近年、精神疾患で医療機関を受診する方が増え続けています。そのなかでも適応障害と診断される患者さんが増加傾向にあります。
適応障害は20世紀後半から21世紀にかけて広まったため、病気と認識されていないのが現状です。
そのため周囲から理解してもらえず、症状が悪化するケースもあります。
環境のストレスが主な原因とされていますが、どのような症状がでると適応障害と診断されるのでしょうか。また適切な治療を行えば病気が完治する可能性はあるのでしょうか。
今回は適応障害の原因や症状、診断された場合の治療法などについて解説します。
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千葉大学医学部卒業 。千葉大学医学部附属病院精神神経科、袖ヶ浦さつき台病院心療内科・精神科、総合病院国保旭中央病院神経精神科、国際医療福祉大学医学部精神医学教室、成田病院精神科助教、千葉大学大学院医学研究院精神医学教室特任助教(兼任)、Bellvitge University Hospital(Barcelona, Spain)。主な研究領域は 精神医学(摂食障害、せん妄)。
適応障害の原因や症状
適応障害とはどのような病気ですか?
適応障害とは、環境による強いストレスが原因で心や身体に不具合が起こる病気です。近年では精神疾患の1つとして認知されてきましたが、いまだに周囲の理解が得られず、症状が悪化してしまうこともあります。以前はうつ病と診断されるケースがほとんどでした。しかし原因となるストレスを取り除けば症状が改善されることから、うつ病とは違う病気であると診断されるようになりました。適応障害は周囲の環境が主な原因のため、誰にでも発症する可能性があります。心や身体に異変を感じたら、悪化する前に医療機関を受診しましょう。
原因を教えてください。
適応障害は環境による強いストレスが原因で発症します。引っ越しや転勤などの環境の変化や仕事に対するストレスが原因で、特定の場面や出来事に対して苦痛を感じるようになります。強いストレスを感じることで発症しやすくなるため、注意が必要です。また仕事に対して熱心な方や何事にも真面目に取り組む方は、物事に対して人一倍責任感を持って行動する傾向があります。そのためストレスを感じやすくなり、適応障害になりやすいです。この病気は誰にでも発症する可能性があり、強いストレスを抱えたまま過ごしていると重症化するケースもあります。重症化するとうつ病を発症する場合もあり、治療が長引いてしまう可能性もあります。そうならないためにも、症状が現れたら早急に対処することが大切です。
適応障害の精神症状を教えてください。
適応障害の主な精神症状は以下の4つです。
- 意欲、集中力の低下
- 気分の落ち込み
- イライラしやすくなる
- 情緒が不安定になる
精神症状が起こることで精神的に不安定になり、自傷行為をしてしまうこともあります。また過度の飲酒や暴飲暴食、危険な運転など行動面での症状を引き起こす場合もあり、日常生活に支障をきたすこともあるため注意が必要です。
適応障害の診断基準や治療
適応障害が疑われる場合どのような検査を行いますか?
適応障害は、血液検査や画像検査を実施しても症状や程度を把握できません。検査を行わない代わりに、精神科の医師が患者さんから症状や心理状態を問診し、定められた基準で判断します。 事情があり医療機関を受診できない場合でも、オンラインでの診察を実施している医療機関もあります。ストレスが原因で心や身体に異変が起こったときは、オンラインでの診察も検討してみましょう。
診断基準を教えてください。
適応障害はアメリカの精神医学会が定めている
診断基準(DSM-5)に基づいて診断されます。主な診断基準は以下の5つです。
- 原因になるストレスがあってから3ヶ月以内に症状が出現している
- 症状が重度で苦痛をもたらしている
- ほかの精神疾患の基準を満たしていない
- 死別反応によって起こった症状ではない
- 原因を取り除けば6ヶ月以内に症状が改善される
診断基準にすべて該当する場合は、適応障害と診断されます。しかし症状が似ている精神疾患もあるため、それに該当しないか鑑別する必要があります。強いストレスから引き起こされる精神疾患は適応障害だけでなく、うつ病や双極性障害、PDSDなどさまざまです。病気によって治療法や治療期間が異なるため、診断に関しては専門家に相談する必要があります。
治療方法を教えてください。
まずはストレスの原因を取り除き、心理的な状態を回復させることから始めます。症状が重たい場合は、精神科医やカウンセラーがカウンセリングを行い具体的な対策方法を検討します。症状によっては薬を処方されることもありますが、薬だけで病気を治すことは難しいため、頼りすぎないことが大切です。薬物療法は主にうつや不安に関連した症状や不眠の症状を軽くするために行われます。またストレスの原因から離れるために自宅療法を指示される場合もあります。治療に専念するためにも一時的にストレスになっている環境から離れ、心身を回復させましょう。治療期間は病気の程度にもよりますが、症状の改善がみられるまで1〜3ヶ月程かかります。
適応障害は完治しますか。
適応障害は適切な治療を受ければ完治できる病気です。しかし、再発してしまうことも多いため、完治しても注意が必要です。心身が回復しても、繰り返し強いストレスを受けることで、再発のリスクが高まります。仕事がストレスの原因なら、再発しないように復職する前に環境を調整したり(部署移動、業務量調整など)、転職を考える必要があります。完治したからと油断せず、強いストレスを感じる環境はなるべく避けるようにしましょう。
適応障害の対処法
自分でできる適応障害の対処法を教えてください。
まずはストレスを溜めすぎないように心がけましょう。適応障害は、環境による強いストレスを繰り返し感じることで発症します。病気の発症を防ぐためには、原因となるストレスを適度に発散することが大切です。ストレスを発散するためには、適度な運動や睡眠、趣味に没頭するなどのさまざまな方法があります。自分にあった発散方法を見つけて対処しましょう。また、ストレスの原因になっている環境を変えてみることも病気の予防につながります。仕事が負担になっている場合は、部署の移動や転職も検討してみましょう。適応障害になってしまうと、心身ともに症状が現れ、日常生活にも支障をきたします。治療を受けて症状が改善されたとしても、再発してしまうこともあるため、病気を発症する前に対処しておくことが大切です。
身近な方が適応障害になった場合の接し方を教えてください。
身近な方が適応障害になった場合は、相手の気持ちを尊重しながら優しく見守りましょう。適応障害になると、病状から自分を責めてしまい、全ての物事に対して否定的になってしまう患者さんもいます。もしあなたが相談に乗る機会があれば、たとえ相手の考えが間違っていると感じたとしても、相手を否定しないことが大切です。また、症状があるにもかかわらず精神科医による診断を受けていない場合は、医療機関の受診を提案することもサポートの1つです。なかなか受診まで踏み切れずにいた場合、相手も前向きに受診を検討してくれるかもしれません。適応障害は周りの環境が改善されれば、病状が落ち着く場合がほとんどです。そのため完治を目指すには周囲のサポートが必ず必要になります。もし身近に適応障害の方がいたら、病気を理解しサポートができるように心がけましょう。
編集部まとめ
適応障害は環境によるストレスが原因で起こる病気で、近年増加傾向にある精神疾患です。
ストレスの原因を取り除くことによって症状は改善されますが、再発する可能性が高いため注意が必要です。
適応障害と診断されると心身ともに症状が現れ、日常生活にも影響がでます。原因になるストレスを適度に発散し、病気にならないように心がけましょう。
適応障害は悪化するとうつ病になってしまうことがあります。うつ病になると、原因を取り除いても症状が改善しない可能性もあります。
重症化を防ぐために、症状が現れたら早急に医療機関を受診することが大切です。
適切な治療を行い、病気の完治を目指しましょう。