厚生労働省が行った調査によると、腰痛の自覚症状があると答えた割合が男女ともに1位という調査結果があり、腰痛はもはや国民病ともいえます。
腰痛には急性のものから慢性のものまでありますが、そのなかでも、特に注意したいのがぎっくり腰です。
ぎっくり腰は誰にでも起こりうる腰痛のひとつで、場合によっては、何気ないくしゃみや咳払いでぎっくり腰になることもあります。
今回はぎっくり腰の原因、症状や治療法から予防法までを解説していきますので、参考にしてください。
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経歴
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医
ぎっくり腰の原因
ぎっくり腰とは何ですか?
ぎっくり腰とは、病名や診断名ではなく一般的な通称で、急に起こった強い腰の痛みを指します。医学的な診断名は急性腰痛症といいます。重いものを持ち上げたときや前かがみから上体を起こすとき、身体を強くねじったときなど、ぎっくり腰になる状況はさまざまです。なかには、くしゃみをしたときや咳払いをしたときになる方もいます。基本的にぎっくり腰は、強い痛みとともに動くことが困難になり、一時的に仕事や日常生活に支障が出るような症状になることがほとんどです。また、前触れもなく突然発症することもあるため注意が必要な疾患です。たいていは数日から1週間程度で痛みは治まります。ただし、ほかの疾患が隠れている可能性もあるので、ただのぎっくり腰と考えずに早めに医療機関で受診しましょう。
ぎっくり腰になる原因は何ですか?
実は、ぎっくり腰の原因ははっきりとわかっていません。レントゲンを撮っても異常が特定しきれないことがほとんどでしょう。原因として考えられるのは腰の周囲の組織に何かしらの過剰なストレスがかかったときや、継続的な腰にかかる負担の蓄積、関節の変形などです。ぎっくり腰のほとんどが椎間板や椎間関節での炎症が関与していると考えられます。また腰周囲の筋肉組織の損傷、仙腸関節での炎症が関与しているケースもあります。ぎっくり腰を引き起こしやすい状況は、腰に負荷がかかるときや長時間腰に負担をかける姿勢をとったときなどです。具体的な例は以下のとおりです。
- 重い荷物を急に持ち上げたとき
- 膝を曲げずに前かがみでゴミや床にあるものを拾うとき
- 洗顔や作業などで中腰の姿勢を長い間とったとき
- くしゃみや咳をしたとき
- ゴルフや野球など身体を強くひねる運動で腰に無理な負荷がかかったとき
これらの行動は一見すると日常的な動作ですが、腰にとっては大きな負担となることがあるため、注意が必要です。
年齢によってなりやすさはありますか?
ぎっくり腰は、
年齢に関わらず起こる可能性があります。加齢によって関節や椎間板への影響が現れる30代以上で発症が増える傾向にありますが、20代でもぎっくり腰を発症する方は少なくありません。ぎっくり腰の
発症リスクが高まる生活習慣や仕事がいくつかあります。以下の例に該当する方は、特に注意が必要です。
- 座りっぱなし・立ちっぱなしの仕事
- 重いものを扱う重労働の仕事
- 中腰の作業の仕事
- 運動不足
- 体重の増加
- 姿勢が悪い・姿勢が歪んでいる
また、上記以外に仕事や人間関係でストレスを強く感じているときも発症のリスクは高くなると考えられています。
ぎっくり腰の症状や治療法
ぎっくり腰の症状について教えてください。
ぎっくり腰の症状は、腰に負担のかかる動作や過負荷がかかったときに、腰に激しい痛みを生じることがほとんどです。痛みの感じ方は人によってさまざまですが、「ズキンとする」「ピキッと感じた」「ビーンと電気が走るような感じ」などと訴えることがあります。また、強い痛みとともに身体が固まったかのようにその場から動けなくなることもよくあります。痛みによって動きが制限されるので、仕事や日常生活に支障が出てしまうのが特徴です。また、発症時の痛みは少なく、徐々に痛みが強くなる場合もあります。基本的には足のしびれや麻痺などの神経症状は伴いません。
ぎっくり腰の治療法を教えてください。
ぎっくり腰の治療法は症状や痛みの程度によってさまざまです。ぎっくり腰の主な治療法は対症療法が中心で、薬物治療・ブロック注射・コルセットなどの装具療法・リハビリテーション(物理療法・運動療法)などがあります。しかし、これらの治療法は医療機関で受診後に行われるものです。ぎっくり腰発症直後は、まず痛みを感じにくい楽な姿勢で安静にすることをおすすめします。しばらく安静にしていると、発症時の強い痛みは落ち着いてくるでしょう。痛みが落ち着いてきたら、ゆっくり動き始めて可能な範囲で日常生活の動きに戻していきます。安静にし続けるより、動ける範囲で日常生活を送った方が回復が早く再発率が低いという研究報告があります。ある程度動けるようになったら整形外科のある医療機関で受診して、医師の判断を仰ぎましょう。
回復までの期間はどのくらいになりますか?
ぎっくり腰は、通常数日から1週間程で症状は落ち着くことがほとんどです。しかし、1週間以上痛みが続く場合もあります。その場合は医師に相談して治療を進めましょう。急性腰痛の目安は発症から4週間未満とされています。注意が必要な点は、痛みが長期間続いたり、足にしびれが出たりうまく力が入らなくなったり、尿や便がもれてしまうなどの症状が出る場合です。ほかの病気が隠れている可能性があるので、医療機関で早めに受診することをおすすめします。
通院以外でもマッサージ治療は有効ですか?
マッサージには筋肉の緊張を緩めて、循環をよくする効果が期待できます。しかし、ぎっくり腰になって間もないときや痛みが強いときなど、筋肉やその周囲に炎症が起こっている可能性のある時期にマッサージをするとかえって痛みを悪化させる可能性があります。医療機関での適切な治療を受けたうえで、医師の判断を仰いでください。
ぎっくり腰の予防法
ぎっくり腰の予防法について教えてください。
ぎっくり腰を予防するには、普段から腰に負担がかからない姿勢・動作を意識することが大切です。腰に負担がかかりやすい代表的な姿勢が、身体を前に倒す前かがみの姿勢です。このとき腰だけで前に倒さずに、膝や股関節も一緒に曲げるようにすると腰への負担が軽減されます。また、座る時間が長い方はこまめに立ち上がったり歩いたりして、腰が固まらないようにしましょう。重いものを持つときは腰だけで持ち上げようとせずに、膝を曲げてなるべく上半身を起こした状態で持ち上げるようにしましょう。さらに、予防のためにストレッチや適度な運動を取り入れることも大切です。ストレッチは背骨や股関節の柔軟性を高める動作を中心に行うのがおすすめです。腰を支える筋肉の筋力低下を防ぐためにも、ウォーキングやラジオ体操など自分のペースでできる運動も習慣的に取り入れましょう。
自分でできる応急処置はありますか?
ぎっくり腰になってしまったら、まずはむやみに動かず安静にすることが大切です。痛みを感じにくい楽な姿勢でゆっくりと深呼吸を繰り返してください。楽な姿勢というのは横向きになり少し膝を曲げる姿勢で、腰に負担がかかりにくい姿勢といわれています。深呼吸をすることで強張った身体が緩み、痛みが緩和されてくるでしょう。痛み止めや湿布の使用も可能ですが、誤った処置だと効果が現れなかったり悪化したりする可能性もあります。少し動けるようになったら、医療機関で受診して適切な処置を受けることをおすすめします。
ぎっくり腰は再発しやすいですか?
個人差はありますが、一度ぎっくり腰を発症すると、その後1年以内に約4分の1の割合で再発する方がいるといわれています。再発しやすい方の特徴は、ぎっくり腰になる要因が改善されていないことがほとんどです。再発しないためにも、生活習慣の見直しやストレッチ・運動を取り入れることなどが重要です。
編集部まとめ
今回はぎっくり腰の原因、症状や治療法から予防法までを解説しました。
ぎっくり腰は年齢を問わず、誰にでも起こりえます。仕事や日常生活に支障をきたすぎっくり腰はできればなりたくないものです。
ぎっくり腰を予防するためにも、日頃から腰に負担がかかりにくい姿勢・動作を心がけ、ストレッチや適度な運動を取り入れましょう。
ぎっくり腰になったときは、ほかの疾患が隠れている可能性もあるので、ただのぎっくり腰と考えずに早めに医療機関で受診してください。