五十肩は誰でも発症する運動器疾患のひとつで、ご家族や知り合いにも心当たりがあるかもしれません。
五十肩を発症すると、腕を上げたり手を後ろに回したりするだけで肩のまわりにとても強い痛みが走ります。
そのため、日常生活では、服を着替えるときや髪を洗うときにも肩に痛みが生じ、生活全般に支障をきたします。さらに、夜間痛によって睡眠の質が低下したり、安静時痛で肩まわりに常に痛みがあったりと生活の質が著しく損なわれる疾患です。
五十肩は、運動不足や長時間同じ姿勢で過ごす、加齢に伴い肩まわりの柔軟性や姿勢の崩れがるなどが発症の要因になります。
本記事では、五十肩になりやすい方の特徴を掘り下げ、予防や効果的な治療法について詳しく解説します。
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経歴
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医
五十肩になりやすい人
五十肩はどのような姿勢の人がなりやすいですか?
五十肩になりやすい方の特徴のひとつに不良姿勢があります。不良姿勢はマルアライメントと呼ばれ、特に肩甲骨マルアライメントの方が五十肩になりやすいといわれています。肩甲骨マルアライメントは、左右の肩甲骨が猫背などの影響で背骨より外側に開いている状態です。また、背中をみて左右の肩甲骨の高さに差がある場合も姿勢が崩れている可能性があります。
五十肩は男性・女性どちらがなりやすいですか?
五十肩は主に50歳代を中心とした中高年に好発する病態です。中高年に多い点以外では、男女差はみられません。その他、運動歴や利き手においても差はないといわれています。
五十肩になりやすい生活習慣はありますか?
同じ姿勢で長時間の作業を行うという生活習慣は、五十肩になりやすいです。スマートフォンを長時間同じ姿勢でみるなどの行動が、肩甲骨マルアライメントを引き起こす原因となります。スマホ首や肩こりは、肩甲骨の運動を制限し、肩甲骨の運動が阻害されると肩関節の運動にも影響を及ぼします。肩甲骨と肩関節が円滑に協調的に運動することで腕を挙げることができるからです。
五十肩とスポーツには関係がありますか?
肩を酷使するスポーツ、特に野球やバレーボールなど投球動作やアタックのように頭部より高い位置に手を挙げなければならないスポーツをオーバーヘッドスポーツといいます。過去にオーバーヘッドスポーツをしていた方は、五十肩の治癒がしにくいという特徴があります。しかし、オーバーヘッドスポーツをしていても、すべての方が五十肩を発症するわけではありません。スポーツと五十肩は直接的に関係はないといってよいでしょう。ただし、スポーツをして肩が痛くなったというエピソードがある場合は腱板断裂や関節唇損傷など、五十肩以外の疾患が疑われる可能性があります。早めの医療機関への受診をおすすめします。
五十肩について
五十肩の原因は何ですか?
五十肩の原因として考えられているのは、肩関節の周囲にある組織の炎症です。関節を構成している骨や軟骨・靭帯・腱などが老化すると、組織の炎症が起こります。肩関節の動きをよくするための袋、肩峰下滑液包や関節を包んでいる関節包が癒着すると、さらに動きが鈍くなります。
五十肩の症状はどのようなものですか?
五十肩の症状は、肩周囲の痛みと運動制限を主体とした運動器疾患の総称です。初期の段階は炎症期と呼ばれ、痛みが主体となります。この頃の大きな特徴として夜間痛があり、就寝中に肩の痛みが生じ、睡眠を妨げます。肩関節の炎症が強い時期であるためこのような症状が起こるのです。次に炎症期が過ぎると、運動制限が強い時期に入ります。炎症は軽減しても、肩関節周囲の関節包・靭帯・筋肉などの柔軟性が低下し、肩関節の運動制限が生じます。さらに悪化し、最終的に肩関節が硬くなり腕を上に挙げたり、後ろに手を伸ばしたりする動作がかなり制限され日常生活に影響を及ぼす状態が凍結肩です。
五十肩の治療法は?
五十肩の治療で重要なことは、痛みや運動制限がある状態を放置しないことです。もちろん程度が軽ければ、自然に良くなることもありますが、程度がひどい場合はその時期に応じた適切な治療が必要です。五十肩の具体的な治療法をご紹介します。
- 薬物療法:鎮痛剤の服用や関節注射
- リハビリテーション:作業療法および理学療法、電気刺激などを用いた物理療法
- 手術療法:非観血的関節受動術(サイレントマニュピレーション)、肩関節鏡視下手術
どの治療も整形外科を受診して、担当の医師としっかり話し合って治療方針を決定することになります。メリットやリスク、費用などを考慮して自分に合った治療を選択できるとよいでしょう。
五十肩の予防
五十肩予防のために改めるべき生活習慣は?
スマートフォンを同一姿勢で長時間使用することや、普段の姿勢が悪いことは肩甲骨マルアライメントの原因になります。これを予防するためには、姿勢を意識し、日常的にストレッチを行うことが大切です。特に長時間同じ姿勢で作業する場合には、30分から1時間に一度は肩まわりをストレッチし、身体が凝り固まらないように心がけましょう。また、重たい荷物を運ぶ・無理な姿勢で作業するなど、肩に負担がかかる状況では、作業後にしっかり休息をとることが重要です。肩まわりの緊張をほぐすことで、負担の軽減につながります。これらを意識して生活習慣を改めれば、肩のトラブルを未然に防げます。
五十肩の予防にストレッチは役立ちますか?
五十肩を予防するには、日常的なストレッチがとても効果的です。肩を動かす際、肩関節だけではなく、肩甲骨・脊椎(特に胸椎)・胸郭・骨盤など、全身の部位が協調的に動くことで正常な肩の運動が可能になります。そのため、全身のストレッチを取り入れることで柔軟で動きやすい身体を維持し、五十肩を防ぐことができます。ストレッチは毎日続けることが重要であり、無理のない範囲で行うことがポイントです。無理に負荷をかけず、心地よく続けられる内容を選ぶことでストレッチを習慣化しやすくなります。ストレッチを習慣づけることで、五十肩のリスクを減らし、快適で健康的な生活を送ることができるでしょう。
五十肩のセルフチェックは可能ですか?
五十肩かどうかをセルフチェックする方法として、どこが痛いのか、どのくらい動くのかなどをチェックする方法があります。痛みを感じる場所はさまざまで、肩の前や後ろ・外側・腕などに痛みを感じることがあります。肩甲骨が痛い場合は、肩こりの可能性が高いです。腕をどの方向に動かしても痛みを感じる場合も、五十肩の可能性があるでしょう。ただし、セルフチェックだけで診断はできません。気になる症状がある方は、整形外科などの医療機関で受診しましょう。
編集部まとめ
五十肩は肩関節周囲炎と呼ばれる肩関節の痛みや運動制限を主な症状とする運動器疾患の総称です。
五十肩は初期の炎症期に適切な治療を行わないと、肩の可動域が極端に制限される凍結肩と呼ばれる状態に進行することがあります。凍結肩になると肩の痛みや運動制限により、日常生活に大きな支障をきたします。
五十肩の治療方法の主な選択肢は3つです。薬物療法による痛みや炎症の抑制、リハビリテーションによる肩の可動域の改善、さらに重症な場合には手術療法が検討されます。
これらの治療方法は、患者さんの症状に応じて選択され、十分に担当医と話し合ったうえで治療方針を決定することが重要です。
五十肩は予防も可能な疾患です。日頃から全身のストレッチを行い、肩の柔軟性を保つことで発症リスクを軽減できます。
また姿勢を改善し、肩や肩甲骨まわりの姿勢を良好にすることも重要です。
ストレッチを習慣化することで肩の動きがスムースになり、五十肩の予防につながるだけではなく、全身の健康増進にも役立ちます。
早期発見と適切な治療、日頃の予防を心がけることで、五十肩による生活の質の低下を防ぎ、健康的な生活を送りましょう。