときに免疫応答を引き起こす物質)の有無を調べ、皮膚スメア検査は皮疹部のらい菌の数を調査する病理検査です。診断のもと、ハンセン病は分類され治療も異なります。分類法にはRidley&Joplingの分類法や、WHOの提唱するMB型・PB型分類法があります。
Ridley&Joplingの分類法
- LL型
- TT型
- B群
- I群
I群は発症初期で、身体の持つ免疫機能でらい菌を排除できる場合が多いです。LL型は、らい菌に対する免疫機能を持たず、発症後に病理検査でらい菌が検出されます。TT型はらい菌に対する免疫は持っていますが、免疫低下などから発症し、病理検査でらい菌が検出されないことが特徴です。B群はLL型とTT型の特性を併せ持っています。
MB型・PB型分類法
- MB型:多菌型
- PB型:少菌型
MB型・PB型分類法は、菌の数と皮疹の数で多菌型と少菌型に区別します。MB型はらい菌が検出でき、皮疹は6個以上です。PB型はらい菌を検出しにくく皮疹は5個以下が指標です。
Ridley&JoplingのTT型はPB型、LL型はMB型に分類されます。治療は外来では、WHOが認めている抗ハンセン病薬を内服します。抗ハンセン病薬はリファンピシン、ジアフェニルスルホン、クロファジミンの3種類の抗菌薬を組み合わせた多剤併用療法です。MB型・PB型分類法のMB型の患者さんは、3剤を1年から2年内服します。PB型の患者さんは、リファンピシンとジアフェニルスルフォンの2剤を6ヶ月内服します。治療が完了し10年後の再発率は1%と大変低いことから、ハンセン病に対する薬物療法は有効的でしょう。
また治療が開始されると、らい反応症状の急性憎悪がみられる場合があります。らい反応とは、抗菌薬で攻撃されたらい菌に対する、身体の細胞の持つ免疫反応です。症状は、痛みを伴う皮疹や紅斑の出現、神経麻痺などの急激な悪化です。症状の程度によっては入院して加療する場合もあります。症状緩和のため、薬物療法を継続しつつステロイド療法が併用されます。ステロイドは免疫抑制剤のため、抗菌薬に対し拮抗するように見えますが、抗ハンセン治療薬はらい菌に大変有効です。
免疫抑制剤を併用しても、らい菌の増殖は防げます。らい反応を我慢したり放置したりすると、後遺症や合併症を引き起こすリスクが高まるので、適切な治療を受け症状をコントロールしましょう。早期治療と治療中のらい反応、治療後の生活で症状に注意し、悪化を食い止めることが大切です。
ハンセン病についての正しい知識

ハンセン病を発症した場合に隔離は必要ですか?
専用の療養所が設置されていた理由を教えてください
1931年にはハンセン病を撲滅する名目のもと、らい予防法が制定されました。国はハンセン病療養所を設置し、ハンセン病患者さんへ入所を強いました。1996年に、らい予防法が廃止されるまでの長く続いたハンセン病患者さんに対する強制隔離の暗い歴史の始まりです。らい予防法廃止以降は、患者さんは国立療養所へ強制的に入所させられることはなく、一般病院で治療が行われています。
ハンセン病は遺伝しますか?
編集部まとめ

誤った理解から、ハンセン病患者さんには隔離政策がとられ、精神的苦痛を強いられた悲しい歴史がありますが、現在は治療法も確立しているうえ罹患も極めて稀な病気です。
らい菌に感染し発症するハンセン病ですが、らい菌は潜伏期間が長く、感染力が弱いことから必ずハンセン病を発症するとは限りません。
症状は、主に皮膚病変と末端神経障害で、治療は抗ハンセン病薬の内服が基本です。
治療開始後のらい反応の症状を軽減させるためステロイド療法も併用されることがあります。感染症であり、遺伝性疾患ではありません。
本記事で、ハンセン病に関する正しい医療知識を得る手助けとなれば幸いです。
参考文献