「網膜症」になるとどんな「見え方」になるかご存知ですか?失明の可能性も解説!
網膜症は、糖尿病による合併症の一つで、視力や見え方に深刻な影響を及ぼす可能性があります。網膜症になった場合、視界はどのように変わるのでしょうか。
本記事では網膜症の見え方について、以下の点を中心にご紹介します。
・糖尿病網膜症について
・糖尿病網膜症の症状と見え方
・糖尿病網膜症の治療や予防方法
網膜症の見え方について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。
監修医師:
柳 靖雄(医師)
目次 -INDEX-
糖尿病網膜症とは
糖尿病網膜症とはどのような病気ですか?
網膜は、光を感知して視覚情報を脳に伝える役割を担っていますが、血糖値の高い状態が続くと酸素不足や出血、さらには網膜剥離を引き起こします。進行が進むと視力低下や失明に至ることもあります。
糖尿病網膜症は早期には自覚症状が少なく、症状が出る頃には進行している可能性があります。定期的な眼科での検査が、予防と早期治療につながります。
糖尿病網膜症の原因を教えてください
血糖値が高い状態が続くと、血液が粘り気を帯びて血管が詰まりやすくなり、網膜が酸素不足の状態に陥ります。この状態を補うために、正常では存在しない新しい血管(新生血管)が伸びてきますが、新生血管はもろく、壊れやすい特徴があります。新生血管が壊れて出血が生じると、網膜がダメージを受け、視力低下や病気の進行を引き起こすことがあります。
このような血管障害のメカニズムで糖尿病網膜症が起こりますが、糖尿病につながる生活習慣の乱れや遺伝も、糖尿病網膜症の原因といえるでしょう。
糖尿病網膜症の診断にはどのような検査を行いますか?
・眼底検査
眼球の一番奥(眼底)にある、網膜や視神経の状態を観察します。必要に応じて検査用の点眼薬(散瞳薬)を使い、網膜の詳細を確認します。
散瞳薬は、効き目が薄れるまでの数時間、光をまぶしく感じたり、見えにくかったりという状態が続きます。そのため、車両の運転はできなくなりますので受診の際は注意しましょう。
・蛍光眼底撮影
造影剤を静脈注射し、眼底写真を撮影します。網膜血管の状態や虚血、漏れがないかを確認します。
・網膜断層検査(OCT)
赤外線を使用して網膜の断面を画像化し、黄斑浮腫の有無や経過観察に活用します。
・超音波検査
眼底全体の断面を観察する検査です。硝子体出血や水晶体の濁りなどで眼底を撮影できない場合に行われます。
糖尿病網膜症の症状と見え方
糖尿病網膜症にはどのような症状が現れますか?
初期(単純糖尿病網膜症)の段階では、自覚症状がほとんど感じられないとされていますが、網膜の血管では小さな出血が起こったり、血管の壁が盛り上がって瘤ができたりします。また、たんぱく質や脂肪が血管から漏れ出て、網膜にシミをつくることもあります。視力に影響はなく、適切な血糖コントロールで自然に消える可能性があります。
中期(前増殖糖尿病網膜症)の段階でも、まだ症状を感じられないことがあります。
網膜内では、慢性的な高血糖によって網膜の血管が詰まり始めて虚血状態が進行し、出血や網膜のむくみが起こり始め、血管新生因子の放出が増えます。網膜内細小血管の異常も認められ、静脈が拡張・蛇行などの形態異常を示し始めます。
この段階でも症状は軽微な場合が多いとされるため、気付かない可能性があります。
末期(増殖糖尿病網膜症)になると、新生血管が破れ、硝子体出血や網膜剥離を引き起こし、急激な視力低下や視野障害が現れます。また、緑内障や白内障を発症することもあります。
糖尿病性網膜症は、両目に発症する傾向にありますが、片目だけに症状が現れたり、もう一方が遅れて発症することもあります。
糖尿病網膜症では見え方にどのような変化が起きますか?
初期(単純糖尿病網膜症)の段階では、自覚症状がほとんど感じられないとされています。そのため、異常を発見するには検査が必要です。
中期(前増殖糖尿病網膜症)に進むと、目がかすむ、視界がぼやけるなどの症状が現れることがあります。しかし、自覚しにくく、症状がないこともあります。
末期(増殖糖尿病網膜症)になると、新生血管が破れて出血を起こし、視力低下や飛蚊症、目の痛み、視界に黒い煤や赤い膜が見える、視界がカーテンがかかったように遮られる、色を識別しにくいなどの症状が現れます。
さらに硝子体出血が起こると、突然何も見えなくなることもあります。
糖尿病網膜症で失明する可能性はありますか?
糖尿病網膜症の特に末期段階では、新生血管が網膜や虹彩に異常に増殖し、硝子体出血や網膜剥離を引き起こすことがあり、失明につながります。
また、虹彩に新生血管ができることで眼圧が上昇して緑内障を発症する場合もあり、視神経が圧迫され、視野狭窄や視力低下が進行して、失明に至ることがあります。
しかし、初期段階では症状を感じにくいため、糖尿病と診断された方は眼科検診を年1回以上受けることが推奨されます。
糖尿病網膜症の治療方法や予防方法
糖尿病網膜症は完治できますか?
初期の段階で適切な対策を取ることが重要で、血糖値のコントロールが治療の鍵となります。食事療法や運動療法、薬物療法を通じて血糖値を適正に維持することで、網膜症の悪化を抑えます。
糖尿病と診断されたら、眼科での定期検査を欠かさず、適切な管理を心がけることが重要です。
糖尿病網膜症の治療方法を教えてください
【初期(単純糖尿病網膜症)】
初期の段階では、血糖コントロールが重要です。適切な食事療法や運動療法を実施し、血糖値を安定させることで、網膜で生じた小さな病変の改善や、進行の予防が期待できます。
また、血圧やコレステロールの管理も進行を遅らせる鍵となります。
【中期(前増殖糖尿病網膜症)】
中期の段階では、レーザー治療(網膜光凝固術)が主に行われます。レーザーで酸素不足の部分を焼き、新生血管の発生を防ぐことが目的です。
日本眼科医会によると、レーザー治療は、早い時期であれば80%有効とされ、時期が遅くなると有効率は50~60%に低下するといわれています。
レーザー治療は予防治療のため、治療を受けたからといって視力は改善しません。しかし、将来の安定した視力を確保するための大切な治療の1つです。
【末期(増殖糖尿病網膜症)】
末期の場合、硝子体手術が必要となります。硝子体内の出血を取り除き、剥がれた網膜をもとに戻すことで、視機能の維持を目指します。
手術により症状の改善は期待できますが、視力を戻すことはできません。
糖尿病網膜症を予防する方法はありますか?
糖尿病網膜症を予防するためには、以下の方法が推奨されます。
1. 血糖値コントロール
食事療法や運動療法、薬物療法を通じて血糖値を安定させることで、網膜症の発症や進行を抑える効果が期待できます。
ただし、急激な血糖値の低下は網膜症を悪化させる可能性があるため、徐々に改善することがポイントです。
2. 血圧・脂質の管理
高血圧や脂質異常症は網膜症を悪化させる要因です。降圧薬や脂質異常症の治療を組み合わせ、失明のリスク低下を目指します。
3. 定期的な眼科検診
糖尿病網膜症は初期段階では症状を自覚しにくく、気付いたときには進行している場合があります。糖尿病と診断されたら、視力に異常がなくても年に1回以上の眼底検査を受けることが推奨されます。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
目は一度失われた機能を取り戻すことが難しい器官です。だからこそ、症状のないうちから予防に努め、血糖値の管理とともに眼科検診を習慣化しましょう。
編集部まとめ
ここまで網膜症の見え方についてお伝えしてきました。
網膜症の見え方について、要点をまとめると以下のとおりです。
・糖尿病網膜症とは、糖尿病によって網膜の細い血管が損傷を受けて起こる病気。血糖値の高い状態が続くと酸素不足や出血、さらには網膜剥離を引き起こし、進行が進むと視力低下や失明に至ることもある
・糖尿病網膜症の初期から中期は症状を自覚し難いとされているが、進行すると、目のかすみ、視界のぼやけ、視力低下や飛蚊症、目の痛み、視界に黒い煤や赤い膜が見える、視界が遮られる、色を識別しにくいなどの症状が現れることがある
・糖尿病網膜症の治療は進行抑制が目的で、初期は血糖管理、中期はレーザー治療、末期は硝子体手術を行い、病期に応じた対策が必要である。糖尿病網膜症は症状を自覚しにくいため、糖尿病の診断を受けたら、定期的な眼科検査と血糖値をコントロールが推奨される
糖尿病網膜症は、糖尿病になってから数年~10年後位に発症する可能性がありますが、症状の自覚が難しい病気です。
「まだ見えるから大丈夫」と自己判断せず、症状がなくても定期的に眼底検査を受けるようにしましょう。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。